9th 再びの邂逅

「あ、紅羽ちゃん!久しぶりだね」


え? え? え?


「ちょ、ちょっと待って、整理させて」


あれだよな、まず、陣の上にノイとアンを寝かせてから術を発動したんだよな。

それで、白い光に包まれて気づいたらここにいたんだから......まさか、失敗した?

いや、でも......


「まぁまぁ、落ち着いてよ、紅羽ちゃん。今回はね、ちょっと色々あって私が呼び出しただけだから!」


なんだ、そうだったのか。

にしても、どうやって......というか。


「だとしたら、なんで呼んだの?」


おい、さっと目を逸らすな。


「あ、あははは〜......」


乾いた笑いで誤魔化そうとするんじゃない。


「はぁ、ほら。怒らないから言ってみて」


嫌な予感しかしないけど。


「あ、えーと、それじゃあまず・・は......」


“まず”かぁ......

憂鬱だなぁ。


「ま、まぁまぁ。気を取り直して、一つ目は、紅羽ちゃんの年齢についてね」


あ、そういえば、何でなったのかは分かって無かったもんね。


「ほんとに怒らないよね?」


あぁ、アリアがなんかやらかしたのか......


「まぁ、例外を除いてね」


あ、今度は肩が跳ねたぞ。


「うぅ、こうなったら開き直っちゃえっ!」


なんか今聞き捨てならない言葉が。


「あのね、紅羽ちゃんが6歳になっちゃたのはね」


まぁ、何となくお察しな感じだけど、とりあえず相槌くらいは打っておこう。


「俺が6歳になったのは?」


若干俺の口角が痙攣してるかもしれないけど、きっと気のせい。


「はうっ......えぇい、紅羽ちゃんが幼女になっちゃったのは、私のミスなんだよごめんね!」


うん、だよね。

今の感じからしてそんな事だろうなとは思ってたよ。


「で、何でアリアのミスで俺が6歳になったの?」


そこが一番謎。


「えっと、転生者を受け入れる世界の神ってのは、その転生者の転生後の情報を書類にまとめて提出する義務がありまして」


あぁ、書類ね。

......なんか、神の書類の不備による被害が2回目な気がするんだけど。

あ〜、地球の神あいつを思い出したらイライラしてきたな。

どうやら俺って本当に地球の神あいつが嫌いらしい。

っと、そうじゃなくて。


「その書類で何やらかしたの?」


「あ、もうやらかした前提なんだね」


そりゃそうでしょ。


「何をしたかって聞かれると......脱字だよ」


「は?」


あ、思わず声が。


「だ・つ・じ」


いや、それくらいはわかるけどね。

え?

じゃあ何、俺ってそんなしょうもないミスで幼女にされちゃってるの?


「そ、そういうことになるね〜。実は、年齢記入欄に少しだけ若返らせて“16”って書こうとして“6”にしちゃったっていう経緯があるんだけど」


経緯っていう割りには込み入ってるわけでも複雑わけでもないね?


「うぐっ、やっぱり怒ってるよね」


ん?

全く、何を言ってるんだか。


「全然怒ってないよ?」


だから、今俺がありえないくらいの殺気を振りまいててもそれは錯覚だから。


「え、でも、その超鋭い眼力とか。力みすぎて血が出そうになってる拳とか」


「錯覚だよ?」


そう、全てはアリアの勘違いなのだ。


「え、でも......」


「俺は怒ってない、いいね?」


「あっ、は、はい」


よかった、何とか誤解を解けたみたいだね。


「あ、それで、まだいくつかあるんでしょ? 言わなきゃいけないこと」


さっきもそんなこと言ってたし。


「う、分かったよ、言うよ」


って言うかあんまり開き直ってないね。

さっき開き直るとか言ってたけど。


「それは置いといてー。えっと、更に紅羽ちゃんに追い打ちかける感じになりそうなんだけど......大丈夫?」


更に、か。


「まぁ、大丈夫だと思うよ。一応振り切ったしね」


「そっか。じゃあ、遠慮なく」


にしたって、何を言われるのかな。

俺の勘はもはや嫌な予感を伝えすぎて麻痺してる感じがあるけど。


「えっとね、紅羽ちゃんの成長が、3年後に止まることが決定しました!」


......⁉︎

え?

何で?


「いや、え? おかしくない?」


「いや、その。地球の神あいつが、完全なる善意で[不老超長寿]とか言うスキルを付与してたみたいで」


おぉう、またもや余計な真似をするんだねぇ。

でも、善意だから攻めづらい......

あれ?


「でも、何で3年後なの?」


「それがね、かなり強力なのもあるけど、魂に直接付与したわけじゃないから馴染むのにちょっと時間がかかるんだって」


今までのは魂に直接だったから早く終わってたのか。

なるほどな〜。


「で、そのスキルってどんな効果なの? 字面からしてある程度は想像できるけど」


ま、念のためにね。


「えっとね〜」


「ん? 何その紙」


妙に丁寧に畳まれてるし。

無駄に説明書感あるな。


「あ、これは説明書だよ」


説明書だった。

って言うか、それ必要なの?


「うん、必要だよ〜。何せ、めちゃくちゃレアなスキルなもんで、私もあんまり詳しくは知らないからね」


神でもそう言うことはあるんだな。

全知全能ではないのか。


「そりゃそうだよ! 全知全能なんて、あの方でも違うはずだし」


何か気になる言葉が。


「“あの方”って?」


「あ、う〜ん......教えても良いのかな? ま、ちょっとくらいなら大丈夫かな」


アリアが言うには、“あの方”とは最高神の事らしい。

名前を聞くと、妙に微妙な顔で断られた。

理由を聞くと、何でも人間には聞き取れないんだとか。

曰く、「神はねー、すごくなればなるほど名前が聞き取りにくくなっていくの。何でかはよくわからないんだけど」とのこと。

いい加減だなぁ。

でも、そういえばすごいらしい地球の神あいつも名前を名乗ってなかったし、そう言うことなのかな。

まぁ、正直言ってそんな関係ないだろうけど。


「っと、話がずれちゃったね。[不老超長寿]の話だったよね」


「うん、そうだよ」


今度こそしっかり説明してもらおう。


「えーと、なになに......“[不老超長寿]とは、その名の通り老いが無くなり、寿命が大幅に伸びるスキルです。寿命の延び方は〔その種族の平均寿命×2~5〕です。倍率に関しては2~5の範囲でランダムとなります。また、倍率は小数点以下3桁までとします。

自然治癒力も大幅に上昇します。軽度の傷病は数分で、中程度の傷病は数時間で完治するようになりますが、致命的な傷病は応急処置程度までしか回復しません。これにより落命するケースも数件存在します。

即死攻撃は致命傷程度まで抑えられます。

何らかのスキルとの競合や併用によって起こった事態に関し、当方は一切の責任を負わないものとします”だってさ〜」


なんか、予想以上に説明書じみてたな。

めんどくさい言い回しだったけど、要するに不老になって、傷と病気が早く治るようになって、寿命が延びるってことだな。

まぁ、かなり詳しいところまで分かったからよかったかな。


「ありがとう、それじゃあそろそろ戻るかなぁ......と行きたいところだけど」


色々あるじゃん。


「え? あ、あはは、も、戻らないなら一体何を......?」


アリアは、関節が錆びきったロボットのような挙動でこっちを見た。


「ほら、あれだよ。わざととじゃないとはいえかなり年齢を下げてくれたからさ、ちゃんと“お礼”をしないとねぇ?」


「ひぃっ!」


アリアはゆっくりと後ろ向いてから、全速力で走り出した。


「ほーら、逃げないの」


逃さないんだけどね。


「いやいやいやいや、そんなお礼だなんて畏れ多くて......」


「まぁまぁ、遠慮しないの」


言いながら両手でアリアの頭を掴む。

片手じゃ手の大きさが足りなかったからね。


「あは、あははは......」


おや、こんなに笑うほど喜んでもらえるなんて俺は嬉しいぞ。

せっかくだから精一杯させてもらおう。


「ていっ」


両手にグッと力を入れる。

すると、どんどんと指先からアリアの頭にめり込んでいく。


「にぎゃああああぁぁぁぁぁぁっっ‼︎」


神域いっぱいにアリアの悲鳴が響きわたったとか何とか。


* * * * *


それから十数分後。


「いや、ほんとマジですいませんでした。わざと面白そうだから6歳にしたとかじゃないんで許してください!」


そこには、平伏するアリアとスッキリした表情の俺が立っていた。

なんか今更にアリアにアイアンクローをかけなきゃいけなくなるような発言が聞こえたんだけど......気のせいって事にしておこう。


「ほら、もう起こってないから立って立って」


「ほ、本当に怒ってないよね?」


いや、そんな涙目で覗き見られるとこっちも若干罪悪感があるんだけど。

まぁ、自業自得か。

さっきの発言からして。


「うん、まぁね」


「よかったぁ〜、にしても痛かった。ねぇ紅羽ちゃん、もう少し遠慮というものをさー」


「考えておくよ」


考えるだけなんだけどね。

確かに今回はちょっとやりすぎた感はあるけど。

しょうがないよねっ!


「ねぇ、紅羽ちゃん」


「ん?なに〜?」


見れば、アリアは真面目な顔でこっちを見ていた。

俺も自然と背筋を伸ばす。


「どうしたの?」


「いや、あのさ、実は私と地球の神あいつがやらかしたことってかなりの不祥事でさ」


そりゃあそうだろうね。


「ところで紅羽ちゃん、何か今欲しいものとかない?」


......呆れた。

口止め料払うから黙っててってことか。

言われなくとも黙ってるつもりだったけど......

ちょうどいいや。

ノイとアンの魂の融合に“つなぎ”がないのが不安だったからね。


「そうだな〜、一級ものの魔導書とかは欲しいかな〜」


「え〜、しょうがないなー。じゃあ、これあげるから、よろしくね!」


つまりは、これあげるから誰にもいうなよ、と。


「うん、任せといてよ」


「そろそろ戻ってもらうけど、大丈夫?」


......何もないよな?

いや、そもそも手ぶらだったな。

じゃあ大丈夫かな。


「うん、おっけい」


「了解、じゃあ送るね。バイバイ」


互いに手を振り合うと、すぐに光が足元から溢れてきた。

段々と意識が遠のいていく。

戻ったらすぐに、もらった魔道書これをつなぎにした術式に変えないとなね。

いやぁ、何かの時のために、と拡張性がある術式にしといて正解だったな〜。

うまくいくといいんだけど......

そこで、意識がまるで糸のようにぷつりと切れた。










- - - - - - - - - -

はい、いかがでしたでしょうか?

また微妙に遅刻です。

遅刻癖、直さないとなぁ〜。

今回は再びのアリア回でした。

僕は、アリアは近所のお調子者なお姉さんというイメージで書いているのですが、ちゃんと表現できているでしょうか?

あぁー、今度キャラ紹介とか書いたほうがいいのかなぁ?

そういうのが欲しかったら教えて頂けると幸いです!

それでは、またお会いしましょうっ!


次回の更新は12/21です。


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