8th 魂の欠けた少女

突き出された腕を半身で躱しつつ、カウンターで蹴りを放った。


「ぐふっ......はぁ〜......いやぁ、まさかここまでだったとはね〜」


轟音と共に家屋を何回もぶち抜いてようやく止まったノイさんは......

いや、もう敬称はいらないか。

ノイは、流石に耐えきれなくなったのか、そのまま凭れかかりながら呟いた。

俺が鬼化してから1分経ったかどうかという頃だった。

俺が全くの無傷であるのに対して、ノイは正にボロボロ。

正直言って、この一分間で俺が何をしていたのかと言われれば“弱いものいじめ”としか答えられない。


《ここまでなのですか......鬼の力と言うものは》


『シクレは何か知っているの?』


《い、いえ。知識としてあるだけです》


ふ〜ん、知識として、ね。


『その知識ってどこで手に入れたの?』


《それはですね......い、いえ。少なくとも今は言えません》


『そっか』


言えないと言うことは、少なくとも噂で聞いただとか、そう言うのではないんだろうな。

まぁいいか。

今は、アンの様子を見ることが重要だな。

っと、その前に止めを刺さないとね。

しっかり終わらせよう。

ゆっくりと近づく。


「ふふふ、とうとう終わりかなぁ。でもぉ、最後の最後で“鬼”と戦うことができたのは、かなり幸せだったな〜」


悪魔っていうのはこっちでも・・・・・戦闘狂らしい。

言葉通りに本当に幸せそうな笑顔を浮かべてる。

嫌悪感は、ない。

一応短い間とは言え、お世話になったから思うところがないわけではない。

とは言え、躊躇するか?

と聞かれれば、そんなの反応する価値もないほどの愚問。


「じゃあ、止めだけど。何か言い遺すことはある?」


まぁ、こう言うことを聞くのは、せめてもの情けかな。

......はぁ、俺もちょっと丸くなったかなぁ。

昔だったら問答無用で殺ってたよな、多分。

まぁ、こういうのも悪くは無い、と思う。


「言い遺すことかい? 無いよ〜、元々私たち悪魔は感傷に浸るとかしないからねぇ」


まぁ、そうだろうね。


「そんなのは知ってたよ。義理ってやつかな。じゃあ、ばいばい」


それだけ言って、瞬間的に急速に発達させた右手の爪を振るった。

少しの抵抗と、肉を断つ感触。

う〜ん、やっぱりこの感触はいつになっても慣れないし、嫌だなぁ。


《あれ? マスターは戦闘が好きなのでは?》


『あはは、そうなんだけど。俺が好きなのはさ、唯々戦うことであって、人を切るのは好きじゃ無いんだ。血は興奮するけど』


《そうですだったのですか》


って、それよりも、アンの様子を見に行かないと!

急いで戻る。


「アンっ!」


見た感じでは、さらに傷が増えた様子はない。

どころか、止血処理がなされている。

おそらく、衰弱すればするほど魂の質が落ちるからだろう。

でも......今重要なのは、それじゃない。

魂は、少しの欠損でも危ない。

脳よりもデリケートだと思っていい。

なんらかの方法で干渉されるだけでも危険だ。

ノイの魔術が少しでも影響を及ぼしていた場合は......

少なくとも、記憶の半分以上が消えてると思う。

それに、アンはおそらく失血である程度衰弱していた。

それ以上の被害があると見ていいだろう。

まずは呼吸を見る。


「っ⁉︎」


息が、ない。

嘘だろっ⁉︎


「糞、糞っ!」


間に合っていなかったのか?

畜生、何か......何か、方法はないのか?

はっ、陰陽の術を使えば、或いは......

無理か。

干渉されただけなら大丈夫だった。

でも、今回は欠損だ。

無くしたものをくっつければいいとかいう話ではないし。

くっつける、か。

いや、何か別に。

魂の代替になりうる程に強い力を持っているものがあれば......

魔術書、とか。

魔術書あれに宿る膨大な力を魂に変換することができれば、可能性はある。


「......魔術書で魂を補う、ね。我ながら狂ってるとしか思えない」


可能性がある限りは是非とも実行したいところだ。

でも、手元にそう言った類いのものはない。

無理か。


《マスター、ノイの家を探って見ては如何でしょう。彼女も悪魔であったのなら、魔術的なものを持っていた可能性はあるのでは?》


......なるほど。


『それは妙案だね。よし、早速行こう』


とは言え、絶対に時間はかけられない。

今は魔導術で延命処置を施してはいるけど、それでも。


「タイムリミットは1時間だ」


見つけるのは、魔術書じゃなくてもいい。

最悪、宝珠でも見つかれば死は免れる。



* * * * *



と、思っていたのだが。


《瓦礫、ですね》


シクレの言う通り、俺の目の前にあるのは瓦礫の山。

そして、ここはノイの家があった場所でもある。


「......糞、あぁ、畜生!こんなことあってたまるか!」


何か、探し出せないか?


『確か、ここがノイの部屋があった場所だよね』


《えぇ、そうです。マスター》


俺は、未だ鬼化を解除していなかったが故の膂力で瓦礫をなぎ払った。

圧倒的な力で吹き飛ばされた瓦礫たちは、村の外まで飛んで行った。


「これは、ビンゴか?」


瓦礫が薙ぎ払われた後には、横倒しになった本棚や、二つに折れたベッド。

そして、何かで隠されていたのであろう、地下に続く階段があった。

階段の奥からはなんらかの気配を感じる。

役に立つものがあるなら、地下だろう。

階段を降りていく。

通路は石造りのかなりしっかりしたもので、崩れる心配はなさそう。

どうやら、そこまで深くはないらしい。

すぐに部屋に出た。

そこかしこに魔力を宿したアイテムが置いてある。

......しかし、それすらも目に入らなくなるようなものが、そこにあった。

石造りの、祭壇にも見える寝台とその上に横たわる少女。

しかも、その少女は......ノイと同じ見た目をしていた。

しかし、少しばかり悪魔のノイよりも幼い。

1,2歳ほど下だろう。


「そういう、ことか......」


悪魔のであるノイは、自分と同じ名を持つ少女を探し出し、その少女に[擬態]して成り替わり、人の魂を得ようとしたのだろう。

アカシックレコードによれば、[擬態]は誰かに化ける場合には、名前が同じでないと駄目らしいからな。

そして、化ける対象が存命していなくてもいいから、存在しなくてはいけない。

逆に言えば、死体でもいいわけだ。

つまり、そういうことなのだろう。

この少女がオリジナルのノイ。

近づいて様子を見る。

ん?

これは......大部分は抜け落ちているけど、魂が残ってないか?

使えるかもしれない。

うまくアンとノイの魂を融合させることができれば。

魔術書で代替するよりもよっぽどいい結果が出るかもしれない。

とりあえず、この娘も連れてアンのところに戻ろう。



* * * * *



「いしょっと」


とりあえずノイもアンの隣におろして、きちんと調べる。

まず調べるべきは本当に魂が残っているのか。

......これは、予想通りちゃんと残ってたみたい。

次に調べるのは、ノイとアンの魂の適合率。

これが低くても50%はないと、拒絶反応を起こして壊れてしまう。

......運がいいな。

というか、ここまでくると奇跡にも等しい気がするぞ。

普通、どんなに高くても75%程度というところで驚きの87%。

本当に奇跡だ。

まず失敗はしないだろう。

というわけで、2人の魂を融合させるための陣を組んでいく。

と言っても、今回のは陰陽術の範囲だから、図形を用いた陣ではない。

四方に四神の名を刻み、その中に中心に向かって渦を巻くように術式を刻んでいく。

丁寧に、簡潔に、尚且つ素早く。

失敗するとその場一帯を更地にするような規模で力が暴走するから、かなり神経を使う。


《壮観ですね、これは》


『うん、そうだね。久しぶりだった上に最上位の規模だったから、少し不安だったんだけど』


いや〜、成功してよかったー。

あとは、2人を陣の上に乗せる。

それから、その2人の頭上、陣にギリギリ入らない場所で祝詞を唱えながら両手で印を組んでいく。


「–––と宣る」


祝詞が終わると同時に印も結び終わる。

次の瞬間、視界が真っ白な光に覆われた。

......まさか、失敗したか⁉︎

何が駄目だった?

糞、いや、待て。

まだ失敗が確定したわけではない。

落ち着け、落ち着け。

そうして気づけば俺は......


再びアリアがいた、あの場所に立っていた。











- - - - - - - - - -

いかがでしたでしょうか。

いや、あの。

言い訳をさせてもらえると嬉しいんですけど。

いやね、今回難産で、書き終わったのがAM3:00前後だったわけですよ。

もうそこでおかしいんですけど。

それで、それならいっそのこと朝にしちゃえ、と。

反省も後悔もしてるので許してください。

それと、このあとがきがない方がいいって意見もいただいたので、先ほどTwitterの方にアンケートを設置しましたー。

暇な方は投票して頂ければと思います。


次回の更新は12/19です!

それではまたお会いしましょう!


アンケート設置中のTwitter

→@tama_717

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る