7th 鬼化

はぁ、はぁ、今ので何人目だ?


《現在、通算93人目です、マスター》


うわ、まじか......

こいつら弱すぎるな。

つまんない。

さっきは、久々の血でハイテンションになっちゃったけど。

ちょっと冷静になってみると全くつまらないんだよなぁ。

早く終わらせたいんだけど。

無双ゲーかよってレベルで湧いてくる敵さん。

って、それよりも。


『シクレ、今って戦闘開始から何分経った?』


《大体10分程度です》


......まずいな。

さっきのアンの血の出かた。

嬲るように傷付けられていたから、傷自体は浅かったけど。

かなり傷口が多かったし、簡単に出血が止まるような雰囲気もなかった。

あと5分もしたら危ないんじゃないかな。

急がないと......くっそ!


「あーもう、お前ら邪魔ぁ!〈πρόσκληση召喚χάνω τέρας失いし怪物〉!」


詠唱の直後、大きい円の内側に多様な図形が組み合わさってできた歪な陣が出現。

そこから一瞬だけ、光の一切あたらない物体が出現する。

次の瞬間には、周りにいた奴らは体のどこかを失って倒れていた。

今、俺が喚び出したのは“何か”を失った怪物。

さっき出て来た怪物はおそらく光を失ったのだろう。

あれらは総じて何かを奪うことに長けている。

例えば、人間の体の一部とか、ね。

当たり前だけど、術者には害を及ぼさない。

っていうか及ぼさせない。


《マスターが召喚系統の魔導術まで使えるのは驚きですが......もっと驚くべきことを発見しましたよ》


驚くべきこと?


『何を見つけたの?』


《地下通路です。どうやら敵はここから出て来ていたようです。あ、まだ補充が来ます》


うあぁ、地下、かぁ。


『よく見つけてくれたね。それで、どこ?』


さっさと潰しに行こう。


《すぐそこです。そこの家の床下に出入り口があるようです》


『オーケー、さっさと潰そう』


さっきからなんとなーく魔導術ばっかりだからなぁ。

今度はこの腕一本でぶっ壊してやる。


「っと」


一足飛びで通路の出入り口がある家の前に行く。


「せいっ‼︎」


その勢いも全部使って、浸透勁を打ち込んだ。

すると、一拍置いてからその家がひび割れ、直後に瓦礫の山になった。


《うわぁ......うわぁ》


うん、さすがに無茶したなって自覚はあるからさ。

ま、まぁでもこれでうざったい増援がなくなるんだし、多少はね?

はぁ、やっと終わったよ。


《あれ? マスターは戦うのが好きなのでは?》


『いや、だってあれって戦闘じゃなくてただの処理じゃん』


戦闘は好きでも処理とか作業とかは苦手なんだよね〜、俺。


「はぁ、まぁ、とりあえずアンの様子を見に行かないとね」


って、この気配は......後ろっ⁉︎


《マスター、右に飛んでください!》


大人しくシクレの指示に従って右に飛んだ。

次の瞬間、俺が立っていた場所とその左側に連続して3,4本の片刃剣が突き刺さった。


「いやぁ、よく避けたねぇ、クレハちゃん」


その声を聞いて、ゆっくりと後ろに向き直る。

建物の屋根の上に人影が一つ浮かび上がる。

それは......やはり、ノイさんだった。


「おっと、それ以上は動かないでくれると嬉しいかな〜?」


言いながらノイさんは、無造作に足元の地面を蹴った。

つられてそこを見れば......さっきよりも傷が増えた、ボロボロのアンが倒れていた。


「私としてもぉ、一応仕事だから〜・・・・・・。この娘のことも〜、これ以上傷つけたくはないんだよねぇ」


白々しい。

あぁ、糞、畜生。

もっと早く終わらせるべきだったか。


「そうそう、えらいえらい。それにしてもぉ、まさかクレハちゃんがあんなに強かったなんてぇ、思いもしなかったよ〜?」


相変わらず、気持ちの悪い笑みだ。


「あぁ、そんな睨まないでよ〜。それに〜、抵抗しようったって無駄だよぉ?クレハちゃんじゃ、人間じゃあ・・・・・私には勝てないからねぇ?」


人間では勝てない?

どういうことだ。


《マスター、鑑定を使ってみては?》


そういえば、そんなのがあったね。


『ありがとう、使ってみるよ』


「[鑑定]を行使」


+++++


Name:ノイ・マギア=ヴァッフェ

Sex:女

Age:152

Race:中位悪魔


Skill:擬態,魔術,近接武器術


UniqueSkill:刃の虚空ウェポンズ・ゲート


Tittle:魔界第181位,虐殺者


++++++


おぉ......そう来たか。


「ノイさんって、悪魔だったんだ」


思わず呟く。


「......あは、気づかれちゃったか〜。しょうがないなぁ、口実もできたしぃ、クレハちゃんものも頂いちゃお〜」


ん?

俺の何をいただくんだ?


「あ〜、でも、その前にぃ、アンのをいただかないとねぇ」


......そういうことか!

悪魔とは往々にして人の魂を使うことで急速に力をつける。

そして、魂とは謂わば人の設計図。

設計図を失って、まともに形になるわけがない。

だから、アンの魂をあいつにやるわけにはいかない!


「それじゃあ、いただきま〜す」


アンの真上に、円と六芒星の比較的簡素な陣が展開される。

それから、アンの体が何かに引っ張られるかのように宙に浮かび上がって行く。


「させるか.....ってんだよ!〈μαγεία καταστροφή魔術破壊魔導〉!」


スパークが発生して、陣が消滅。

アンも支えを失ったかのように屋根の上に落ちた。

間に合ったか?

糞、ここからじゃアンの様子は見えないな......


「いや〜、参ったなぁ。まさかぁ、クレハちゃんがそんな芸当もできたなんて〜」


アンの様子を見るためには......あいつが邪魔だな。

殺るか?

いや、今のあいつは[擬態]の状態のはず。

解除すれば、恐らくは戦闘力も跳ね上がるはず。

残念なことに......テンションが振り切って所構わず力を振るいまくるに違いない。

自制できる気がしない。

圧倒的に格下なら、つまらないだろうからそんな事にはならないだろうけど。

......どうする。

“あれ”を使うか?

いや、早まっちゃダメだな。

今の段階で使ったとして、どんなことが起こるかわからない。

初段なら大丈夫だとは思うけど......

使わないに越したことはないだろうし。

長引きそうだと判断した時だけ使おう。


「でもさぁ、正直言って邪魔かな〜」


来る、か?


「というわけでぇ、ちょっとの間静かにしてくれてると......嬉しいかなぁ」


っ、後ろ!

振り向きざまに手刀を放つ。


「うわぁ、後ろにも目ぇついてんのかな〜」


避けられた。

今度は互いに地に足をつけて向かい合う。

未だにあの笑みは崩さない、か。

舐められてるなー。

ならちょっと、その余裕を壊してあげるかな。


「ったぁ!」


力を抜いて、最初から最高速度で。

一気に後ろに回って、上段の後ろ回し蹴り。

間髪入れずに裏拳を入れる。

そこから一切の隙を入れずに連撃を繰り出していく。


「くっ......うわっ⁉︎」


しめた、体勢を崩してくれた。


「そこっ」


素早く膝裏に下段蹴りを入れて、両腕を取る。

そのままとった腕を交差させて、片腕を逆に曲げた。

鈍い音がなる。

痛みに若干たじろいだところで、正面から肩に手を乗せ、その肩の上で倒立をする。

倒立をした状態で、うまく頭を掴む。

そのまま、掴んだ頭を捻りつつ降りていく。

片膝を立てて着地、直後に横向きに曲がった首が立ててある膝に直撃した。

おおよそ人体から発せられてはいけないような何かが折れる音がした。

僅かに痙攣してから、脱力していく。

それを確認して俺は、バク転も交えて距離をとった。

地面に倒れ伏している体から黒い靄が出てきて、その体を包み込んでいく。

完全に覆われきった直後に、黒い靄は霧散した。


「......ここからが正念場、かな」


さっきの交戦でかかった時間は1分程度。

とはいえ、アンの容態がわからない今、短く済むに越したことはない。


「ふふふ、よくもやってくれたね〜? クレハちゃん」


霧散した黒い靄が、急速に集まっていく。


「でもぉ、今度はそう簡単にはいかないかな〜。っていうかぁ、そんな簡単にはぁ......させないよ〜」


浮かび上がったのは、かろうじて女だとわかる。

ただそれだけの、影。

とはいえ、実体を持ってはいるようだ。


「あは、分析してるね〜? でもぉ......油断はダメかなぁ〜!」


なに?

油断?


《っ、マスター! 後ろですっ!》


咄嗟に本能に従って体を右に捻る。

重い衝撃。

それから、左の脇腹が焼けるような痛みを訴え始める。

見れば、俺の血を纏った惚れ惚れするような光沢を放つショートソードの刃が突き立っていた。


「かはっ......」


《マスターっ!!》


糞、倒れるなっ!

なんとか、ふらついた体を立て直して、そのまま右に跳んだ。

硬い音を立てて二本のショートソードが俺の立っていた場所に刺さった。

見えたぞ......

奴の能力は虚空を生み出し、そこからなんらかの武器を飛ばすものに違いない。

そんな考察の最中にも追加の刃物が飛んで来る。

なんとかかわそうと試みるが......またも衝撃。

今度は右の掌だ。

初撃を腹に喰らったせいで、動きが鈍ってきている。


「あは、どうしたのかな〜? このままじゃどうしようもないよねぇ? 今、その可愛い可愛い顔をくしゃくしゃに歪めて謝れば、特別に許してあげないこともないんだよぉ?」


確かに、このままじゃジリ貧だ。

このままじゃ・・・・・・ね。

......しょうがない。

このままじゃ長引くだろうし。

“あれ”を使おう。

俺は、徐に左手の人差し指と中指を揃えて上にあげた。

指先の方向を変えてこっちに向けた指先を、勢いよく自らの首元に突き入れた。


「なっ⁉︎」


《マスター⁉︎》


鮮血がほとばしる。

薄れゆく意識の中で、鍵言を。

ゆっくりと、確かに紡ぎあげていく。


「【我は血を継ぎしもの。我こそが気高く強き鬼族が長。封じし我が力、其の断片を、この血代償に今呼び起こさん】」


歌うように唱えられた鍵言は、確かに、静かに影響を俺に与え始めた。

心臓が深く鼓動した。

たった今宙を舞っていた血が、とぐろを巻いて俺の四肢へと向かう。


「[鬼化-初段]」


最後の一言をきっかけとして、俺の四肢にそれぞれ集っていた血が確かな力となって俺に定着した。

腹につき立っていたはずのショートソードはすでに地面に落ち、傷口は跡形もい。

脚、腕共に在り得ない程に引き締まった、密度の高い赤みがかった黒の筋肉の鎧を纏っている。

頬にも左右対称に黒い歪な筋が通っているはず。


「そ、その姿は......」


《まさか、マスターが? い、いえ、でもそんなはずは......!》


[鬼化]とは、俺が自ら封じた俺の力を一時的に解放するもの。

そして、今の状態が“初段”。

一番負担が小さい状態だ。

それでも、終わった後に何が起こるのかは......

あぁ、考えるのが恐ろしい。

でも、今はアンを救うためにも、奴を倒すのが先決だ。


此処に、戦いの火蓋が再び切って落とされた。










- - - - - - - - - 

はい、いかがでしたでしょうか?

今回は遅刻なのかな?

......はい、遅刻ですよね〜。

それよりも、思ったよりも話しが進まなかった......

今回こんなに長々と綴りましたが、場面的には長くても5,6分程度の間に起こった出来事なのです。

少なくとも僕はそういうつもりで書きました。

っていうか、細かく書きすぎました。

あ、僕のTwitter見てくれてる方は分かるかもしれないんですけど、実は本当に10:00には完成しててもおかしくなかったんですよ、この話。

言い訳じゃないんですけどね?

なんでこんなに遅くなったかって、クレハの鬼化の時の鍵言に滅法悩みまして。

でもそのおかげで、個人的には満足する出来です。


さて、そんなわけで次回の更新は12/17です!

ちなみにですが、感想・レビュー・評価などもお待ちしておりますので、どしどし送っておくれやす!

ちょっとサイトでは......って方は、TwitterのDM解放しておりますので、そちらにきてくださっても大丈夫です!

そんなこんなで、また次回お会いしましょう!


DM解放中のTwitter(気軽にどうぞ!)

→@tama_717

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