本編

建国編

3rd 雲行き怪しい転生初日

爽やかな風が頬を撫でて行った。

あたり一面は緑の海と見紛う程に広い草原。

背後には連なる山々。

正面にはパースが狂ってるとしか思えないほどの巨大な樹がそびえていた。

1万年を遥かに越す時間ときを知っているだろうその樹は、青々とした葉を茂らせてまるで世界を見守るかのように穏やかに在った。

......にしたって、でかすぎじゃない?

あの樹。

下の方とか全く見えないよ?

屋久島の縄文杉をも子供扱いできそうだな。

いや、子供を超えて赤子扱いすらできそうだ。

俺は周りの草原を見下ろせる小高い丘の上に立っていた。

そのままさらに下を見ると見えるのは......明らかに前世より小さい体。

おかしく無い?

俺多分女の子の中でも小さい方ってレベルの体格だったよ?

そこからさらに小さくなったの?

......まさかとは思うけどさ、アリアの行ってた“最悪”ってのはこのことか?

うぅ、まいったなぁ。

流石にこの世界が日本より治安いいとは思えないし......

まぁ、頑張るしか無いのかな。

でも、とりあえず色々吹っ切るためにも1回だけ。


「何で幼女になってんだよおぉぉぉっ!!」


ふぅ、すっきりした〜。

ともあれ、こういう転生した時ってのはお約束がるんだっけか。

確か、“ステータス”がその中の一つだっけ。

確かめてみよう。


「ステータス」


............違うみたいだね。

他にも色々試して見るか。

何せ彼があんなに力説してたんだから。


「ステータス・オープン」


............これも違うみたいだね。


「States Open」


............反応なしっと。

じゃあ、ちょっとだけ方向を変えてみようか。


「Disclose a state」


............反応なし、かな?


「って、おわっ」


ふ、不意打ちとは卑怯な......

はっ、び、びびって無いからな!

ちょっとびっくりしただけで!

で、えーっと。

何があったかって、ステータスっぽいのが出てきた。


+++++


Name:クレハ・ミョウジン

Sex:女

Age:6

Race:黑人鬼


Skill:カリスマ,隠密術,暗殺術,格闘術,武器術,戦闘魔導術,無限収納アイテムボックス,鑑定,地図マップ,探査,家事,交渉術,話術,多言語理解


UniqueSkill:アカシックレコード,黑鬼流陰陽術,鬼化,限界突破,スキル合成


Title:神殺者,鬼を統べし者,統率者,裁く者,超越者,強者,狂者,奏者,同い年キラー,年下キラー,年上キラー,魅了せし者,転生者


+++++


ふむ。

あんまりおかしいところはないかな。

いや、あるけど。

でも残念なことに[アカシックレコード]とか言う奴を除けば全部身に覚えがある。

まぁ、[アカシックレコード]とやらも多分地球の神あいつからもらった奴だと思うけど。


《保持者の認知を確認》


ん?

なんか声が聞こえたような......

噂をすればなんとやら、とか言う?

いやいや、まさかねぇ。


《情報の取得を開始》


えぇっと......?

情報の取得ってなんだ?

あ、ちょっ、待って......


「うぐっ、なにこれ頭いた......っ」


ぐぅぅ痛い痛い痛い!!

こんなの聞いてないし!

クーリングオフだぁ!

あ、待って待って痛いって......

多分俺今よだれ垂れて大変なことになってるからちょっと待って欲しいんだけど。

痛い痛い痛い痛い痛いっ......

あ、無理。

これ無理な奴だわ。

気ぃ失う奴......


「あれ?ねぇねぇノイ、今誰か倒れたの見えなかった?女の子」


「ん〜、見えたような、見えなかったような......」


「いや、絶対女の子が倒れたんだって!見に行こうよ!」


「まぁ、アンがそう言うなら見に行こうか。もし女の子が倒れてたんだったらこっちとしても都合がいいしね・・・・・・・


......なんか聞こえたような?

ってそんなことよりも......っ!






* * * * *






......知らない天井だ。

ここはどこだ?

えっと、確か......アカシックレコード(と思われる)のせいでめっちゃ頭痛かったんだっけ。

やっぱり地球の神あいつ碌なことしないな。

って、なんだこれ?

いや、イメージだけど、頭の中にあり得ないくらい分厚い辞典が存在してるような感じがする。


《御名答です》


あれ?

この声って......


《申し遅れました。私アカシックレコードと申します。長いようでしたらお好きに略称でお呼びください》


スキル本人だったか......本人?

スキルだから本体?

本スキル?

わかんないや。

でも、まぁ確かに“アカシックレコード”って長いよね。


『ん〜......じゃあ、“シクレ”とでも呼ぶかな』


《了解しました。私の略称を“シクレ”で登録しました》


『うん、これからよろしくね』


《えぇ、こちらこそ。ではマスター、自らの内側に大きな知識の存在を感じ取ることは可能ですか》


大きな知識っていうと......

この辞典みたいな感じのこれかな?


《恐らくそうでは無いかと》


『なんかあやふやだね』


《人によって感じ方が違うのです。そもそも実例が少ないのもあるのですが》


『へぇ、実例少ないんだ』


《えぇ、そうですよ。[アカシックレコード]というスキルは地球の主神たるあのお方以外には誰かに付与できる神がいないので》


......地球の神あいつってすごい奴だったんだな。

っていうか主神だったんだ。


『あれ? 主神ってあれじゃ無いの? アッラーとかヤハウェとかゴッドとか』


《いえ、違います。それは人間の作り出した空想なので存在しません。強いていうならば、日本の八百万の神という概念は正しいと言えます。語られる神々の中には実在する方もいらっしゃるようですし》


お〜......

衝撃の事実だよ。

熱心な宗教家の方々が聞いたら卒倒しそうな事実だよ。


《マスター、話を戻してもいいでしょうか》


『あ、いいよいいよ。なんかそれちゃってたね』


《ありがとうございます》


『それで、どんな話なの?』


《マスターは先ほど、辞典のようなものが内側にあるとおっしゃいましたよね》


『うん、そうだよ。頭の中にね』


《マスター。何かを調べる際は、基本それを用いてください。私を通して調べるのは、マスターの脳に非常に負荷がかかるので緊急事態のみにしてください》


『わかったけど、そのかかる負荷ってどのくらいなの?』


《そうですね......先ほどの頭痛は、取得した情報を強制的に焼き付けた事によるものでした。私が何かを調べる際は、その取得した情報を『引き剥がしては焼き付け直す』という工程になるので、少なくとも焼き付けのみよりは強烈でしょう》


うぇっ、きつそうだな......

想像するだけでげんなりする。

あれだ、あまりの痛みに気絶もできない奴だよ。

しかも勘が囁いてるんだよ。

「いつかそれをやる時が来る」ってね。

あぁ〜、憂鬱だぁー!

まぁいいけどね。

って、ん?

誰か近づいてきてるな......

今更だけど自分の状況を思い出して周りを見回してみる。

多分どっかの家の部屋の中。

家具とかをみる限り技術はあんまり発展してなさそうかな?

少なくとも産業革命はしてないと思う。

普通に中世かな。

でも、家があるってことは人の営みがあるってこと。

人の営みがあるってことは文明滅んで無いってことだし、そこは良かったかなぁ〜。


《マスター、文明は滅んでますよ。これらの家はその残滓です》


............勘の的中率が100%を下回ってくれないなぁ。

気のせいだと思いたかった。

まぁ、それは後で調べるとして。


「お、目ぇ覚めたんだね。良かった良かった」


部屋に入ってきたのは、濃い灰色の髪をショートカットにした青い目の16,7くらいの少女だった。


「いや〜、助かったよ。君がいてくれてさ。・・・・・ ・・・・・・・・ ところで、私のこと覚えてる?」


なんか気になることを言われたんだけど......

しょうがない、機会があればそれとな〜く探ってみよう。


「えぇ、あの、朧げになら。倒れる直前だったので」


「あぁ、そっか......そうだよねぇ」


彼女はどこか気持ちの悪い笑みを浮かべた。

あ〜あ、こういう笑みを浮かべる人と関わると絶対に碌な事にならないんだよね。

......諦めよう。

一応、ここにいるのは彼女のおかげみたいだし。


「ところでさ〜、君。なんであんなところにいたのー?」


おっと、いきなり核心をついてきたな。

こういう質問をされた時の対応はばっちり用意してある。


「ごめんなさい、わからないです」


実際嘘は言ってない。

彼女はまたあの笑みを浮かべた。


「へぇ〜、そっかぁ。それは大変だねぇ。きっと記憶喪失だろう。あぁ、そうだ。しばらくうちでゆっくりして行ったらどうだい?何か分かるかもしれないし」


すごく芝居掛かった口調だ。

これはどう転んでも家に入れる気だったな。

本当なら即等でNOとお答えするんだけど......

身寄りもないししょうがないから受け入れる。

けど。


「いいんですか?」


まずは少し沈んだ口調で問いかける。


「あ、あぁ、勿論だよ〜」


彼女は若干赤面しながら返事をくれた。

その反応も予想通り。

打算まみれ計算尽くしの上目遣いの攻撃力はなめちゃいけないね。

はい、嘘です。

自然と上目遣いになっちゃってるだけで打算も計算もしてません。


「あ、忘れてたけどぉー。私の名前は“ノイ”だから〜。まぁ、暫くの間よろしくね〜」


それから彼女は首を小さく振りながら部屋を出て行った。


「はぁ、乗り切ったぁ〜......」


俺ああ言うタイプ苦手なんだよなぁ。

主に面倒的な意味で。


《そう言う割には余裕そうでしたけどね》


『いやいやいや、全然だって。すごい緊張したんだから。はぁ〜、まぁ超えたんだから気にしないでいっか。でも、そうすると案外あっさり終わっちゃったから暇になるな』


《それでしたら、情報収集などしてみたら如何でしょうか》


『.....うん、それもそうだね。じゃあ、そうしようか』


シクレに聞くとアカシックレコードは実体化もできるようだった。

試してみると、めっちゃでかい本になった。

ちなみに、その後あまりの楽しさに時間を忘れて気付けば日が沈んだのに気づかず、夕飯だと呼びに来たノイにすら気付かず呆れられたのは内緒の話。





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如何でしたでしょうか?

次回の更新は12/7です!


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