第11話「僕と私のデートプラン」

 僕は、『僕』がお祭りに行こうと提案して来たのを知った。

 そしてそれは奇しくも、自分たちが入れ替わった神社のお祭りだったのだ。

 しかし気がかりがあった。

「神社の近くでやるのはいいけど、首尾よく神社に行けるかな?」

「神社にも屋台があるし、偶然遭遇できる確率は低くない」

 この会話は実際に会ってした物でなく、メッセージアプリの物だった。

 なので、僕は『僕』に提案する。

「周りの目もあるなら、デートという体であった方がいいんじゃないかな?」

 『僕』は面食らったが、同時に納得もした。

 お互いに入れ替わった身体でボロがでてしまいそうだったから、

プールで偶然会った時も結局すぐ分かれた。

 寮は近いには近いが幅15センチのフェンスで遮られ、

しかもその高さは15センチなんてものじゃない。

 つまり実質的には正門から入るしかないのだが、

男子寮と女子寮を行き来すると噂される恐れがある。

 なので15センチ向こうの男子寮と女子寮は物理的には確かに近いが、

実情としては沖縄と北海道くらい離れているといってしまえるほどなのだ。

 このいい方はさすがにオーバーかもしれないが、双方とも寮を行き来できなかったのは確かなのだ。

 というわけで今回は今まで消極的に動きすぎた反省を踏まえ、

あえてデートという攻めに転じてみたのだ。

 しかしこれには課題があった。

「デートするのはいいけど、具体的に何するの?」

 『僕』はまるで本当にデートするみたいな言い回しだった。

 実際これがきっかけで僕達は本当に付き合うこととなったわけだが、

その時あくまでデートはあくまで『元の身体』に戻るという本来の目的を達成するためのものだったのだ。

「お祭りだし、無難に屋台でも見て回っていけばいいんじゃないかな?」

「そうじゃなくて、どの程度の距離感がいいかな?」

 今はそうでもないが、いくら何でも手を繋ぐには恥ずかしかった僕はこういった。

「君が僕の15センチ先に居る感じがいいと思うよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る