第3話「僕と私の部屋事情」
ともかく、と『僕』は僕にいった。
「今のあなたは冬桜吹雪。それだけは忘れないで」
「とはいえどうすればいいのさ。いきなり女の子の立ち振る舞いなんてできないよ」
「その辺は心配しなくていいわ。身体に傷はついて無いけど、幸い服は砂ぼこりとかで汚れてる」
僕はそういわれて彼女のいわんとしたことを理解した。
「つまり階段から落っこちて記憶喪失になった、って体にすればいいの?」
「そうね。名前とか、寮暮らしであることは身分証明書を見て分かったことにすればいいわ」
「じゃあ、医者とかに行った方がいいのか?」
僕の問いを『僕』は否定する。
「それは駄目。記憶喪失のふりって割と見抜かれやすいの」
「なるほど、何か前例あった気もするけど」
そんな僕に『僕』はこう返す。
「それはきっと医者もグルだったのよ」
「ともかく、下手に医者に診て貰ったらとんでもないことになりそうなのは分かったよ」
すると『僕』は僕にこういった。
「だけど体調が悪くなったら医者に診て貰ってよ。夏は脱水症状に陥りやすいし」
「物騒だね」
僕は『僕』にそう返すが、『僕』はこう釘を刺して来た。
「男性より女性の方がどうしても体力はないから気を付けて。いつもの感覚でいるとケガじゃすまないわ」
「もとより僕はそんな体力ある方じゃないから、僕は君の方が心配だよ」
そんな僕の返しに『僕』は納得するようにいった。
「確かに『僕』の方が演劇とかで体は鍛えられているかもね」
ただ、と『僕』は続ける。
「それでも男子と女子じゃ勝手が違うからね」
僕がそれに頷いた後、僕達は寮へと歩き出すことにした。
「部屋番号は鍵にあるはず。まあ、寮までの道は一緒だからね」
『僕』はその後そうだといわんばかりにゲーム機を出した。
「ゲーム機あるじゃん、これ君に『貸し』だね」
「ありがとう。携帯ゲームなら『私』の寮でできるね」
そんな僕に『僕』はいった。
「それから、あなたの携帯にメール送りたいから」
「分かった。メールアドレスを交換しよう」
僕達はスマートフォンを取りだす。
「あ、これならメッセージアプリでもいいね」
そんな『僕』に僕はこう突っ込んだ。
「今時ガラケー使っている人の方が珍しいと思うけど」
「まあ、念のためね。ともかく、連絡先の交換はしておかないと」
僕は『僕』の提案に頷き、連絡先を交換した。
その後、寮に着いたので僕は本来吹雪が居るはずの部屋へと向かうことにした。
その時、 幅15センチしかないフェンスがこころなしか厚いように見えた。
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