【作戦会議】
「私に良い考えがあるわ」
ブルローネは自信満々に言った。
万魔殿の玉座の間に再び三獄将を集め、俺は作戦会議を開いていた。昨日、俺が迂闊な行動をしたばかりにラインを危険な目に合わせてしまったのだ。これからは慎重に行かねば。
「ブルスト王を篭絡させればいいんじゃない?」
ブルローネは無意味に体をくねらせながら言った。更に「血も流れないわよ」と付け加える。
それは確かに俺もありだと思う。ブルスト王がどんな人間であろうとも、男である以上サキュバスは天敵ともいえるだろう。性欲が存在しない人間などいないのだから。
「サタニアはどう思う?」
先程からなにやらサタニアは顔をしかめているので、その理由を聞くのもあっては話を振った。
「あー、えっと、ブルスト王のやつなんだけどな」
なんか歯切れが悪いな。
「まぁ、その、殺しちまった、俺が」
「「「は?」」」
*****
「ちょっと待ってくれ、一旦整理しよう」
「おう」
「俺とラインが城下町の視察をしてる間、お前らは何をしてたんだ?」
昨日、俺とラインは敵情視察と称し、町に潜入していた。その時、三獄将には極力目立たないようにそれぞれで独自に情報を集めるように指示していたのだ。していたのだが。
「俺はそういうまどろっこしいのは苦手だからよ。こうした方が手っ取り早いと思ってな」
「だからって、いきなりトップを暗殺するやつがあるか」
「まさか、侵略って言ってんのに、平和的にやろうとしてたなんて思ってなくてよ」
「まぁ、良いではないですか」
と、グラル。
「トップが死ねば、組織というものは一時的に隙が生まれます。代理を立てるでしょうが、国をまとめる事を即座に出来るものなどそうはいますまい」
なぜか、一瞬俺を見た気がする。なにか言いたい事があるならハッキリ言って欲しい。
「魔王ちゃまも出来てないもんね~」
「ちゃまとか言うな」
事実として俺がこの魔界という国をちゃんと統治出来ているかというと怪しいところではあった。グラルやそういう方面に強いモノたちに教えてもらいながらなんとか国を回しているのが現状である。
「え~? だってこんな状況なのに自分から敵地に乗り込んでいって、その癖大した成果はゼロに等しいって本当にやる気があるの? ってレベルだし。ちゃまでいいでちゅよね~」
「うっ」
なにも返す言葉がない。
「……話を戻そう」
俺は弱々しくそういう事しか出来なかった。
「想定とは違ったが、ブルスト王が倒れたことでこちらが有利になるのは間違いないだろう。そこで次の行動に移るためにも情報を共有したい」
皆の顔を見る。
「グラルとブルローネは昨日は何を調べていた?」
「その前に、もう一度質問してもよろしいでしょうか?」
グラルは言う。特に断る理由もなかったしなんとなく断るほど強く出ることも出来なかったので、意見を飲み込む。
「魔王様が本当に手に入れたいのは『ブルスト王国』ですか? それとも『アウルスの町』ですか?」
「それは先日も言っただろう。俺が手に入れるべき最優先目標は『アウルスの町』だと」
「はい、それは承知の上でございます」
? 分かっているならばどうしてグラルはこのような質問をしたんだ?
「だからこそ、あえてもう一度問いたいのです」
だが、グラルは真剣そのものだ。こちらをからかっているわけではなく、なにか意図があって喋っている。緑色の瞳が鋭くこちらを凝視している。
「ブルスト王国を侵略し、国ごとアウルスの町を手に入れるという事はもちろん可能ですし、武力行使を許していただけるならば三日で国を落としてみせましょう」
「ですが」
「連日の魔王様の発言や態度を見るに、望むべきは国や町そのものではなく『アーリナスの解放』でございますね?」
「ああ、その通りだ」
「で、あれば。アウルスの町のみを侵略対象にすべきでしょう」
それは俺も考えていた。しかし、真なるアーリナスの解放を行うために町だけを侵略したのでは足りない。国の連中は結局のところ、アーリナスに対する差別意識が消えぬままだろう。だからこそ、俺はまず国を侵略し、魔王の名の元に統一することでそういった差別を政治的に無くしていこう、と考えていた。
「……理由は?」
だからこそ、グラルの意見に興味が沸いていた。俺とは視点の違う意見が出てくるのは良い事だ。
「不要だからです」
「不要?」
「国を侵略した所で本当に根本的な『アーリナスの解放』が出来ると思いますか? 私は思いません。いくら上から差別をするな、と言った所で人間が行うのは上辺だけの行為です。今まで見下してきた相手と急に仲良くできるほど人間が友好的な種族とは思えないからです」
グラルは続ける。態度はいつも通り落ち着いた様子であったが、喋りはどこか熱が入っている。
「では、どうすれば根本的な解決を行う事ができるか? 簡単です。アーリナス以外の人間を滅ぼせばいいのです」
「なに……?」
いま、グラルはなんと言ったのだ? いや、言ったことは分かる。ただその意見に対する驚きと否定したいという気持ちが、言葉の意味を理解するのを拒んでいる。
「侵略行為は不要です。余計な人間を抱え込むことになりますし、魔王様の目的の邪魔になるでしょう。ですので、行うならば『侵略』ではなく『殲滅』です」
グラルはなおもこちらをジッと見つめている。俺はふと、彼の目線から目を逸らしてしまっていた。
「……質問に戻りましょう」
「魔王様が本当に手に入れたいのは『ブルスト王国』ですか? 『アウルスの町』ですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます