【魔王軍②】
「あの、アヤトさま、ここはどこでしょうか?」
魔界の
その質問はもっともだ。アウルスの町から転送され、そして、目の前には魔族と勇者であった筈の男がいる。
「魔王様、その小娘はなんです?」
グラルは言う。当然だ、目の前に敵対するはずの人間が出てくればその様に身構える態度にもなろう。サタニアもブルローネも同様だ。
この状況を理解しているのは俺一人。
「――俺はおっぱいが好きだ」
「「「「は?」」」」
一斉にそんな声上げなくてもいいだろう。
「皆が戸惑いを覚えるのも分かる。故に問おう、おっぱいとはなんだ! サタニア!」
「え、は? ええと、脂肪の塊?」
「流石、魔王軍屈指の実力者! 正解だ!」
「あ? あぁ?」
乳房とは人間だけでなく、哺乳類が所有する授乳器官である。しかし、俗にいうおっぱいと言うのならば話は別である。授乳器官だけでなく、性的アピールをするための部位(諸説あり)であるからこそ、無駄とも言えるほどに脂肪を貯めるのだ。そのため、脂肪の塊というのはなんら間違いでもなく、事実と言えよう。
その様な部位とは無縁の
しかし、俺の求める答えでは無い。
「では、ブルローネ。同じ事を問う。おっぱいとはなんだ?」
「性感帯……ですかね」
「やはり、
「それ、褒めてないですよね」
性感帯。そう、人の乳房はなぜか、性感帯なのである。外見に起因する性的アピールだけでなく、ただの授乳器官に性的な興奮作用を与えるという人の神秘。言うなれば、それは宇宙。コスモの輝きである。
乳繰り合う事が生き甲斐であるブルローネらしい答えだ。人と同じ様な体を持ち、そして淫行のみを追求、進化してきた淫魔だからこその観点である。
で、あるが、これもまた求める答えではなかった。
「では、同じくグラル」
「いや、あのですね、魔王様。この質問の意図が全く見えてこないのですが。それにそもそも、この様な老いぼれに乳房の話など、なにを期待しているのでしょう」
「バカを言うな、グラル。それでも三獄将の一人にして、戒燼のグラルと恐れられた男か。貴様がいかに
グラルを睨みつける。
「いえ、その様な事は決して。ですが、爺は何分、性欲を失ってから久しく、乳房に想いを馳せるなどという感情は失ってしまったが故」
「それで良い。俺は貴様の年長者としての意見が聞きたい。伊達や酔狂で何千年も生きている訳ではないだろう?」
グラルは考える様に俯いた後、一泊おいて口を開いた。
「大きさではないでしょうか……」
「ほう、続けろ」
「少し不思議に思っていたのです。大陸の人間共は大きさにこだわり過ぎるきらいがあると。好みはそれぞれでありましょうが、あそこまで極端なのは、爺が知る限り人間のみです。ですから、魔王様が求めるのは大きい胸であると。そして、ここに今後の方針があるのでは、と」
「良い意見だ。褒美にマグマ温泉のフリーパスをくれてやろう」
「は、有り難き幸せ……?」
グラルの言う事は俺の意見とほぼ一致していた。そう、概ねその通りである。ただ、俺もその巨乳派の人間と同じに見られている事は遺憾であるが。
この世界の人間は貧乳を『アーリナス』として迫害する。結果、この世界には巨乳のみが存在し、巨乳の女性のみが優遇されるという状況を生んでいるのだ。
そして、魔王になってから知った事だが、魔族には貧乳や巨乳という区別そのものがないらしい。大きいモノも居れば小さいモノも居る。分け隔てなく、皆総じておっぱいなのだ。
つまりは俺が目指すべきは魔界にあったのだ。
「おっぱいとは即ちおっぱいである。それ以上でもそれ以下でもない。故に、この世界は間違っている!」
世界統一はここから始まるのだ。
「見よ! この少女を! ただ胸が小さいというだけでなぜここまでの仕打ちを受けなければならない! 発育が良いのがそんなに偉いか! 故に、俺はここに宣言しよう!」
皆の顔を見る。それぞれ、思い思いの表情を浮かべている。楽しそうだと笑みを浮かべるモノ。これからに期待を膨らませるモノ。これで良いのか? と疑問を持つモノ。慣れぬ状況に困惑しているモノ。様々である。
しかし、立ち止まる事は許されない。アーリナスのために、この世界全てを敵に回そうではないか。
「世界を変革する! この世全てに存在する報われぬおっぱいの為に!」
――そう、これは貧乳の素晴らしさを世に伝えるために魔王になった男の物語だ。
「で、アヤトさま、ここはどこ……?」
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