【魔王軍①】

 魔界。魔族が住まう悪魔の巣窟。荒くれモノ共の楽園。

 この世界にある六大陸の1つ。


 そんな魔界の中心部にそそり立つ万魔殿パンデモニウム。その玉座の間に俺はいた。しかし、玉座には座らず、外の景色を眺めていた。雷鳴が轟き、まだ日が沈む時間ではないというのに真っ暗である。お世辞にもいい景色とは言い難い。


 魔王を倒し、新たなる魔王となった俺は魔王軍の最高幹部たちをこの宮殿へと集めていた。これからの魔王軍の方針についての会合である。


「まさか、アンタが魔王になるとはな」


 荷台に置かれたバカでかいフラスコの中から声が聞こえる。液状生物スライムである。毒々しい紫の液体が蠢ているのは何とも気味が悪い。

 彼はサタニア。三獄将の一人、《死煙のサタニア》。


「俺じゃ不服か?」

「ハッ、まさか最高じゃねぇか。オレはテメェみてぇな奴を待ってたんだ」


 サタニアは、どこか嫌味たらしく笑う。


「先代はザコだったからな。いつ寝首をかいてやろうかと思ったぜ」

「確かに、魔王という割には貴様ら程ではなかったな」


 サタニアは恐ろしく強い。なんせ、彼の攻撃全てが致死量の毒を含んでいるのである。攻撃を一撃でも受けたら終わりな上に、液体であるため、物理攻撃の類は一切効かない。……サタニアが入るぐらいの大きさのフラスコがちょうどよく落ちてなかったら負けていただろう。


「当然でございます。魔王さま」


 背後から寒気がしたと思うと、ほぼ全裸に近い女性が現れた。燃える様な赤い長髪に、淫靡でグラマラスな四肢。そして、何より弾力のある柔らかいおっぱい。レーヴルのおっぱいとは違う、下品に露出しリビドーを感じさせる形。点数をつけるならば百点満点中百万点ぐらいの豊満なバストである。


「なんだ、貴様も居たのか」

「ワタシは貴様ではなく、ブルローネですよ。ま・お・う・さ・ま」


 ブルローネは指で俺の体を、舐め回す様に這わせる。吐息が耳にあたり、くすぐったい。腕におっぱいが当たる。バラを思わせるイイ匂いがする。頭がクラクラして――。


「だがしかし、貴様がそう来るのは予想済みだ!」

「あっ、汚い!」


 俺は懐に忍ばせていた、対淫魔用人形『ふぜんくん』を見せつける。

 サキュバスであり、俺が勇者であった頃から付きまとっていたブルローネの対策を用意しておかない俺ではないのだ。『ふぜんくん』さえあればどれだけ催淫されようとも魅了されずに済む。

 というか、ブルローネ級のサキュバスだと、これがないと周囲に精液撒き散らしながら死ぬ。魔王がテクノブレイクで死ぬ。威厳も何もあったもんじゃない。

 さすが三獄将の一人、《百色遊戯のブルローネ》である。


「ふふ、お前の相手なんて死んでもごめんだ」

「その割に下は……」


 ブルローネの視線が俺の下腹部に行ったような気がするが、まぁそんな事はないだろう。魔王の威厳は保たれてるはず。


「おほんッ」


 咳払い。先程まで静観していた魔王軍の重鎮であるグラルである。三獄将の一人、《戒燼のグラル》。老執事にしか見えない、長い白ヒゲが特徴的な男だ。現在は人の姿をしているが真なる姿は竜であり、山ほどに巨大な姿となる。勇者時代でもどうすれば倒せるのか、ずっと考え、考え抜いた結果、先に魔王を倒すことにしたほどである。

 グラルは周囲を睨めつけ、重々しく口を開いた。


「戯れはそこまでにしましょう、魔王様。その様な特殊なプレイを見せつける為に呼んだのではないのでしょう?」


 プレイとか言うな。


「当然だ。これはブルローネの戯れに付き合ったに過ぎない。貴様ら、三獄将を呼んだのは他でもない――」


 頭の中におっぱいのイメージを浮かべる。例えばそう、そこに柔らかでありながらも慎まやかな双丘があったとしよう。それは布に隠れており、前からでは膨らみしか見る事出来ない。しかし、横からならどうだろうか。布が、持ち上がって横からなら見る事が出来るとしたら? 

 イメージを脳内にかけ巡らせ、指をパチリとならした。魔王から奪い取った力は正常に使えているようで、呼び寄せようとしていた彼女を召喚することができた。瞬間移動というやつだ。便利。


「この少女とこれからの方針を話すためだ」


 アーリナスの少女が玉座に座っていた。

 





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