【アーリナス②】

 その町の名は『アウルス』

『アーリナス』と呼ばれた人種のみが暮らす秘境の町。世界から隔絶された小さき町。


「…………」

 

 思わず、絶句してしまう。


 その町の人々は、皆やせ細り、ロクなご飯も食えてはいない様に見える。建物は寂れ、まるで廃墟と間違えてしまう程である。それに植物がまるでなく、辺りに水源らしきものもない。

 ――人が住める環境じゃない。


「あ、あの、食べ物をくれませんか」


 アーリナスの少女は言う。髪はボサボサで、顔も汚れてしまっている。皮と骨しかない程に痩せ、服はボロボロで、もはや服とは言い難く、乳房さえ見えている。

 貧乳とは言った。確かに俺は貧乳とは言ったが、これは貧どころではない。というか、全体的に乏しすぎる。そうではないだろう。


「てめぇ、なにアヤトに触れてんだよ!」


 普段は温厚であるフォルネスが、突然怒り、アーリナスの少女を足蹴にする。

 女性を最優先に考え、常に女性を守るために行動するフォルネスが、女性を足蹴にした事に戸惑いを覚える。

 まるで人が変わってしまった様に。


「ねぇ、勇者さま? やはり、帰りませんか。ここに居たら病気になってしまいます。それに、なにか匂いますわ」


 レーヴルは明らかな嫌悪感を醸し出していた。少女にまるで害虫を見るような眼で見ている。魔族にすら、手を差し伸べようとしていたあの優しき神官の姿はそこにはない。


「……2人は先に帰っててくれ。俺はこの町で2泊する」

「おい、アヤト、正気か? ここの連中は人間じゃない。魔族、いや、家畜にも劣る畜生だぜ」

「そうですわ、こんな不潔で、野蛮な所。一晩も居れば、どうなるかわかりません」


 2人は言う。俺の為に言っているのだろうが、今の俺にはそれがどうしても単なる罵声にしか聞こえない。2人が人間ではなく、人の皮を被った化けものに見えてくる。


「いいから! 帰れ!」


 思わず、怒鳴ってしまう。煮えたぎる様な感情を抑えこむの精一杯だった。


「分かった、分かった。じゃあ、デールの町に戻ってるからな」

「あまり、長居しないでくださいね」


 そう言うと二人は早歩きで、アウルスから出ていく。


「あぁ、吐き気がする」


 ――後に知った事であるが、この世界では貧乳に生まれた者は『アーリナス』と呼ばれ、強制的に『アウルス』の町に連れて行かれるのだという。


――回想終了。

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