第13章

第十三章「老女」


 気がつくと僕は森の中にいた。白昼夢は以前にも経験している。ここは、前にも来た。赤いリボンを付けた女の子にあったあの森だ。今度も同じように、僕は人間の子供の姿をしている。

 ふと目の前に老女が立っていた。あの女の子の未来の姿であることは、髪に付けた赤いリボンでわかった。

「またペットを探しているのかい?」、僕は挨拶もせずに、いきなり彼女に聞いた。

「いいえ、私がペットになったのよ。でも、もうすぐです私は消えるの。だから、飼い主から離れたの」

 よく見ると、彼女は首輪をしていた。

「どうして?」

「だって、亡き骸を見られるのは恥ずかしいもの」

「死んだ後、意識は無くなるんだから、恥ずかしいも何もないんじゃない」

 彼女は返事もなく、首輪を外し、僕に差し出した。

「僕は首輪は付けないんだ」

「まさか、自由でいたいから。なんて言うんじゃないでしょうね」

「ダメかい?」

「この世界にある魂の数は決まっているの。世界が生まれた時に、あなたの魂は生まれ、その時からあなたは生命の束縛の中にいるの。いくらもがいたって、肉体は縛りつけられてるのよ」

 彼女は怒った顔をした後、意地悪な笑顔を見せた。

「自由にはなれないってこと?」

「一つだけ方法があるわ」

 そして、右手の人差し指を僕の鼻先に突き出した。

「それは?」

「心の中に宇宙を作るのよ」

 そう言うと、同時に回れ右をして僕から離れて言った。

「どうやるの?」

「私は知らないわ」

彼女の声は段々遠ざかって、その姿は森の中に消えていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る