第12話
(12)
音楽や歌が「恥ずかしい物」になってしまったのには理由がありました。21世紀初頭より、日本を代表する先進国の一部の国では少子化へと向かって行きましたが、それを劇的に食い止めたのが音楽であり、歌でした。
関川と保倉川が合流するところで、カップルがいちゃいちゃしています。どんな会話をしているか聞いてみましょう。
I love you
今だけは悲しい歌
聴きたくないよ
I love you
逃れ逃れ 辿り着いた
この 部屋
尾崎豊「 I Love You」
二人で小さな声で歌っては、笑いを堪えています。女の子がプッと吹き出して、二人で笑って歌が終わります。
愛してるの響きだけで
強くなれる気がしたよ
ささやかな喜びを
潰れるほど抱きしめて
スピッツ 「チェリー」
今度は女の子が歌い始めて、男の子が笑い出します。歌と笑い声が止まったと思ったらそれはきっと二人がキスをしているからだと思います。
この時代、歌は、タブーになっていました。
古来、日本人は和歌を詠みあって自分の気持ちを伝えて来ました。日本特有の短歌や俳句と言う文章表現はこうして文化になって行ったのですが、膨大なラブソング達も同じ運命を辿って行きました。消費されて人々の心に刻まれた歌や歌詞は、この時代には人目を憚りながら個人で楽しむとてもプライベートな文化になっていました。人の心から歌を消し去るなんて誰にも出来ない事だったのでしょう。
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