Five nights lovers

タルト生地

第1話



「なぁあの噂知ってるか?」


 月曜の朝。爽やかな空気とうらはらに誰もが憂鬱な雰囲気の教室で、日宮ひのみや金崎かねさき、岩村の3人は駄弁っていた。

 野球部で喋り好きな日宮が、謎の噂の話を始める。


「あ、もしかして清塚さんの事?」


「そうそれ」


 金崎は知っているようだった。俺たちの中では優等生な方で、抜群でないにしろ3人では1番の成績優秀者だ。


「清塚って清塚加奈? 隣のクラスの?」


「そうそう、その子の噂。岩村知らねーの?」


 清塚加奈。隣のクラスの女子だという事はなんとなく知っているがそれだけだ。詳しいことは何も知らない。噂とは何なんだろう。


「じゃあ聞いたらビビるだろうな」


「そうだね」


「なんだよ。教えろよ」


「わかったわかった、教えてやるよ」


 2人がヘラヘラ笑いながら少し小馬鹿にしたように話す。



 噂とはこうだ。

 清塚加奈は誰とでも付き合う。

 年上年下、顔も成績も関係なく誰とでも付き合うのだ。

 月曜の朝、最初に告白してきた人間と。


 ただし5日間だけ。

 月曜の朝に付き合いはじめて、金曜の夜には別れる。

 それを毎週繰り返してるらしい。


「つーことは、今から告白してたら付き合えるってこと?」


「そういうこと。ちょっと行ってこいよ岩村ー」


「えー。でもちょっと興味あるな、それ」


 半信半疑。彼女が欲しいとか付き合いたいといつよりは、噂を確かめようという気持ちで

 彼女を探しに行った。


 隣のクラスに行き「清塚さんはどの人か」と聞くと、何かを察したように教室の端の窓際の席に案内された。


 はじめに頭に浮かんだ言葉は【意外】だった。


 金髪か茶髪に派手めなメイク。そこここにアクセサリーをつけてて……みたいなのを想像していた。

 そこにいたのはあまりにも普通の子。

 長めの綺麗な黒髪。派手なネイルもしていない。


「あの、清塚……さん?」


「……ん? えっと、誰?」


「あ、俺隣のクラスの岩村」


 可愛い声だった。

 細めだが透き通るような、せせらぎのような声だ。

 初めて顔をしっかりと見る。

 なるほど、可愛い。目はぱっちりとして肌は白く、これは男を取っ替え引っ替えしてると言われてもある意味納得かもしれない。


「岩村くん? 私に何か用?」


「あ、その、ちょっと聞きたいことがあって」


 ここでふと思ったが、俺はすごく失礼なことを聞こうとしている。

 そもそも友達から話を聞いたってだけで、ほぼ初対面の女の子に「君って誰とでも付き合うんでしょ? 俺と付き合ってよ」なんて頭がおかしいとしか思えない。

 何かを察したように感じたのも気のせいなのでは? 今頃奴らは教室で俺をバカにして笑ってるかもしれない。危なかった。騙されるところだった。セーフ。


「あの……聞きたいことって?」


「あっ、えーっと……」


 あまり女の子に慣れていない俺の目の前に可愛い顔がある。

 この子と付き合えるかも。

 一度動き始めた感情はそう簡単に止まってはくれなかった。

 欲望が漏れ出し始める。


「その、告白したら、付き合ってくれるって本当?」


 ある意味告白より遥かに心臓が跳ねた。

 胃が裏返るような感覚がした。


 そして彼女はなんの気なく答えた。


「ほんとだよ。今日最初に告白してきた人と金曜日まで付き合う」


「うぇっ! ほ、本当なんだ……」


「それが、何?」


 何、じゃないだろう。今すごいことを言っているんだぞ君は。裏返ったような変な声が出てしまって、少し恥ずかしかった。

 いやとりあえず綺麗事は後だ。


「それじゃ、その、今日はまだ?」


「うん。まだ誰も」


「じゃあ、俺と付き合ってくれる?」


「いいよ」


 日本で1番淡々とした愛の告白だったんじゃないだろうか。

 口では軽く話していたが俺の心臓は人生で1番働いていたような気がする。目の前にいた彼女には、顔の熱が伝わってしまったんじゃないかと少し不安になった。

 一体ここからどうなっていくのだろう。さっぱりわからない。


「じゃあとりあえず連絡先交換しよ」


 彼女が慣れた様子で進める。恋人同士の会話、というよりも事務手続きのようだ。

 引っ張られるように連絡先を交換する。


「……はい。これでオッケー。よろしくね。えーっと……」


「岩村。岩村結樹」


「じゃあ結樹でいいかな? 私のことは清塚でも加奈でもかなちんでも好きに呼んで」


「じゃあ加奈、で」


 かなちんってなんだと思ったがまぁあだ名だろう。いきなりあだ名というのは気が引けた。


 キーンコーン……


「1限始まるからまたね。また後で連絡する。」


「あ、ああ。俺も自分のクラスに戻らないと」


「ふふふ。ほら、遅刻になっちゃうよ」


 いつでも忌々しい始業のチャイムが今は特に忌々しい。

 まさかこの10分ほどの間に俺に彼女ができるなんて、登校した時は日宮も金崎も全く思ってなかっただろう。

 もちろん俺自身もだ。



 放課後は奴らに質問攻めにされた。

 何て聞いたんだだの、どう告白したんだだの、顔は、胸は、などなど……

 自分の彼女という実感が薄いからか、自慢げになっているから惚気たくて答えたのかわからないが、とにかく不思議と嫌な気はしなかった。


「いいなー。来週俺と告白しようっと」


「おい! 一応人の彼女なんだぞー?」


「悪い悪い。でも金曜までなんだからいいじゃん」


「そ、それもわかんないだろ! もしかしたらお互い気に入って……」


「いやそれはないよ、岩村。日宮はよく知ってると思うけど」


「そうそう。噂の元は野球部ウチの高嶺だぞ? あいつも試しに月曜に付き合って金曜日にはフラれたらしいぜ」


 高嶺というのは同じクラスの野球部。高身長イケメンでおまけに性格もいい。その高嶺が5日でフラれたんだから他の奴じゃ無理ってもんだ。


「それでもちょっとくらい夢見させてくれよー。まぁとりあえずまたなんかあったら報告するわ。そろそろ帰らねーとな」


 随分長々だべってしまった。俺はなんとなく時間が惜しくなっていた。



『今、時間いいかな?』

『大丈夫だよ。どうしたの?』


 家に帰って、何を話していいかわからないがとりあえず連絡してみた。


『いやなんか話したいなって思って 笑』

『おや、彼氏ぽいね 笑』

『そうかな笑 今何してた?』

『別に何も。ちょっと街中ブラついてさっき家に帰ったところ。』

『そうなんだ。何しに行ったの?』

『新しくできたカフェが気になってね。行くだけ行ってみたんだけど混んでてやめちゃった。』


 これは、チャンスなのか?


『そのお店、明日放課後一緒に行こうよ。』

『おーいいよ。行こう行こう。』

『やった笑 じゃあ学校終わったら連絡する。』

『はーい。』


 デートの約束は取り付けたが、話すネタがなくなってしまった……

 今日はこれくらいでいいかもしれない。


『じゃあまた明日。』

『またねー。』


 気分が落ち着かない。内臓が無重力になっているようだ。風呂に入るときも、食事の時もふわふわとしっぱなしで落ち着かなかった。

 明日はカフェデートだ。



 次の日の放課後、日宮たちにデートの事を言うと、根掘り葉掘り聞かれそうだったので

 黙って静かに学校を出て事後報告することにした。


 待ち合わせ場所に行くと既に彼女が待っているのが見えた。すぐに駆け寄る。


「ごめん! 待った?」


「いや全然。ちょっと心の準備したかったから早めに来ただけ」


「そっか、じゃあ行こうか」


 まずは目的のカフェに向かった。それなりに人はいたが入れないほどではなく、それぞれミルクティーとコーヒーを注文した。ちなみに俺がミルクティーで彼女がコーヒーだ。

 飲みながら学校の事だったり、趣味の話だったり、好きな食べ物だったり他愛もない話をした。

 その後は特に予定もなかったが、加奈が欲しい本があると言ったので本屋に寄り、加奈は文庫本を数冊、俺はマンガを買った。


「このマンガ面白いよ。両親が殺された主人公が犯罪者たちを倒して行くんだ」


「へぇー。なんか怖そう」


「確かにちょっと絵が怖い感じだけど……中容はめちゃめちゃかっこいいんだ」


「そーなんだ。それ、買うの?」


「いやこれはもう持ってる。それに欲しいものはもう買ったしね」


「そっかそっか。それじゃあ私も買えたからそろそろ行こっか」


 外に出るとすっかり街は暗くなっていた。


「暗くなっちゃったね、そろそろ帰ろっか」


「そうだね、そろそろ帰った方がいいかもしれない」


「じゃあまた明日ね、結樹」


「あ、ちょっと待って。送ってくよ」


 なんとなく、もう少し一緒に居たかった。

 夜1人で歩かせるのがちょっと心配になったのもあるがそれよりも一緒に居たいと言う思いがあったような気がした。


「え、いいの?」


「もちろん。もうちょっと話してたいし」


「ふーん。じゃあ、お願いしようかな」


 それから加奈の家まで大した時間はなかった。その間のおしゃべりも大した内容はなかった。

 それでもなんだか、俺の心には大きい時間だった。

 夜風に髪が揺れて彼女の香りが鼻をくすぐる度、俺の冗談でたまに静かに笑う横顔を見る度に、少しずつ、でも確かに俺は彼女に本気になって行くのを感じた。この子を支えたいとか自分だけのものにしたいとかそんな強い感情じゃなくて、もう少しだけもう少しだけ一緒に居たいと思うようになっていった。


 そうは言っても時間は来る。彼女家の前まで着いてしまった。


「今日は楽しかったよ。家までわざわざありがとう。嬉しかった」


「あぁ、いやその、俺も楽しかった」


 いろんな感情が混ざってうまく話せない。


「じゃあ、また明日ね」


 ガチャン



 玄関のドアが閉まる。今日が終わってしまった。

 あと、3日だ。



 水曜日の放課後もあまり変わらない時間を過ごした。

 違うことといえば今日はマンガの話はしなかった。

 日宮にやめた方がいいと言われたからだ。多分女の子は興味ないから退屈だろうって。金崎はどうせ明後日には別れるんだからあまり気にしないでいいとも言っていたが。

 そんな理由で本屋に寄らなかった代わりに雑貨屋に寄った。

 確かにマンガの話をした時よりもアクセサリーを眺めている今の加奈の方がいきいきとしている。



「あ、見て見て結樹。これ可愛いねー」


 そう言って星の揺れるイヤリングをつつく。チラチラと光って、胸の内側をくすぐる。


 彼女がそれを耳にあて、鏡を見て、それからこっちを向いた。


「どう? 似合うかな? 可愛い?」


 頭に衝撃が走った。からかっているのだろうか。


「えっ、ああ、可愛い。すっげぇ可愛いよ」


「えー、今の間は何よー」


「いやほんとに! その、めちゃくちゃ可愛い」


 しまった。即答できたらよかった。


「うーん。買っちゃおうかな」


 せっかく彼氏が褒めてくれたんだしね、と付け加えてレジへ持って行った。

 会計をする彼女の後ろ姿を少し離れて眺めながら、彼氏という扱いを受けると胸が詰まるのを感じていた。嬉しいはずなのに。喜ぶべきはずなのに。付き合ってきた相手みんなにしているんだろう表情や言葉が苦しかった。


 またその後は昨日と同じ。彼女を家まで送るため一緒に歩く。

 街の賑わいと灯りがだんだんと遠ざかり、静かにそして暗くなっていく。

 くすんだ街灯と少し欠けた月が2人を照らしていた。

 とりとめのない話が途切れなんとなく黙って歩いていた時、彼女がふと口を開いた。


「あと2日だね」


 心臓が細い糸で締められたようだった。

 そう。あと2日。俺たちはあと2日しかない。

 そうだね、と一言絞り出すのに随分と体力を使った。

 正直、俺は完全に加奈に惚れていた。もっと距離を縮めて、もっと一緒に居たいと思ってしまっていた。

 叶わぬことだろうのに。


「まぁ、楽しもうね」


 そう彼女が言ってからはまたしばらく黙って歩いた。

 俺はなんとかもう少し関係を進めたいと思ったが、俺の右手から彼女の左手までの数センチがあまりに遠く思えた。


 そうしている間に彼女の家にたどり着いた。


「じゃあ、またね」


「うん、また明日」


 ガシャリ


 あと2日。

 夜が明けなければな、なんて思った。



 木曜の放課後もミルクティーとコーヒーのおしゃべりから始まり、近くの気になる店をぐるりと巡った。

 他にあまり行きたいところもなかったので、まだ空は紫がかったような色だったが帰路に着いた。

 このまま今日は終わってしまうのか、そう思っていた。

 そんな時だった。


「ねぇ。近くの公園でもう少し話さない?」


 もちろん二つ返事で承諾した。何より彼女からもう少し話したいと言われたのが嬉しかった。同時にいずれ失うことも想像して気分が沈んだ。


 街灯の灯りがギリギリ届くベンチに腰掛けて、どちらからともなく話し始めた。

 いろいろと話したが、やはり話題は行き着いてしまう。


「……あと1日か」


「うん。あと1日。明日の夜でおしまい」


 霞を握りしめるような思いだった。

 この際だから彼女にいくつか聞いてみることにした。


「あのさ、加奈は何でこんなこと始めたの?」


「ああ、それ、聞くんだね」


 加奈が憂いを帯びた表情でふふっと笑う。


「まっすぐ聞いてきたのは結樹が初めてかも」


 嫌だったらいい、という一瞬前に彼女が話し始めた。


「私ね、好きな人がいたの。中学生だったかな、小学生だったかも。ほんとに大好きだったんだ。それでね、ある日伝えたんだ。好きだって。そしたらその人、付き合ってくれた。それでどのくらい続いたと思う?」


「うーん。中学生だし3ヶ月くらいかな」


「ううんもっと全然短い。答えはね、5日。5日間一緒に過ごして、イメージと違うし面白くないから別れようって。5日間じゃ何にもわからないじゃん、って言ったらそんなことないんだって。5日間で大体わかっちゃうんだってさ。ひどいよねー。ずっと好きだったのに5日でフるなんて」


 俺は無言で相槌を打つことしかできなかった。

 彼女は話し続ける。


「でもね、そんなに間違ってなかった。確かに5日一緒に居たら合うか合わないかくらいわかっちゃうよね。それからは付き合って5日でイマイチ合わなかったらすぐ別れた。それを繰り返していくうちにいつの間にか変なルールがって感じかな」


「……そうなのか。ごめん、嫌なこと思い出させちゃったな」


「ううん。もう昔の話だし」


 軽く笑い流したようだったが、いつもと様子が違うのは明らかだった。

 そして俺は最も聞きたくて聞きたくない事も聞いてみることにした。


「俺は、どうかな?」


「どうかなって?」


「その、5日間見て、合いそうかな……?」


 一瞬だけ間が空いてようやく彼女が口を開き、まだわからないけど、と前置きをして話し始めた。


「家まで送ってくれたり、可愛いって言ってくれたり……一緒に居て結構楽しい。今までの人は付き合うって言ってもほんとに彼女みたいに接してくれたりはしなかったから」


 少し緊張が解ける。


「でもいきなり変なマンガの話したり、2人きりの時に手繋がなかったり、何より……」


 加奈が黙る。


「いや、これは言わないでおくね」


 リアクションを取る暇もなく続ける。


「あと1日。あと1日あるから……明日、頑張ってよ」


 そしてまたね、と言うと立ち上がって家に向かった。ほんの10メートル。頭の中は彼女の言わなかったことでいっぱいだった。


 あと1日。




 金曜日の学校は普段の10倍は長く感じた。

 俺は加奈の残した疑問が解けないでいた。

 一体なんだろう。結局授業に集中できないまま1日を終えて、放課後を迎えた。

 いつもの待ち合わせ場所に向かおうとする俺を携帯電話に届いたメッセージが引き止めた。


『今日の夜でおしまいだね。先に家に帰ってる。来週からはもう気にしなくていいよ。』


 加奈からだった。なんとなく空虚な感覚にまとわりつかれた。


「おーす、岩村。どうだった、清塚さんは」


「あぁ、うん。いい子だったよ」


「そっかー。来週が楽しみだわー」


「よく友達の彼女と別れてすぐ付き合う話ができるなお前。岩村今日の夜まではまだ付き合ってんだぞ?」


「そうだよ日宮。あと6時間は待ってくれよー」


「悪りぃ悪りぃ。まぁでも諦めてさ、ファミレスで岩村失恋慰め会でもやろうぜ。今日の 俺部活休みなんだ」


「お、いいね。5日間どんな感じだったのか俺も聞きたいし」



 そうだな、と言いたい気分だった。

 諦めて、笑い話にしようと。

 高校時代の変わった思い出の1つにしてしまおうと思った。


 それでも


 それでもやっぱり動き始めていた感情は簡単に止まってはくれない。


「悪い。俺今日はパスで。慰め会は来週にでも開いてくれよ」


 そう言って教室を出た。戸惑ったような彼らの声が聞こえたが心の中で謝って振り切った。

 そのまま俺はすぐに校舎を抜け、校門をくぐって彼女の家まで走り始めていた。暗くなり始めた空も俺を焦らせた。

 何を言ったらいいのか、彼女の欲しかった物はなんなのか、何も考えられなかったがそれでも走った。


 ただ1つ、このまま終われない。終わらせたくないという想いが足を動かしていた。



 どう進んだのか、どれくらい走ったのかわからない。

 彼女の家への道の途中、すでに日が沈んだ時にやっと追いついた。

 驚いて振り返る彼女に少し息を整えてから俺は夢中で湧いてくる気持ちを伝えた。


「俺は2人きりで手を繋ぐのもためらうくらいヘタレだし! コーヒーは苦手で、女の子の気持ち汲むのもうまくねぇけど! この何日かお前と一緒に過ごして、もっと一緒に居たいと思ったんだ!」


 うまく言葉がまとまらない。それでも続けた。


「俺は正直、お前の事をあんまり知らない! それでも一緒に話したこととか、言った場所とか、笑いかけてくれたこととかがめちゃくちゃ大事で! お前から見たら俺は勘違いしてる痛い奴なのかもしれないけど、俺から見たらお前はもう大事な人なんだよ!だから、だから今日で終わりじゃなくて、これからもずっと俺と付き合ってくれないか!」


 つっかえてた物を出し尽くした感じだった。

 随分な勘違いヤローなのかもしれないが、それでもこのまま自然と終わってしまうよりは良かった。


 彼女の目が丸くなっていた。

 少し落ち着いて、それからこう言った。


「女の子にお前なんて言うなんて。それに告白なら、何より大事なこと、聞いてないよ私」


 そういうことか。

 ある意味俺がずっと考えていたことだ。

 そして何より大事なことだ。

 深呼吸をして加奈の目を見た。



「清塚加奈さん、好きです。俺と付き合ってください」


「ふふふ、やっと言ってくれたー。ありがとう」


 変な感じだった。好きだとちゃんと伝えていなかったことに別れる何時間か前に気づいて告白するなんて。


「それじゃあ、信じてみようかなぁその言葉。5日間見て結樹とは合いそうだし」


「ってことは……いいの?」


「うん。これからもよろしくね」


 天にも昇る心地とはこういう事を言うんだろうと始めて実感した。


 夜景も花束もサプライズもない、世界で1番地味な愛の告白は5日目の夜を超えた。




 今週もまた、気だるい雰囲気の朝の教室で俺は質問責めにあっていた。


「お、お前何があったんだよ…?」


「日宮朝イチで申し込んで、彼氏がいるからってフられたらしいぞ。なんかあったんだろ岩村」


「うーん。まぁいろいろ?」


「なんだよそれ! 今日放課後じっくり聞くからな!」


「お、じゃあ日宮失恋慰め会と岩村質問会兼ねてファミレス行くか」


「俺は別に失恋したわけじゃねーよ!」


「わかったわかった。あとでゆっくり聞いてやるって」


 賑やかな俺たちに周りの奴らも集まってきた。きっと今日の放課後は久しぶりの男だらけだ。


『今日放課後友達と飯食いに行くよ』

『そっか、行ってらっしゃい。じゃあその間に課題済ませとくから終わったらいつもの場所で!』

『了解。じゃあまた放課後に!』



「あれ? 加奈そんなイヤリング持ってた?」


「ううん、この前買ったの。可愛いでしょ?」


「うん、可愛い。気に入ってんだねそれ」


「まぁねー。結構お気に入り」

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