第31話 ヒロインだって出会い方は選びたい

「今日は兄貴に会ってもらいたい人がいるんだよね・・・」

「ほう・・・」


とある日曜の昼、妹から相談があると呼び出され、今俺はとある路地にある。

ただのモブキャラである俺の妹なのだから、もちろんこいつもモブキャラだ。

中学三年生で、顔、身長、体型全てが平均的だ。

髪も特にこれといって長いわけでも短いわけでもない。

本当に全国の女子中学生の平均を人間にしたような妹だ。

特に仲が良いいわけでも悪いわけでもない、普通の兄弟である。

そんな妹からの呼び出し、会ってもらいたい人がいる・・・この会話の流れだと、「もしかしたら俺のことが気になっている友達を紹介してくれるのでは?」と少し期待してしまう。

顔がニヤついてしまうのを必死で抑えつつ、あくまで大人な対応をすることを意識しなければ。

「一体どんな人なんだい?妹よ・・・」

「ええっとね・・・まぁとりあえず会ってもらったほうが早いかな・・・出てきていいよー」

そう妹が呼びかけると路地の曲がり角から1人の少女がやってきた。



「ハジメマシテ、ワタシハロシアカラキマシタ『アナスタシア』トイイマス。ライシュウカラアコッチノガッコウニテンコウシマス、ヨロシクデス」

その少女は肌と髪がまっ白い雪のようだった。

身長は155センチほどだろうか、顔つきも整っておりとてつもない美人だ。

何より特筆すべきはその胸の大きさだ。

とてつもないデカさだ、隣りに立つ妹が不憫でしかない。

そんな想像以上の美人の登場により

「は、はい!これはどうも!いつも自分は園他 茂部雄っていいます!よろしオナシャアアアアアアアアッス!」

大人な対応は完全に失敗してしまった。


だが一体こんな美人が俺みたいなモブ男に何の用だろうか。

いや・・・もしかして・・・ワンチャンがあるのか?

俺のような平凡な男にもしかして転機が巡ってきたのか!?

いやいやいや・・・冷静になれ・・・そんなうまい話があるわけない・・・でも・・・

頭ではありえないと分かっているのだが、心の奥底では期待してしまう自分がいる。

そんな心の中で葛藤していると妹が話を切り出してきた。


「この子今言った通り来週からうちの中学に転校する予定で、わけあって最近知り合ったの。で、兄貴が主人高校にいるって言ったらどうしても会いたいって・・・」

「へ、へぇ・・・な、なんでまた・・・」

「それはね・・・ほら自分で言いなよ・・・」

妹が隣りにいるアナスタシアさんをせかすようにひじでつっつく。

「ハ、ハイ・・・」

アナスタシアさんは恥ずかしそうにモジモジしている。

これは・・・もしかして・・・人生の春が来たのでは・・・!?

そしてアナスタシアさんから出た言葉は



「ワタシニ、伊織オニイチャントノデアイカタヲオシエテクダサイ!」

「えっ・・・?」

現実はそう甘くなかった。




「えっと・・・つまり数年ぶりに会う伊織に成長した自分をアピールできる出会い方を教えて欲しいと・・・」

「ソウデス!オネガイシマス!」

「まぁ・・・そうだよね・・・うん・・・」

「なんで兄貴少しガッカリしてるの?」

まぁそりゃそんなうまい話あるわけないよな・・・

だが俺も男だし多少は期待してしまうのも仕方ないさ・・・うん・・・


さて、事情は理解したわけだし気持ちを切り替えてこの子の相談に答えなければ。

「というか・・・今度来る予定のヒロインってアナスタシアさんのことだったのか」

以前ヒロイン同士で会議した際、議題に挙がった設定てんこ盛りの新ヒロインがこの子だったとは。

というか、こんだけ特徴を持っているのだから嫌でも印象に残るのではないだろうか。

「あのー・・・わざわざ俺にそんな相談しなくてもそのまま普通に会ってもいいんじゃあ・・・」

「だめよ!そんなの!」

予想外なことに、反論してきたのは妹であった。

「憧れの人との久しぶりに出会いなんだよ!?これ以上ないくらいロマンティックにしなきゃ!」

「モブミチャン・・・アリガトウデス!」

「はぁ・・・」

妹はまだ中学生であることや、自身がモブキャラであることをあまりよくわかっていないことが相俟ってか少しロマンティストだ。

いや、妹に限らず女性というのはこういうものなのだろうか。

しかし・・・運命的な出会い方なんて何をすればいいのか皆目検討もつかない。

「うーん・・・ありがちなのは曲がり角でぶつかるとかだけどな・・・」

「それじゃありがちすぎるよ・・・もっとアナスタシアちゃんらしさを出さなきゃ・・・」

「アナスタシアさんらしさねぇ・・・」

そんなこと言われても会って5分しか立っていない女性の良さなどわかるはずもない。

ほぼ初対面でもわかることといえば・・・

「おっぱ・・・ロシア人らしさ・・とか?」

もっと先に思いついたことがあるが、妹に引かれそうなので言うのをやめた。

「ロシア人らしさ・・・そうだ!」

「何か思いついたのか?」

「うん!」

苦し紛れで出した適当な意見だったがどうやらヒントにはなったようだ。

「でもぶっつけ本番は流石に怖いし・・・兄貴、一回シミュレーションしてみてもいい?兄貴が伊織君役で!」

「俺が?」

「うん!私じゃあ身長が違うし、一般的な男子高校生の身長の兄貴なら実験台としては最適なの!お願い!」

「オネガイシマス!」

「うーん・・・まぁ仕方ないか」

「ホント!?ありがとう!」

二人にこれだけ頼まれて断るわけにもいかない。

それに・・・もしかしたら多少のラッキースケベなどが期待できるかもしれない。

そんな妄想をしていると二人がひそひそと耳打ちしながら話し合いをしていた。

「ハイ・・・ナルホド・・・」

「そう・・・曲がったら・・・うん・・・それで・・・よし!」

どうやら作戦会議は終わったようだ。

「それじゃあ兄貴はそこの曲がり角を小走りで曲がってきて」

そう指差されたのは近くの路地の曲がり角だ。

「それだけでいいのか?」

曲がり角でぶつかるだけではインパクトがないと先ほど言われたばかりな気がするが・・・

「うん!いいの!合図したらこっちに来るだけでいいから!」

「・・・まぁ・・・わかった」

一体どんなプランなのだろうか。

少々の不安があるがまぁいい、俺は言われた通り曲がり角に向かい合図を待つ。

1分ほど待っただろうか、曲がり角の向こうから妹の声が聞こえてきた。

「オッケー、いいよ!こっちに来てー」

向こうの準備が終わったようだ。

俺は小走りで曲がり角曲がる。

曲がり角の向こう側の景色が見えかけたタイミングで目の前にアナスタシアさんが現れ、ぶつかると思ったその時だった。


アナスタシアさんはするりと俺の横を通り抜け背後に立つ。

「なっ何ぃ!?」

予想外の動きに戸惑う。

そしてアナスタシアさんはそのまま背後から両足を内側から引っ掛け、両手をチキンウイングで絞り上げる関節技を仕掛ける!そうこれは!

「パロ・スペシャルデス!コーホーー」

ロシアが生んだファイティングコンピューター、ウォー○マンの必殺技である!

「なんでだああああああああああああああああああ!痛い痛い痛い痛い痛い!もうやめて!お願いだから!」

俺も必死で抵抗するが全く技から抜け出すことができない、完璧な技であった。


「なんで曲がり角でパロ・スペシャル仕掛けた!?」

涙目で必死に懇願することでようやく技を外してくれた。

ラッキースケベなど期待した俺がバカだった。

「いやだってアナスタシアちゃんロシア出身だって言うし・・・突然女の子からロシア出身のウォーズ○ンの必殺技、パロ・スペシャル仕掛けられれば一生心に残るかなって思って・・・」

「一生トラウマになるわそんな出会い!」

少なくとも俺はもうトラウマになっている。

「というかよくアナスタシアちゃんもパロ・スペシャルなんて仕掛けられたね!?」

「ア、ワタシ超人強度100万パワーアルンデス!」

「もうこれ以上設定追加すんのやめてくんない!?」

それだけ超人強度が高ければ超人オリンピックで優勝だってできそうだ。

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