第26話 魔法少女だって就職活動ぐらいする4
「深夜魔法少女?」
なぎさ姉さんが深刻な表情のまま放ったその単語は聞いたことのないものであった。
そもそも魔法少女とはなんとなくだが朝とか明るい時間帯のイメージがある。
それとは間逆の深夜の魔法少女とは一体なんなのだろうか。
「どんな魔法少女なんですか?」
めぐむちゃんが恐る恐る聞く。
「深夜魔法少女っていうのはね・・・業務内容と雇用体系がとても魔法少女とは思えないくらいクッソ重くて暗いブラック企業のような魔法少女よ」
なぎさ姉さんは重苦しい口調で言った。
「た、例えばどんなことをするんですか?」
「新しい友達ができてもう何も怖くないと思ったら怪物に首丸ごと食われたり、やっと魔法少女になれたと思ったら友達にボーイフレンド寝取られて闇堕ちしたり、闇落ちした友達救うために自分の命を犠牲にして自爆特攻したり、親友を救うために何度もタイムリープして何度も友達が死んでいく様を見たり、魔法少女になった瞬間円環の理になったりするわ」
「どう聞いても魔法少女のやるようなことじゃないんですけど!!そこらへんの深夜アニメよりもよっぽど設定が重いじゃないですか!」
「ひ・・・ひどい・・・こんなのってあんまりだよ!」
めぐむちゃんのコメントがどっかで聞いたような気がするがまぁいい。
「そう・・・これが深夜魔法少女よ。業務は基本命がけ、他にも戦っていくうちに体の自由がきかなくなったり、力を使っていくうちに心が死んでいったり、蝕によって仲間を全員失ったり、生贄の烙印によって常に魔物に狙われたりもするわね」
「後半ベル○ルクですよね!?」
「その上給料は安いし、有給もあってないようなものだし、先輩魔法少女からのパワハラはひどいし、引退後もこき使われたりするわよ」
「ほぼほぼブラック企業じゃないですか!というか詳しいですね・・・もしかして・・・」
「ええ・・・今私が所属しているのが『深夜魔法少女』よ」
「やっぱり・・・」
ある程度想像していたがやはりそうだったか。
というかこの人そんなに転職・・・いや転女してたのか。
まさか魔法少女にこんな現代社会のような闇があったとは。
「・・・」
めぐむちゃんも魔法少女のあまりに大きすぎる闇によって呆然としている。
もはや言葉も出ないようだ。
「じゃ・・・じゃあなぎさ姉さんはなんでそんな過酷な仕事を・・・?」
「そうね・・・20歳になった頃さすがにその歳で魔法少女はキツイって理由で『ギャグ魔法少女』を辞めたあと夜の街を彷徨っていたとき、今の会社にスカウトされたわ・・・」
なんだかAV堕したアイドル女優みたいな理由だな。
「この歳になるまでいろんなことやったわね・・・・地下闘技場で戦ってチャンピオンになったり、最大トーナメントに出場したり、よくわかんない死刑囚と戦わせられたり、現代によみがえった宮元武蔵と戦ったり・・・いろんなことがあったわね・・・」
「なぎさ姉さんのだけなんかテイスト違うんですけど。おもいっきりグラップラー刃牙なんですけど!」
「え?うそ・・・魔法少女ってみんな血なまぐさい肉弾戦を経験してるんじゃないの?トリケラトプス拳とか蟷螂拳使えないの?」
「使えるわけないでしょ!」
なぎさ姉さんはどうやら地上最強になる素質を持っているようだ。
「まぁちゃんと調べればこんな会社に所属しなくても済むから安心してね」
「は・・・はい・・・」
先ほどまで魔法少女に憧れ、目を輝かせていた少女はそこにいなかった。
ここにいるのは現実と言う名の闇にのまれ、将来への不安という恐怖に縛られる少し大人になった女性だ。
「実際の魔法少女はイメージと違った?」
なぎさ姉さんはいたずらっぽく笑って問いかけた。
「えっ・・・いっいえ・・・そんなことは!」
めぐむちゃんにとっては図星だったようで誤魔化すためか目線があっちこっちにとんでいる。
「あははは、正直に言っていいのよ。アタシだってこの業界に入ったときは少なからず同じこと思ったから。でもね・・・勘違いしないでほしいの、あたしはこの業界に入ったことは全く後悔してないわ」
「えっ・・・?」
その言葉を聞いためぐむちゃんは驚いていた。
そりゃあこんな過酷な業務の話を聞けば驚くのも仕方ない。
俺がなぎさ姉さんの立場だったら速攻でやめている。
だけど、彼女は違うのだ。
「何回もやめようかと思ったことはあったわ・・・でもね、そのたびにあなたみたいにアタシに憧れてくれている子の笑顔を思い出すの。あたしの頑張りがそういう子たちの夢になれているなら、こんなに素晴らしいことってないじゃない?だからあたしは限界まで魔法少女として頑張ろうって決めたの。」
「なぎさ・・・さん・・・」
数日前に「なんで私29にまでなって魔法少女やらされてるの!?」とか言ってた気がするけど黙っておこう。
どんな業界にも闇はある、それがアイドルだろうと魔法少女だろうと関係ない。
でもそんな闇に真っ向から立ち向かっている彼女はとてもカッコイイ大人だと俺は思う。
そしてその情熱は少女にも伝わったようだ。
「なぎささん・・・わたし・・・やっぱり魔法少女になりたいです!!なぎささんみたいなカッコイイ魔法少女に!」
そこにいたのは少し大人になった女性ではなく、夢見る少女だった。
目は輝き、真っ直ぐと相手を見つめる、かわいらしい少女だ。
どうやら人生相談はうまくいったらしい。
「あはは・・・なんだか恥ずかしいな・・・」
なぎさ姉さんはめぐむちゃんの言葉に恥ずかしがっているようだ。
それをごまかすように急に話題を変えた。
「じゃ・・・じゃあ最後に私からアドバイスよ」
「はいっ!」
「魔法少女たるものそこらへんのしょうもない男に捕まっちゃだめよ!付き合う相手は身長に・・・」
それはアドバイスというよりめぐむちゃんに対する呪いというのではないだろうか。
もしかしてめぐむちゃんを自分と同じ状況に追い込むつもりじゃあ・・・
そう考えたそのときだった。
「あ、大丈夫です!わたしにはアキラ君っていうカッコイイ彼氏がいるんで!!」
「・・・えっ」
なぎさ姉さんの顔から笑みが完全に消え、全身がフリーズしてしまった。
さらに
ピピピピッ
ファミレスの店内に携帯の着信音が鳴り響いた。
「あっすいません!私のです・・・えっと・・・あっ今ちょうどアキラ君から連絡が来て今から会うことになったんで失礼します!今日はありがとうございました!!」
そう言ってめぐむちゃんは颯爽と店内から去っていった。
「あ・・・あんな中学生の子にも彼氏はいるのに・・・29にもなって相手ができたことがない私って・・・」
・・・このままここにいるのはマズイ、そう思った瞬間
「あ!俺も急用ができたんで帰りますね!それじゃ・・・アッ!!」
即座にテーブルから立ち去った。
「・・・あ、店員さん・・・すいません・・・このお店で一番アルコールが高いお酒お願いします・・・ええ・・・記憶が飛ぶくらいのやつ」
負けるな魔法少女なぎさ!!この世界の闇を全て打ち滅ぼすそのときまで!
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