第25話 魔法少女だって就職活動ぐらいする3
ファミレスでの人生相談はまだ続く。
「まず現在の魔法少女業界について話さなきゃいけないわね」
「今の魔法少女ってそんなに細分化されているんですか?」
めぐむちゃんが疑問を口にする。
確かにここは気になるとこだ、俺にとっての魔法少女とは女の子が悪そうなやつと戦うイメージしかない。
そんな魔法少女にちがいなどあるのだろうか。
「甘いわね・・・実は今、魔法少女業界は供給過多なのよ」
「え?そうなんですか?私はてっきり少ないものかと・・・」
「ネットで魔法少女の働きが全世界に配信されたのがきっかけでいろんなとこが魔法少女会社を設立したのよ」
「魔法少女会社?なんだそれ・・・」
そもそも魔法少女って職業だったのか。
「まぁ言ってしまえば魔法少女のマスコットが経営している魔法少女のための会社ね。魔法少女のスカウト、契約、魔法少女に関するサポート、人的保障とかを請け負っているわ。」
「魔法少女ってそんなリアルな仕組みで成り立っていたのか・・・」
一気にファンシーさが抜けてしまった。
「色んな魔法少女が活躍できるようになったのはいいんだけど、分母が増えた分悪質なとこも増えてきちゃったのよね」
「悪質・・・ですか?」
めぐむちゃんが首をかしげた。
どうやら悪質な魔法少女というのがイメージできないらしい。
「最近の魔法少女は主に三つに分けられるの。まず一つ目が二人が知っているような『ニチアサ魔法少女』ね。これは最もスタンダードで一般人がイメージする魔法少女よ。中学生くらいの女の子がかわいいマスコットに誘われて変身して、困るか困らないか微妙なラインの悪事をする怪人をやっつける魔法少女ね。私も最初はこれに属していたわ」
「まさしく私が目指している魔法少女です!かわいくてかっこよくてみんなのヒーロー、憧れます!」
「俺のイメージしてる魔法少女もこんな感じだ」
そう・・・うまく言えないがこう・・・日曜日の朝に活躍していそうなイメージだろうか、なぜ日曜の朝なのかは説明できないが。
仲間と協力しながら恋に勉強に魔法少女、様々な困難を乗り越え最後にはハッピーエンドを迎える、それが世間一般的な魔法少女のイメージだ。
「もし魔法少女を目指すなら『ニチアサ魔法少女』の会社を受けるといいわ。労災もおりるし、日常生活に影響が出ないようサポートもしてくれるし、あと給料もいい上に有給も取れるわね。いわゆるホワイト企業ってやつ」
「え?魔法少女って給料出るんですか?」
俺は思わず聞いてしまった。
「そりゃそうでしょ、生活の一部を悪党退治にささげるんだから」
「それも・・・そうか・・・?」
確かに危険もつきまとうし、生活も制限されてくる。給料が出ないほうがおかしいのか・・・
「でも魔法少女って普通この『ニチアサ魔法少女』じゃないんですか?」
先ほど頼んだメロンソーダを口にしながら最もな疑問をめぐむちゃんが口にした。
この疑問に大してなぎさ姉さんは難しい顔をしつつ答える。
「うーん・・・確かに数年前まではこのタイプしかいなかったんだけど、最近新しいタイプが増えたのよ・・・それが二つ目の『ギャグマンガ魔法少女』よ」
「ギャグマンガ魔法少女?」
俺とめぐむちゃんは二人で首をかしげた。
「そう、魔法少女が台頭することで魔法少女の裏側とか知りたがる人が増えたのよ。それで魔法少女のあるあるネタとか日常を面白おかしく紹介するための魔法少女が出てきたの、それが『ギャグマンガ魔法少女』よ。まぁいわゆるヨゴレ役みたいなもんね。」
「なるほど・・・そんな魔法少女もいるのか」
「そういえば・・・私もネットで何人か見たことがあります!あの人たちってそういう仕事だったんですね・・・」
魔法少女を世間に紹介するための魔法少女、それが『ギャグマンガ魔法少女』のようだ。
めぐむちゃんは存在を知っていたようだが、俺は全く知らなかった。
魔法少女が世間に知れ渡っている現代ではこういった仕事にも需要はあるのだろう。
「まぁヨゴレ役っていってもちゃんとかわいい子が選ばれるし、怪人退治もそれなりにするわ。ただ『ニチアサ魔法少女』よりは待遇が落ちるわね。あと人気を取るために多少のお色気要素があったりするわ」
「お、お色気要素・・・ですか?」
めぐむちゃんの顔が赤くなる。
どうやらこういった話題は苦手なようだ。
「例えばクラスメイトの男の子にパンツ見せたり、衣装をビリビリに破かれて裸になりかけたりだとか・・・あ、あとおしっこもらしそうになるとかもあったわね」
「なぎさ姉さんはなんでそんなに詳しいんですか・・・」
「いやだって『ニチアサ魔法少女』を引退した後は『ギャグマンガ魔法少女』に転職したもの」
「え?そうなんですか!?」
「ええ・・・基本『ニチアサ魔法少女』はワンクールで引退だからね、たまにオールスター大集合とかいう企画に呼ばれるけど。まぁそれで次に所属したのが『ギャグマンガ魔法少女』ってわけ」
「じゃ・・・じゃあなぎさ姉さんも・・・?」
「ええ・・・クラスメイトにパンツ見せつけたり、ビリビリに衣装を破かれたところ見られたり、普通の人には見えないマスコットとしゃべるとクラスメイトには何もないところに話しかけているやばい人だと誤解されたりしたわ・・・」
再びなぎさ姉さんが遠いところを見始めてしまった。
このまま無表情モードに入られてはまずい・・・一刻も早く軌道修正しなければ。
「え、えっと・・・け、結局『ギャグマンガ魔法少女』ってどうなんですか!?」
多少強引でもこの話題を終わらせなければ。
この疑問で気持ちがこっちに向いてくれたのかいつもの表情にもどってくれた。
「え?ああ・・・そうね、悪くはないけど良くもないってカンジね。魔法少女にどうしてもなりたいなら選択肢の一つでもいいと思うわ」
「な、なるほど・・・」
よかった・・・どうやらいつも通りになってくれたようだ。
「でもね・・・」
ん?
なぎさ姉さんの雰囲気が一気に変わった。
重く暗い先ほどの無表情とはまた違った雰囲気だ。
「絶対に所属しちゃいけない魔法少女があるの・・・」
「そ・・・それは・・・?」
めぐむちゃんが真剣な表情で聞く。
「それはね・・・
『深夜魔法少女』よ・・・」
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