第6話 モブキャラだって世界程度救える1
はじめに言っておこう。
俺の名前は園田茂部雄。
一応この物語の主人公ではある。
でも俺はこの世界においては主人公でもなんでもないただの人だ。
正真正銘のごく普通の高校生だし、もちろんこれから先に世界の救世主となる予定も、周りの女子からモテまくるハーレム学生生活をおくる予定もない。
そう、本当にごく普通の少年なのだ。
この世界では俺のような人間を「モブキャラ」というのだろう。
「モブキャラ」とは漫画などで描かれる背景扱いのキャラクターのことだ。
例えるなら主人公がいた場所に偶然居合わせた通行人や、圧倒的な力から逃げ惑う群集などがわかりやすい。
決してその世界の主役を張ることができない「その他大勢」、それが俺だ。
この物語はそんなこの世界にいてもいなくても同じな俺視点の物語だ。
「そんな物語が面白いのか?」と思う人も大勢いると思う。しかし、俺自身は面白くなくても俺の周りはびっくりするぐらいたくさんのおもしろい主人公たちがいる。
この物語ではそんな世界の中心を生きているヒーローたちを俺視点で見ていきたいと思う。
「やっべー!遅刻遅刻!!」
少年はそう叫びながら全力疾走で学校に向かっていた。
(俺の名前は伊織 飛鳥。学力も中くらい、体力もそんなに自信があるわけでもない、顔のランクもまさに普通などこにでもいる普通の高校生だ。
親は外資系の企業に勤めていて今は妹の蒼と二人暮らしな高校二年生で、彼女いない歴=年齢な悲しい高校生活を送っている。ご覧の通り今は絶賛全力疾走中!)
なぜかわからないが少年は自分の頭の中で自己紹介を行った。
「くっそー!なんで蒼のやつは朝しっかり起こしてくれなかったんだ!!兄を起こすという妹の責務を果たさずに登校するなんて最低な妹だ!」
そんな不自然なほどの大声で独り言をしゃべりながら少年はペースを落とさず走り続ける。
「うおおおおおおおおおお!!こっから走り続ければぎりぎり間に合う!」
こんな学園ラブコメでやり尽くされた、テンプレのような物語の始め方をしていこの男こそが今回の主人公「伊織 飛鳥」だ。
ここまでの流れを見れば誰もが一発でこいつがハーレム系主人公だということがわかる。
まず登場シーンが遅刻から始まっている時点で主人公オーラがあふれ出ている。
現実であるなら遅刻しそうな人間は走りながら自分の置かれている状況をわざわざ大声でしゃべりはしない。
さらにその後全力疾走で頭に酸素が回らないであろう状況にも関わらず、自己紹介を滞りなく自分の頭の中で行うあたり流石主人公である。
自分で自分のことを自身のパラメータも含めてごく普通の高校生と紹介してしまうあたり流石だ。
親は当然のように海外出張で家におらず、妹と二人暮らしというまさにテンプレな主人公だ。
背も高く大体170cmほどあり、髪は黒髪で髪型も特に特徴があるわけでもないく、体系も太すぎず細すぎないちょうどいい体系で、なぜか運動部でもないのに脱ぐとそれなりに筋肉がある。
また皆さんお察しの通りこの男、明らかに顔のランクは普通などではなく、かなり上位のイケメンである、腹立つことに。
やはり学園ハーレムものの基本を抑えてこいつ自身は自分のことをイケメンだとは思っていないらしい。
いっそのこと自分のことをイケメンだと思っていてくれればむしろ好感が持てる。
何を隠そうこの男の周りの女子はもれなくこいつに惚れている。
お隣に住む幼馴染のおせっかい系女子から始まり、同じクラスのおとなしい図書委員の女の子、規律に厳しいクラス委員の女の子や、学内に謎の権力を持つ風紀委員の先輩のお姉さま、さらには学校内になぜかファンクラブがある生徒会長、果てにはクラス担任のグラマラスな先生までこいつにメロメロである。もちろんこの主人公の妹ももれなく惚れている。
賢明な読者の皆さんならもう察しがついているだろうがこの男、恐ろしいほどに鈍感なのである。
女の子の好意に気づき、さっさと誰かとくっついてくれれば何も言うことはないのだが、こいつは全く気がつかない。
時に体育倉庫に閉じ込められ告白同然の行動をとられても、時に保健室でいけない保健体育のお誘いを受ける直前でも、時に放課後誰もいない教室に呼び出され顔を真っ赤にした少女を見ても、この男は全く気がつかない。
さらにこの世界の神の意思であるかのように、これらの女子たちのアピールはことごとく横槍が入り、成功することがないのである。
つまり、この男の周りの女子は常にキープ状態であるのだ。
まったくもって冗談ではない。
その上この男、ことあるごとに女の子にセクハラをしているのである。
道の何もない場所で躓いては女の子のオッパイに顔をうずめ、階段から落ちたかと思うと女の子のパンツに顔をうずめ、どこかの教室のドアを開けると大抵女の子の誰かが着替えている。
こんな犯罪者として逮捕されてもいいレベルのセクハラを行っているのになぜかこの男は女性からは嫌われないのだ。
それどころかセクハラを行われた女の子はもれなく顔を真っ赤にしたあとほぼ100%の確率でこの男に惚れるのだ。
こんな狂ったことが起こっていいのだろうか。女の子みんな恥女なんじゃないのかと思ってしまう。
もし俺のようモブキャラがこんなことを行うと間違いなく通報されるか、学校内で迫害をうける。
さて、そんな世界中の男から嫌われているであろうこの男のサポートをするのがモブキャラである俺たちの役目だ。
サポートといっても何もこの男と共に世界を救うわけではない。
俺らがやらなきゃいけないのは、この男と新たなヒロインが運命的な出会いをできるように演出することだ。
ピロピロピロピロピロピロピロ
ポケットの中に入れておいた携帯が鳴り出した。
本部である学校の教室で待機しているモブ仲間からの連絡のようだ。
「もしもしこちらブラボー1、どうした。」
『こちら本部、ターゲットヒロインが今家を出発した、そちらの状況はどうだ?』
「こちらも予定通りターゲットヒーローが慌てて家を出発した。この調子だと予定通りポイントB2で接触することになりそうだ。」
『了解、ではこのまま監視を続行する・・・このまま何事もなくOPT作戦が成功すればいいな・・・』
電話からでもこいつ緊張しているのがわかる。
そう・・・この作戦は世界の命運を握っているといっても過言ではないのだ。
「成功させるんだ、俺たちの力でな・・・。」
『ああ・・・!そっちも気をつけろよ!』
そう言って電話が切れた。
光太の緊張を解くためにそうは言ったものの、実を言うと俺自身も緊張で手が震えていた。
それだけこの作戦は重要なのだ・・・
この・・・オッパイ・タッチ作戦は!
この作戦名を聞いて「ハァ?」と思うものもいるだろうがこの作戦は本当に重要なのだ。
見たことはないだろうか?
ライトノベルのやれやれ系主人公が街角で女の子とぶつかった拍子に、不可抗力でおっぱいを触ってしまい殴られるというもはや美しさすら覚える様式美を。
しかし昨今よく見られるこの場面、実は運よく偶然起きているわけではない。
このおっぱいを触る一連の流れは俺たちモブキャラの力によって作られているのだ。
皆さんもおかしいとは思わなかっただろうか?
お互い尻餅をつくわけでもなく、地面に手を着くわけでもなく、なぜか手がおっぱいの上にあるのだ。
まるでダイソンの掃除機のように主人公の手がおっぱいに吸引される。
主人公の手はかならずおっぱいにたどり着くという法則があるかのようだ。
そして、もしもこのイケメンがオッパイを触らなかったとしよう。
そうなった場合は
世界が滅亡してしまう。
これは冗談などではない。
本当に滅んでしまうのだ。
というのも、これからオッパイをタッチされるヒロイン『鳳凰寺真』という子はその身に鳳凰の力を宿した特別な女の子なのだ。
そしてこのありがちなライトノベルヒロインはこのあと、例によって鳳凰の力を悪用し世界を征服しようとしている謎の組織に誘拐され、なんやかんやあって鳳凰の力が暴走して世界が滅亡してしまうのだ。
なぜそんなことがわかるのかって?
なんと俺たちモブキャラはこの世界の未来がわかってしまうのだ。
だが見える未来と言うのは大体はろくでもないものばかりだ。
今回のように世界が滅亡してしまう未来が見えることもあれば、謎の魔術組織が世界を征服してしまう未来が見えることもある。
そんな最悪な未来を変えるために俺たちモブキャラは昼夜を問わず働いているのだ。
今回のケースだと、
鳳凰寺真何事もなく登校
↓
鳳凰寺真が下校中に誘拐される
↓
鳳凰の力が暴走
↓
世界滅亡
となってしまう運命を
鳳凰寺真登校途中でオッパイをタッチされる
↓
鳳凰寺真下校途中オッパイをタッチされる
↓
鳳凰寺真オッパイを触った伊織飛鳥を追いかけ回す
↓
鳳凰寺真なんやかんやオッパイをタッチされる
↓
鳳凰寺真無事に帰宅しなんやかんやオッパイをタッチされる
という風に変えてしまおうと今現在行動しているわけだ。
この一連の流れは運命のいたずらでも神の気まぐれでもない、人の手で作り出されたものだ。
といっても100パーセント俺たちモブキャラがオッパイを触る状況を作るわけではない。
俺たちが行うのはあくまで主人公とヒロインが出会うきっかけ作りだけだ。
その後の主人公のオッパイを触るという行動に対しては俺らは何もしていない。
つまり主人公がヒロインと会ったときに起きるエロイベントはあくまでも主人公自身の運命力によるものなのだ。
なぜあんなエロイイベントが自然的に発生してしまうのかは誰にもわからない。
そういう世の中なのだ。
中には「たかがモブキャラにきっかけ作りなんてできるの?」と疑問を持つ人もいるだろう。
そう、俺らは「たかがモブキャラ」だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
ただ、モブキャラにだって世界をほんの少し動かす力があるのだ。
それをこれから実践してみせよう。
「よし!この調子で行けば朝のHRにギリギリ間に合うぞ!!」
伊織飛鳥はそんなことを言いながら街中を全力疾走していた。
この時間は飛鳥以外にも学校へ向かっている生徒や、出勤途中のOLやサラリーマンが何人かいる。
しかしこんなにあわただしく動いているのはこの男だけであった。
それもそのはず、もし遅刻すれば彼はきっちりとした性格の委員長(女の子)から、お叱り(ご褒美)を頂戴することになるので必死だ。
ただ、このまま何も起こらずに学校についても何も面白くない。
それを面白くするのが俺らの仕事だ。
「準備はいいな風丸。」
俺は隣りにいる男にたずねた。
「OK。いつでも行けるぜ。」
この男は武田 風丸。今回のオペレーションで一緒に仕事をする仲間だ。
背は小さく髪の毛は肩まで伸びている。モブキャラなのでもちろん顔は没個性的だ。
「じゃあカウントダウン行くぞ・・・3・・・2・・・1・・・ゴー!!」
「はぁあああああああああああああああああ!!」
掛け声と共に風丸は右手を突き出した。
するとどこからともなく激しい風が街中に吹いてきた。
そしてその風は・・・
伊織飛鳥の周囲にいた女性のスカートを巻き上げていた。
「キャアアアアア!」
「急に何この風!?」
「嘘でしょ!?」
道行く女性は突然の強風に対し、必死にスカートを抑えていたがほぼ意味をなさず、飛鳥からは完全にパンツが丸見えであった。
「うおおおおおおおお!何だこれ!?」
必死に町の中を走っているにも関わらず、その目は確かにパンツを見つめていた。
「あ!あいつパンツガン見してたわよ!」
「今スカートめくったのももしかしてあいつ・・・?」
「とりあえずとっちめるわよ!!」
その声に呼応するように街中の女性たちがいっせいに飛鳥を追いかけ始めた。
「な、なんで俺がこんな目にあわなきゃいけないんだ!ああもう不幸だーーーーー!!」
そんな身に覚えのない容疑をかけられつつ、この主人公は町を駆けていく。
「よくやったぞ風丸。」
「おうよ!」
このようにライトノベルの主人公が遭遇するようなイベントは私たちが起こしているのだ。
突然風が吹いたのもここにいる風丸という男が自分の能力を駆使して起こした現象である。
まぁ風丸は風を起こしただけで、道行く女全員のパンツが見えたのは伊織の運命力なのだが。
なぜただのモブキャラごときが特殊能力何ぞ持っているんだ?と思っている方もいるだろう。
だがしかし、モブキャラが特殊能力をもたないなんて誰が決めた。
意外に思うかもしれないが、この世界のモブキャラはほぼ全員自分だけの特殊能力を持っている。
たとえば、風呂場でどんなときも湯気で大事な部分を見えなくなったり、突然恥部が露出したとき謎の光によって隠したり、数秒前にどう見ても重傷な怪我を負っていた人間が一瞬で治ったりなどこういったよく見られる現象もすべて俺たちモブが持っている能力によって起こしているのだ。
俺たちモブキャラが世界を動かしていると言っても過言ではない。
ヒロインとの出会いや、学校でのパンチラ、ライバルキャラとの因縁作りも俺たちが演出している。
「さて、これで伊織飛鳥は逃げるために小道に入らなくてはいけなくなったな。」
風丸が満足そうにそう言った。
「ああ、この調子で路地を進めば予定通り10分後にはヒロインとバッタリだ。」
今回の計画で重要なのはタイミングよく、この主人公とヒロインを曲がり角で衝突させることである。
そのために俺たちや他の班のメンバーがハプニングなどを起こして、時間やルートを調節しているのである。
「後は二人が曲がり角でぶつかるまで待つだけだな。」
そんなことを風丸が言った直後、携帯の着信が鳴り響いた。
「もしもし?」
『こちらブラボー2!大変な事態になりました!!』
「そんなに慌てて一体どうした?」
電話の向こうの声は焦りで震えていた。
『い、今猛烈な風がこちらに吹いてきて鳳凰寺真さんのスカートがめくれたんですが・・・』
「それがどうかしたか?ヒロインのスカートがめくれるなんてそんなのいつものことじゃあ・・・」
『・・・』
電話の向こう側では沈黙が続いた。
その沈黙が事態の深刻さを物語っている。
『・・・なかったんです・・・』
「・・・何が?」
フー、と深呼吸をする音が聞こえた。
『鳳凰寺真が・・・パンツをはいていなかったんです・・・』
「なん・・・だと・・・!?」
俺たちのミッションに暗雲が立ち込めてきた。
「・・・そんなバカな話があるか!?パンツだぞ!?パンツはき忘れるってどういおうことなんだよ!」
『すいません、今ヒロインの設定資料を見てみるとたまに失敗しちゃうドジっ子って書いてありました』
そんなドジ一つでパンツはきわすれる人間とは一体何なのだろうか。
兎にも角にも急いで対処をしなければいけないのも確かである。
「とりあえずブラボー2はそこで待機だ!そっちの様子を報告し続けろ!」
『了解しました!』
さてどうするか・・・そんなことを考えていると風丸が真っ青な顔でこちらに話しかけてきた。
「お・・・おい・・・やべぇそ・・・!?」
「おいおい、ヒロインがパンツはきわすれるよりも大変なことがあるのかよ!?」
「ああ・・・やべぇ・・・」
風丸の様子を見るに冗談ではなさそうだ。
一体何が起こってというのだ。
「チャック・・・」
「チャック・・・?なんだ伊織飛鳥のチャックが開いているだけか?その程度のことならなんとでも・・・」
チャックが開いてちょっとパンツが見えてしまうなんて別に珍しいことでもない。
さすがに男のパンツが見えただけではPT○だって怒りはしないだろう。
「いや、それだけじゃない・・・?」
「それだけじゃない?・・・何を言って・・・ッ!?????」
そう、気づいてしまった。
チャックが開いている以上の最悪の状況が思い浮かんでしまった。
だがそんなことが主人公に起こるわけがない、そう信じたかった。
だが現実は非情である。
無慈悲な真実が風丸の口から言い渡される。
「伊織飛鳥のチャックから・・・チン○がはみ出している・・・!」
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