第5話 小学生だっておもちゃを使えば世界は救える2
「じゃあ実際に一体育ててみよう!」
そう言って世界を何度も救った英雄、宝富雄君(小5)はおもちゃの画面を操作し始めた。
こんなほぼほぼ筋肉質の男しか出てこないゲームのキャラクターを育成して何が楽しいんだろうか。
それとも俺の感性がおかしいのだろうか。
こんな普通の感性だから俺はモブキャラなのだろうか。
とりあえず俺は自分の中の疑問を素直に問いかけてみた。
「育ててみるって一体どうやってこんな筋肉星人どもを育成するんだ?」
「んー、まぁとりあえず妖怪ミスター〇スケを育ててみよう!やってみればわかるよ!」
日曜の昼下がりの公園で小学生と一緒に妖怪ミスター〇スケを育てる、一体俺は何をしているんだ。
「この化物たちを育てる手段はただ一つ、それは・・・」
「それは・・・?」
「筋トレだよ。」
「筋トレか・・・。」
想像通りだ。
むしろそれ以外想像することができなかった。
「じゃあ化物ウォッチの右下にあるトレーニングボタンを押してみて。」
「んーと・・・これか?」
言われるがまま右下にあるボタンを押してみると画面が切り替わり、トレーニングルームのような風景が映し出された。
「トレーニングモードに移行すると、画面もトレーニング仕様になるんだ。」
「なるほど、こういう器具使ってトレーニングして能力を上げるって感じか。」
「ふふふ・・・甘いよモブ兄ちゃん。そんなそこらへんにある普通の育成ゲームと同じなわけないでしょ。」
それもそうだ。
そんな普通の感性を持っておいたらこのゲームもこんな突拍子も無い内容にはならなかっただろう。
「よくその画面を見てみなよ。」
言われてトレーニングルームの画面をよく見ると・・・
「ん?」
何かおかしい。
トレーニング器機といえばダンベル、腹筋ワンダー〇アなどが真っ先に頭の中に思い浮かぶが、このトレーニングルームにはそういった器具は見当たらない。
無駄にでかい作り物の丸太、勢いをつけて走れば上りきれそうな反り立った壁、そして天井からぶら下がったターザンジャンプができそうな縄。
明らかに普通のトレーニング器具ではない。
これは・・・
「このゲームではね基本的にトレーニングはサ〇ケで行われるんだよ!」
「いやなんで!?」
「しかもミスター〇スケは自分でサ〇ケトレーニング器具を作れるんだ!!」
「なんでこのゲームそんなにサ〇ケを推してるの!?」
このゲームの開発者たちの真意が全く読めない。
そして同時に一つの疑問が思い浮かんだ。
「ん?じゃあクイズ王とか大食い王とかはどうやって強化するんだよ?」
「ああ、その二体は筋肉が無いし強化することができないから、このゲーム内ではただ筋肉たちに殴られることしかできないよ。」
「嫌だよそんなゲーム!」
このゲームでは筋肉無きものには死しか待っていないようだ。
「じゃあ次はアイテムを使ってキャラクターを進化させよう!」
「進化?」
「うん!このゲームではある程度強化した化物にアイテムを与えると進化して新しいモンスターに生まれ変わるんだ!!」
「ほう・・・なるほど・・・。」
キャラクターの進化、これは育成ゲームにおける重要な要素だ。
たま〇っち、デジ〇ン、ポケ〇ン、どの有名育成ゲームでもキャラクターの進化というシステムは使われている。
こういった育成ゲームでは進化することによってキャラクターの見た目や性能が大きく変化し、その変化にプレイヤーたちは一喜一憂するのだ。
しかし、このゲームにそんな今までのゲームの常識が通用するのだろうか?
「まぁとりあえずやってみるね!えっと・・・まず画面に出てるミスターサ〇ケをタッチして・・・」
「えっと・・・こうか?」
言われた通りにゲーム画面にいるミスターサ〇ケをタッチしてみる。
すると・・・
画面の下部になにやら様々なアイコンが出てきた。
「これがアイテムか?」
「うん!この中からキャラクターに合ったアイテムを選択して与えるんだ!」
アイコンにはダンベルや食べ物、薬など様々な絵が表示されていた。
「じゃあこのインスタントラーメンのアイコンをタッチしてそのあとミスターサスケの頭をタッチしてみて。」
「インスタントラーメン?」
画面の下部をよく見てみると確かにゆでる前のインスタントラーメンのアイコンがあった。
「これを・・・こうか?」
言われるがままに操作すると・・・
突然ミスターサ〇ケが光り輝いた!
「!?」
「ふふふ・・・見てみなよ・・・これが進化したミスターサ〇ケだよ!!」
光の中にいた存在・・・それは・・・
関口メン〇ィーだった。
「いや何で!?」
「え?至極当然の進化でしょ?」
「何でミスターサ〇ケにインスタントラーメン与えたら関口メン〇ィーになるんだよ!!」
「筋肉質な人の頭にインスタントラーメン乗せたらそれはもう関口メン〇ィーだよ。」
「関口メン〇ィーの定義簡単すぎるだろ!!」
「大丈夫、大丈夫頭の上にインスタントラーメン乗せてグルメリポートで『うメンディー!!』って言っておけばだいたいOKだから。」
「メン〇ィー何だと思っているの!?」
「ちなみに関口メンディーにアイテムの『日本レ〇ード大賞』を与えると『三代目J Soul B○others』に進化するよ。」
「なんで進化アイテムが『日本レ〇ード大賞』なんだよ!?というかアイテムなの!?」
「『日本レ〇ード大賞』は課金でいつでも買えるから進化させるのも簡単だよ。」
「そういうこと言うのやめて!?この作品別に社会批判したいわけじゃないから!!」
この作品は関口〇ンディーと日本レ〇ード大賞を応援しています。いや、本当に。
なんだかどっと疲れてきた。
それもそうだ、こんなわけの分からないゲームにつき合わされていればそうなる。
帰ろう。
一刻も早くこの場から去ろう。
「じゃあ富雄君、俺はこのへんで帰らせて・・・」
「モブのお兄ちゃん・・・最後にとっておきの機能を見せてあげるよ・・・」
止められてしまった。
しかも富雄君の目が恐ろしいほどにキラキラしている。
子供が大人におもちゃを自慢したいときの顔だ。
まぁこれが最後の機能というなら仕方が無い、付き合ってあげるのが大人というものだ。
「へぇ、どんな機能なんだい?」
「ふふふ・・・実はね、この機能は僕の化物ウォッチにだけついている特殊なものなんだ。」
ああ、主人公らしい。
他の人が持っていない主人公だけの特別なアイテム。
「なんでそんな特別な化物ウォッチを持っているんだい?」
まぁ大体理由は察しがつく。
どうせ落ちているのを偶然拾ったとか、近所に住んでいる博士的なポジションの人がくれたとかそんな感じだろう。
あと考えられるのは父さんがおもちゃの開発者で譲り受けたパターンか。
富雄君は少し間を置いて答えた。
「ああこれはね・・・通りがかった見知らぬミスター〇スケがくれたんだ!」
「見知らぬミスター〇スケってなに!?ミスター〇スケはこの世に一人しかいないよ!?」
「僕にこの化物ウォッチを渡して『このおもちゃをあげるから僕と一緒に滑り台でそり立つ壁の練習をしよう』って言ってきたんだ。」
「どう考えてもそれ不審者だよ!!」
世界には色んなミスター〇スケがいるもんだ。
目的も言動も謎だが、これ以上追求すると長くなってしまいそうだ。
「で?特殊な機能って一体何だい?」
「なんとね・・・僕の化物ウォッチは・・・
この現実世界にこのおもちゃの中のミスター〇スケを召喚できるんだ!!」
そう言って富雄君は化物ウォッチのボタンを勢いよく押した。
すると化物ウォッチが突然光り輝いた。
周囲には風が吹き荒れまともに目を開けられなかった。
そして光と風がおさまり、目を開けるとそこには・・・。
ミスター〇スケがいた。
「嘘・・・だろ・・・。」
なんという機能だ。
しっかり実態があるようだ。立体映像でもない。
オーバーテクノロジー過ぎて何もコメントできない。
もはやこれは一種の人体練成、生命の創造ではないだろうか。
「どうだい!これが僕の化物ウォッチだけが持つ特殊機能さ!!」
もはやこれはおもちゃのではない、ドラえもんの秘密道具だ。
こんなとんでもないものを持っている見知らぬミスター〇スケとは一体何者なのだろう。
だが・・・。
「これ・・・ミスター〇スケを現実世界に呼び出してどうするんだ・・・?」
好きなときに筋肉質なおっさんを呼び出せるおもちゃなど誰が必要とするのだろう。
というかだれが喜ぶんだ。
だが笑顔で富雄君はこう言った。
「そりゃあもちろん・・・〇スケごっこをさせるのさ!!」
「〇スケごっこ・・・させる・・・のか・・・」
不毛すぎる・・・。
だがこんな不毛な行為について語っているこの子の目は引くくらいキラキラしていた。
この子に「何が楽しいんだ?」と無粋なことを聞くのはできない。
「さ・・・〇スケごっこって何するんだい?」
とりあえず聞いてみよう。
もしかしたら一大アミューズメントと同じくらいおもしろいのかもしれない。
「例えばね・・・そこの滑り台で反り立つ壁の練習させたり、ジャングルジムでクライミングの練習させたりできるんだ!!」
「そう・・・楽しい?」
満面の笑みで答えた。
「おっさんが全力を出して公園の遊具で遊んでいるのが見れるなんて楽しいに決まってるじゃん!!」
聞かなかったことにしよう。
子供とは時に残酷なものだ。
こんな趣味の悪い楽しみ方があるだろうか。
「ふふふ、僕はねこのマイ〇スケをこの公園でトレーニングさせて、今度の〇スケを全制覇させるのが夢なんだ!!」
「マイ〇スケ・・・」
この子は何を言っているんだ。
次々と新しい単語が出てくる、情報量が多すぎてついていけない。
とりあえず一番気になるのは・・・
出現したミスター〇スケが全裸でフルチンなことだ。
「なぁ富雄君・・・なんでこいつは全裸なんだ?」
そう聞くと富雄君は
「あー服だけは召還できないみたいなんだよね。」
笑顔で答えた。
なぜ実態のあるマッチョを召還できて服を着せることができないのだろうか。
俺が戸惑っていると富雄君は時計を見てハッとした。
「おっと!そろそろ隣町のシーソーでバランス感覚のトレーニングをさせる時間だ!ごめんめモブの兄ちゃんもう行かなきゃ!」
「ああ・・・うん・・・」
終始振り回されっぱなしだった。
だがやっとこの謎のおもちゃから開放されると思うとホッとする。
「じゃあねモブのにいちゃん!また化物ウォッチで遊ぼうね!!よし行くぞ!勝己!」
「ミスター!!」
そう言ってミスター〇スケをお供につれて少年は次なるステージへと走り出した。
去ってゆくその背中を見て思わず、
「鳴き声・・・気持ち悪いな・・・」
そう呟いてしまった。
きっと彼は世界制服をたくらむ悪の組織と対決するのだろう。
そしてそれを打ち倒してこの世界を救うはずだ。
少年は行く。
その先に輝かしい栄光があると信じて。
5分後謎の露出狂が警察に逮捕され、少年の夢が潰えることはまだ誰も知らない。
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