謎の美少女編 3.部活に入ったよ

ここはB棟3階の資料室だ。

B棟は主に物置として使われており、生徒や先生の出入りは少ない。


「ようこそ!人間観察部へ!」


そう言って俺を出迎えたのは資料室の中にいた3人のうちの1人だった。

金髪ショートヘアのその少女は、俺の前に立つと、いきなり俺の鞄を奪い取った。


「え!?、いきなり何すんだ!」


金髪のそいつは、俺の鞄の中身をひっくり返して、俺の筆箱を見つけると、不敵な笑みを浮かべ、机の上に俺の筆箱の中身をぶちまける。

初対面でこんな仕打ち初めてだよ。こいつには常識というものがないのか、全く。

金髪はぶちまけた中から俺のハンコを見つけ出し、何かの紙に押した。

そして、その紙を俺に向けて、こう言い放つ。


「これでお前も、人間観察部の一員だな!」


「は!?おいっ!俺入るなんて言ってないぞ!」


「あー、あー、うるさいうるさい!決まったものはしょうがないから今日から活動ね!」


俺の後ろでは、少女が気まずそうに俺を見つめていた。

ちっ、かわいいじゃねぇか。

まあしかし、部活に入ると言う義務は果たした、どうせもう二度とここには来ないだろう、何せ俺、幽霊になるし。(幽霊部員だけど)

金髪の横にいる2人は読書をしたり、絵を描いたりしている。

統一感ねえー。


「そう言えばあんた名前なんて言うの?」


金髪は堂々と正面の椅子に腰掛けて、俺に問う。


「人に名前を聞くときは最初に名乗りなさいって習わなかったのか?そこのちっちゃいの」


「ちっちゃいのって言ったな!」


金髪が大声を出すと、横の無関心だった2人がクスクスと笑い出した。

金髪はプイとそっぽを向き、横目で俺をチラッと見る。


「悪かったよ、俺は忽滑谷伊月って言うんだ、よろしくな」


俺が自己紹介すると俺の後ろの少女が続いた。


「私は1年A組の姫ヶ崎 一華です」


一華か、よし覚えておこう。

続いて、金髪の横の本を読んでいる奴が立ち上がる。

緑がかった長い髪揺らしながら、照れ臭そうに言葉を紡ぐ。


「私は、東 小鳥です、よろしくお願いします」


そう言って、深々と頭を下げた。

この子はいい子そうだ。

そして、次は絵を描いている奴だ。


「この流れだと、あたしの番だね!」


黒の短髪で、いかにもスポーツ系女子って感じの子だ。

多分、スカートの下には体操着でもきているのだろう。


「あたしは、蘇我島 奏って言うんだー!よろしくー!」


俺には16年間生きてきて、

元気のいい子=バカ!と言う、公式を身につけたのだ。従ってこいつは、多分バカだ。


そして、いつの間にか窓の方へ椅子を向けていた、金髪がくるりと椅子を回転させ、俺に向き直る。


そして、バン!と両手を机に叩きつけ、立ち上がる。


「私は、この部の部長、小鳥遊 来夢って言うんだ!何か質問はあるかね、忽滑谷くん!」


「部長、ここは高校ですよ?」


「おっしゃ、表へでろ!しばいてやる!」


「冗談ですって、じゃあ、質問します、部長は何歳ですか?」


「馬鹿にしてるだろ!」


いたいいたい、いきなり殴る奴があるかよ。

来夢が、再び自分の椅子へと戻り、他の皆も席に着いた。

俺もなんとなく、流れで空いている席に座った。


「えー、では部員も集まったことですので、活動を始めたいと思います」


俺は無言で手を挙げた。


「なんだ、ぬか漬け」


なんでみんな俺のあだ名知ってんだ!どこから漏れた!?まさか、い、妹!?

内心そんなことを考えつつ、平常心を保っていた。


「活動とは具体的に何をするんですか?」


俺がそう聞くと、来夢はニコッと笑う。


「我々人間観察部の活動は決まっていないヨ☆」


よくこの部活成り立ったな。

まあ、俺には関係ないが。

すると、来夢が俺の鞄をひっくり返して出てきた、一冊のノートを手に取った。


「何これ?」


「ああ!それはっ!」


止めようとしたが、もう遅かった。

そのノートは俺がクラスの女子を観察して得た情報が詰まっているんだ。

来夢はポケットからスマホを取り出し、ノートを撮影、そして保存した。


「はっはっは!毎日部活に来なかったら、この画像、プリントして学校の掲示板に貼るからね☆」


「ぐはぁ!や、やめてくれ!ただでさえ肩身の狭い思いをしているんだ、これ以上狭くなったら俺!俺!うわああああ!」


俺は頭を抱えて、叫ぶ。

資料室の中は俺の叫びと、来夢の高笑いが共鳴して、なんともシュールな光景になっていた。

これで、俺は詰みだ。

チェスで言えばチェックメイト。

とりあえず、これが出回れば間違いなく3年間彼女の1人もできなくなる。

それだけは避けなければ。


「わかった、毎日部活に出ることを約束しよう、だが、俺はやるんだったらちゃんとした活動をしたい。具体的に言うと、俺が疲れないである程度のやった感があることをだ」


「腐ってますわね」


そんな声が聞こえたが、あえて聞かなかったことにする。

しかし、見ると部室の中はいろんな資料やら、雑貨やらで散らかっている。

そこで俺は思いついた。


「よし、取り敢えず部室の掃除をしよう、それが今日の活動だ」


「何かってに決めてんの?」


来夢が白い目で見てくる。


「私は賛成です」


「私も」


「私も私も!前から汚いと思ってたんだよね!」


来夢以外の3人は賛成のようだ。

俺はドヤ顔で来夢を見つめる。

他の3人が賛成したことで、来夢はぐうの音も出ないようだ。


「わかったわよ!掃除すればいいんでしょ!」


「よし、始めるか」


雑貨をまとめ、床を履き、雑巾で窓を拭く。

履き終わった床は、濡れ雑巾で拭いて。

そのほかはハタキで軽く埃をとる。

かれこれ数時間掃除をして、下校10分前のチャイムが鳴り響いた。


「今日はこのくらいにするか」


俺はずっとハタキでいろんなところの埃をとっていた。

多分これが1番疲れないだろうと思ったからだ。

しかし、結構疲れるもんだな。


「じゃあ、今日の部活を終わりにします、また明日も来いよ!」


来夢はそう言い残すと走って帰ってしまった。


「私も帰りますね」


小鳥が席を立ち、次に奏でが続く。


「帰りまーす!」


部室に残されたのは俺と、一華の2人だけだった。

なんだこの状況、気まずい。


「じゃ、じゃあ俺も帰るな」


そう言って、席を立とうとした時、一華が意を決したように俺に言った。


「ぬ、忽滑谷くん、わ、私......」


ピロリロリーン


一華が何かを言おうとした時、俺のスマホが鳴り響いた。

スマホの通知画面には、『絶対来いよ!』と言うメールが来ていた。

差出人は......


「あいつ、いつの間に俺のアドレス登録したんだよ」


「......」


言葉を途中で切られた一華は下を向いて俯いていた。


「えっと、それでどうした?」


「な、なんでもないの!」


「そうなのか?」


「じゃあまた明日ね」


「お、おう」


そう言い残して、一華は資料を出ていった。

机の上には、ここの鍵が無造作に置かれていた。

ったく、俺が片付けんのかよ。

渋々、資料室の鍵を閉め、職員室に鍵を返した。

その日は、それで家に帰ったのだった。

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