35「カービン」

 カービンはその場に座り込んだ。

 「なあ、お前は何で軍に来た?」

 「さあな。そんな昔のこと忘れちまった」

 「嘘をつくな。俺は知ってんだ」

 カービンは黙っていた。

 「戦いたかったんだろう。何も隠す必要はない。そうゆう奴は多い」

 カービンは何も反応せずに装備を身に着けていく。

 「なあ、何か言えよ」

 男のその言葉から数秒後、カービンは口を開いた。

 「お前に何がわかっているかは知らないが、確かに俺は戦いたくて入った」

 男は薄く笑う。

 「やっぱり―」

 「だが、今はそうじゃない」

 その言葉を聞き、男高笑いをする。

 「何がおかしい」

 「やっぱりな。やっぱりだ。おれの思った通りだ」

 カービンは笑う男を睨む。

 「お前は戦いたいから戦うんだ。誰かの役に立とうなんて思ってない。軍にいるのも面倒になっているんじゃないのか?」

 黙るカービンとは逆に、男は更に熱弁になっていく。

 「お前は任務をこなすことを考えているんじゃない。戦いたいんだ。だからこの肉弾戦も乗り気だった」

 男は起き上がる。

 「話は変わる。実はな、うちのチームには逆の奴がいるんだ。与えられた任務だけをこなし、自分のことは考えない奴が」

 「……誰だ?」

 男はドアの向こうを指差す。

 「ウェブリーだ。ウェブリー・テック。だがそんな奴がだ、何故か俺らの元を離れることがあった。どうゆうことだと思う?」

 少しして答える。

 「…さあな」

 ウェブリーがJlUwM(ジュラーム)を襲っていたことをカービンは知っているが、言わない。

 「嘘だ、お前たちは会ったはずだ。ウェブリーがお前たちに会ってボスの場所を知らせたと言っていた」

 「街で普通に会っただけだ。そもそもこの話の主題は何だ?」

 「まあそう焦るな。ボスはな、裏切り者を探しているんだ」

 「裏切り者?まさかウェブリーがか?」

 「俺はそう睨んでいる。まあ、この状態じゃあボスと俺ら全員が裏切り者だがな。あいつはおそらくお前とは逆に戦いたいとは……おい、どこに行く?」

 カービンは立ち上がる。

 「俺達を裏切って何をする?」

 「それが分からない」

 そしてドアに手をかける。

 「俺には興味ない」

 「おい!」

 ドアを開ける。

 「お前の言っていた通りだ、俺は戦いたいだけだ。そして、軍にいるのが面倒になっているようだ。メキシコにでも行くとする」

 そしてドアを閉めた。

 「自由か……」

 ドアの閉まる音に小声のそれはかき消された。


 数分前。

 ドアを開ける開けたゾラキに、男は話しかける。

 「気分はどうだ?裏切り者」

 男はヘルメットとゴーグルを外していた。

 ゾラキは既に無い。

 「どうゆう意味ですか?」

 「仲間を裏切ったんだ。お前は。そして軍人にあるまじき敵前逃亡」

 男はナイフを取り出す。

 それを見て、ゾラキもナイフを取り出す。

 「俺はボスを倒す。信用できない。そして敵前逃亡したお前も。信用できない」

 男はゾラキに近づく。

 「お前も向こうに送ってやる。」

 素早くナイフを振りかざす。

 ゾラキはそれをほんのわずかでかわす。

 頬の1センチも満たない空中を切った。

 ゾラキは男の腹にナイフを刺そうとする。

 が、その腕を男が握る。

 そして腕を蹴る。

 ゾラキのナイフが部屋の隅へと飛ばされる。

 男は更にナイフを振り下ろす。

 ゾラキの胸に刺さる。

 金属音。

 血は出ない。

 ゾラキは男の腹を蹴る。

 一度間合いを取る。

 ナイフが刺された箇所からは弾倉が見えていた。

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