目が覚めて、いただきます。

 ゆっくりゆっくり奥深くへと溶けていた意識が形を取り成していく。


 微睡みは、覚醒へと変わった。


 朦朧とした意識から、自我が芽生えて、ゆっくりと重たい瞼を開く。


 まず最初に、見知らぬ木彫の天井が目に入った。

 涼しい爽やかな風が頬をくすぐる。

 そちらを見やると、窓が開け放たれてレースのカーテンが風になびいて、赤い夕日の日差しが入り込んできていた。


 ああ、もう夕方か。飯と宿をどうにかしねぇと。

 ごく普通に、今夜の寝床を探す事を思い出して、白いシーツが敷かれた柔らかなベッドに手を付いて、身体をゆっくりと起こして起き上がる。


 そこまでの動作を起こして、ウィードは、やっと気付いた。


「どこだ、ここ…?」


 改めて、部屋の中を見渡す。

 あまり広くなはないが、ウィードが今しがた横になっていた大きな寝台を部屋の中央に、右には、読みかけの本とその上に置かれた眼鏡。

 左には、ぎっしりと詰められた本棚や衣装棚。

 正面には、この部屋の出入りをするための扉。


 さてどうするかと悩むと、腹からぐぅ、と情けない音が鳴った。

 意識を失う前は、空腹で動けなかった事を思い出すと同時に、体全身が気怠さが帰ってくる。


「うぅ……腹減った…」


 腹を抑えて、再び寝台に横たわって蹲る。

 このまま眠れば、宿の心配は1晩くらいは何とかなりそうだが、空腹の問題は1晩も持たないだろう。


「そろそろ起きたかな…?……あ!あなた、大丈夫…!!?」


 がちゃりと音を立てて、部屋の扉が開かれて、艶やかな長い赤髪を後ろに結った可憐な村娘が入ってきて、ウィードの姿を見ると、慌てて駆け寄ってきた。


「はら……」

「お腹…?」

「はら、へった………」

「え…?」


 ウィードが必死に絞り出した言葉を聞いて、少女は聴き直して目を丸くする。

 そして、再びウィードの腹から盛大に情けない音が鳴った。


「あー……ご飯ね。今準備してあげるね…?」


 気不味そうに頬をかいて、少女は苦笑い。

 居た堪れない気持ちになったウィードは、毛布の中に蹲る。


 子供か、俺は。

 少女が部屋を出ていく気配を感じてから、寝台で毛布に包まったまま頭を抱えて悶える。


 うううああああああ。穴があったら入りたい。穴じゃなく毛布の中にいるけど。


 暫くして、階下の方から恐らくウィードを呼ぶ声が聞こえた気がした。

 ウィードは寝台から這い出て、恐る恐る部屋の扉を開ける。

 部屋の外に出ると、木構造の長くない廊下になっており一戸建てなのだろうか。奥には階下へ降りる階段があり、隣にもう一つ扉があるという事は、この階には二部屋あるのだろう。

 歩く廊下は、木の香りに溢れている。

 ゆっくりゆっくりと降りていく階段は、踏むたびに階段が軋む音をたてて響いた。

 そして、足が階下へ向かう階段を降りていくと、食欲をそそる香りが漂ってくる。


「あー、やっと来たね!座って座って?」

「お、おう…」


 少女は、パタパタと駆け寄ってきてウィードの手を取り、食事の用意がされたテーブルへと引っ張っていく。


 気不味さに押しつぶされそうなウィードを他所に、座らされた食卓には、盛りに盛られたデカ盛りサラダとパンが数個と、豊かなコクのある香りで鼻腔をくすぐってくる湯気の立つシチュー。


 そこで、ウィードのマヌケにも特大な腹の虫が鳴き喚いた。


 その香りに刺激されたかのように、すぐさま反応するウィード自身の腹を抑えて顔が熱くなるのがわかる。

 その反応に、少女はくすくす笑い、


「食べていいよ」


 その言葉を聞いて、ウィードは手を合わせて、


「……いただきます…」


 恥ずかしさで死にそうだが、しっかりと食前の挨拶を彼女に向けて呟き、スプーンを手に取る。

 ゆっくり恐る恐る掬った白いトロミのある熱いシチューを口の中へと運んで、口内全体で味わい一言。


「んまい」

「どういたしまして」


 少女は、柔らかな微笑みでウィードを眺めて、彼女も食事を始めた。

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