平和になった未来で

空腹の走馬灯で夢を見た

 腹が減ったなぁ……。


 田舎町にある公園のベンチに寝転がって、空虚な空を見上げながら思った。


 ウィード・リンドル、16歳。

 ある一人の少女のように強くなりたい、と目標を立てて旅に出てから1年と少しが経った。

 そして、今の彼は金無し宿無し無一文。絶体絶命間際のピンチである。


 深く溜息を吐き出すと、とうに空っぽになった胃袋が、思い出したように音を鳴らす。

 それが中々に堪えた。

 まず働いて稼ごうにも、この状態では働くために動き出すことも出来ない。

 恐らく立ち上がった所で、足に力が入らずにそのまま地面と再会するだけであろう。

 そう考えて、虚しさに溜息をもう一度吐き出すと、腹が鳴って虚しさが更に増した気がした。

 もういっそのこと、このまま目を閉じて寝てしまえばこの空腹感を忘れるんじゃないか、と浅はかな事を思い付いて実行に移すために、ウィードは目を閉じる。

 そのまま眠る自分を想像して、自分の体に暗示をかけるように浸透させ、意識を落とす事を試みた。


 ◇◆◇◆


 少女が、公園のベンチに寝転がる少年を見付けたのは、たまたまだ。


 外はいい天気なんだし、と散歩に出て、何となく公園に立ち寄り、そのまま区切りのいいとこまで本を読んでいて、何かの音が聞こえて気付いただけ。

 音の鳴る方を見やると、少年がベンチに寝転がりながら大きな溜息を吐いて、お腹を鳴らしているのだ。

 その音が可愛らしくて微笑ましくて眺めていると、少年は目を閉じて動かなくなった。

 ピクリとも動かなくなった彼を見ていると不安になってしまい、読みかけの本に栞を挟まずに駆け寄る。


 そして────


 ◇◆◇◆


 大きく方を揺さぶられてる気がする。


 何だよ。人が寝ようとしてる邪魔をするなよ、ったく……。

 ウィードは、鬱陶しく感じた揺さぶってくる手を払い除けようと、口を開────


「大丈夫!意識ある…!?起きて…!!」


 右頬に熱と共に鋭い痛みが走ったかと思ったら、反対の左頬にも熱と痛みが迸る。

 その衝撃に、一瞬で意識を覚醒させられた。


「痛っ、ちょい…やめ、ぶ…っ!」

「キャアアア…生き返った……!!」


 頬を叩く手を止めようとしたら、さらに強く頬を打たれて、ベンチから吹っ飛んで………地べたと再会のキスをして、顔面スライディング。

 辛うじて保っていた意識の手綱が、遠退いていき、ウィードは気を失った。


 ◆◇◆◇


 深い深い懐かしい夢を見た。

 それは、2年くらい前の出来事だ。


 少年が住んでいた村に、流行病の予防薬を配る優しそうな人たちがやって来た。

 村人たちは、その行為に感謝して予防薬を口にした。


 そして、その日の夜から村人たちは少しずつ豹変していったのだ。


 人肉を噛み千切って喰らうバケモノへと。


 予防薬を配布した彼らは、善人の皮を被った悪魔だったのだ。


 そんな折、ある少女を筆頭にした5人組がやって来た。


 狂った村人たちは、獲物がやって来た、と狂喜して舌舐めずりをした。


 そして、彼女らに村人たちの狂気が襲い掛かった。


 少女たちは、村人たちに抗い、バケモノと成り果てた村人たちを、元の姿へと返したのだ。


 もう戻る事はないだろう、と内心で確信していた村人たちを。


 それだけでなく、彼らをバケモノへと変貌させた薬を手渡した悪魔を浄化して、退治してくれた。


 村人たちは、少女たちに感謝した。


 感謝されて頭を下げられると、少女は困ったように笑っていた。当然の事をしただけだよ、と言っていた。


 少年は、謙虚な人だと感じた。

 人々を救うその姿は強くて、笑うと花のように可憐な姿で、実力も功績も鼻にかけないで。


 少年は、その瞬間、少女に憧れた。

 強く可憐に速やかに自分たちを救って見せた少女に。


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