第三章

第三章

食事をしている雪子と舞。舞のほうが先に食べ終わり、雪子をじっと眺める。

雪子「どうしたの?」

舞「ねえおばさん。」

雪子「何?」

舞「おばさんってさ、マラソン大会出たことあるでしょ?」

雪子「ああ、どうしてこんなところに来たのかってこと?」

舞「うん。だって、マラソン選手の羽生雪子さんでしょ?」

雪子「名前は変えられないからね。信じられないでしょ?こういうところにいるなんて。」

舞「そんなことないよ。だって、きっとさ、つらいことがあったんでしょ?さっき、杉ちゃんが言ってた。みんなつらいことがあって、それから立ち直れないから来てるんだって。」

雪子「まあね、つらくなかったといえばうそになるわね。でも、信じてもらえなくて当たり前よ。あれだけのマラソン大会で優勝している人間が、こんな姿になって、こんなところに来ているなんて、なんという堕落だと思うでしょ。」

舞「思わないよ。」

雪子「え?」

舞「だって、つらいんだもん。」

雪子「まあ。」

舞「ほんとだよ。あたしは、家族とか学校とか、そういうので邪魔されたけど、一回、マラソン大会に出てみたかったんだ。やっぱり、名門の学校とか行ったの?」

雪子「私は行ってないわよ。日体大に行ったわけでもないし、専門学校に行ったわけでもない。ただ、偶然でて、一番を取っただけよ。」

舞「でも、何かしていたでしょ?」

雪子「ただ、走ってただけよ。大学で駅伝部に入っていたけど、その中の選考会だっていい成績で入ったわけじゃないわ。ただ、走りたくてたまらなかった。」

舞「続けられた秘訣ってある?私、何をやっても長続きしなかった。なんか怒りのようなものが出て、先生とかみ合わなくて、やめたほうが多かったんだ。」

雪子「それを言うなら、走るってのは向いてるんじゃないかしら。」

舞「向いてる?」

雪子「だって、走るってのは先生なんかいらないわよ。戦う相手は自分だけだもの。それに走った後の爽快感は、自分でやってみないとわからないしね。私は、それが気持ちよかっただけなのかもしれないし。誰かと比べられてるとね、自分がだめだと思っちゃうから、自分に難題を課して、それをクリアするのが楽しかったのかもしれない。」

舞「楽しい、、、?」

雪子「そうよ。まあ、まあ、私、何てかっこつけたセリフを言ってしまったのかしらね。今の発言はむかついたら撤回していいわ、私も、大した人間じゃないのにそんな発言をして、ばかげているかもしれない。」

舞「そんなこと言わないで!そう思えば走ることは楽しいの?それ本当?」

雪子「恥ずかしいわね。私の口からそんな言葉が出るなんて。私自身でも、私は何を言っているのか、はっきり言ってわからなかったわ。」

舞「でも、雪子さんが言うから本当じゃないかな。だって、マラソン大会で一番を取ったひとなんだから。私、雪子さんがマラソン大会で一番を取ったとき、まだ小さかったけど、」

雪子「あら、あなたおいくつ?」

舞「25歳。」

雪子「まあ、12年も離れているのね。私、37よ。こうなるともう、選手としての寿命は完全に終わりになってる年よね。」

舞「あのマラソンをやっていた時、私はちょうど13歳で中学生だった。雪子さんは、今37だから、25歳か。」

雪子「そうよ。私、スタートから遅かったの。今になってやっとわかって来たわ。」

舞「いつからマラソンを始めたの?」

雪子「17かな。高校で駅伝部に入ってからだから。大学も、レベルはそこそこだけど、駅伝部があるところにして。社会人になっても、マラソン続けたかったから理解がある会社で、給料もみんなマラソンに使ったから、貯金なんてすっからかんよ。」

舞「そうなんだ。やっぱり、それだけ努力したんだね。でも、なんでそんなにマラソンを続けられたの?」

雪子「一人ぼっちだったからかしら。」

舞「一人ぼっち?」

雪子「クラスでいじめがあって、どうしても自分に自信が持てなくてね。怒りに任せて走ってた。学校にいてもいじめられるだけだったから、走ることでそれを忘れられた。」

舞「じゃあ、私も、走れば自分に自信が持てるようになるかな?」

雪子「なんでそんなこと聞くの?」

舞「雪子さんが、本当にそういうことを示しているように話すから。現にその結果を出してるわけだし、私もそうすれば自信が持てるようになると思って。」

雪子「でも、私は人生失敗してるし。」

舞「でもさ、マラソン大会で優勝というのは誰にも代えられないじゃない。それをやってるんだら、やっぱりすごいよ。私もマラソン大会に出てみたい。どうしたら出られるかな?」

雪子「そうね、そのためにはいろいろ努力も必要だけれど、、、。」

舞「それだったら私、何でもする。私、一度でいいから、あの人達を見返してやりたいの、いじめられたんだったらそれがわかるでしょ?現にそういうセリフだって言ってるんだし。ねえ、私、これから毎日走るから、教えてくれない?私、何でもするから、マラソン大会に出てみたい!」

雪子「でも、私は教える資格など、」

舞「だからいいのよ!何もない人に教えてもらうほうが、より親近感もわくじゃない。私、教師と生徒という関係は嫌い。だけど、先輩に教えてもらうのはとっても好き!」

雪子「でも、舞さん、私は一つ大事なことが。」

舞「もう、もったいぶる必要はないわ。だから、お願いマラソンを教えて!」

雪子「そうね。やってみようか。」

舞「やった!」

舞の笑顔を見て、雪子は言いたいことがあっても言えなくなってしまった。

その日から舞は雪子をコーチとしてマラソンするようになった。毎日毎日、製鉄所の周りをぐるぐるぐるぐる走って回った。雪子は毎回タイムを計って、舞は自分で作った表に、そのタイムを記入しては喜んでいた。

雪子「驚いたわ。」

舞「何が?」

雪子「舞さんってマラソンの才能があるかもよ。今度、走ってみない?」

舞「走るって何を?」

雪子「これよ。」

と言って一枚の紙を差し出す。「田子の浦港マラソン大会」と大きく書かれている。

舞「私が、本物のマラソン大会に?」

雪子「そうよ。」

舞「でも、私が42.195キロも走れるかな。」

雪子「なんか、走れる気がするのよね。だって毎日毎日この製鉄所を25週も走ってるでしょ。これ、私計算してみたんだけど、ちょうど一万メートルくらいあるのよ。これを増やしていけば、42.195キロを走れる気がするの。それに、一万メートル走っても、びくともしないんだから、マラソンの才能もあると思うわ。私も、学校の周りを走ることから始めたんだから、おんなじことだと思うのよね。」

舞「でも私、素人だし、マラソンのことなんてわからないわよ。」

雪子「いいのよ。マラソンなんて、体さえあれば何でもできるスポーツよ。それさえあれば、90歳になっても走れるわよ。これは本当よ。高齢の方だって、マラソンをやっている方はたくさんいるじゃないの。」

舞「自信ないわよ。」

雪子「じゃあ、とりあえず、何かに出てみる?すでに毎日一万メートル走ってるんだから、簡単なイベントなら出てみてもいいじゃない?」

舞「ど、どうやって見つけるの?」

雪子「じゃあ、私が調べてみようか?」

と、スマートフォンを取り出して、ブラウザを操作する。

雪子「ほら、これだけの大会が開催されているんだから。」

舞「本当だ!」

そこには月ごとに行われる小規模なマラソン大会への参加者募集が列記されている。

雪子「この地元なら、これはどうかしら。沼津市愛鷹さくらリレーラン。このサイトからエントリーできるわ。距離は、自信がないのなら、一万メートルでどう?それなら腕試しのつもりでやれるんじゃないかな。」

舞「そうか、私やってみる。」

雪子「じゃあ、申しこんでみようか。」

舞「はい!」

二人、顔を見合わせて笑う。舞は、さらに練習に打ち込み、一日中走っていることさえある。


大会当日。

スタート地点に緊張した面持ちで立っている舞。雪子は観客席からそれを見ている。

係員「位置について、用意、スタート!」

号砲が鳴ったのと同時に全員スタートする。舞は無我夢中で走る。群衆をかき分けかき分け、遂にその先へ飛び出す。そのままスピードを保持し走り続ける。やがて彼女の周りには誰も寄り付かなくなる。これがどういうことを示すのか、舞は理解をすることもできずに走り続ける。

ゴールとなる競技場。雪子が固唾をのんで舞が入ってくるのを待っている。と、そこへものすごい歓声。一番目の選手が駆け込んできたのだ。その顔は、、、。よく見ると舞だった。係員が、ゴールのところに白いテープを張る。舞はそのテープのところへ、イノシシのように突っ込んだ。

雪子「舞さん!」

涙を流して、思いっきり拍手を送る。係員が彼女の体をタオルで包み、頭に花輪を乗せる。

舞「私、私、どうしたのかしら。」

どうやら、まだ何があったのか気が付いていないらしい。振り向くと、次々と選手たちがゴールする。前を見ると、、、。そこには誰もいない。

舞「これってつまり、私、、、。」

係員「優勝おめでとう!」

舞「ゆ、ゆ、ゆうしょう?」

係員「そうですよ。」

舞の目から涙があふれ出す。

係員「なんですか、気が付かなかったのですか?」

舞「はい、レース中は無我夢中で、、、。」

彼女の周りを報道陣が取り囲む。

記者「お気持ちを一言どうぞ。」

舞「い、い、いや、なんて言っていいかわかりません。ただ、ただ、今回は走らせてもらっただけで、本当に何もないのです。」

記者たちはそれをメモ用紙に書き込んでいる。

記者「しかし、初出場で優勝とは、、、。それに、10キロを40分を切って走ったとは、素晴らしい!何か秘訣はありますか?」

舞「何もありません。本当に何もないんです。」

記者「これから、様々な大会に出場してみたいですか?」

舞「ああ、田子の浦港マラソンに、、、。」

記者から失笑が上がる。

記者「そうじゃなくて、そんな素人のマラソン大会ではなく、公式なマラソン大会のことです。」

舞「そ、そんなのはとても、、、。」

と、そこに主催者らしき女性がやってくる。

主催者「優勝おめでとう。初めての出場で37分で走破したのは、なかなか例がありません。これから、市の代表として、様々なマラソン大会に出場していただきたいです。近いうちに、富士市内の駅伝大会もありますし、どうでしょう、出場していただきたいのですが。」

舞「でも私は、、、。」

主催者「いいえ、資格がないとかは関係ありません。」

声「マラソンなんて、体さえ健康であればだれでもできるスポーツよ。」

舞「やります!私が必要とされるのなら!」

主催者「どうもありがとう!この大会の誇りよ!」

表彰台。舞は、トロフィーをもって、堂々と台の上に乗る。観客席では雪子が涙を流しながら、それを見守る。大拍手の中舞は最敬礼し、

舞「今まで生きてきた中で本当に幸せです。応援してくれてどうもありがとうございました!」

と、少女のように朗誦した。

製鉄所。戻ってきた舞は、製鉄所の寮生からも拍手を受けた。食堂の調理員は、お祝いのためとして舞にショートケーキを焼いてくれた。

雪子「舞さん、おめでとう!」

舞「ありがとう!雪子さんのおかげよ。」

雪子「いいえ。あなたが、努力したから栄光をつかんだのよ。私は単に、アドバイスしただけ。あとはすべて、あなたの力だから。」

舞「雪子さんまで、、、。」

雪子「だって、本当のことだもの。」

舞「そうなんですか?」

雪子「そうよ。だから、もう、過去を嘆かないで、新しい自分になったら。」

舞「新しい?」

雪子「そうよ。学校では自信がなかったかもしれないけど、こうして自分の才能を知ったんだから。」

舞「雪子さん、、、。」

雪子「もう、そうやって実績がついてるんだから、変わるのはそう苦しくはないと思うけどな。自分がこれだけできるってわかれば。」

舞「実績、でも、まだ信じられないわ。」

雪子「それは本当にあなたが勝ち取ったものよ!それができたんだから、これからあなたに憧れるひともいることでしょう。そうすれば、もう、悪さはできないわ。それを考えておいてね。」

舞「そうか、もう、それだけの位置にわたしはいるということなのね。」

雪子「そうよ。」

舞「雪子さん、ありがとう!」

と、雪子に抱き着く。

翌日から舞は再びマラソンに取り組み始める。その練習は休みなく続き、彼女のタイムは少しずつ縮まっていく。

舞「ああ、これが私だ!」

走りながら思わず叫びたくなった。

舞「私は生きている!」

そう叫びながらさらに練習を続けるのであった。


数か月後。

一台の車が製鉄所の前で止まる。そこから、舞の母、浅村愛子が出てくる。

愛子「すみません。」

玄関の掃除をしていた水穂は、彼女の何か異様な雰囲気に驚く。

水穂「はい。」

愛子「浅村舞を呼んでいただけないでしょか?」

水穂「おりますけど、今マラソンの練習に行ってますが。」

愛子「呼んできてくれます?」

水穂「かまいませんけど、舞さんに何かありましたか?」

愛子「ええ、どうしても伝えたいことがありまして。」

雰囲気が、舞を連れてきた時とまるで違う。水穂は、壁にかかっていた時計を見て、

水穂「じゃあ、応接室で待っていてくれませんか。もうすぐ戻ってくると思います。」

愛子「そうですか。ではそうさせていただきます。」

水穂「どうぞこちらへ。」

と、応接室に通し、椅子に座らせる。

数分後、運動靴の音がして、舞が帰ってきたことがわかる。懍もやってくる。

水穂「舞さん、お客さんです。」

舞「お、お客さん?」

水穂「ええ、応接室に。」

舞「はあ。」

と、応接室のドアを開ける。

舞「失礼しますって、お母さん!」

愛子「舞、お願いがあるの。すぐにこっちに戻ってきて。」

晴天の霹靂だった。舞はしばらく呆然とする。

舞「いきなり来て何を?」

愛子「おばあちゃんが亡くなったの。だから、おじいちゃんの世話をしなくちゃならない。だから、舞にも働いてほしい。」

舞「なによそれ!おばあちゃんって、私が出ていったときは、健康そのものだったじゃないの!」

愛子「確かにそうだったけど、数日前に亡くなったのよ。お母さんの経済力じゃここの費用も払えないからもう帰ってきて。そしてうちのために働いて!」

舞「だって、私は港マラソンに、、、。」

愛子「そんなこと言ってる場合じゃないわ。おじいちゃんだっていろいろ不自由なんだし、伸子は卒業論文も控えてるし。」

舞「じゃあ、伸子に働いてもらえばそれでいいわ。私は港マラソンにでるのよ。もう、出るつもりなんだから、一日たりとも無駄にできない。帰るなんてするもんですか!」

愛子「伸子はまだ大学があるのよ。私だって仕事はあるし、おじいちゃんも世話しなきゃ。だから時間があるのは舞だけなの!」

舞「お母さんはずっとおじいちゃんの下僕なのね!お父さんはどうしてる?」

愛子「ずっと仕事をしているわよ。」

舞「それで何とかならないの?年寄りに手を出す時代じゃないわ。自分でやらせればいいじゃない!」

愛子「そうはいかないでしょ!」

舞「その先の言葉は言わなくていいわ!」

舞は怒りを爆発させた。

舞「世間体を気にして、私を理想の家庭を演技させるようにするなんてひどすぎるわ!私はやっとやりたいことを見つけたばかりなのよ!それを年寄りに持ってかれるなんてまっぴらごめんよ!それに、他の人に子供をなまけさせていると批判されるのがいやなら、私ではなく、他の人を使うとか、何とか自分で考えてよ!」

愛子「そんなこと言っている余裕すらないのよ!ここでは誰かが家族の世話をしなきゃ。そういうルールでずっと来てる。それを破るわけにはいかないのよ!」

懍「まあ、感情で責め合ってもしかたない。一体おじいさまはどのような状態なのですか?脳梗塞とかで歩行不能になられたとか?」

愛子「そのようなことではないのです。ただ、慢性の肺気腫を患ったことは確かですけど。」

懍「症状はどれくらい?」

愛子「はい、もう、咳をしだすと止まらないのです。そして、、、。」

舞「私が代わりに言ってあげます!母は、祖父に絶対逆らえない!祖父は、家を支配しているような人物で、自分の体が動かないと家族を巻き込んで嘆くのです。私も、パソコンで作業をしていたり、最新のテレビを買ったりしたかったけど、操作ができないからって、怒鳴りだして、挙句の果てにたくさんいる老いぼれた兄弟たちを味方につけ、自分の思い通りにさせる!私も、テレビゲームとかほしかったけど、祖父が操作できないから買ってもらえなくて、本当に悲しい思いをしました。それが原因で私は学校でいじめられたんですよ!生徒には時代遅れとののしられ、教師には甘えっ子と差別させられ、やりたいことを忘れて無意味な勉強に縛り付けられ、私は人生を奪われた!家族のだれも、それについて議論したりしてくれたことはほとんどありませんでした。そんな実家に戻ってやろうとはさらさら思いませんね!」

愛子「でも、もう、それどころじゃなくなったのよ!もう、お母さんだけじゃ介護はできないわ。」

懍「認知症にでもなったんですか?」

愛子「そうではないんですが、土地が許さないんです。私たちの居住地は、年寄りに尽くす姿勢が絶対的な美意識とされていますから、逆らえば村八分なのです、、、。」

懍「そういう土地もありますね。」

舞「お母さんも結局、おじいちゃんの娘に過ぎないのね!私は何があっても帰らないわ!」

愛子「舞!」

と、舞を平手打ちする。

愛子「そういう人生もあるのよ!準備ができたら迎えにくるから、待ってなさいね!」

舞「これからやっていこうとするときに、なんでよ!」

懍「人は突然亡くなりますからな。おばあさまは、どうされたのですか?」

愛子「わかりません。その日は朝起きて、掃除をしようとしたら廊下に倒れて死んでいました。」

懍「何か持病があったとか?」

愛子「ええ、最近までうつ病になってました。」

懍「うつ病?」

愛子「ええ。舞を、この施設にやったのは、父と母だったのです。舞にとっては祖父と祖母ですが、母は、これを非常に後悔していたようで、、、。父も、舞にとっては頑固であまり好かれなかったようですが、内心は気にしていたんじゃないかと思うところもあるので。」

舞「そんなの迷信よ!逆に私がいなくなってすっきりするといったのはあいつでしょ!」

懍「まあ、確かに高齢者にとって、後悔は命取りになる事例はありますね。」

愛子「そうですよね!だから帰ってきてほしいの!舞!あなたがいてくれたら、お母さんだって本当に助かるんだから!本当は今すぐ連れ戻したいとこだけど、支度もあるでしょうし、手続きもあるでしょうから、私、明日迎えに来ます。舞、マラソンはもう優勝したんだから十分にやったでしょう?だからこれからはお母さんたちを助けて!」

舞「いやよ!帰るなんて!」

愛子「舞、お願い!うちをたすけてちょうだい!」

懍「二人とも、落ち着きなさい。感情でぶつかり合うのはいけないことです。それほど醜いものはありません。じゃあ、こうしましょう。すぐに結論を出すとかえって悪い事例を招きかねませんから、しばらく時間を差し上げます。その間に二人とも結論を考えて、三日たったらここにもう一回来てください。」

愛子「わかりました。先生、ありがとうございます。」

懍「いえ、大したことはありません。とりあえず、これでお開きにしましょう。舞さんは居室に戻って、お母さんは一度ご自宅へ帰ってください。そして、もう一度、この場へ来てください。」

愛子「わかりました。そうします。先生、お見苦しいところを見せてしまってすみませんでした。ごめんください。」

と、カバンをもって、そそくさと帰っていった。舞はその場に崩れ落ちた。そばにいた雪子が真っ青な顔で舞に近づくと、

舞「裏切り者!」

と怒鳴りつける。

懍「舞さん、雪子さんが仕組んだわけではありませんよ。」

舞「殺してやるわ!あんたが、母に告げ口でもしたんじゃないの?」

雪子「ち、違うわよ。」

舞「どもるってのはやっぱりそうなんだ!この!この!」

懍「二人とも!」

一瞬沈黙。

懍「怒鳴りあうのなら外でやってくださいね!」

雪子「話しましょう。萩の間で。」

舞「わかったわ。」

二人、萩の間へ移動する。水穂はそれを心配そうに見るが、懍はなんでもないという顔をしている。

懍「人生とは何が起こるかわからないものですな。」

水穂「え、ええ、、、。」













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