番外編

番外編1)勇者講習会: この先生きのこるために

※第5話でのみすぎがなし崩し的に勇者候補講習に参加した際に見た

映像についてのレポートを手に入れたのでこちらに公表したい。


*************


題字を見て嫌な予感しかしなかったが、とりあえず中身を見てから考えよう。

どうせ逃げられないし、何事も体験しないでダメ出しするのはよくないからね!

気を取り直して映像を見ることにする。


若い男性のナレーションで映像が始まった。

「わが国で選抜された勇者候補たちは、まず勇者候補協会での登録が義務付けられているッス。

講習会で発行される勇者パスを持参していただき、はじめて登録となるッス。

この際に勇者候補としての担当パートの割り振りがありますが、今までの経験や資質で決定されるッス。」


どんな職業があるのかそこ説明しようぜ、と隣に座っていたおっさんが小声で突っ込みを入れていた。ナイッス。

妙にクセになる口調だ。


「勇者候補は必ずといっていいほどパーティーを組んで行動することが多いッス。

強い敵を倒すには皆で協力し合うッス。旅は道連れ世は情けッス。」


ちょっと離れた窓側の席の頭巾を被った男性の机が急にガタガタ揺れ始めた。こ、これは貧乏ゆすり…!

きっと最初からぼっちを極めてる場合はどうすればいいんだぁぁぁと心の中でのた打ち回っているのだろう。

切ない。


「大抵は、協会の掲示板や勇者パス提携の食堂で仲間募集をかけるッス。パーティーの人数に特に規定はないッスが、

勇者パスの適用の上限が自分を含めて4人なので、4人パーティーを結成することが多いッス。イケてる募集の一例を紹介するッス!」


『当方光の勇者候補、戦士・プリースト・魔法使い急募。プロ勇者目指しています。

技術よりやる気のある人を重視します。ある程度のレベルを求めますので、選考に落ちても恨まない方がいいです。

クエスト報酬はリーダーが代表して管理し、メンバーの貢献度に応じて配分します。ヤンキー不可。 ラブりん(31)』


『パーティーを探している。当方は前世100枚の羽を持っている天界の使者だった者だ。いにしえの古城の戦いを覚えている同士はいるか。過去世の記憶を持ち、白き魂の紋章を持つ者は集え。世界が次元上昇する時は来た。黒衣の騎士 三郎(48)』



「なるべく周りにわかりやすく、かつオリジナリティ溢れる募集の方が人目を引いて良いメンバーが集まってくるッス。

これは一例だから気負わずに実践して感覚を掴んでいくッス。」


溢れすぎで地雷臭しかしないんだが、いいのかこの募集で。

しかもいにしえと古城被ってるし。なんか頭痛が痛くなってきた。


*****


「パーティーの組み方の次は、戦闘についてッス。」


デフォルメされたアニメーションが映される。城の作ったアニメの割には可愛い。

斧を持った大柄なイカツイ男性と、パンチラ上等と言わんばかりの異様に布面積が小さい改造制服を着た

14、5才程度の黒髪ロングの童顔の女の子が映し出される。普通ヘソ出しの制服とか無いから。

産官合同のビデオにも萌えが進出していて何か時代を感じる。


「ヒール!」

女の子が呪文を唱え始めると彼女を中心に魔方陣が浮かび上がりふわりとした風が巻き上がる。

ピンクのチェックだと教室の隅の方からヒソヒソと声が上がった。

円から放たれた光が仲間を包み込み、戦士の傷がみるみるうちに塞がっていく。


「呪文の取得に迷ったら、まずヒールを選ぶッス。

これは小学校程度の魔法の知識さえあれば誰でも習得自体は可能ッス。」

便利な世の中になったなー。



手当てが終わって一息という矢先、女の子の背後からイノシシ型のモンスターが飛び出て来た。奇襲だ。

体当たりを受けて女の子の身体が弧を描いて宙に浮き、どさりと落ちた。

少女の敵と言わんばかりに戦士が大声を上げながら獣に向かって突っ込んで行き、すれ違いざまに水平に斧を振りかざし獣をなぎ払う。

そしてジャンプ、イノシシの体を一刀両断だ!

着地をキメる戦士の後姿とともにイノシシの首が血しぶきを上げて吹っ飛んだ。

強い!かっこいい!

イノシシを倒した戦士は、倒れた女の子の方に向かって近づいていった。

あれ、なんだか画面に肌色が多い気がするぞ。モンスターの死体のモザイクのせいかな?

違う…!

戦士の鎧の後ろ半分が紐しかないほぼ裸の姿だった。

うわぁ。いくら低予算だからって、そこケチらなくても。

斜め左からoh…というため息が聞こえた、気がする。


続けて、戦士が女の子に手当てをしているシーンが映った。

「らめぇ!もっとぉ…!もっとちょうだい!こんなんじゃぜんぜん足りないんだからぁ!!!!」

上気した顔をしながらちょうだいと叫ぶ少女の声が森にこだましたところで画面がフェードアウトした。

明らかにヤバい薬だろこれ。


「薬草やポーションも初心者のうちはいいッスが、安いものには偽物も出回っているッス。

安易に使いすぎると回復以外にも別の有害成分が含まれていることがあったり、

薬効に対して耐性が出てきたりすることもあり、要注意ッス。」


うーん、段々旅に出るのが怖くなってきたゾ☆



*****



「戦闘のチュートリアルはこのくらいにして、次は状態異常についての説明をするッス。

毒・麻痺・呪い等のいわゆる状態異常。これらは業界用語でバッドステータスといわれる状態ッス。

バッドステータスの治療はプリースト職の腕の見せ場ッス。


たまに石化などの一介のプリーストには手におえないようなものもあるッスが、病院での解呪で大抵治るので心配いらないッス。」


いや全身像で病院まで運んでくるのまず無理だろ!というか石化してると言っているのそれ明らかにゴーレムだろ!

映像を見ている全員が心の中で突っ込んだ。


「あとちょっとなので退屈かもしれませんが、寝ないでお付き合いくださいッス」



*****



画面が切り替わり、モンスターとの戦闘で敗走するベテラン勇者パーティーが大きく写される。


なんとかぎりぎりのところで逃げたので、精も魂も尽き果て、今にも倒れそうだ。

あそこに明かりが見える…村だ!みんなあそこまで頑張れ!

村人の姿が見える、助かった。最後の声を振り絞って勇者は言った。

「た、たすけて…くれ…。」

村の老人は勇者パーティーに気がつくと、大声で叫んだ。

「武器を持った男じゃ、よそもんじゃ。怖いのぅ、怖いのぅ。」

「た、たすけて…くれ…。」

「よく見たらぼろぼろじゃのう…山賊かもしれんのぅ。怖いのぅ、怖いのぅ。」

気がついたら、鋤や鍬を持った男衆に囲まれていた。

次に出た言葉は勇者達の希望を打ち砕くような言葉だった。

勇者は自分の耳を疑った。

先程まで怯えていた老人は急に笑顔になって叫んだ。

「首級はあそこにおるぞ!!!狩れー!奪えー!一緒にいる女は生け捕りじゃー!」

村人による落人狩りだった。

抵抗むなしく、どさりと前に倒れる勇者。

BAD ENDという赤い字幕がでかでかと現れ、悲しい音楽が流れた。

なんかエンドロールまである。協力、しま村。

会社の取引先だった。知りたくなかった!



「何の備えもないまま旅に出るとこのように悲惨な末路を辿り、再びふるさとの地を踏むことなく終わることもあるッス。」


若干トラウマになったわ!



*****



会場がブルーな気持ちに包まれている中、ピンポーンと音が鳴り補足の画面に映った。

「任意ですが、勇者候補協会助賛金を毎月払っていただきますと、

上限はありますが被害度に応じて日額5000ピカリ程度の保証が支払われます。

適用範囲は、クエスト中における病気や怪我、盗難、冒険者間のトラブル、

馬車等の乗り物による事故、本人による軽微な過失などです。

地震や竜巻などの天変地異、魔族・ドラゴンクラスの上位モンスターとの遭遇で発生する被害は免責とさせていただきます。」

商魂逞しいな。


「最後までお付き合いありがとうッス。これで映像は終わりだけど、君たちの冒険はまだはじまったばかりッス!がんばるッス!」


なんだよその少年誌の打ち切り漫画みたいな締めゼリフ!

がんばれないッス!!


もう、お腹いっぱいだ。

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