第30話 のみすぎ、4人目のメンバーに出会う
きぼうの太陽についたのは昼前くらいだった。
あのあとセンチな気分に駆られて家でアルバムとか見てたのがいけなかったのだろう。
輝さんに話もあるし、さっさと手続き終えて店に行かないと。
えっとまず1つ目ね。
職業クラス受付、あったここだ。
「勇者カードをお願いします。」
出したくないけど、出した。
「ハゲマントさんですね。よ、ようこそきぼうの太陽へ。」
職員の案内の声が尻すぼみになり、肩が震えている。だから出したくなかったんだ。
「こちらは職業クラスの受付となっています。
先日受けられた適性検査の結果と合わせますと
そうですねー、適正はその他ですね。」
ハイきましたー、その他!
「具体的にはなんの職業なんでしょうか。」
「えっと…」
職員が口ごもった。
気を取り直して2つ目に行こう。
私には時間がないんだった。
パーティ登録。
「勇者カードをお願いします。」
渋々出した。1つ目と同じ反応が返ってきた。辛い。
「よぉハゲマン、昨日は助かったぜ。」
ラフな感じで近づいてくる男がいる。肉色忍者だ。
助けてもらってはいるけれど、こいつとは正直組みたくない…!
「あら、お知り合いですか?」
職員いいタイミングで気付くな!
「いえ違いま…」
「そうなんですよ。こいつとパーティーでお願いします。」
えー。
「最初は知っている人同士で組むのがいいと思いますよ。登録しておきますね。
ハゲマントさんと」
「神速のモザイクだ」
なにその名前…
あっ!よく見ると全裸じゃなくて股間にモザイクがついてる!!
おまけに生き物みたいに蠢いてる。キモッ!
質の悪いマイナーチェンジやめなよ。
「王様から貰ったんだ。」
やっぱりあの王ロクなことしないわ。
にしても4人パーティかぁ。
ひとりはウチの穀潰しカエルを入れるとして、あとひとりはどうしようか?
ガイドブックによれば確か宿決めてからでも募集かけれるんだよね
時間も迫っているし、まずは宿登録だけ済ませちゃおうかなぁ。
「ところで宿ってもう決めてる?」
私は変態モザイク野郎に話を振った。
「速さを追求する俺に留まるところなどない、わかるだろ?」
わからん。
最後の宿登録のコーナーについた。
職員のリアクションについては、もう聞かないで欲しい。
「そちらですと、国民登録宿舎:くたびれ荘、になりますね。」
なんだよそのネーミング、輝さん!!
「本当にその、くたびれ荘で合ってるんですか?」
私は脱力しながら職員に質問した。
「それであっておるぞい。わしもそこを希望したいんじゃが。」
背後から不意に老人の声がした。
老人は明らかに身なりのよさそうな上品な格好をしていた。
「こちらはバリアフリーの物件ではありませんが、よろしいでしょうか?」
職員が少し困ったように返事をした。
「構わんよ。そこは昔から懇意にしている宿での。」
バリアフリーよりもやっぱり勝手知ったるなんとかって方が気持ちも落ち着くよね。
横で聞いていた私はうんうんと頷いていた。
「ところでお嬢さん方、同じ宿でしたらよかったら一緒に宿まで行きましょうか。
旅は道連れ、世は情けといいますじゃろ。」
丁度輝さんには用事があったので、一緒に移動することにした。
老人の名前を聞くと、健さんでいいと言われたので
これから健さんと呼ぶことにする。
フレンドリーで助かる。
若いころは訪問販売や実演販売で鳴らした営業の達人だったそうだ。
奥さんが亡くなり息子のところに身を寄せたのだが、
二世帯住宅にした瞬間に家族の自分に対する扱いが変わり
それに嫌気がさして勇者候補登録をしたそうだ。
「最期くらいは自分で好きに決めたいからのう。」
闊達な爺さんだ。
でも無茶はしないで欲しい。
輝さんのいる、BAR・不毛地帯が見えてきた。
相変わらずのボロさだ。
準備中という札がかかっているが、扉をあけて中に入る。
「輝さんいるー?」
「おう、美杉かどうした?こないだのツケ分払いにきたのか?」
仕込みの手を休めてこっちを向きながら輝さんが言った。
「えっ、あのクソカエル払ってないの!?」
「おう、8500ピカリだな。」
「はーい。(泣)」
素直にお金を精算した。
あの時会計確認したら7000ピカリだったのに
あの腐れ魔族勝手に注文増やしてやがる…!
後であっついお灸据えてやる!!
私は固く心に誓ったのだった。
「ところで輝さん、私今日は別件で来たんだけど。
宿登録、輝さんのところにしようと思って。お願いしてもいい?」
「おう、そうかそうか。で、後ろの2人も一緒でいいのか?」
「俺は飯にありつけれるのであればどこでも構わないが。」
このモザイク忍者が輝さんの店の営業妨害にならなければいいんじゃないかな。
「輝さんや、久しぶりじゃの。」
「クラーケンの旦那、久しぶりだな。」
く、クラーケン!?
私がぎょっとしたような顔で見ていると、輝さんは笑いながら
「倉田健一、略してクラーケンだ。」
あだ名か!
「輝さん、あとちょっとで開くんじゃろ?このあとちと飲んでいきたいんじゃが。
これからくたびれ荘に世話になるからの。お嬢さんたちも一緒にいかがかの?」
店にかけてある時計をみると、あと15分ほどで営業になるくらいの時間だった。
「私はさっきので財布がぺたんこになったので今日はちょっと…。」
「ハゲマン、お前年上からの誘いは無下に断るもんじゃないぞ。」
外見の気遣いすらできない奴に気遣いを指摘されるなんてなんかムカつく!
「まぁまぁお嬢さん、ここはわしがなんとかするから。」
なんとかする…つまり奢ってくれる?
ま、まぁ奢りなら仕方ないか!
「ご一緒させていただきます!」
「何をご一緒するでケロか?貴様にだけはおいしい思いはさせないでケロよ!
オヤジ、今日はハイボールだ!」
飲み会の気配を感じ取ったのか、どこからともなくヒキニートが現れた。
なぜわかった。
だがそんなことよりもまずこれが先だろう。
「お前には前回のお礼をしなくちゃいけなかったなぁ。」
満面の笑みを浮かべながら私はヒキニートの首根っこをつまんだ。
「な、なんのことケロか?俺様知らないケロ!
貴様の冒険とやらについていってやるからそこはチャラにするでケロよ!!」
とりあえずグーで殴っておいた。
「お前ら注文は決まったか?」
輝さんが店の表札を「開店」にしながら声をかけてきた。
「宿の確認?今日飲むし明日でいいんじゃね?」
目の前の誘惑には抗えないよね!
「よーし今日はパーティ結成記念だからちょっと高い酒頼んじゃうぞー♪」
人の奢りだからといって遠慮はしないぜ!
「飲み物はみんな生でいいケロか?」
「わしは冷じゃ。今日は暑いからの。」
「枡酒に塩とはジジィできるな。」
奢ってくれるという一言のせいからか、健さんは既に飲み会の輪に馴染んでいる。
さっき会ったばかりだというのに。
朝起きたらきっとこの人もパーティに入っているんだろうな、勝手に。
まぁいいや、4人目決まってなかったし。
すきっ腹に入れたビールがシュワシュワと全身に駆け巡り、
その爽快さからもうどうでもよくなっていた。
「私も2杯目は冷にしようかなー。」
「注文も速さが命。お前ら早くしろよ。」
まともそうなことを言いながらおしぼりで全身を拭くな全裸忍者
「そのおしぼりはワシの…」
呆然としながら見つめる健さんの手から
ポロリと煙草が落ちたのをサッと灰皿でキャッチする。
あぶないあぶない。
「俺様は一途だから炭酸一択だケロ。ビール最高だケロ!」
「と言いながらハイボール頼もうとしたのを私は見逃さない。」
「このアマァ…揚げ足を取れるのも今のうちだケロ。
今日こそは酔いつぶしてものすごく恥ずかしいことをしてやるでケロよ。ゲ~ッゲッゲッゲ!」
「飲む前から既にクライマックスだなお前ら。あ、すみませーん、ビール3つと枡酒ひとつで。」
「おしぼりも追加でひとつお願いします。」
「丁度2杯目も揃ったようだしいきますか」
「「カンパーイ!」」
俺たちの飲み会はまだ始まったばかりだ!
この飲み会の経費が宿のツケになっていることを知るのは、また別のお話。
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