第28話 のみすぎ、休職宣言をキメる

会社に着くと同僚が受話器を握りしめながら泣いていた。

きっと売れもしないノルマをかけられた

浄水器の営業の送電をさせられていたんだろうそうだろう。


「遅くなってすみませーん。」

そそくさと自席につき、メールと書類のチェックを始める。

よしよし朝イチの波は周りが処理してくれていたみたいだ。

上司の牧さんは…と。あ、空いてるっぽい。チャンスだ。

「牧さん、到着しました。遅くなってすみません。」

「のみすぎさん、来てくれてよかった。皆にお礼いっておいてね。」

「はい。ところで牧さんお話があるんですがこのあとお時間よろしいですか?」

「今でもいいよ。会議室に移ろうか。何かあった?」

第一関門クリアだ。


「実は…」

会議室に着いたところで早速、牧さんに勇者候補証明をそっと出す。

「これって…」

「はい。なので出社できなくなります。」

「いやいやいやいや。わかるけどね今の状況わかってるよね?」

わかっているさ。今月もあまりのブラックっぷりに

飛んだ後輩がいたのくらい知ってるよ。

でもね、それとこれとは話が別だよ牧さん。

「出社できなくなります。」

念押しのように繰り返した。

ついに言ってやった!!!

今日はホームランだ!


勇者候補照明を上司に渡し、業務に戻ることにした。

「会社に来れなくなる」と上司には伝えた。

辞めるとは敢えて言ってない。未来の自分のために休職フラグも立てたつもりだ。

さて、あとは休職になるか退職になるか。

まぁきっと退職扱いだろうけど。

それにしても牧さん、妙に素直だったな。

あの人、人事に渡さないで書類自分でずっと持ってそうな予感がする。

そこさえなければいい人なんだけどなぁ。

後で人事にフラグ立てて帰ろう。


いかんいかん、作業が思ったより進まない。

トイレに行くふりして人事に行って裏取って定時退社キメよう。



今日も一日が終わった。

定時ダッシュをきめようと玄関を出たその時…!


「よぉ」

へ?

全裸忍者が目の前に立ちはだかっていた。

昨日の今日で照れくさいというか、なんとなく気まずい感じがする。


「ななななんでいるの!?」

「忍者だからな。」

「てかどうしてウチの会社わかったの!」

「忍者だからな。」

全く理由になってないから。

「今日はお前に頼みがあって来た。」

「一応聞くだけ聞こうか。」

「金貸してくれ」


金の貸し借りは知り合いとは絶対にするなと教えられてきたが

昨日助けて貰った以上、強気には出れない。


「いくら」

「1万ピカリ」


お助け料として諦めて渡してやった。

「サンキュー心友。」

お礼のあまりの軽さに

あ、これは絶対返ってこないパターンだと私は察したのだった。

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