第27話 のみすぎ、謎の着信に震える

階段を上って部屋のドアを開け、電気を付けてからベッドに

ドサッとうつぶせになる。はー散々な目に遭った。

寝る前にケータイでもチェックするか。

着信アリ×20件

フ、ファー!?

全部知らない番号からで、段々着信のインターバルが短くなってきている。

おいおい一体何のホラーだよ。

誰も見ていないのに洋画の俳優のような動きをしてしまう。

最後に着信があったのは3分前か。

履歴を確認しながら、思いつく理由を一つづつ思い浮かべていく。

借金もしてないし、いかがわしいサイトを見てもちゃんと履歴こまめに消してたし

特殊詐欺にも引っかかってない…と思う。おそらく。

そもそも夜中だよね今。

てか誰、これ…。超怖いんですけど。

やってもどうにもならないことはわかっていたけど、布団を頭まで被って震えた。

と、同時にケータイも震えた。

もしかしてという不安が心をよぎったが、意を決して画面を覗き込む。

またあの番号だ…!!

取ろうか。いや変な人だったら怖いから取るべきじゃない。

取らなかったらいつまでもわからないままなわけで、でこの恐怖から解放されない。

わかってるけど怖い。

ケータイの前で唸りながら画面を眺めていると、留守電に切り替わった音がした。

「要件のある方はピーと鳴りましたらお名前とご用件をお願いいたします。」

お決まりの無機質なアナウンスが流れる。

「オレオレ。あのあと口直しのラーメン誘ったのにお前無視かよ。

来ると思って2人分頼んだのによぉ、お前来なかったから2人分食べたじゃん。

そしたら腹がいっぱい過ぎて苦しくて素早さが下がるじゃん。

おまけに財布の中身が足りないから逃げるじゃん。

大変な目に遭ったからこの次はメシおごってくれよな☆」


ガチャ。

ツーツー


うぜぇ。

「うざいケロな。誰?」

「さっきの無修正野郎。」

「あぁあの全裸忍者か。食い逃げとはやるでケロな。」

今まで色々ありすぎて、最早突っ込む気力もなかった。

もう遅いし明日も会社だし寝るか。

はーつっかれたー。




「うっわヤバい寝すぎた!!!」

時刻を見ようとケータイを確認するとスヌーズ状態のままで震えている。

8時半だった。

始業は9時、最寄駅までのバスは既に出てしまっていて次の便に乗ると

確実に遅刻する時間だ。

仕方ないタクシー使うか。

とりあえずまずは会社に電話だ。

プルルルル、ガチャ

「はい、人生の勝利に価値をプラスする有限会社ビクトリープラス 牧です。」

明らかに怪しい社名だろう。予想されたと思うが正解だ。

テンプレ通りのブラック零細企業だ。

無駄に創業と残業が長いのが特徴だ。

あと朝礼での社長の話も長い。

「牧さん、酒野です。すみません、お腹痛くてバス乗り過ごしてしまったので遅刻します。」

「のみすぎさん大丈夫?わかったよ。気を付けて来てね。」

牧さん優しい。この人が上司で本当に良かった…!

「はい、1時間後には到着できると思いますのでよろしくお願いいたします。

失礼いたします。」

ケータイ越しにも関わらずお辞儀をしてしまう。社会人の悲しい性だ。

ガチャ、ツーツー。

電話が切れたのを確認して終話ボタンを押す。

さてあとはタクシーを呼んで、っと。

乗る前にちょっと時間あるからそこのコンビニでお金下ろして行くか。

タク代なかったわ。

コンビニで飲み物とグループの皆に配るのにチョコレートを買いお金をおろす。

何度このチョコレートに救われたことか。

女性職場での菓子は命綱と同時にお守りの役割も果たす。

お守りといえば、この候補証明、念のためにコピーしとくか。

あとは景気づけに…。

おっと、タクシーが来たようだ。

「都町1丁目まで。」

「あいよ」

私はタクシーに乗り込むと鞄の中にしまっておいた勇者候補証明を取り出してじっと見る。

今日はきっと長丁場になるぞ。

だって、会社辞めるって言うし。

この書類を出したところできっと休職なんて甘いことなど絶対ない。

一応候補証明は公文書だけど、人手が足りないからという理由で

十中八九却下されるだろう。

そもそも簡単に辞められるかすら怪しい。


だって弊社だから!

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