第26話 のみすぎ、家に帰る

あのあと、飲み屋に置いてきたカエルがなぜか鞄の中に入っていたり

知りたくもなかった勇者候補の斡旋所の裏話を聞いてしまったりと

タクシー内でちょっとした事件はあったが、そんなものはただの前哨戦だ。

私にとっては家に入って母に見つからずに部屋まで行く方が真のミッションだった。


ガチャ。家の鍵を開けてそーっと玄関から部屋に向かう。

皆が寝ているから静かに入らないと。報告は明日かな。

「遅いんだけど。」

ドキィ!!

心臓が口から出そうになるのをグッとこらえながら足を止める。

早速見つかった!!この声は超怒ってる…!

「こ、これはですね…」

しどろもどろになりながら状況を打破しようと言い訳を試みる。

「敵襲か?俺様は助けないから一人でせいぜい頑張るケロ。」

頼んでもいないのに余裕ぶっこいたセリフが返ってきた。

これは火に油を注ぐパターン…!!


「ところであんた生臭いわよ、どうしたの?」

「えっ?」

「鞄からドブの臭いがするわ。ちょっと貸しなさい。」

「いや家族でもプライバシーって大事だから!」

「アンタお母さんを誤魔化せるとでも思ってんの?いい根性してるわね。」

母が鞄をもぎ取ろうと思い切り取っ手を引っ張る。

「も、もっとソフトに頼むでケロ。揺れがウプッ」

「えっ、ちょっと大丈夫?」

母から鞄をガードする。

「いいから素直によこしなさい、お母さんが洗濯してあげるから」

母が負けじとグイグイ引っ張る。

「いや、自分のことは自分でやるから大丈夫だし!」

引っ張り返された鞄をもう一度ガードして抱え込む。

「あとで水あげるからもうちょっと我慢しなさい、いけるよね?」

「で、出るケロ…」

「いやぁぁぁぁ!中はだめぇぇ!外に出してぇぇぇ!!」


このあとめちゃくちゃ掃除した。



あらかた片付けをしてダイニングに戻ると時計は既に深夜の1時を回っていた。

私の鞄に中田氏とはいい根性してんなこの両生類。

横で始終キレながらも母は片付けを手伝ってくれたが、

その間に今日の出来事を根掘り葉掘り聞かれたのは言うまでもない。


「へー、魔族なのー。魔族って基本金髪碧眼高身長のイケメンよね。

アイドルユニット・もぎたてフレッシュのルシファー君みたいなのがいっぱいだって

堕天使倶楽部でやってたわよ!」

それはテレビの見過ぎだ。

そして驚かないとはさすが私の母。王様相手にメンチ切っただけのことはある。


「母殿、鋭いケロ。実は訳あってこの姿になってしまっただケロよ…。」


(絶対嘘だ…!)

おい、という気持ちでカエルを小突いた。

続きを催促されたと思ったのかヒキニートは嘘に嘘を重ね始めた。

どうするつもりだ。

「ふむ。俺様は魔界のとある貴族の血を引くものだケロ。

その呪いを解くためには腕にオタマジャクシの紋章を持つ清らかな乙女からの

真実の愛とキスが必要なのだケロ。」

(清らかな乙女って幼女なんだろうなぁ…こいつの場合。)

それにしても大きく出たな。どう回収するつもりだ。


「もう眠いから明日の朝でもまた聞くわ。

アンタこれ以上寄り道して帰ってきたら家にチェーンかけるから覚えておきなさい。」

「は、ハイ…スミマセン。」

「どうもこれからご厄介になるでケロ。俺様朝はパン派なのでよろしくケロ。」

「何ちゃっかりアピールしてんだよ!」

「ヒキニートさん、呪いが解けるまで大変かもしれないけど頑張ってね。」

寝室に向かう母を見送りながら

「母殿はわかっている御仁だな。貴様もよく見習うようにケロ。」

「ど の 口 が そ れ を 言 う か 。」

カエルの両頬を掴んでよく伸ばしながらダイニングを後にした。

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