第21話 のみすぎ、BAR不毛地帯へ足を踏み入れる
「ほらあったあった、アレだ。」
「ヴェェェ、、この汚い店に入るケロか?
貴様の生き物としてのセンスを疑うケロよ。」
王宮や役所、駅から徒歩15分くらいの微妙に離れた住宅街の中にひっそりとある窪地にそれはあった。
築40年程度のボロ屋敷のような店、かろうじて擦り切れた看板から
BAR・不毛地帯と読める。
年季が入ってドアの立て付けが甘くなっており、中から光が漏れ出ていた。
中からの光で地面が濡れているのがわかる。
おおかた打ち水と称して昨日の客が店の前で催したゲロでも洗い流したのだろう。
「本当に入る…ケロか?」
ヒキニートがこちらを不安げにチラチラと見つめてくる。
店と交互に見るな。
ガラガラ
無視して店のドアを開けた。
「あっ、待つケロよ、俺様はここに入るなんて一言もぉぉ!」
ハッピーアワー半額だけあって、まだ週末でもないのにBAR・不毛地帯は
既にほぼ満席だった。
開店13時、閉店26時と営業時間が長いこと、またノーチャージなことから
常連たちのたまり場となっている。
「よぉ美杉、よくきたな。俺の横だったら空いてるぞ。」
マスターの輝彦(通称:輝さん)が頭を光らせながら手を振ってきた。
呼ばれた席に腰掛けるやいなや
「輝さん、生中!」
「俺様も生中だケロ!」
速攻でビールを注文する。
「おう、生中2つな。つまみは何にする?」
「今日のオススメは?」
「今日はな…」
「マスター、男の海藻サラダ!」
「ニンニクの素揚げとだし巻き、あとはポテトフライで!」
他のテーブルから注文が続々と上がった。
「おめー髪の心配するならよ20年前から頼んどけって。海藻サラダ1つな。
ほかには?」
「ハゲがハゲって言うな!」
輝さんに髪を指摘された常連のオヤジが笑いながら返す。
「そっちの団体は…ニンニクの素揚げとだし巻き、あとはポテトフライだな。
俺は一人だからよ気長に頼むぜ。」
「悪いな美杉、そこの黒板に書いてあるから注文決まったら教えてくれ。」
そう言うとマスターは厨房に向かっていった。
しばらくして
「待たせたな。」
目の前に勢いよく生中が置かれた。
これですよこれ!
キンキンに冷えたビールジョッキから水滴が滴る。
「とりあえず乾杯ケロ!」
「何にかわかんないけど!」
勢いよくグラスをぶつけ合い、それから喉を鳴らすようにビールをあおる。
ビール:泡=7:3の黄金比、ふわとろな泡のクリーミーさ、
そしてキレのあるのど越しとほんのりしたホップの苦み。
い、生き返る…!
「ぷはー!」
「この1杯のために今日を生きたケロ!」
「お前わかってんな」
こいつとはいい飲み友達になれそうだ。
「で、お前らつまみは決まったか?」
いいタイミングで輝さんが声をかけてくる。さすがマスター。
「枝豆ともろきゅうと、あと唐揚げ!」
「悪ぃ、今日鶏胸切らしちゃっててよ、アレしかないけどいいか?」
「面白そうだからやっちゃって!」
「アレって何だケロ?」
「さぁね♪」
「なるほどな。美杉、お前も本当に悪いやつだな。
今日は腕によりをかけて作るぜ!」
「輝さん期待してる!」
「だからアレって何だケローーーーー!!」
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