第17話 のみすぎ、王様にハゲまされる

「酒野さん。とっくに謁見時間は終わっていますよ。」

「すみません、ちょっとトイレでトラブルがありまして…。」

嘘は言っていない。

「体調が悪いなら早めに教えてくださればよかったのに。

本来はダメなのですが、今回は勇者候補の認定なので特別ですよ。

王様を呼んで参りますので少々お待ちください。」

側近さん、居残りさせてゴメンなさい。

そして心配してくれてありがとう。

絶対ポーズだってわかってるけど、厚意はありがたく受け取っておくよ!

しっかし王様って、そんなに簡単に出てくるもんなのか。

微妙そうな顔をしながら考えていると、

「昨今は景気が低迷しており、王宮も体力がないゆえパート勤務等に切りかえるなどして随時人員の整理をしておるのじゃ。」

肩口から王がぬっと顔を出す。

「ヒッ!」

びっくりして短い悲鳴とともに私は数センチ左に飛んだ。


「そんな驚くこともないじゃろう。美杉か。随分遅かったの。

わしこれから用事があるから手短に頼むぞ。」

「申し訳ございません、突然腹痛に襲われまして…。無礼をお許しください。」

「なに、それは大丈夫か。勇者候補は体が資本じゃから大切にせよ。」

「もったいないお言葉です。大変遅くなりましたが、無事に講習が終わりましたのでご報告に上がりました。」

「終了の印を授けよう。印鑑をここに。」

「はっ、ただいま。」

控えていた側近がお盆に入れて印鑑を持ってきた。

クリスタルで作られた四角い印鑑だ。強い魔法がかけられているのがわかる。

この国では公式文書には偽造を避けるために魔力の籠った印鑑を押印する。

個人が宿す魔力は一人ひとりが違うので、その魔力の痕で個人を識別するのだ。


「書類と勇者カードを出すがよい。」

「お願いいたします。」

ファイルから出してクリップ留めした書類を提出する。

「確かに受けとったぞ。それではいくぞ。」

王の右手に持った印鑑が光り始める。

「っそぉぉぉい!」

ぺたん。書類の右上の端に1mmの狂いもなく判が押される。

やっぱ毎日押印してるとこんなにうまくできるもんなんだなー…

「これで無事完了じゃ。おめでとう美杉、いやハゲマントよ!」

そこ言い直さなくていいですから!

「キャッチーで覚えやすい名じゃが、もっといい名もあったであろうに。

じゃが、わしとお揃いじゃな!国民にファンがいるわしは幸せものじゃの。」

大きくうなずきながら、笑顔で王が勇者カードを返してきた。


王様に励まされたところで名前は変わらないし、第一、ハゲに励まされても…。

そんな思いが胸を過ったからか、視線は王様の頭頂部の方に自然と泳いでいた。


辛い。

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