第10話 のみすぎ、不本意すぎるコードネームをつけられる

「酒野さーん。酒野美杉(さけのみすぎ)さーん。

確認が終わりましたので窓口までお越しください。」

お、呼ばれたようだ。


「酒野さん、すみませんが書類に不備があるので訂正をお願いいたします。」

「えっ、どこですか?」

「あだ名の欄、いわゆるコードネーム欄が空欄になっています。」

「そんなの要らないじゃないですか。

てかそもそも公式なあだ名なんてアイドルでもないですしおかしいですよ。」

「そう思われるのも普通ですよね。ふざけていると思われたかもしれませんが、

過去に野盗や魔物等に本名を知られたため、

逆恨みで冒険者の一家が惨殺されるなどの事件が相次いだ時期がありました。

そこからご家族にかかる被害を避けるために冒険で使う通り名、

コードネームの登録も行うことになっております。

実際にコードネーム登録を行ってから被害は1/3に減ったという報告もあります。」

「といってもコードネームなんて簡単に決められないですって。」

「若い方ですと、SNS等で使っている名前をそのまま使っている方が多いですね。

あとは、過去に流行った名前ですと蔵人(クラウド)、ですとか

KI☆RI☆TO(キリト)とかが多かったです。」

やめなよ…

思わず心の中で突っ込んだ。

「はぁ、そうなんですね。これって途中で名前変えることってできるんですか?」

「可能は可能ですが、特別な理由がない限り認められることは少ないようです。

やはりその名前で冒険を続けていくわけですから、

いきなり名前が変わると生活に不都合が生じるというのが理由ですね。」

もっともな理由だ。やはりここは慎重に…

「もうハゲマントでいいじゃん。」

「はぁ!?ハゲてないし!てか誰!」

声のした方に振り返ると…裸マスク、ま た お 前 か!


「若者らしく流行りに乗るのも大事だYO☆」

「それワンパンで敵殴って倒すなんか趣味でヒーローしてる系のマンガじゃないですか。パクリとかダメですって!ね、職員さんもそう思うでしょ?」

「いいじゃないですか。オリジナリティに溢れていて。

じゃあそれで登録しておきますね。」

職員が時計をチラ見しながら若干なげやりな口調で言ってきた。

窓口終了の15分前だった。


「やめろぉぉぉぉ!」


機械からピコーンという音がして、免許証のような写真付きのカードが出てきた。

すかさず手に取って確認をする。


コードネーム:ハゲマント


「本名は表示されてませんが、特殊処理で印刷しており

役所等の照合や特殊な魔法などで確認することが可能です。

それではがんばってくださいハゲマントさん。」

「よろしくな、ハゲマント!」


うぅ、最悪だ…。

もうよろしくしたくない、帰って早く寝たい。

疲れを全身から滲ませていたら、自称忍者が後ろから右肩に軽くタックルしてきた。


「俺たちズッ友だよ!」

無駄に澄んだ目でこっちを見るな。全部お前のせいだろうが!

ワンパンで人の心折ってるんじゃねーよ!


HENTAIが無理やり仲間になった、という声が頭の中に聞こえた気がした。

こいつ、酒場でお別れできるのかなぁ…ふふ。できたら、いいな。

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