第9話 のみすぎ、写真の撮り直しを要求する

「検査おつかれさまでした。解散の前に勇者パスに使う写真を撮りますので、

名前を呼ばれた方から順にこちらのBOXに来てください。

一瞬ですのでリラックスしてくださって大丈夫ですよ。」


参加者が椅子に座って数秒で次々と写真を撮られていく。

私の順番が巡ってきた。

「ハイ、撮りますよー。まばたきしないでまっすぐ前を見てくださいねー。」

カシャ、フラッシュが焚かれる。眩しいけれど我慢だ。

証明写真の類でうまく写れたためしはないが

今回は我慢したのできっとうまく撮れたはず…!


半目になった写真が出てきた。

昨日寝る前にヤケ酒をしていたせいで顔がむくんでいたのも相まって

2勤してからの徹夜明けのような顔だ。

勇者パスを使うたびにどこかでこの顔を見せるのか、つら過ぎるっ。

ぜひやり直しを要求しないと!

「これ、やり直しできないんですか?」

貰った写真を見せながら職員に詰め寄る。

すると職員はひとしきり笑った後、

「規則ですので撮り直しは行っておりません。ご了承くださいプフゥ」

と言った。我慢できずにまだ肩が震えている。

分かるけどそこまで笑わなくても!

「そこをなんとか!人の写真を見て笑うとか失礼です!訴えますよ!!」

恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら必死でやり直しを要求する。

「もう最後ですし、内緒ですよ。」

根負けしたのか、渋々対応してくれた。

「ハイ、撮りますよー。まばたきしないでまっすぐ前を見てくださーい。」

撮り直しをして出てきた今度の写真は、白目だった。

「…。」

「…もうやり直しはできませんよ?」

「…ハイ。」


涙が出た。



こうして長い講習が終わった。

「現在学生や会社員の方は、このあと勇者候補証明の書類を発行いたしますので

帰りの際忘れずに受け取ってから登校、出社ください。

候補証明が無いと任務中や復帰後の保障が受けられなくなりますので

忘れずにお持ち帰りください。」

謎のテキストをただ音読してげんなりする映像見て、

テキトーな適性検査と割と本格的な健康診断をやって書類発行してと半日も取るとは、役所恐るべし。


盛り沢山の内容をこなし、どっと疲れた体を引き摺って提出窓口へと移動する。

休日なので窓口は1つしか空いておらず、既に6~7人ほど前に人が並んでいた。

今待つのは辛い。バリウムでないと困るし、先にトイレ行っておこうかなぁ。


よし、洋式空いてる!

誰もこないことを確認して、勢いよく個室のドアを閉めて鍵をかけ鞄をフックにかける。

ズボンとぱんつをおろして便座に腰掛けると、思わずふーというため息が出る。

会社でいつもトイレサボリをキメているからか、

きれいなトイレの個室に引きこもるとやっぱ心が落ち着くなぁ。ふふふ♪



時計を見たら、入ってから20分ほど経過していた。

ヤバい。そろそろ出ないと本気で窓口ヤバい。急げ。

後で下剤の追加をお願いしようそうしよう。

拭くのも適当に急いでズボンを上げて個室から飛び出した。

何かがポケットから落ちた気がするけど、まぁいいや。

どうせもう一回トイレ行くし。とにかく窓口行って書類出してきてからだ。


急いでトイレから戻ると並び列は解消されており、すぐに窓口に行くことができた。

「はい、確かに。

書類を確認いたしますので向かいのベンチで少々お待ちください。」

「はーい。」

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