第4話 のみすぎ、王様に嵌められてうっかりサインをしてしまう

「お待たせしました。」

程なくして側近が持ってきたのは手のひらサイズのふよふよとした薄汚れた袋のようなものだった。まばらに毛が生えていてキモい。

どう見てもアレだ。

一応嫁入り前の女子だから明言はしないでおこう。

やっぱ、金だけど、金だけどさあぁぁぁ!

って突っ込むべきなのだろうか。

おっさんとの飲み会的には正しいけど、

王様に突っ込むとか常識的に考えてダメだろ。

いやいやそんなことより、仮にも嫁入り前の女子においなりさん持ってきて

これを授けようとか明らかにセクハラ案件だろ。

私に授与しようとしているのが袋だから、この慣れた手付きから察するに

過去、他の女性冒険者にもきっと金の延べ棒とか言って

スティックの方を渡したんだろうそうだろう。

だが、ここは自分の意思をしっかり言うべきだと思う。

国家権力の前に屈していては、貰えるものも貰えないからな!


「現金じゃ、ないのか…」

がっくりとしたポーズを見せながら、正直な思いをぐっと絞り出した。

我ながら決まった。

内心ガッツポーズを取りながら、心底がっかりした表情をキープしつつ王様の方を見つめた。


「そんなにがっかりするでない。これは(ふ栗:ふぐり)というもので

そなたの旅の役に立つものじゃ。これを餞別として与えよう。」

「あ、ありがとうございます。」

名前モロすぎるだろ!!もっと捻ろうよ!

汚いものに触れたくないと無意識に思ったのか、受け取ろうとした手が滑って落としてしまった。

「すみません、手が滑ってしまいました。」

「大事なものなので丁寧に扱ってくださいよ。」

側近が若干痛そうな顔をしながらそれを私の手に置いた。

ふにゅん。

触れるとしっとりとしていて妙に癖になる触り心地だ。

ちょっと顔がにやけてしまった。いかんいかん。

「いま、受け取ったな。それではここにサインじゃ。」

「えっ。」

「こちらと、こちらにご記名の上押印ください。

あー鉛筆で○印の書いてあるところだけで結構です。」

断る間すら与えず、さりげなくペンを渡してくる側近。

「印鑑、今日は持ってきてないので持ち帰って後日でも構わないでしょうか?」

「あ、本人確認できていますでの直筆でご署名いただければよろしいですよ。」

は、嵌められた…!

「すぐに講習会がありますので、下の会議室までお願いいたします。

ご案内いたしますのでついてきてください。」

「はーい(泣)」


この状況で逃げ切れるわけもなく、勇者候補として魔王を倒す旅に出ることになってしまった。

はー、会社どうしよう。

有給使っても31日しか無いからその間とかには終われないしなー。

とぼんやり明日の心配をしている間に、会議室へついた。

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