第3話 げんき?

「おはよう」

「お、おっす」


翌日の学校生活は、いつもと変わらないものだった。

主に話すのは友人二人。


伊藤 優斗;サッカー部でレギュラーだったりレギュラーじゃなかったりする男。良くも悪くも普通だが、良い奴。成績は中の上。顔は上の下。


立山 英二;部活には未所属。受験に命を燃やす男。人と例え話をすることが好き。理屈よりも感情で動く、意外と熱い男。成績は学年10位。顔は中の中。


たまたま席が近かったから話しかけたのが始まりであり、番号も近かったため同じく行動することがあり、それから二年でも同じになったのは本当にほっとしている。


今は五月の初め頃。新しいクラスでもある程度グループが完成するころだ。


『今日も、変わらない日々が続いていく。退屈だが嫌いじゃない。ただ、昨日の出来事たちが気になる』


一時間目から三時間目までをいつもどおりこなし、四時間目の体育へ。


体操服とジャージに着替え、校庭へ。彼らA組はB組と共に体育を行う。

今回は男子はバレー。女子はバスケだ。


「お、見てみろよ。朱音(あかね)さんだ」

「?」

試合の順番待ちの最中、伊藤がバスケ中の女子を指差した。

その指し示す方向を見ると、ポニーテールの良く似合う、赤髪の少女がいた。ドリブルで華麗にかわすと、シュート体制に入るが、ボールはリングの端にあたり、はじき返されてしまい、敵の元へ。

「あちゃー・・・まだまだ!」

すぐさま駆けて行き、敵に奪われたボールを横からきれいに掠め取ると、今度はシュートではなく、手を挙げていたチームメイトへパス。それはきれいにリングの中央を潜り抜けた


わぁ!っと満開の笑顔が咲く。シュートを決めた娘の周りに人だかりができたが、その娘はパスを出した朱音の元へと抱き着いた。

「やったよ朱音さん!初めて入った!」

「うん!練習したかいあったね!」


ぴょんぴょんと自分のこと様に喜ぶ朱音の元にはたくさんの笑顔があった。




「?えっと、あの人がどうかしたのか」

男二人の視線には一切気づかれない。

伊藤の指差す意味が、彼にはよくわからなかった。

「かぁ~っ、わかんないかなぁ!?あの素質!部活で引っ張っていけるあの笑顔!かわいいし!あとかわいいし!」

熱弁する伊藤はなんとか声を抑えつつもその必死にこちらへ訴えかけていた。

「まぁ、確かに・・・」

「だろ!あー、俺もB組が良かったなぁ・・・」

「去年同じクラスだったんだからいいだろ」

立山が会話に混ざってきた。どうやら試合が一段落したらしい。

「そうだけど・・・そうだけど!」

「・・・同じクラスだったとか、いちいち覚えてない」

「えぇ!」

驚きのあまり、抑えていた声を思わず開放してしまった伊藤がパクパクと間抜けに口を閉じたり開けたりする。

「出番だろ、行ってこいよ二人とも」

「おう」

「お、おう・・・」

未だ信じられないというような表情の伊藤の視線をスルーし、コートイン。


出たがりの男子に譲り、2人は後衛スタートだ。




なんとなく、奥のコートへ視線を移す。

試合が終わった朱音は男子コートを見つめていた。


彼女は何にでも熱中する少女だ。常に全力投球、その言葉がとてもよく似合う。


緑ゼッケンのA組チーム対、赤ゼッケンのBチーム。

先の試合では、B組チームが勝ったらしい。

Bチームのサーブが炸裂する。狙われたのは後方の男子だった。若干ずれつつも、それはなんとか上がり、パスが繋がる。多少は心得があるらしく悪く無いトスがあがり、アタックが見事に決められた。


「あれ、結構いい感じの試合になりそうじゃない?」

優の隣で見ていた茶髪の少女達が盛り上がり始める。

「・・・あれ。ってかあれ、うちらのクラス、みんなバレー部じゃん」

「ええーまじー?これは圧勝ですわー」


実際女子達の予想は的中する。その後は試合は流れていき、18vs4でBチームが圧倒的となった。


『・・・というか、あれ?』

少女は試合光景を眺めている中で、それに気づいてしまう。

9割方のサーブが、1人の男子目掛けて放たれている。

標的男子は7割方はそれを上げるも、すべてぎりぎりなんとか上がったといった感じで、残り三割はてんで適当な方向へと飛んで行ってしまっていた。


ここからではその人の瞳は見えない。

優はその場から移動すると、斜めの角度だが相手コートが見える位置へ。

「・・・!」

集中狙いされていたその男子には、見覚えがあった。

一年の時に同じクラスにいた‘変人‘だ。

名前はたしか、北河秦。彼女にとっては、それ以上でも以下でもない。


また一球ミスった彼は、照れくさそうに首元をかいた。

へらへらしているようにも見えるし、諦めているようにも見えるが・・・意地が、まだその目には見えた。


もう一度サーブが彼目掛けて襲い掛かる。

抜群のコントロールは、流石バレー部部長といったところか。

「っし!」

既にガッツポーズを決めた彼の視線を追った彼女が目にしたのは、顔面目掛けて回転しつつ飛んでいくボールだった。

下手をすると鼻血が出てしまうかもしれない、というそのボールを前に、彼女はしかし咄嗟に声を出せない。


「ッ!!」


咄嗟に伸びたのは彼の右手のみで、それは緊張からか、グーだった。


バチン!といういい音の後、ボールはまるでその軌跡をなぞるように跳ね返り、バレー部部長のガッツポーズはその球を防がない。ボールは部長の顔面に直撃した。


「ぶっ!」

「っ、くく・・・」

「はははっ!」


体育館のそれぞれから笑い声が響き渡り、試合を見れていなかった生徒たちが何事かと右往左往している。


「ぷっ、あ、あははははは・・・だ、だいじょうぶ・・・?ふふっ・・・」

少女はお腹を押さえて笑いながらも、近くで呆然としている部長に声をかけた。


一方北河はというと、

「・・・ふっ。・・・もう満足だわ」

クールに見せて一息吐きそう呟くと、それから思いっきりのにやけっ面を一瞬だけ見せると、そっと左手で口元を隠した。しかし肩が震えており、大笑いしているのはどこから見ても解った。後から笑いがこみあげてくるタイプなのかもしれない。


「野郎・・・!」


地べたに転がったボールを拾い、努めて冷静そうに振舞った部長がボールを相手コートに転がした。


笑いは一旦収まり、A組のサーブ。彼は相変わらず後衛だ。


ゆったりしたサーブが相手コートへ。それは余裕でレシーブされてしまい、あえなくトスへ繋がる。

「バック!」

後衛に下がりながらもそう呼んだ部長の元へ、トスが上がる。後ろからのアタックだが、精度は抜群だ。的確に今度も顔面へ・・・かと思いきや、胴体へ。顔面警戒中の彼はわずかに反応が遅れ、胸のど真ん中にボールを直撃。わずかにボールは上がる。

「っ!」

とっさに優斗が飛び込み、また僅かにだがボールが上がる。

「グッジョブナイス優斗!」

逆サイドに飛んで行ったボールになんとか追いつこうと走る。如何せんボールが低い。アンダーハンドトスはできそうにない。こういうときはどうするんだっけ?そうだスライディングだ。バレーにおけるスライディングとはヘッドスライディング。だがそんなことはしたことがない。

彼が咄嗟にとった行動は、足から行くほうのスライディング。ボールの下に体をねじ込むことで、ボールを上にあげることを可能にした。

なんとかトスの姿勢で向かいのコートに返す。

まさか返してくるとは思わなかったようで驚いていたが、部活でやっているだけはある。すぐにまたボールが帰ってきて、今度は落ちてしまった。


「ちっ・・・くっそー」

「ナイスだったぞ伊藤」

「ん?おうよ!そっちこそ、良く返せたな」

「ラッキーだったわ。なんかノってきた」

「もう終盤だけどな」


ははは・・・と、お互いに軽く笑いながらもポジションへ。


結局、最後には負けてしまったが、彼は試合内容には満足していた。

勝ち誇りニヤニヤとこちらを見ていたバレー部たちに煽るような笑顔を返せる程度には。




相も変わらず可笑しな人だった。それを思う観衆たちの中の1人に、朱音優もいる。

「すごかったね・・・」

「え、優、どれのこと?」


「もちろん、北河君のことだよ!」


「あー、あれね。部長の顔面に当てた・・・」

「それもだけど!さっきの、飛び込んだのとか」

「あー、ね。意外だったね」

「意外・・・そう、かな?」

「そうじゃない?」

「うーん・・・」


なんとなく違和感を覚えつつも授業終了のチャイムを聞き、優は片づけを始めた。


『好感度は0。彼はモテまくりハーレム系主人公にはなれない。ただ一人、自分の事を愛してくれる人がいればそれでいい。ただ、その1人がどうしても見つけられない』

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