第33話:仕返し
広場での出来事から暫くして。
俺たちは里を抜け出し、めぐみんの一日一爆裂の為、爆裂スポットを探していた。
里についてからは色々あって爆裂魔法を撃てていなかっためぐみんだったが、2日経ったところでそれは我慢の限界に達した。
「さぁ!今日も張り切って行きましょう!」
そう、俺の隣で声を高らかにするめぐみんは、杖を天に掲げ楽しそうに歩いている。
この声の調子と行動から分かるように、今のめぐみんは結構テンションが高い。
まるで、新しく買ってもらったオモチャで早く遊びたいとはしゃぐ子供のようだ。
「……随分と楽しそうだな」
「当たり前でしょう!
爆裂魔法はわたしの生き甲斐なのですよ?
それを2日ぶりに撃てるとなれば、こうもなりますよ!」
「まあ、それは初めて会った時から言ってたから、知ってはいるんだけどさ」
生き甲斐、などと言われても、他人の事となるとなぜか分かりづらい。
何か分かりやすい例えでもあれば良いのだが……。
「そうですね……例えばカズマも、女性へのセクハラを禁止されたりしたら、悶々とするでしょう?」
「なるほど…………って痛い痛い!」
せっかく分かりやすい例えだったのに、自分から質問しといて、それに賛成したら脇腹をつねるとは理不尽な話だ。
俺には分かるぞ?
NOと答えても、どうせ嘘つき呼ばわりされて、なんやかんやで俺が不利な状況になるんだ。
俺は一体なんて答えればよかったんだ…。
「……そういえばお前、良いのか?
里のみんなは、お前が爆裂魔法しか使えないことを知らないみたいだったんだが……」
この里に来た初日。
まだ俺があの出来事がドッキリだと知らなかった時に、ひょいざぶろーはめぐみんが優秀な魔法使いと言うことに疑問を持たなかった。
爆裂魔法しか使えないめぐみんに、俺はもう慣れたし、そこも含めてめぐみんなのだし。
そんなめぐみんだからこそ、俺は今もこうして愛しているわけだし。
しかしめぐみんは、それを知らせないで里を出て来たのでは無いだろうか?
もしそうなら、それには何かしらの理由があると思うのだが……。
「……そういえばそうでしたね。
んー……アクセルでの時と同じように、里から少し離れて撃てば大丈夫ではないでしょうか?
確か、もう少し行けば開けた良い岩がある場所があったはずですし。
あと一つ訂正です、私は爆裂魔法しか使えないのではなく、爆裂魔法しか使わないんですからね?」
そ、そんな感じでいいのか?
俺にはそれなりに重要なことに思えるんだが……。
ま、まあ、本人が気にしていないならそこまで追求する気は無いのだが。
「それに、今となっては別にバレても構わないと思ってますからね」
「ん?そうなのか?」
「ええ」
バレても良い、とは一体どういうことだろうか?
俺がそんな疑問を持っていると、めぐみんは子供のような爽やかな笑顔をして。
「だって今は、カズマが守ってくれますからね!」
「お、おう……」
そういうキュンキュンする不意打ちは、ドキドキするので本当にやめてほしい。
でもまあ、そこらへんは任せてもらっても大丈夫だ。
クエストではしっかりとめぐみんの爆裂魔法を活用させてもらうし、その後の搬送も俺が担う。
日課の爆裂魔法の後も、何処かの誰かにイタズラされたりしないようにしっかり守る。
それでも、もしめぐみんに何かが起こったら、俺はその犯人をどんな手を使ってでも貶めるだろう。
などと、頭の中で盛大にカッコつけておきながら、めぐみんの話にウンウンと頷いて林道を進んで行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「『エクスプロージョン』ッッッ!」
昼下がりの穏やかな平原に、理不尽な非物理の暴力が振るわれる。
人の大きさを優に越える大岩は散り散りに四散し、その岩がかつてあった場所には、まだ中心が煮えたぎったクレーターが出現している。
「おお……!どうしためぐみん。
今日の爆裂魔法は、一段と威力が増してるじゃ無いか」
「フッフッフッ……そうでしょう、そうでしょう!
なにせ、今まで溜めていたスキルポイントを全て爆裂魔法関係のスキルにつぎ込んでやりましたからね!」
爆裂魔法を撃っためぐみんは、地面に突っ伏しながら自慢気に言う。
「そうかそうか、それは随分と……」
めでたい事だ、と言おうとした時に、とある疑問が浮かんでくる。
「ん?お前、今までスキルポイント貯めてたのか?」
爆裂魔法にしか興味がないくせに、なんでそんな事を。
そう思ったが、その答えはすぐに帰ってきた。
「ええ、まあ。
あれは、カズマが木から落ちて死んだ時からですかね?
あの時は完全にカズマの自業自得でしたが、この先何があるか分かりませんしね。
いざという時に、上級魔法を覚えられるくらいのスキルポイントを貯めていても良いかなと思っていたのですよ」
……全くこいつは、爆裂魔法が好きだとあれだけ言っているのに、何を考えていたのだろうか?
……バカだなぁ。
「ですがつい先日、カズマが私の両親の前でとてもかっこいい事を言ってくれたので、もうこれは私の好き勝手にしてしまって良いのでは、と思って自分の道を全力で突っ走ることにしました」
「おい。せっかく俺が感動していたのに、それを当たり前かのように踏みにじるのはやめて貰おうか」
何処かの誰かのの真似をしながら、俺は未だ体力が回復せず起き上がれないでいるめぐみんを見つめる。
……ちょっとお仕置きしてやろうか?
「なぁ、今、どういう状況だかわかるか?」
「え?何を言っているんですか?」
いくらしっかりしているとはいえ、やはりまだお子様。
大人な俺に比べ、やや少し経験が足りないらしい。
「意識してたか無意識だったかは知らないが、人を小馬鹿にしておいて、その小馬鹿にしたやつの目の前で全く動けない状況」
「…………え、カズマ?」
「これってさ……」
俺の意図を理解したのか、急に静かになっためぐみん。
だが、もう遅い……!
「やり返すのに、絶好のシチュエーションじゃね?」
「…………ッ!
か、カズマ!謝ります、謝りますから!
ですから……、待ってください、その手の動きはなんですか!叫びますよ⁉︎」
「いくら叫んでも、里までは聞こえねぇよ」
俺はそう伝えると、少しづつめぐみんに手を伸ばす。
「え、ま、待って。そこは……あ、あぁ!」
3秒後、平原に少女の声が響き渡った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ…はぁ…はぁ……」
俺の背中には、あの後徹底的にやり返されて体力を消耗しためぐみんがいる。
「めぐみんって、脇、弱いんだな」
「カズマは……最低です……」
そんな疲れ切った言葉に、俺は少しやりすぎたかなと苦笑いする。
そう、俺があの後めぐみんに行ったお仕置きとは、とにかく『くすぐりまくる』こと。
脇、首、足の裏など、ありとあらゆる場所を攻めてやった。
その結果、めぐみんは脇が弱いことが判明した。
断じて、野外セ○クスとかやろうとして、ヘタれた訳ではない。
訳ではない……。
「でもまあ、お互い様だろ?
お前も一回、俺も一回だから、これでチャラにしようぜ」
「……チャラ?今あなたは、チャラにすると言いましたか⁉︎
私の方が圧倒的に、受けた罰が多いような気がするのですが!」
俺は質ではなく、回数の話をしているのだが。
そこまで計算したからこそ、あのお仕置きをしたのだ。
何たって俺は、人が嫌がる事をするのには定評のある、あのカズマさんだからな!
しかし、このままだとめぐみんが暫く口を聞いてくれなくなる。
ここは一つ、打開策を提示してやろう。
「それじゃあ今から、俺に好きなことをしていいぞ?」
「え……良いのですか?」
「ああ、もちろん」
俺の背中の中で、驚きの声を上げるめぐみん。
まあ、ここまでは予想通りの反応だ。
俺がこんな事を言う機会なんて、そうないからな。
しかし、ここからが本題だ。
「ただし、制限時間は俺がお前をおぶってる間。お前の家に着くまでの間だがな!」
「なっ」
そう、俺があんな事を言う機会はほとんど無いが、全く無い訳では無い。
それは、俺が確実に優位な状況にある時だ!
「爆裂魔法を撃って動けないお前がどんな事をできるか、楽しみだなぁ」
「くっ……」
フッ、勝ったな……。
なんだか最近、ずっとめぐみんに手玉に取られっぱなしな気がしたが、今回は確実に俺の勝ちだろう。
「ん?どうした?何もしてこないのか?」
久しぶりにめぐみんを出し抜けたので、俺は少しニヤケながら挑発するように言う。
すると、俺の首に回しているめぐみんの手が、少し力んだ気がした。
「……カズマ、確認です。
私の家に着くまでは、カズマは私のする事に邪魔をしたりはしないのですよね?」
「あ、ああ…。何かできるならな?」
「……その言葉、忘れないでくださいね?」
……な、なんだよ。何なんだよそれ!
おぶってるせいで顔が見えないから、どんな表情をしてるのかすら分かんない!
「では、覚悟してください」
何をだよ!
手足が動かないお前に、何ができるんだよ!
……ああ、ハッタリか?
何もできないのが悔しくて、ハッタリをかましてきたのか?
まったく、負けず嫌いだ……
「なぁっ⁉︎」
予想だにしなかった感触に、変な声を上げてしまう。
「おやおや、どうしましたかカズマ。
随分と素っ頓狂な声ですね?」
顔は見えないが、声でどんな表情をしているのか分かる。
これは、いつも俺が誰かを貶めた後にする顔と同じ顔だ……!
「め、めぐみん。お前……!」
「どうしたのですか?
何をしても良いのでしょう?」
そう言った直後、めぐみんは先程と同じ行為を俺に再開する。
「うひゃっ⁉︎ちょ……おま……!」
俺は思わず、足を止めて振り返る。
しかし。
「カズマ、さっき言ってましたよね?
邪魔はしないと、家に着くまでは何をしても良いと」
「くっ……」
確かに言ったが、これは……!
「ほらほら早く歩かないと、家に着く前に私の体力が戻ってしまうかもしれませんよ?」
「くっそおおおおおぉぉぉぉぉ!」
俺はめぐみんに、首筋にキスされたり、しゃぶられたりしながら帰路を急いだ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ…はぁ…はぁ……」
「カズマは、首が弱いんですね」
「う、うっせ……」
俺はたった今、俺の背中の中でどんどん回復しながらイタズラを続けるめぐみんに弄ばれながら、やっとの事でめぐみん宅まで到着した。
「お前のこと、これからエロみんて呼ぶからな……」
「そうですか。では私は、爆裂魔法を撃って動けなくなったところを、カズマに好き勝手されましたとアクアとダクネスに伝えさせてもらいますね?」
く、くっそぉ……。
なぜだ、最初は俺が主導権を握っていたはずなのに……!
自分より年下の彼女に、毎回と言って良いほど主導権を奪われるなんて……!
いつか、いつか絶対出し抜いてやる……!
「も、もうこの話はやめよう。
今回は俺が悪かった。それは認めるから、もう別の話題の話をしよう」
「それもそうですね。
私の気も晴れましたし、では次は、今後のことについてでも話しますか?」
気が晴れたって何だ。
俺を弄ぶのは簡単だ、とでも言いたいのかコノヤロー。
いくら俺でも泣くぞ。
ま、まあ、それはもう置いといて。
次は、今後のことについて……?
今後のことと言えば、やっぱりそういう事をしたんだから、結婚はいつだとか、そんな話だろうか?
結婚。結婚かぁ…。
結婚についてはあまり、深く考えたことはなかったなぁ。
この先ずっと、一緒にいるのが当たり前のことだと思っていたからな。
うーん……。
そう考えると、急に重く感じる。
いや別に、めぐみんを重く感じるとかそういう事ではない。
めぐみんを守り、寄り添い、支え続ける。
そういった今までも理解していた責任が、結婚とともにさらに明確に感じ取ることができるのではないか。
そう思うのだ。
自分もそれを知っているし、それを受け入れる覚悟もするつもりだ。
……だけど、俺はまだ16歳。
まだ完全に覚悟しきれてなくても、責められる筋合いはないよな⁉︎
こっちの世界ではこの年齢でも結婚は出来るらしいが、俺が育ってきたのは日本だ。
日本での男性の結婚は、早くても18歳。
俺がその年になるまで、あと1年以上ある。
ならせめて、それまでは結婚を延ばしても良いのではないだろうか?
第一、俺たちはまだ付き合って一年も経ってない。
さすがにこの時期の結婚は、早すぎるのではないだろうか?
……うん、これだな、これで行こう!
「な、なぁ…。
流石にさ、まだ結婚てのは早いと思うんだよ。
そういう事もしたし、お前のこともちゃんと好きだから、そういう事を前提として付き合ってるつもりではいる。
いるんだけど……俺が前いた国では、男性の結婚は18歳からだったから、この国の法律にはまだ慣れてないし……。
そ、それにほら、俺たちってまだ付き合って一年も経ってないし!
そういう点でも、結婚はもうちょっと先で…………?」
俺が必死になって弁解を続けていると、当のめぐみんは俺から目をそらし、なぜかプルプル震えている。
「ぷっ……ふふっ……」
「おい」
目をそらしているめぐみんの顔は赤く、口から漏れそうな声を、必死に抑えている。
これは、もしかしなくても笑ってるな?
「あははははは!」
「おい、どういう事だコラ」
ついに抑えきれなくなっためぐみんに、俺は問いただす。
何で真剣に考えて話した俺が爆笑されなければいけないんだ。
そう思っていると、めぐみんは笑いを抑えながら俺の方を向いて。
「か、カズマは、『これから』と聞いてそんな事を考えていてくれたのですね?
私としては、紅魔の里にどれだけいて、その後どうするのか、という意味だったのですが……ぷふっ!」
……………は?
「で、でも、ありがとうございます。
勘違いとはいえ、ちゃんとそこまで考えてくれていると知れて、私は嬉しいですよ?」
…………………は?
「でもやはり、カズマらしいセリフでしたね。
結局ヘタれて、そこにいかにもな理由を後付けして……ふふっ」
「はあああああああああああああ⁉︎」
じゃあ何か⁉︎
俺は勝手に勘違いして、勝手に戸惑って、勝手に緊張して自分の胸の内をさらけ出したのか⁉︎
………なんか最近、こんなんばっか!
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