第22話:メイド服



 とある日の昼下がり。




「カ、カズマ……。流石にこの格好は、恥ずかしいのですが……」


 俺の前には、いつもと違う格好をしているめぐみんがいる。


「ん?カズマ?違うだろ?今の俺は……、お前のなんだっけ?」


 俺がそう言うと、めぐみんが顔を赤くして……


「ご、ご主人様……。この格好は、とても恥ずかしいです……」


 その通り。

 俺は今、こいつのご主人様。


「うんうん。そうかもしれないなぁ」


 俺がそんな返事をしてやると、めぐみんは明るい顔になり、


「で、では……!」


 分かりやすい。

 分かりやすすぎるぞ我が彼女よ!


「でもそのままで」


「なっ!」


 俺がそう伝えると、めぐみんは顔を赤くして、俺を少し涙を溜めた目で睨んできた。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 俺の、実質三回目(この世界では二回目)の死から二日がたったある朝。


 俺は眩しいぐらいの朝日に照らされ、眼が覚める。


 眼が覚めてからも少し布団でゴロゴロした後、俺は一階へ下がる。


 一階へ降りたら、トイレを済まし、顔を洗い、自炊した朝食をいただく。


 今日の朝食はフレンチトーストにスクランブルエッグ、ちょっとしたサラダにスープと、洋食にまとめてみた。

 うん。

 簡単に作れるものでまとめてみたが、それでも美味いな。

 料理スキル様々です。


 食べ終わった後は食器を洗い、最近の日課である食後の紅茶を飲む。


 暖かい太陽の光をこの身に受けながら、ソファーに座って紅茶を飲みながらくつろいでいると、



 ピンポーン



 屋敷のインターホンが鳴らされる。


 誰かと思い、玄関に向かい扉を開ける。


 するとそこには、


「「「カ、カズマ。ただいま(です)」」」


 死んでいた俺に、イタズラをして逃げた三人がいた。


 それを見た俺は扉を閉じて鍵をかけ、またリビングへ戻った。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「かじゅましゃぁぁぁぁん!

 お願い、入れてよぉぉぉぉぉ!

 もうお金が無いのよぉぉぉぉぉ!」


 私たちはつい先程、現在この屋敷のリビングでくつろいでいるカズマに無言で閉め出されてしまったところだ。


「はぁ…。やっぱりまだ怒っていましたね」


「そのようだな。まぁ、それぐらい怒られても仕方ないぐらいの事を、私達はしてしまったのだろう」


 私たちはカズマに、閉め出されてしまうほど怒られる事をした。

 怒られる事をしたのだから、挙げられる解決法としては、謝るか、その怒りが冷めるまで待つ事だろう。


 そして私達は、その前者に身の危険を感じたため、後者を選んだ。


 だが、それには欠点があった。

 それは、『お金は有限だ』という事だ。


 クエストの成功などで得たお金は、パーティーのリーダーであるカズマがカズマの通帳で管理している。

 私達は月ごとに、各自にお小遣いという形でお金を貰っていた。

 そしてそのお小遣いは、食費や生活費は入っていない、趣味や外出の時に使うぐらいの量なので、それほど多くはなかった。


 その為、いざ逃げるとなった時に何日も外泊できるほどのお金を持っていくことは出来なかった。


 そしてその私たちのお小遣いは、二日の外泊と食事で尽きてしまった。


 いや、本当はもう少し長い間泊まれたかもしれない。

 アクアが『せっかくカズマがいないんだから今日は女子会よ!パーっといきましょ!』などと言わなければ。

 その時は私もお酒が飲めると思って賛成してしまったのだが、最終的にはダクネスに止められ飲むことができなかった。

 ……やはりやめておくべきだった。


「さて、どうしましょうかね」


「うむ、怒ったあいつは中々手強そうだからな」


 こんな理由で誰かの家を借りるわけにはいかないし、 かと言ってお金も無い。


 そんな私達は、もう正直にカズマに謝る事にした。


 しかしそのカズマは、鍵が閉まっている扉を泣きながら叩いているアクアを無視して、リビングでくつろいでいる有様だ。


 これでは謝るどころか、まともに話すことすらできない。


 私的にはもう二日も近くにいなかったので、そろそろおかしくなりそうなのだが……


 ……あれ?今私はなんて?

 もう既に、私はこんなになるまであの人に染色されてたのだろうか?


 ……い、いや。今は取り敢えずこの事は置いておこう。

 どうやってこの状況を打破するかを考えるのが先だ。


 そうやって悶々としていると、こういう事に関しての危険人物が、一番最初に名乗り出た。


「分かったわ!

 この女神である私が、万事解決の名案を思い付いてあげたわよ!」


「「………え…」」


「なんで微妙な顔なのよぉぉぉぉ!」


「「……だって………ねえ?」」


「いいからまず聞いてよ!」


 私達の反応に、いちいち大袈裟に反応するアクア。


 でも、しょうがないと思う。

 自分の事は女神だと言い張るし、ちょくちょく借金はこさえてくるし、アンデットは呼び寄せるし、何でもかんでも浄化して水に変えてしまうし……

 日頃からそんなだから、こんな時にそういう反応されるのも、まあ当たり前なんじゃ無いだろうか。


 すると私がそんな事を考えてるとも知らずに、アクアは話し始める。


「まず聞くだけでもいいからお願い、聞いてちょうだい」


「しょうがないですね…。

 いいでしょう、聞いてあげますよ」


「な、なんで上から目線なのよ…。

 まあいいわ。じゃあ聞いてね」


 そう言ったアクアは、指を一本立てて話し出す。


「いい事?ちゃんと聞くのよ?

 女神のありがたい作戦なんだからね?」


「「はいはい」」


 やけに勿体ぶってくるアクア。

 ここは早めに聞き終えて、新しい作戦を立てる事にしよう。


「オホンッ!えーと、私の作戦はね………」


 ……これは、いくらなんでも勿体ぶりすぎでは無いだろうか?

 少しは期待してもいいのだろうか?


 そう思った矢先……


「カズマの言う事を、1日だけなんでも聞いてあげるのよ!」


 ………………………。


「……はぁ。やっぱり次の「おお!それはいいな!」


 …………………え?


「丸一日、あの鬼畜なカズマの言う事を聞く……。

 んんっ!考えただけで武者震いが……!」


 ……そうでした。

 こいつはただの変態ドM狂セイダーでした。


「でしょ?ダクネスは賛成してくれると思ってたわ!」


 ……あれ?

 私の意見は?

 もしかしてこのまま多数決で決まっちゃいます?


「でねでね、もうすぐ昼になるから、1日と言っても丸々1日っていうわけじゃ無いのよ!」


 うん、まあ。

 それに関しては賛成ですが…。


「それにね、ダクネスはもともとこういう事は好きでしょ?」


「ああ、そうだな。相手に借りがあり、それを返すために言いなりになる。

 ……なんて最高なシチュエーションなんだ……!」


 とうとう言い切りましたよこの変態。

 もはや隠す気すらないようです。


「そしてね、めぐみんはカズマの彼女なんだから、ある程度はエッチな事でも許容できると思うの」


 おい。

 いくら私でもムードもへったくれもない場面でそんな事は出来な…………い?


 出来ないのだろうか?

 いや、出来ないと……思う。

 多分……出来ない、だろう。

 でも、もし本気で頼まれたら……?


 いやいやいやいや!

 流石にそれはダメでしょう!

 ダメです。

 そんな事はあってはいけません。


 そう考えているとアクアは最後に、


「でね、ダクネスがカズマのドS心。

 めぐみんがカズマの性欲を発散させてあげれば、私には何も言われないと思うの!」


 おい。

 これは本当におい。

 これで即座に怒らなかった私は、相当心が広いと思う。


「いいだろう、任せろ!」


 おい。

 お前もおい。

 そこは流石に怒って欲しい。

 でないと私しか反論する人がいなくなってしまう。

 ここは早く二人に常識的な考えをさせる為にも、迅速に抗議しなくてはならない。


「分かりましたよ。任せてください」


 ……………え?


 何を!

 何を任されるんですか!

 私は何を口走ってるんですか!

 何を期待しているのですか!

 ダメです……ダメですよ!

 やっぱりここは反対しないと……!


「い、いえ…、やっぱり……!」


 私がそこまで言うと……


「へぇ〜、みなさん。なんでも言う事聞いてくれるんですか」


 出会ってから今までで、一番ゲスい顔をしたカズマが扉を開け、顔を出しながらそんな事を言った。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「カ、カズマ……。流石にこの格好は、恥ずかしいのですが……」


 そして、やっと冒頭に至る。


 この三人を今日1日自由に出来る権利を手に入れた俺は、実にストイックに自分の欲望を発散していた。


 アクアは買い物に行かせて、肉体労働をさせる事で、日頃の恨みのはっさ……、もとい冷蔵庫内の食物の補充を。


 ダクネスには筋トレをさせて、めぐみんが唯一持ってないものをこいつで満たす。

 ……うん、揺れてるね。

 揺れてる。

 それはもうたゆんたゆんに。


 そしてめぐみんには、俺が元々いた世界で考えられた服を着せていた。


「ん?カズマ?違うだろ?今の俺は……、お前のなんだっけ?」


「ご、ご主人様……。この格好は、とても恥ずかしいです……」


 そう、ご主人様。

 俺は今、めぐみんには普通のメイド服より露出の多い、改造メイド服を着せている。

 そしてそんなメイドめぐみんのご主人様に当たるのが、もちろんこの俺、カズマさんである。


 俺の願いは、めぐみんに丸一日、俺の専属メイドになってもらう事。

 うん、俺って優しいな。

 自分が死んでる時に秘部を覗いた挙句、イタズラ書きまでした相手にこのぐらいの仕返しで済んでるんだもん。

 うん、実に優しいね。

 心が広すぎるね。


 え?普通、彼女にはそこまでしない?

 何言ってんだ。

 自分が好きな子だからこそ、そういう格好させたいんじゃん。

 それに、こういう事はめぐみんならお願いすれば聞いてくれそうだったから。

 うん。


 よし、ここはもうちょっとからかってやろう。


「うんうん。そうかもしれないなぁ」


 俺がそんな返事をしてやると、めぐみんは明るい顔をなり、


「で、では……!」


 分かりやすい。

 分かりやすすぎるぞ我が彼女よ!


「でもこのままで」


「なっ!」


 俺がそう伝えると、何かを言いたそうにしながら、少し涙を溜めた目で睨んできた。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 そしてめぐみんを一日中専属メイドとして使っていた俺だったが、何故だろう。

 こういう日に限って時間は早く進んでいるように感じ、あっという間に夜になっていた。


 買い物から帰ってきたアクアには、日頃は頼まれたらしなくなる宴会芸をぶっ通しでやらせていた。

 やっぱ凄えな宴会芸スキル。

 機動要塞デストロイヤーの影絵なんかもうそのまんまだよ。

 なんでランドセルぐらいの箱から質量無視してハト何十匹も出てくるんだよ。


 ダクネスには、汗をかこうが何しようが風呂にも入れず、筋トレを続けさせていた。

 途中から、俺が見ているのに気がついたのかハァハァ言いながらしてたけど。

 もうこいつダメじゃね?

 手遅れじゃね?

 あ、いや。そんな事は最初からわかってたか。

 ………………はぁ。


 そしてめぐみんは、


「よし、めぐみん。次が最後の命令だ」


 俺の命令を聞き続け、ついに最後の命令までたどり着いていた。


「ふぅ、やっとですか」


「お、めぐみん。まだ一日は終わってない。気は抜いちゃダメだぞ?」


「え、あ。はい。失礼しましたご主人様」


「よろしい」


 めぐみんもメイドの仕事には慣れてきたらしく、もう喋り方や行動に迷いはない。


 ちょっとつまんないな。

 もうちょっと照れてるめぐみんが見たかった。


 しかし、どうしたものか。

 先程は次が最後の命令だと言い張ったが、実はまだ決めてはいない。


 ウンウンと俺が悩んでいると、


「カズマさーん。私、もう眠いんですけど。

 昼から宴会芸やりっぱなしで、結構疲れてるんですけど」


 全くあの駄女神は。

 自分から一日中言う事を聞くと言いだしたんだろうが。


 でも、流石に眠いか。

 もうそろそろいつも寝てる時間になるもんな。


 ……ん?

 ……寝る?

 ………………ッ!


「よしめぐみん、最後の命令が決まったぞ!」


「はい、どうぞご主人様。何なりと申しつけください」


「あれ⁉︎無視⁉︎」


 アクア、うるさい。


「最後の命令はな、その格好のまま、俺と寝てもらおう!」


「えっ!」


 流石に露出の多いこの格好での添い寝は、まだ恥ずかしいようだ。


 うん、いい反応だね。

 いいよ、これを待ってたんだ。


 そんな事を考えていると、さっきまで眠いと言っていたアクアが、


「………ロリマ」


 そんな事をコソッと呟いた。

 ……………よし、決めた。


「おい、この格好の私がカズマと一緒に寝ると、カズマがロリコン扱いされる件について詳しく聞こうじゃないか」


「ま、待ってめぐみん!

 別にそんなわけじゃ……」


「まあまあめぐみん、少し落ち着けって」


 少し興奮状態のめぐみんを、俺が一歩前に出て抑える。


「あ、あれ?カズマさんが優しい?」


 ん?

 俺はいつも優しいだろ?


「なぁアクア。お前、買い物に行った時、ちゃんとアレ買ってきたか?」


「あ、あれって?」


 本当は商品開発とかに使えるかもと思っていたのだが、仕方がない。


「あの、この世界で一番辛いって言われてる香辛料だよ」


「え、ええ。買ってきたわよ?」


 よし、それならOKだ。


「ならお前、それ使った料理を10品作って一人で食べろ。

 ダクネスは監視役な?お前の場合は食べたらご褒美になっちまうからな」


「「え?」」


 俺の言葉に、アクアとダクネスの声が重なる。


「もちろん、お残しは許さないし、その香辛料も全部使うんだぞ。残ってたり、捨てたりしたら、明日酷い間に合うからな?」


「「え?」」


 また同じ反応かよ。

 芸がないぞ、芸が。


「よし、じゃあ行くかめぐみん」


「え⁉︎あ、はい」


 そう言って俺は、めぐみんと共にリビングを出る。


 後ろからアクアとダクネスの俺を呼ぶ声が聞こえるが、無視して進む。


 ああ、明日の朝が楽しみだな!






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 夜、俺の部屋にて、


「で、ではご主人様、ご一緒させていただきます……」


 そう言ってメイド服のめぐみんは俺の布団に入ってくる。


「めぐみん、最後ぐらいはもう普通に喋っていいぞ」


「そ、そうですか…」


 うん。

 そりゃあ、ベッドの中でぐらいは自然体で接していたいよね。


 ……別に変な意味じゃないからね?

 誤解するなよ?


 するとめぐみんは、言葉遣いには気を張っていたのか、普通の喋り方を許可すると「ほうっ」と息を吐く。


「………えい!」


「ひゃっ!」


 そんな少し気が抜けためぐみんに、俺は不意打ちで抱きつく。

 うん、スベスベ。

 あったかい。

 この所々肌が触れ合う感じが、この服のいい所だよね。


「めぐみんの肌、スベスベで気持ちいいな」


「そ、そうですか……」


「それに、凄えあったかい」


「カズマも、あったかいです……」


 めぐみんはまだ、この露出の多い格好での密着には慣れてないみたいだ。


 …………はい。

 実を言えば俺も凄いドキドキしてます。

 頑張って平静を装ってます。

 このドキドキがめぐみんに知られないようにする為に、またドキドキしてます。

 要するに、凄いドキドキしてます。


 なんでこうなった?

 ……お!アクアのお陰じゃないか。

 珍しい事もあるもんだ……。


 ……いや、エリス様かな?

 エリス様が色々やってくれたのかな?

 うん。

 そっちの方が納得できるわ。

 エリス様、ありがとうございました。


 エリス様のお陰で、あんな流れになったんだろうなぁ。


 そういえば、なんであのとき……?


「……そういえばさ、めぐみんはなんであの流れでOKしたんだ?」


「え?何がですか?」


「あの、今日一日中俺の言う事を聞くってやつ」


 俺がふと思いついた質問を投げつけるとめぐみんは……


「え、あ、いや。その………」


 顔を赤くしてモジモジしていた。


「ん?どうした?」


「いや、その……ですね……」


 めぐみんは、未だ顔を赤くして言いづらそうにしている。


 ………まさか、


「まさか、俺と久しぶりにイチャイチャしたかったの?」


 俺が少しからかいも混ぜてそう質問すると、


「……………」


 めぐみんは顔を真っ赤にしながら黙った。


「あれ?そうなの?」


 俺のその言葉に、めぐみんはビクッと震える。


「へぇ〜、そうなんだ〜」


 俺が調子に乗ってそうからかうと、


「そうですよ!私はカズマと、久しぶりにイチャイチャしたかったんです!

 もう二日も会って無かったのですよ⁉︎もう少しでおかしくなってしまう所でしたよ!」


 そんなカウンターが飛んできた。


「お、おまえ、やめろよな……。そんなこと言われたら、ドキドキしちゃうだろ?」


 俺がそう伝えると、








「もっと私で、ドキドキしてくださいよ」


 






 そんな言葉が返ってきた。






 その夜、今までで一番イチャイチャした。















 

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