短編:幸運の女神の憂鬱と期待

 今回はエリス様視点の短編




 あの人は、一体何だったのでしょうか?


 古代ローマにあるような神殿の中で、幸運を司る女神、エリスは考え事をしていた。


 いまエリスが考えている『あの人』とは、つい先程ここを訪れて、自分の言いたい事だけを颯爽と伝え、嵐のように過ぎ去って行った『カズマ』と言う人物についてだ。


 その『カズマ』と言う人物は、あろうことか、死んだ事に対してあまり驚きもせず、女神に対してほとんど脅迫じみたやり方で頼みごとをして行った。

 だけで収まることはなく、2回目の蘇生を行なったのだ。


『はぁ、明日からは2回目の蘇生の証拠隠滅にカズマさんとその彼女さんの恋愛の監視と運上昇ですか。忙しくなりそうですね』


 そう思いながら、女神エリスは水晶玉のようなもので下の世界を覗く。

 そこではちょうどカズマさんの彼女、めぐみんさんが先ほどの騒動を理由に、カズマさんの部屋でカズマさんの看病をしていた。


『またもや二人は良い雰囲気ではありませんか。

 どれだけ短いスパンでイチャイチャしていれば気が済むのでしょうか?

 これであの後だけでも既に3回目です。


 …………………いえ。

 気が済むとか、そう言う問題では無いのでしょうね。

 私は女神なので、この様な恋愛ごとはほとんど経験がなく、知識も乏しいのですが、あの二人を見ていれば、それは何となく分かります』


 そう思っていると、水晶玉の中での変化に気づく。


『あ、カズマさんの部屋にアクア先輩が近づいて行きますね。

 あのクエストに誘ったのはアクア先輩らしいので、一応その事に責任を感じているのでしょう。

 ……早速わたしの出番でしょうか?

 では、ここはダクネスを使って二人の雰囲気を護ってあげましょうか。

 アクア先輩への直接的な関与は難しいですが、熱心なエリス教徒であるダクネスなら、少しぐらい思考に関与する事はできるのでは無いでしょうか?』


 一時的に二人の運を上げ、ダクネスに届けと願ってみると、ダクネスは動き出し、アクア先輩に何かを話しかけ、リビングに連れ戻してくれた。


『これから、これを毎日続けるのですか。骨が折れますね。

 

 本当に、あの人は台風の様な人です。

 来たと思えば私を翻弄し、いなくなったと思えばその後処理に追わされる。


 ……でも、私もいつか、この二人の様な恋愛をしてみたいものです。

 いつか私にも、そんな相手が見つかるでしょうか?』


 そんな事を思いながら、女神エリスは水晶玉を見つめる。

 表向きにはめんどくさそうではあるが、心の中のどこかには、二人の行方がどの様になるか、ドキドキワクワクしながら楽しみにしている部分もある。

 言ってみれば、少女漫画のこの後の展開に期待する女子高校生の様な、そんな可愛らしい、純粋な気持ちを持っていた。




 ちょっとツンデレ気味の可愛らしい幸運の女神は、今日もまた、めんどくさそうに、しかしどこか楽しそうに、水晶玉を通して、二人の行方を見守るのであった。







 



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