第13話:再来者と作戦の実行

 魔王の幹部襲撃事件から、何事も無く一週間が経ったある日の事。


 デュラハンが街にやってきたあの日から俺たちは、平和な日々を過ごしていた。


 今日も先程、ミツルギだかカツラギだかそんな感じの名前の奴と少しのいざこざがあったものの、特に誰かの命が危なくなるような事が起きることはなかった。


 あぁ、平和だなぁ。


 そんなフラグみたいな事を考えてしまったからだろうか?


『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!』


 お馴染みの、緊急を告げるアナウンスが辺りに響き渡った。


「またかよ……?最近多いな、緊急の呼び出し」


 行かなきゃ駄目か?

 駄目だろうなあ、でもミツルギとあんな騒ぎがあった後だし面倒くさい……。

 と、俺が気怠げにテーブルの上にだらけていると。


『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!

 ……特に、冒険者サトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!』


「…………………えっ」


 今なんて?






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 俺は慌てて正門前に駆けつけた。

 軽装の俺を筆頭に、アクアやめぐみんも門の前に着くが、重装備のダクネスだけは到着が遅れていた。


「お、やっぱりな。またあいつか」


 俺たちが街の正門前に着くと、そこには既に多数の冒険者が集まっている。


 そして多くの駆け出し冒険者が遠巻きに見守る中、街の正門には奴がいた。

 そう、あの魔王の幹部のデュラハンだ。

 今日は先日とは違い、背後に多くのモンスターを引き連れている。


 デュラハンは俺とめぐみんの姿を見つけると、叫びを上げようとするが、


「なぜ城に来ないのだ、この「よし、予想どうりだ!やったれめぐみん!」


「『エクスプロージョン』ッッ!」


 めぐみんの爆裂魔法に全てを呑まれ、言えない。


 そう、これが俺がこの間めぐみんに言っていた『作戦』だ。


 まず、見つけ次第にめぐみんの爆裂魔法を仕掛ける。

 爆裂魔法は詠唱に時間がかかるので、戦闘が始まる前に詠唱を唱え終えて、先制する。

 今回の様に手下をたくさん連れてきたとしても、即刻消すことができるし、連れていなかったとしても、致命傷までとは行かなくても、ダメージを与えることぐらいはできるだろう。


 すると風が吹き煙が晴れ、手下を即刻葬られたデュラハンが出てきた。

 そして次は…


「貴様ああ!出会って早々爆裂魔法を撃ってくるとはどういう「よし!作戦その一成功だ!次は作戦その二に移る!皆さん、よろしくお願いします!」


「「「『スティール』ッ!」」」


 めぐみんをおんぶしながらデュラハンに向けて手を伸ばす俺に続いて、後ろに控えている冒険者たちからも、沢山の手が伸びる。


 これが俺の考えた、次の『作戦』だ。


 俺は俺が考えた『作戦』を、ギルドにいる皆にも伝えておいていた。

 爆裂魔法でダメージを与えたデュラハンに、スティールをできる冒険者たちにスティールを行ってもらうのだ。

 スティールで剣を奪うことができれば、手下もいないあいつは、呪いしか攻撃手段がない。呪いをかけられたとしても、アクアがすぐに解くことが出来るので、倒すことが出来るだろう。


 しかし、周りを見る限り、今回は失敗のようだ。

 ならば……


「あ、危な!何をするか貴様ら!さっきの爆裂魔法と言い、貴様らはそれでも「くそ!作戦その二は失敗だ!なら次は作戦その三だ!アクア、お前の出番だぞ!」


「ふふっ。私をこんな重要な場面で使うなんて、カズマも私の高貴さをわかってきたじゃない!いいわ、任せなさい!」


 何故ここでアクアを使うか。

 それは、あのデュラハンに水をかけるためだ。


 俺はデュラハンを相手にするときの作戦を考えている時に、ふと現実世界でのゲームの知識を思い出した。

 それは、アンデットモンスターは、流れる水が苦手だということ。

 アクアにそのことを確認してみると、この世界でもその知識は通るらしい。


 しかし、どうやってデュラハンに確実に水を当てるかが問題だった。

 そのことにウンウンと悩んでいたら、


『そんな事で悩んでたの?だったら私を頼りなさいな。なんたって、私は水の女神なんですからね!

 だから、その時が来たら、私には報酬を弾んでちょうだいね!』


 と言って来た。

 どうするかは分からないが、あいつは仮にも水の女神だ。

 水のことはあいつに任せるのが一番だと、今回のことを一任した。


 すると先程、任さなさい!と言いながら胸を張ったアクアが一歩前に出る。

 そのアクアの周囲に、霧のような物が漂い……。


「この世に在る我が眷属よ……」


 アクアの周りに現れていた霧が、小さな水の玉となって辺りを漂う。

 その小さな水の玉の一つ一つに、ギュッと魔力が凝縮されているのが感じ取れる。


「水の女神、アクアが命ず…………」


 辺りの空気がビリビリと震える、この感じ。

 この不穏な空気は、めぐみんが爆裂魔法を唱える時のものに似ている。


 その不穏な空気は、対峙するベルディアも感じていたのだろう。

 ベルディアは、躊躇する事もなく潔くアクアに背を向けて素早く逃げようとするが……


「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!」


 アクアが両手を広げて、水を生み出す魔法を唱えた。


 すると、空中から出現した大量の水は、見事デュラハンを巻き込み、街とは反対の方向に流れて行った。

 アクアは今までにない、最高の活躍をして見せたのだった。


 水が全て流れていくと、なんとか岩に掴まって留まっていたデュラハンが現れた。


「よくやったアクア!みんな!これでデュラハンは弱った!もう一度作戦その二だ!いくぞ!」


「「「『スティール』ッ!』」」」


 沢山の冒険者たちによる、スティールが炸裂する。


 それと同時に、俺の手に硬くて冷たい手応えと共に、ずしりとした重さが両手に伝わった。


「「ああ…………」」


 周囲の冒険者たちから失望の声が上がった。

 ベルディアはいまだ、剣を両手で握りしめていた。


 ん?

 じゃあ俺は何を盗ったんだ?

 不思議に思い手元を見ると、


「あ、あの…………。………………首、返してもらえませんかね…………?」


 俺の両手の中で、ベルディアの頭が呟いた。


 …………………………。


「おいお前ら、サッカーしよーぜ!サッカーってのはなああああぁ!手を使わず、足だけでボールを扱う遊びだよおおおお!」


 俺は冒険者達の前に、ベルディアの頭を蹴り込んだ!


「なああああああ!ちょ、おいっ、や、やめっ⁉︎」


 蹴られて転がるベルディアの頭は、今まで焦れて待っていた冒険者達の格好のオモチャにされた。


「ひゃはははは!これおもしれー!」


「おい!こっちこっち!こっちにもパース!」


「やめっ⁉︎ちょ、気持ち悪っ!うえっ!」


 頭を蹴られているベルディアの、体の方は片手に剣を握ったまま、頭のほうの気持ち悪さが移ったのか四つん這いになり、深夜のギルドに溢れている酔っ払いのようになっていた。


「おし。アクア、あとは頼む」


「任されたわ!」


 水を浴びて弱体化中で、しかも冒険者達によって気持ち悪くなったベルディアへ、アクアの片手が向けられた。


「『セイクリッド・ターンアンデット』!」


「ちょ、待っ……!ぎゃああああああー!」


 アクアの魔法を受けたベルディアの悲鳴が、冒険者達の足元から聞こえる。

 流石に今度のターンアンデットは効いたみたいだ。

 ベルディアの身体が白い光に包まれて、やがて薄くなり、消えていく。


 ………こうして、何が目的でこの地にやって来たのかも明かす事なく、さらには、ダクネスが実は死んでいない事を知らないまま、魔王の幹部はこんな所で浄化された。







 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 疲れたので馬小屋に戻ると、なかなか来ないと思っていたダクネスが、俺がバインドスキル用に買って来たロープに縛られハァハァ言っていた。


 こいつは俺たちが戦っている時に自分の性欲を満たしていたようだ。

 ダクネスの鎧は馬小屋に置いてあったので、鎧を取りに来た時に見つけたのだろう。


 しかし、どうやって一人で縛ったんだろうか?

 そんな事を思いながら、その姿のまま馬小屋の外に放り出してやった。


 縛られていたダクネスからドレインタッチでめぐみんに体力を分け、三人で大衆浴場に行った後、一人で縄から抜け出したらしいダクネスと共に魔王幹部討伐祝いでちょっとしたご馳走を食べた。

 ………自分を縛るだけでなく、そっから抜け出す事も出来んのかよ………。


 その夜、馬小屋で、いびきを立てながら寝ているアクアを横に俺は、俺の腕を枕にしているめぐみんと話をしていた。


「カズマは凄いですね。今回あのデュラハンを討伐できたのは、カズマの作戦のおかげですよ」


「ふっふっふ。そうだろう、そうだろう。もっと俺を褒め称えてくれても良いんだぞ?」


「はい、本当にカズマは凄いです。

 魔王の幹部相手に一人の死者も出さずに勝てる作戦を立て、しかもそれを実行してしました。私の爆裂魔法もしっかりと活用してくれましたし。また改めて、カズマに惚れ直しました。それに弱体化していたとはいえ、魔王の幹部相手にスティールを成功させるなんてやっぱりカズマは凄いです。あとは……」


「あ、ありがとう!もう良いよめぐみん!思いは十分に伝わったから!」


 物凄い速さで褒めてくれるめぐみんを止める。


「そうですか。まだ言いたいことは沢山あるのですが……」


 これ以上聞いていたら、恥ずかしさでパンクしてしまう!


 するとめぐみんがふふっと笑い、


「やはり照れているカズマは可愛いですね。顔、真っ赤ですよ?」


 めぐみんがイタズラをするような顔で言ってくる。


「う、うるせーよ。そういうめぐみんだって、俺にこういうこと言われたらすぐ真っ赤になるくせに」


「そうでしょうか?そうとも限りませんよ?」


「そうか、そうか。なら俺もめぐみんを褒めてあげよう。

 めぐみん、今日の爆裂魔法は最高だったな!あのモンスター達を一撃で葬ったあの爆裂魔法は過去最高だった!

 そして、何と言っても可愛い!その赤い瞳も、白い肌も、サラサラな髪も、全部可愛い!

 それに、そのいつもはお姉さんぶってるけどたまに子供らしくなるその性格も………」


「カ、カズマ!もう良いです!分かりました!今回は私の負けです!」


 めぐみんが顔を真っ赤にして俺を止める。


 途中からわざと方向を変えて褒めてやったが、それにも気づかないほど照れているらしい。

 可愛いなあもう!


「ですが、可愛い、ですか。えへへ。改めて言われると、なんだか照れと嬉しさが混ざって変な感じです」


 おっと。自分で言った事を振り返ってみると結構恥ずかしい事を言ってるな。

 やばいです。恥ずかしいです。恐らく俺も顔が赤いです。


「カズマはそんなにも、私の事が好きだったんですね」


「あ、ああ。勿論。当たり前だろ。それどころか、お前が思ってる百倍はお前のことが好きだよ」


「ふふっ、そうですか。ありがとうございます。ではこれからも、私のかっこいい彼氏でしてくださいね」


「ああ、勿論だ。これからも、俺の可愛い彼女の、かっこいい彼氏でいてやるよ」


 そう言って二人は、もうすでに日課になった寝る前のキスをして、眠りにつく。



 二人静かに抱き合って、心地いい夢を見ながら寝ているのであった


 



























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