第11話:来訪者
日課の爆裂散歩を続け、一週間が経ったその日の朝。
『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まって下さいっっ!』
街中に、お馴染みの緊急アナウンスが響き渡った。
そのアナウンスを聞いて、俺たちもしっかりと装備を整え、現場へ向かう。
街の正門前に多くの冒険者が集まる中、そこについた俺たちは、凄まじい威圧感を放つそのモンスターの前に、呆然と立ち尽くした。
デュラハン。
それは人に死の宣告を行い、絶望を与える首なし騎士。
アンデッドとなり、生前を凌駕する肉体と特殊能力を手に入れたモンスター。
正門前に立つ漆黒の鎧を着た騎士は、左脇に己の首を抱え、街中の冒険者達が見守る中、フルフェイスの兜で覆われた自分の首を目の前に差し出した。
差し出された首から、くぐもった声が放たれる。
「……俺は、つい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが……」
やがて、首がプルプルと小刻みに震えだし……!
「まままま、毎日毎日毎日毎日っっ‼︎おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込んでく頭のおかしい大馬鹿は、誰だああああああー‼︎」
そんなデュラハンの言葉に、一人の男が前へ出た。
「………おい、今なんつった。頭のおかしい大馬鹿って言ったか?訂正しろ。」
「……カズマ……!」
そう。カズマである。
こんな状況にもかかわらず、カズマはデュラハンの言葉を訂正させようとしたのだ。
そんなカズマをめぐみんは、やはりこちらもこんな状況にもかかわらず、見つめながら感動していたようだ。
「頭のおかしい大馬鹿だと?………違う。こいつはそんなんじゃない。こいつは……!」
そんなカズマの話を、隣にいるめぐみんや、近くにいるアクアとダクネス、後ろに控えている冒険者達、デュラハンまでもが静かに聞いていた。
「こいつは……頭のおかしい俺の彼女だ‼︎」
「違います!違いますよカズマ!訂正するのはそこではありません!」
はっきりと言い切ったカズマに、味方をしてあげたはずのめぐみんが、一番に否定の声をあげた。
それを受けてカズマは、
「え。ち、違うのか?俺はてっきり、あの夜からめぐみんとは、正式に付き合えてたと思ってたのに……」
盛大にショックを受けていた。
「ち、違いますよカズマ!私が否定したのは頭のおかしなってところだけです。
その…、私がカズマの彼女であるって事を否定したわけでは…………」
ショックを受けて落ちこんでいるカズマを、めぐみんは顔を赤くして照れながらも、しっかりとフォローする。
「……!そ、そうだよな!てっきりあの夜のことは夢だったのかと思っちまったぜ!」
「そんなわけ無いじゃないですか。私は今も、カズマのことが大好きですよ」
「お、おい。やめろよ。照れるだろ、そんな事みんなの前で言われたら」
「何を言ってるんですか。元はと言えば、カズマが先に、みんなの前で俺の彼女だ宣言をしたのではありませんか」
みんなの前でイチャつき始める二人を、周りは微笑ましく見守る。
しかし、そんな中で一人の男が…
「おいお前ら!何をイチャイチャしている!
爆裂魔法での嫌がらせに続き、今度は無視か!俺はこれでも魔王軍の幹部だぞ!せめて名前だけでも名乗ったらどうだ!」
デュラハンである。
魔王軍の幹部でありながら、出てきて1分もせずに無視され、そこに今まで爆裂魔法を城に撃ち込まれた怒りも合わさって、それはもうお怒りであった。
「チッ!邪魔すんなよ(しないでくださいよ)!良いところだったのに(でしたのに)」
二人は言葉遣いは違えど、ほとんど声を重ねながらデュラハンを否定する。
しかしそんなめぐみんは、魔王軍の幹部相手に名乗れるのが嬉しいのか少し上機嫌で前に出て、
「我が名はめぐみん!アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者……!」
そう、声高らかに名乗りあげる
するとカズマも一歩前に出て、
「そして俺の名はカズマ!冒険者にして、将来めぐみんを嫁にもらう者……!」
二人してポーズを決める。
それに対してデュラハンが、
「……その名乗り方と名前はなんだ。バカにして「カズマ!なんでいきなりそんな事をいうのですか!とても恥ずかしいのですが!」
言えない。
先ほどのカズマの名乗りに耐えきれなくなっためぐみんに遮られ、最後まで言えずに終わる。
「ふっふっふ。さっきの仕返しだ」
「もう!カズマは本当にしょうがないですね。
…と言っても、私も今は気分が良いです。もう名乗りも終えましたし、爆裂魔法ついでにデートでもしますか」
「そうだな、もうめんどくさいしな。デートしようぜ」
「そうですね。では皆さん、あとはよろしくお願いします。私達はこれからデートしてきます」
そう言って振り返り歩き出した二人にデュラハンが叫ぶ。
「おい!お前らどこに行く!まだ話は終わってないぞ!」
二人はその言葉に立ち止まり、首だけをデュラハンの方へ向けて、
「おい、まだ邪魔するのか?良い加減にしろよ。空気読めよこの(自主規制)が」
「そうですよ。
私はあなたのせいでまだ今日の分の爆裂魔法を撃てていないのです。まだ邪魔するなら、あなたを的にしますよこの(自主規制)が」
それだけ告げてまた歩き出し、人混みの中へと消えて行ってしまったのだった。
「くそっ!なんなのだあいつらは!
これほどまでコケにされたのはバニル以来だ!どうすればあいつらに………。
…………………ッ‼︎」
何を思いついたのかデュラハンは、歩いて行ってしまった二人の方を眺めているダクネスの方を指差し、
「おい!そこの金髪の女騎士!
お前はあいつらのパーティーか?」
「ん?そうだが。それがどうかしたか?」
それを聞くとデュラハンはフッフッフと静かに笑い、
「そうか、そうか。なら決めた。お前にするとしよう」
そう言い、左手の人差し指をダクネスに突き出し、
「汝に死の宣告を!お前は一週間後に死ぬだろう!」
デュラハンがそう叫ぶと、ダクネスの体が一瞬、ほんのりと黒く光る。
「ダクネス!大丈夫⁉︎」
そんなダクネスにアクアが駆け寄る。
しかしダクネスは自分の両手を確認するかのようにワキワキと何度かにぎり。
「……ふむ、なんとも無いのだが」
いたって平気そうに行ってのけた。
そんなダクネスにデュラハンが、
「その呪いは今はなんとも無い。
人間だった時はこれでも真っ当な騎士だったのでこんな手は使いたくはなかったのだが、今回は仕方があるまい。
…いいかお前ら、よく聞け。そしてあの頭のおかしい二人に伝えろ。
『お前らの仲間は一週間後に死ぬ。そう。お前らのせいでな。そしてお前らは仲間がもがき苦しむ様を見続けることとなるのだ。これに懲りたら俺の城に爆裂魔法を打ち込むのはやめろ。そしてその呪いを解いて欲しくば、俺の城に来るがいい。城の最上階の俺の部屋まで来ることが出来たなら、その呪いを解いてやろう!』とな。
クククククッ!クハハハハハハハッ!」
デュラハンはそう言うと、哄笑しながら、街の外に停めていた首のない馬に乗り、このまま城へと去って行った。
「なんだあのデュラハンは。腰抜けか?
魔王軍の幹部ならばせめて『呪いを解いて欲しくば黙って言うことを聞け』と、ハードプレイを要求したりぐらいしてこい!」
何故か悔しがっているダクネスの横でアクアが詠唱を読み終え、
「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」
魔法を唱えると、ダクネスの体が淡く光った。
「この私にかかれば、デュラハンの呪いを解呪するなんて余裕よ!どう?私だって、たまにはプリーストっぽいでしょ?」
そんなアクアの言葉に、ダクネスはさらに悔しそうになる。
そんな、自由気ままなパーティーに振り回された冒険者達は、未だ呆然と立ち尽くしているだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます