第10話:新たな日課

「カズマ、早速討伐に行きましょう!

 それも、沢山の雑魚モンスターがいるヤツです!カズマから貰った、この杖の威力を試すのです!」


 突然、めぐみんがそんなことを言い出した。


 そう、俺はめぐみんに新しい杖をプレゼントしたのだ。

 宿へのツケや、実家への仕送りで、今回の報酬をほとんど使ってしまっためぐみんが、新調したダクネスの鎧を羨ましそうに見ていたので、今回の活躍のご褒美だと言ってプレゼントした。

 そしたら『ありがとうございます!これは私の家宝にしようと思います!』などと言ってくれた。


 杖を受け取った時のめぐみんの顔が凄く嬉しそうで可愛かったので、こちらまでニヤけてしまいそうだった。


「まあ俺も、ゾンビメーカー討伐じゃ、結局覚えたてのスキルを試す暇もなかったしな。安全で無難なクエストでもこなしに行くか」


「いいえ、お金になるクエストをやりましょう!ツケを払ったから今日のご飯代も無いのよ!」


「いや、ここは強敵を狙うべきだ!

 一撃が重くて気持ちいい、凄く強いモンスターを……!」


 まとまりが無いにも程があるだろう。


「とりあえず、掲示板の依頼を見てから決めようぜ」


 俺の意見に、全員がゾロゾロと掲示板に移動する。

 そして……。


「……あれ?何だこれ、依頼が殆どないじゃ無いか」


 そう、普段は所狭しと大量に貼られている依頼の紙。

 それが、今は数枚しか貼られていない。


 しかも……。


「カズマ!これだ、これにしようではないか!山に出没するブラックファングと呼ばれる巨大熊を……」


「却下だ却下!おい、何だよこれ!高難易度のクエストしか残ってないぞ!」


 そう、残されているのはどれもが、今の俺たちには手に余るものばかり。

 そんな俺たちのもとに、ギルド職員がやって来た。


「ええと……申し訳ありません。

 最近、魔王の幹部らしき者が、街の近くの小城に住み着きまして……。その魔王の幹部の影響か、この近辺の弱いモンスターは隠れてしまい、仕事が激減しております。

 来月には、国の首都から幹部討伐のための騎士団が派遣されるので、それまでは、そこに残っている高難易度のお仕事しか……」


 申し訳なさそうな職員の言葉に、文無しのアクアが悲鳴を上げた。


「な、なんでよおおおおおっ⁉︎」


 ……こればっかりは流石にアクアに同情した。



「全く……!何でこのタイミングで引っ越してくるのよ!幹部だか何だか知らないけど、もしアンデッドなら見てなさいよ!」


 アクアが涙目で愚痴りながら、バイト雑誌をめくっていた。


 魔王の幹部は、一体何の目的でこんな所に来たのやら。

 ここは、駆け出し冒険者が最初に訪れる、初心者のための修行の街。

 カエル相手に苦戦する俺たちが、どれだけ集まっても勝負にすらならないだろう。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「つまり、国の首都から腕利きの冒険者や騎士達がここに来る来月までは、まともな仕事ができないって事か」


「そういう事です。……となると、クエストのない間はしばらく私に付き合って貰う事になりそうですが……」


 俺はめぐみんと共に、街の外へと出ていた。


 俺は、クエストが請けられない事で爆裂魔法が撃てず、悶々としているめぐみんと一緒に、散歩していた。

 めぐみんは、一日に一度、必ず爆裂魔法を放つ事を日課にしているらしい。

 これからは来月まで毎日、これを続けるらしい。

 よしっ!魔王の幹部さんナイス!おかげで何もしなくても、めぐみんと二人きりになれる!それにこうして二人で並んで歩いてると……


「なんだか、デートみたいですね」


 めぐみんも、俺と同じ事を考えていたようだ。やばい。ちょっと恥ずかしくなってきた。

 めぐみんの方をチラッと見てみると、めぐみんの顔もほんのり赤かった。


「そうだな。てか、俺たち付き合ってるのに、こうやってちゃんと二人きりになるのは、これが初めてじゃないか?」


「はい、そうですね。いままではアクアやダクネスが一緒にいましたからね」


 そうなのだ。付き合い初めてからいままで、こうして二人きりになった事はほとんどない。


 朝起きれば、隣にはアクアがいて、三人で朝食を食べ、ダクネスと合流。

 四人で昼食を食べクエストに出かけて、帰還したら夕食を食べる。

 そのあとは大衆浴場で体を洗い、馬小屋に帰り三人で眠りにつく。


 ……あれ?

 ほとんどアクアのせいじゃないか?

 ダクネスはパーティーとして必要最低限一緒にいるだけで、アクアがもうちょい気を遣ってくれれば、もっと二人きりになれたんじゃないか?

 くそ!考えてたらムカついてきた。後でアクアにはお仕置きしてやらなきゃな。


 などと考えていたら、すでに街からは結構離れていた。


「なあ。結構街から離れたけど、そんなに遠くじゃないとダメなのか?」


 俺の言葉にめぐみんがコクリと頷く。


「はい。街から離れた所じゃないと、また守衛さんに怒られます」


「今またって言ったか?音がうるさいとか迷惑だって怒られたのか?」


 するとまた、めぐみんがコクリと頷く。

 しょうがない、丸腰でちょっと不安だが、たまには遠出してみるか。


 二人きりでの会話を楽しみながら、しばらく歩いていると、


「……?あれは何でしょうか。廃城?」


 遠く離れた丘の上。

 そこに、ぽつんと佇む、朽ち果てた古い城。

 それは、まるでお化け屋敷みたいな……。


「薄気味悪いなあ……。お化けでも住んでそうな……」


 俺の呟きに、


「アレにしましょう!あの廃城なら、盛大に破壊しても誰も文句は言わないでしょう」


 そう言って、ウキウキと魔法の準備を始めるめぐみん。可愛いな。


 心地よい風が吹く丘の上。


 のどかな雰囲気のこの場所に、爆裂魔法の詠唱が風に乗った……!



 …………こうして、俺とめぐみんの新しい日課が始まった。


 文無しのアクアは、毎日アルバイトに励んでいる。

 ダクネスは、しばらくは実家で筋トレしてくると言っていた。

 特にやることのないめぐみんは、その廃城の傍へと毎日通い、爆裂魔法を放ち続けた。


 それは、寒い氷雨が降る夕方。

 それは、穏やかな食後の昼下がり。

 それは、早朝の爽やかな散歩のついでに。


 どんな時でもめぐみんは、毎日その廃城に魔法を放ち……。


 めぐみんの傍で魔法を見続けていた俺は、その日の爆裂魔法のできが分かるまでになっていた。


「『エクスプロージョン』ッッッ!」


「おっ、今日のはいい感じだな。

 爆裂の衝撃波が、ズンと骨身に浸透するかの如く響き、それでいて肌を撫でるかのように空気の振動が遅れてくる。

 相変わらず、不思議とあの廃城は無事なようだが、それでも。ナイス爆裂!」


「ナイス爆裂!ふふっ、カズマも爆裂道が段々分かってきましたね。今日の評価はなかなかに的を射ていて詩人でしたよ。

 ……どうです?カズマも、冗談ではなく、いっそ本当に爆裂魔法を覚えることを考えてみては」


「うーん、爆裂道も面白そうだがなぁ、今のパーティー編制だと魔法使いが二人ってのもな。

 でも冒険家稼業を引退する際には、余裕があったら最後に爆裂魔法を習得してみるのも面白そうだな」


 俺とめぐみんは、そんな事を言い合いながら笑い合う。

 今日の爆裂魔法の音は何点だった、いや、音量は小さかったが音色が良かった等、そんな事を語りながら。

 少しづつ、軽口も言い合えるような仲になっていった。



 



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