第9話:冒険の基本


 あの後、ギルド全体がちょっとした祝いの席になっていた時にダクネスが来た。


 ダクネスだけに話さないと言うのもアレなので、駄女神のようにはならないように気をつけ、真実を伝えた。

 途中『本当に、付き合った事以外は何もないのだな?』などと聞かれたが、こいつが聞いてるのはおそらく、キスよりももっと先のことなので『何もなかったよ』と伝えておいた。

 そしたら『そうか、なら別に良いだろう。二人ともおめでとう』と祝ってくれた。


 そうだよな。普通、心配するよな。

 俺と、この世界ですらもまだ成人してないめぐみんが、間違いをおかしたなんてことになったら、普通はそれを祝福したりしない。


 うん。良かった。ダクネスがドMな所以外は普通なやつで。

 こいつまで頭の中がお花畑だったら俺は先ほどとは違う意味で、めぐみんと一緒にこの街から逃げ出したかも知れない。

 もう既に、一部は取り返しがつかないことになってはいるが。


 この街には、本当に常識的なやつは、もういないのだろうか?

 そんな事を、考えていた。


 それからも、いろんな事があった。

 キャベツ狩りで得たスキルポイントで《片手剣》スキルと《初級魔法》スキルを教えてもらったり、収入があったので色々と装備を揃えたり。

 とあるクエストでは、この世界では珍しく常識のあるがリッチーである、ウィズと出会ったりした。


 そんな中、俺はギルドでネロイドというものを飲みながら、相席している男の話を聞いていた。


「知ってるか?なんでも魔王軍の幹部の一人が、この街からちょっと登った丘にある、古い城を乗っ取ったらしいぜ」


 俺はネロイドを飲み干しテーブルに置き、


「魔王軍の幹部がねぇ。物騒な話だけど、俺たちには縁のない話だよな」


「違えねえ」


 目の前の男が、俺のやる気の無い無責任な言葉に笑いながら同意した。


 冒険者ギルドで駄弁っている連中は意外に多く、面白い話が色々聞ける。

 情報収集はゲームにおいて最も大事なフラグ回収作業だ。

 酒場での、こういった会議はいかにも冒険者っぽくて心地よい。

 向かいの冒険者の男が言った。


「ま、何にせよ。街の北の外れにある廃城には近付かない方がいい。

 王国の首都でもないこんなところに、なんで魔王の幹部がやって来たかは知らないがね。幹部ってからには、オーガロードやヴァンパイア。はたまた、アークデーモンかドラゴンか。

 いずれにしても、俺たちが会ったら瞬殺される様な化け物が住んでるのは間違いない。廃城近くでのクエストは、しばらく避けた方が無難だな」


 男に礼を言って席を立ち、俺は自分たちのパーティーへと向かうと……。


「……どうした?俺を、そんな変な目で見て」


 アクアとダクネスとめぐみんが、テーブルの真ん中に置いた、コップにさした野菜スティックをぽりぽりかじり、俺を見ていた。


「別にー?カズマが、他のパーティーに入ったりしないか心配なんてしてないし」


 アクアが、言いながら、ちょっとだけ不安そうな目でチラチラ見てくる。


「……?いや、情報収集は冒険の基本だろうが」


 俺は三人のいるテーブル席に座り、俺も一本貰おうと、野菜スティックに手を伸ばす。


 クイッ。


 野菜スティックが俺の伸ばした手から逃れるように、ひょいと身をかわした。

 ……おい。


「何やってんのよカズマ」


 アクアがテーブルをバンと叩くと、野菜スティックがビクリと跳ねる。

 一瞬動かなくなった野菜スティックを、アクアが一本つまんで口に運ぶ。


「……なんなんだこの新感覚は?

 カズマがよそのパーティーで仲良くやっている姿を見ると、胸がモヤモヤする反面、何か新たな快感が…。

 もしや、これが噂の寝取られ……?」


 おかしな事を口走るどうしようもない変態が、コップのふちをピンと指で弾き、そのまま野菜スティックを指で摘む。


「なんだ、どうしたお前ら。こう言った場所での情報収集は基本だろう……」


 そこまでいうと、めぐみんが俺の胸元に掴みかかって来て、


「本当ですかカズマ?私たちをおいて、他のパーティーに行ったりしませんか?」


 目尻に涙を溜めながら、そんな事を言って来た。


「大丈夫だよ。他の二人だけならともかく、めぐみんをおいて他のパーティーに行くなんてことは、絶対しないよ」


 そう伝えるとめぐみんは、安心と恥ずかしさからか、顔を赤くしながらも、満足した様子で、また席に着いた。


 やばい。

 自分で言っといてなんだけど、やっぱりみんなの前で こういうこと言うのは恥ずかしい。

 おれも顔が赤いかも。


 そう思い、それを紛らわす為に先ほどの二人の様にテーブルをバンと叩くと、野菜スティックに手を……。


 ヒョイッ。


「…………だあああらっしゃあああああ!」


「や、やめてええ!私の野菜スティックになにすんの!た、食べ物を粗末にするのはいくない!」


 俺は野菜スティックを掴み損ねた手で、今度はスティックが入ったコップごと掴むと、それを壁に叩きつけようと振りかぶるが、半泣きのアクアに手を掴まれる。


「そうですよカズマ、落ち着いてください。食べ物を粗末にしてはいけません。大丈夫です、カズマには私が食べさせて上げます。」


 そう言ってアクアが俺から取り上げたコップから、先ほどの様に野菜スティックを取り上げ、俺の口元に近づけてくる。


「はい。あーんです。」


「え⁉︎あ、あーん」


 まじかよめぐみんさん!

 やばいよ!

 何がやばいって、いろいろと!

 俺の心臓なんてもうドックンドックンいっちゃってるし、スゲー恥ずい!


 他の二人はニヤニヤしながら見つめてくるし……!

 くそ、後で仕返ししてやる!


 そんな事になるならなんでしたかって?

 だってしょうがないじゃん!

 めぐみんが凄い嬉しそうな顔で待ってんだもん!

 それに俺も、美少女にあーんなんてされた事なかったし!


 俺はそんなことを思いながら、恥ずかしさを隠す為に野菜スティックを黙々と食べていた。


「もー、二人ったらラブラブねー!」


「うむ、羨ましいぞ。私もいつかは、そんな相手が欲しいものだ」


「そうでしょう、そうでしょう。これからもどんどん、二人に見せつけてあげますよ!」


 めぐみんはなんでそんなに余裕なんだ?俺なんかもういっぱいいっぱいなんだが。


 そう思ってめぐみんの方を見ると、


 顔が真っ赤でした。


 なんだよ!

 やっぱめぐみんも恥ずかしいんじゃん!

 みんなに見せつけたかったのか?

 もう!可愛いったらありゃしない!


 でもこのまま続けてても恥ずかしいだけなので、話題を変えよう。


「お、おい。もうその話題はいいだろ。

 それより、お前達に聞きたいことがあるんだよ。レベルが上がったら、次はどんなスキルを覚えようかと思ってな。

 ハッキリ言ってバランス悪すぎるからなこのパーティーは。自由の利く俺が穴を埋める感じで行きたいんだが……。そういや、お前らのスキルってどんな感じなんだ?」


 そう、効率よくクエストをこなしていくなら、パーティーメンバーとの相性を考えたスキルを覚えていく方がいい。


 そう思って相談を持ちかけた訳だが。


「私は《物理耐性》と、《魔法耐性》、それぞれ《状態異常耐性》で占めているな。

 後はデコイという、囮になるスキルぐらいだ。」


「……《両手剣》とか覚えて、武器の命中率を上げる気は無いのか?」


「無い。私は言ってはなんだが、体力と筋力はある。

 攻撃が簡単に当たる様になってしまっては、無傷でモンスターを倒せる様になってしまう。かといって、手加減してわざと攻撃を受けるのは違うのだ。

 こう……、必死に剣を振るうが当たらず、力及ばず圧倒されてしまうというのが気持ちいい」


「もういい、お前は黙ってろ」


「……んん……っ!自分から聞いておいてこの仕打ち……」


 頰を赤らめ、ハアハア言っているダクネスは放置する。

 めぐみんを見ると、小首を傾げて口を開いた。


「私はもちろん爆裂系スキルです。爆裂魔法に爆発系魔法威力上昇、高速詠唱など。最高の爆裂魔法を放つためのスキル振りです。

 これまでも。もちろん、これからも」


「さすがめぐみん」


 そう言ってめぐみんにサムズアップすると、めぐみんも笑いながら返してくれた。


「えっと、私は……」


「お前はいい」


 自分のスキルを言おうとしたアクアを黙らせる。

 どうせ、宴会芸とか宴会芸とか宴会芸とかそんなんだろう。


 しかし…………。


「何でこう、まとまりが無いんだよこのパーティーは……。めぐみん、俺ら二人で本当に移籍するか?」


「「「⁉︎」」」


 俺の小さな呟きに、二人はビクリとして、めぐみんは『私は、カズマがいるところに行きますよ』などといじらしいことを言ってきた。




 
















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