第8話:お花畑

 目を覚ますと、そこにはめぐみんがいた。


 めぐみんは今、俺の腕を枕にして、俺の服の胸元を掴みながら、スヤスヤと眠っている。

 やばい!可愛すぎだろ!こんな子が俺の彼女なんだよ?なに?俺、幸せすぎて死ぬの?


 めぐみんの寝顔を見て、そんな事を考えていた。


 彼女。

 そう、彼女なのである。昨晩、二人は自分の思いを告げ合い、めでたくお付き合いする事になったのだ。


 その後はキスもした。

 ファーストキスだった。キスとはこんなにも良いものだったのか。

 めぐみんの唇の感触は、いまだに思い出せる。柔らかくて、暖かくて、それでいて少し湿ってるのが、少しエッチな気持ちにさせる。

 エッチな気持ちにはなったが、その後は何もしてない。

 雰囲気的には十分だったのだが、アクアが隣に居るし、付き合ったばかりだし、何より、初めてが馬小屋というのは流石に嫌だった。

 めぐみんもそれには同意らしく、その先はまた今度という事になった。


 そんなことがあった昨晩の事を思い出していると、顔が熱くなった。

 おそらく、すごく赤いだろう。

 そんな気持ちを紛らわすために、いまだに眠っているめぐみんのほっぺをフニフニしていた。


「……ん……」


 めぐみんの頰をフニフニしていると、めぐみんが目を覚ました。


「起きたかめぐみん。おはよう」


「はい。おはようございます、カズマ」


 目覚めはいいらしく、いつも通りのめぐみんだ。

 すこし眠がっているめぐみんも見たかったな。


 そんな事を考えていると、


「……それで、この手はなんですか、カズマ。恥ずかしいのですが」


 俺はいまだにめぐみんの頰をフニフニしていた。


「ああ、ごめん。いや、昨日の事を思い出してたら恥ずかしくなってさ、気を紛らわそうと思ってフニフニしてたんだ」


 俺がそう返すと、めぐみんも昨日の事を思い出したのか、顔を赤くして黙り込んだ。

 照れてるめぐみんも可愛いな。


「そう…ですか。うう、昨日の事を思い出したら、私まで恥ずかしくなって来ました」


 そう言いながら、俺の胸元に赤を埋めて来た。

 なにこの可愛い生き物。

 俺の理性と言う名の壁をハンマーで殴り続けてくるんですけど。


 こんな事をしていると、まだ隣でアクアが寝ている事を思い出した。

 こんなとこをアクアに見られたら、なんて言われるかたまったもんじゃない。

 名残惜しいが、今はここまでだな。


「めぐみん、そろそろ終わりだ。隣にはアクアがいる。あいつに見られたら、なにを言われるか分かんないからな」


「そうですか。私としては別に見つかってもいいのですが、カズマがそう言うなら今はやめます」


 めぐみんがそんないじらしい事を言ってくる。


 うう、俺ももっとイチャイチャしたいよ。でもアクアに見られたらどうなるか分からない。

 ここは今日の分のクエストを早く終わして、めぐみんと二人きりの時間を増やそう。

 うん。そうしよう。


 そう思ってアクアを起こそうとすると、


「おい、アクア。起き……」


 いなかった。

 いつもなら俺より遅く起きるはずなのに、今日に限っていなかった。


 いない?なんで今日に限って!

 しかも見られた!

 なにも事情を知らないアクアに、めぐみんと寄り添いながら寝てるとこを!

 やばい!もうイヤな予感しかしない!


 そう思ってめぐみんの方を振り返り、


「めぐみん!やばい!アクアがいない!俺たちが一緒に寝てるとこを見られた!着替えてすぐに追いかけるぞ!」


「別にいいではないですか。アクアもパーティーのメンバーなのですから、いつかは伝えなければいけなかったのです。それが早いか遅いかの違いですよ」


「違う!それだけじゃない!あいつのことだから絶対に何かやらかす!」


 そう。今回一緒に寝ているとこを見られたのは、アクアなのだ。

 仮に見られたのが、同じパーティーメンバーのダクネスだったら、俺らを起こして事情を聞き、納得してくれるだろう。

 ドMなところ以外は常識のあるやつだからな。多分。

 しかし、アクアなのだ。何をするかわからない。


 いや、思いつくことは思いつく。

 しかし、どれもろくなことではない。


 着替え終わっためぐみんと一緒に、俺たちはギルドへ向かう。俺が思い描いた、最悪な状況を否定するために。


 ギルドにつき、扉を開く。するとそこには、


「みなさん聞いてくださいな!うちのパーティーのカズマさんが、朝起きたら、もう一人のパーティーメンバーのめぐみんと寄り添って寝てたの!

 昨日はみんなで飲んだから、その勢いで凄いことしちゃったのかも!カスよね!もう彼のことはカスマさんて呼んでいいわよね!」


 見事、俺の思い描いた最悪の状況を作り出してくれたアクアがいた。


「カズマってあれか?昨日女の子をヌメヌメにして泣かせてたゴミ野郎?」


「そうよ!」


「めぐみんてあれか?あのまだ小さい紅魔族の女の子か?」


「そうよ!」


 ある意味有名になった俺と、紅魔族ということですでに周りから知られているめぐみんだったので、みんなが『どこの誰だよそいつら』と思ってくれるという最後の希望は消えていった。


 それに絶望を感じながらアクアの方を見ていると、アクアと目があった。

 そんなアクアは……


「ほら!あそこにいる二人よ!今日も仲良く二人で来たみたいよ!」


 俺たちに最後のとどめを刺して来た。


「あれが……」


「やばいわね……」


 など、いろんな事を言われている。


 終わった。

 どうしよう。

 明日からはこの街に居れないかもしれない。

 なら、キャベツで貰った報酬を持ってめぐみんと二人で別の街で過ごそうか。

 まだ誰にもいってないが、俺の持ち金は今、150万近くある。

 キャベツだけでなくクリスの件もあったし、冒険者になる前はそれなりに働いてたからな。

 あっちにも冒険者ギルドはあるだろうし、二人だけならある程度は生活して行けるだろう。


 あれ?それはそれでいいような…。

 めぐみんとずっと二人きりで居られるし、何よりアクアがいないじゃん!

 え、どうしよう!なんかもうそっちの方がいいような気がして来た!


 考えが完全に違った方向に向かい始めたときに、一人の男が近寄って来た。


「おめでとう!末長く幸せにな!」


 ………………。

 あれ?俺たち今祝福された?なんで?

 いろんな勘違いとかで、もうこの街にいられないぐらい冷たい目で見られると思ってたのに。


「あれがその二人なのね!おめでとう!お幸せにね!」


「やばいわね!カップルだなんて羨ましいわ!」


「それに、最低なカス野郎って聞いてたから、いつか私たちも何かされるんじゃないかと思ったけど、彼女ができたなら問題なさそうね!」


 ……………。

 この街には、頭の中がお花畑な人が多いらしい。

 最後のお姉さんの言葉が、いつもなら凄いキツイはずのに、今はまだ常識的な人がいるんだなと安心してしまった。


「どう思う?めぐみん」


「紅魔族である私からしてみれば、頭のおかしな集団にしか見えませんが、私たちを祝福してくれているので別にいいです。

 私はカズマがいてくれればそれで良いです」


 おっと、不意打ちは流石に卑怯ですよ。

 頑張ってここには頭のおかしな人たちが多いんだって事を受け入れようとしてるのに、また頭の中がゴチャゴチャしてしまった。


「良かったわね、二人とも!これも女神である私が頑張ったからよ!だから今日のクエストの報酬は、私の取り分多くして頂戴ね!」


 こいつ!

 あまりに頭がお花畑過ぎるので、せめて2.3本でも枯れてくれれば良いなと思ってチョップをくれてやろうと思ったのだが、何故かこのタイミングでめぐみんが手を繋いで来たのでやめにした。


 もう良いや!なんか凄いご都合主義だけどなんでも良いや!運が良いのか悪いのかわかんないけど一応言っとくよ幸運の神様!ありがとうございました!


 そして、


 このおかしな世界にも祝福を!





 






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