第7話:新たな始まり

「何故たかがキャベツの野菜炒めがこんなに上手いんだ。納得いかねえ、ホントに納得いかねえ」


 俺たちはギルドの中で、先ほど狩ったキャベツを食べていた。


 何故キャベツを狩る必要があるかって?

 ………この世界のキャベツは飛ぶんだよ。


 今回の緊急クエストは、そのキャベツの収穫だった。

 今年のキャベツは出来がいいらしく、一玉につき一万エリスで取引された。

 良い金になるので、俺たちも参加した。


 しかし、めぐみんは放送の後、何故か機嫌が悪かった。

 あれか?俺がすぐにぱんつを返さなかったからか?

 どうしよう、嫌われたかな?

 ……でもしょうがないじゃん!あんなこと言われたらそりゃ誰でも色々と期待しちゃうじゃん!

 それに、そのあとにちゃんとぱんつは返したからな。

 さらに言えば、クエストで爆裂魔法を打ったらスッキリしたのか、もう元に戻ってるし。


「しかし、やるわねダクネス!あなた、さすがクルセイダーね!あの鉄壁の守りには流石のキャベツ達も攻めあぐねていたわ。」


「いや、私など、ただ硬いだけの女だ。私は不器用で動きも速くはない。だから、剣を振るってもロクに当たらず、誰かの壁になって守る事しか取り柄がない。

 ……その点、めぐみんは凄まじかった。キャベツを追って街に近づいたモンスターの群れを、爆裂魔法の一撃で吹き飛ばしていたではないか。他の冒険者達のあの驚いた顔といったらなかったな」


「ふふ、我が必殺の爆裂魔法の前において、何者も抗う事など叶わず。

 ……それよりも、カズマの活躍こそ目覚しかったです。魔力を使い果たした私を素早く回収して背負って帰ってくれました。」


 当たり前だろ。

 めぐみんを他の奴におんぶさせるなんてあり得ない。

 合法的に触れながら匂いを嗅ぐチャンスだからな。


「……ん、私がキャベツやモンスターに囲まれ、袋叩きにされている時も、カズマは颯爽と現れ、襲いかかるキャベツ達を収穫していってくれた。助かった、礼を言う」


「確かに、潜伏スキルで気配を消して、敵感知で素早くキャベツの動きを捕捉し、背後からスティールで強襲するその姿は、まるで鮮やかな暗殺者のごとしです。」


 やがてアクアが、テーブルの上に平らげたキャベツ皿をコトリと置く。

 今回のキャベツ狩りにおいて、ただ一人だけ活躍していない駄女神は、優雅に口元を拭い、


「カズマ……。私の名において、あなたに【華麗なるキャベツ泥棒】の称号を授けてあげるわ。」


「やかましいわ!そんな称号で俺を呼んだら引っ叩くぞ!……ああもう、どうしてこうなった!」


 俺は頭を抱えたままテーブルに突っ伏した。

 緊急事態である。


「では、名はダクネス。職業はクルセイダーだ。一応両手剣を使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。なにせ、不器用すぎて攻撃がほとんど当たらん。

 だが、壁になるのは大得意だ。よろしく頼む」


 そう。仲間が一人、増えました。

 アクアが満足そうに余裕の笑みに浮かべながら。


 「……ふふん。うちのパーティーもなかなか、豪華な顔ぶれになってきたじゃない?アークプリーストの私に、アークウィザードのめぐみん。そして防御特化の上級前衛職である、クルセイダーのダクネス。

 四人中三人が上級職なんてパーティー、そうそうないわよカズマ?あなた、凄くついてるわよ?感謝しなさいな」


 攻撃が当たらない前衛職に、極上のバカで運が悪くて、未だに何の役にもたってないプリーストだがな!

 めぐみんは一日一発しか魔法が使えないが、可愛いから許す。てか、居てくれないと俺が困る。


 キャベツ狩りの最中、ダクネスと意気投合したアクアとめぐみんが、ダクネスをパーティーに向かい入れようと言いだしたのだ。

 何とかしなければと思って居たが、めぐみんにお願いされては断れない。


 しかしこのダクネス、攻撃が当たらないくせに何故かやたらとモンスターの群れに突っ込んでいく。

 弱者を守るクルセイダーとして、他の者を守りたい気持ちが人一倍強いのはいい事なのかもしれないが………。


「んく……っ。ああ、先ほどのキャベツやモンスターの群れにボコボコに蹂躙された時は堪らなかったなあ……。

 このパーティーでは本格的な前衛職は私だけの様だから、遠慮なく私を囮や壁がわりに使ってくれ。何なら、危険と判断したら捨て駒として見捨ててもらってもいい。

 ……んんっ!そ、想像しただけで武者震いが……っ!」


 頰をほんのり赤く染めて、小さく震えているダクネス。


 ……こいつ、アレだ。


 タダのドMだ。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 その日の夜。


 あの後、アクアが『二人のパーティー加入を祝って宴会をひらきましょ!』とか言いだしたので皆で食事をした。

 アクアが飲みすぎて眠ってしまったので、そのあとは皆帰っていった。


 俺もアクアを背負って馬小屋まできて、わらの上にシートを敷いた所に、アクアを寝かせた。

 俺も眠かったのでそろそろ寝ようかと横になろうとした時、


「すみません」


 声をかけられた。

 こんな時間に誰だろう、と声のあった方を向いみると、


「少しいいですか?」


 そこには、少しの荷物を持っためぐみんが立っていた。


「どうしたんだ?こんな時間に」


 するとめぐみんは俯いて、


「い、いえ。あの……ですね。カズマ達がこの馬小屋で寝泊まりしていると聞いたので。その……、一緒に寝かせてもらおうかなと、思いまして……」


 ……一緒に、寝かせてもらう?

 え?めぐみんは宿に泊まってるんじゃないのか?

 いや、俺的には全然オッケー、むしろ大歓迎なんだけど、ここでがっつきすぎるのもアレなんでまずは理由を聞いてみよう。


「めぐみんは宿に泊まってたんじゃないのか?今日のキャベツの報酬もあるし、お金には困ってないだろ?なんで俺たちと一緒に馬小屋で寝泊まりするんだ?」


「それが、ですね……。

 私、今までは宿のオーナーさんのご好意で、お金が入るまでツケにしといてもらっていたのです。それを払ったり、実家への仕送りなどもあって、宿で生活するには貯金が物足りなくなってしまいまして。

 またオーナーさんに迷惑をかけるのも申し訳ないので、カズマ達を頼りに、ここにきました」


 なるほど。初めて会った時も三日も何も食べてないっていってたもんな。

 それに実家に仕送りまでしてるのか。いい子すぎるだろ。


「そっか、そういう理由なら仕方がないな。いいよ。ここで寝ろよ」


「はい。ありがとうございます」


 そういって俺たちがいつも寝ている所にめぐみんを連れていくと、


「……すかー………」


 アクアが大の字になって、半分以上のスペースを占領していた。


 いつもは二人ぐらいならそれなりに余裕がある場所なので、少し詰めるだけで済むと思っていたのだが、アクアがスペースを占領しているため、一人で寝るにしても少し狭く感じるくらいの場所しか残ってなかった。

 そのうえ、シートが敷いてある場所となるとさらに狭い。

 少しチクチクするが仕方ない。

 めぐみんにシートの上で寝てもらって、俺はわらの上で寝よう。


「めぐみん、俺は大丈夫だからシートの上で寝ろよ」


「そんなことできませんよ。ただでさえ一緒に寝かせてもらう立場なのに、そこまで気を使わせるわけには行きません」


 ほんとに、なんていい子なんだろう。

 この謙虚さをこの駄女神にも教えてあげてほしい。


「いや、大丈夫だって。シート買う前までは普通にわらの上で寝てたんだし」


「カズマは優しいのですね。わかりました。では、私はシートの上で寝かせていただきます」


「おう、そうしとけ」


「……ただし、条件があります」


 条件?なんだろう?


「カズマも、一緒にシートの上で寝てください」


 …………え?

 このスペースでか⁉︎

 そんなことしたら、俺の理性が持つかわかんないよ!


「え⁉︎そ、それは流石に……」


「これは、カズマのためを思って、と言うより、私のためなのです」


 めぐみんのため⁉︎

 尚更わかんねえよ!

 俺は夢でも見てんのか?


「ど、どう言うことだ?」


「いえ、実はですね。私、枕がないと眠れないのです。しかし、今までは宿の枕を使っていたので今は枕が無いのです。ですので、カズマに腕枕をして貰おうかと思いまして」


 腕枕⁉︎え?この子今腕枕してって言った⁉︎

 俺が?めぐみんに?いや、したいよ!そりゃ出来ることならしたいよ!


 でもそう言うのって心の準備が……


「ダメですか?」


 めぐみんが上目遣いで、そんなことを言ってきた。


 よし、やってやるよ!

 もう腕枕ぐらい幾らでもしてやるよ!ほらこいよ!


「わかったよ。ほら、こいよ」


 そう言って俺は、右手を伸ばしながら寝っ転がった。


「ありがとうございます」


 と言いながらめぐみんは、俺の隣に寝っ転がり、俺の右腕に頭を置いた。

 ……だけに留まらず、俺の胸あたりに顔を埋めて、抱きついてきた。


「え⁉︎ちょ、めぐみん⁉︎」


「カズマ、こちらを見ないで聞いてください」


 いや、無理だろ。

 好きな女の子が俺に抱きついてきてんだぞ?

 いい匂いするし、触れ合ってるところが柔らかくてあったかいし。

 そもそも、そんなとこにいたらどう足掻いても視界に入っちゃうよ!


 などと考えていると、俺が黙っていた事が肯定を示していると思ったのか、めぐみんは話し出した。


「……カズマは、こんな私を、なんでパーティーに入れてくれたのですか?」


「ど、どうしたんだめぐみん。なんでいきなりそんな事を……」


「お願いです。教えてください」


 めぐみんが真剣な声で聞いてくる。


 どうしたのだろうか?

 めぐみんの方を見てみると何処と無く不安がっている気がする。


 …………こんな時に伝えてしまうのもあれだが、本当の事を話そう。


「……それはな、俺が、めぐみんの事が好きだからだよ」


「………え?」


「会って1日しか経ってないのに何言ってんだ、って思うかもしれないけど、本当なんだ。一目惚れだよ。こんなの、生まれて初めてだぜ?」


 嘘はついてない。

 本当の事だ。

 俺はただ、めぐみんが教えくれと言ってきたから、言っているだけだ。


「初めてめぐみんを見た時に、めぐみんを好きになった。んで、この子は絶対に俺のパーティーに入れなきゃ!って思ったんだよ。

 その後はもう、俺がどんな行動をとったかは知ってるだろ?」


「……本当……ですか?」


「ああ、本当だ」


「……同情や、……しょうがなくじゃ、無いんですか?」


「そんな訳ないだろ」


 そう言うと、めぐみんは俺の胸に顔を埋めたまま泣いていた。

 俺はそんなめぐみんの頭を、泣き止むまで撫で続けてやった。

 

 そして泣き止むと、めぐみんは顔を上げ、横に正座した。


「カズマ、正直に話してくれて、ありがとうございます」


「おう。勝手にこんな事言っちまったが、いつか、俺のことを好きにさせてやるよ」


 そうだ。こんなところで言ってしまったが、別にこれのせいで気持ちが薄れるなんて事はない。


 これから、少しずつでも、めぐみんを振り向かせてやる。


「はい。そんなカズマに、伝えたい事があります」


 なんだろう?ここで気持ち悪いのでやめてください、なんて言われたらどうしよう。

 軽く死ねる。


「私も、カズマが好きです」


「……え?」


 脳が、追いつかない。


「私もカズマが好きなのです。カズマは、昨日のクエストの、帰り道のことを覚えていますか?」


「あ、ああ」


「その時カズマは、爆裂魔法しか使えない、と言った私に言ってくれましたよね。『爆裂魔法と言う名の茨の道を突き進んでいるのだから、それは凄いことだ』って」


「そ、そうだな」


 ちょっと美化されているようだが、だいたいそんな感じのことは言った。


「あの時、私はとても嬉しかったのですよ?

 カズマが、私のこれまでの人生を肯定してくれたから。

 カズマが、私のこれまでの努力が、意味のある努力であったと、認識させてくれたから。

 あまりに嬉しくて、その場で泣いてしまったぐらいですし」


 あの涙は、そう言うことだったのか。

 あの時は、めぐみんをパーティーに入れるのに必死だったからなぁ。


「そんなカズマに、私は恋をしてしまったのです。……私にとっての、初恋です。

 ………ですからカズマ、私と付き……!」


 俺は、そこまで言っためぐみんの口を、手で塞いだ。

 それ以上は、言わせない。そこから先は、俺から伝えるべき言葉だ。

 静かになっためぐみんの口から、肩に手を移し、伝える。

 俺が『伝えるべき』言葉を。

 いや、俺が『伝えたい』言葉だ。


「めぐみん。俺と、付き合ってくれ!」


「はい!」


 めぐみんが、瞳に涙を溜めながら答えた。


 

 二人は、口付けを交わした。



 そんな二人を、窓から月光が照らす。



 そして夜は段々と深まっていった。




 



 









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