第3話:もう一つの始まり

 今回はめぐみん視点です。



「おい、めぐみん。うちのパーティーに入れよ」


 この男は何を言っているんでしょうか?

 聞き間違いかもしれないと私がもう一度言うように頼むと、


「ん?だから、うちのパーティーに入れよ」


 やはりこのように言っていたようです。

 他の町の人からは頭がおかしいと言われる紅魔族の私達ですが、今のは完全にこの男がおかしいと思います。現に、一緒にいたアクアと言う人も驚いています。


 しかしこの男はそれを無視し、私に手を差し伸べて言ったのです。


「よろしくな!」


 普通だったら、この男の手を取る前に『何故だ』とか色々聞かなければいけないのかもしれません。


 しかし私は何故か、戸惑いながらも不安は一切なく、この男の手を取っていました。


 転んだ子供が、母親から差し伸べられた手を取るかのような、安心を持って。

 


 この人なら大丈夫だと。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 そして昼食兼面接(?)を終えた私達は、この男に「魔法を見せて欲しい」と言われたのでジャイアントトードのクエストを受けていました。

 なんでも先日のクエストの続きだそうです。


「そういえば、まだあなたの名前を聞いてませんでしたね。なんと言うのですか?」


「ん、そうか。俺の自己紹介がまだだったか。俺はサトウカズマ、職業は冒険者だよ」


「冒険者……ですか?珍しいですね。」


「あ、いや。うん。なんでも冒険者は全てのスキルを覚えられるって聞いたからな!」


 何故か目をそらしている気がしますが、それはこの際いいでしょう。


「それにしても、カズマ……ですか。あなたの名前も珍しい名前ではありませんか?」


「あー、そうだな。俺も遠くから来たからな」


「どこから来たのですか?」


「日本っていう国から来たんだ」


「ニホン、ですか。聞いたことのないところですね」


 そんな事を話しながら歩いていると、正面方向に2匹のジャイアントトードを見つけました。右側を見てみると、さっきのジャイアントトードよりもやや近いところにももう1匹、ジャイアントトードがいました。

 それを見たカズマが、


「じゃあ俺たち二人で近い方のジャイアントトードを相手してるから、めぐみんは遠い方の2匹に魔法を放つ準備をしといてくれ」


「わかりました。爆裂魔法は最強魔法。そのぶん、魔法を使うのに準備時間がかかります。準備が整うまで、カエルの足止めをお願いします」


「分かった、任せとけ」


 そう言うとカズマはアクアの方を向いて、


「おい、いくぞアクア!今度こそリベンジだ!お前一応元なんたらなんだろ?たまには元なんたらの実力を見せてみろ!」


「元って何⁉︎ちゃんと現在進行形で女神よ!アークプリーストは仮の姿よぉ!」


 この人は何を言っているのでしょうか?自分のことを女神だなんて言って、天罰でもくだらないのでしょうか?

 不思議に思いカズマを見ながら尋ねてみる。


「……女神?」


「……を自称してる可哀想な子だよ。たまにこういう事を口走るんだけど、できるだけそっとしておいてやって欲しい」


 ……カズマは大変なんですね。


「何よ、打撃が効きづらいカエルだけど、今度こそ女神の力を見せてやるわよ!見てなさいよカズマ!今の所活躍していない私だけど、今日こそはっ!」


 そう叫んでカエルの方に突っ込んでいき、見事カエルに食べられていました。バカなんでしょうか?いえ、バカなんですね。


 そんな事を考えながらも、私は爆裂魔法の詠唱を終えて、


「見ていてください。これが、人類が行える中で最も威力のある攻撃手段。……これこそが、究極の攻撃魔法です」


 杖の先に光が灯る。

 膨大な光をギュッと凝縮したような、とても眩しいが小さな光。

 私は目を見開き唱える。


「『エクスプロージョン』ッ!」


 杖の先の光はカエルの方へ真っ直ぐと飛んでいき突き刺さる………!


 その直後、カエルを中心に大きな爆発が起こった。

 爆発が終わるとカエルのいた場所には、直径20メートル以上のクレーターができていた。


「……すっげー。これが魔法か……」


 カズマがそんな事を言っていると爆発の衝撃で目を覚ましたのか、1匹のジャイアントトードが近くから這い出て来た。


「めぐみん!いったん離れて、距離を取ってから魔法を……」


 しかし、私は動けない。

 爆裂魔法は使った後は身動き取れなくなってしまうのです。


「ふ……。我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ、消費魔力もまた絶大。

 ……要約すると、限界を超える魔力を使ったので身動き一つ取れません。

 あっ、近くからカエルが湧き出すとか予想外です。……やばいです。食われます。すいません、ちょ、助け……ひあっ………⁉︎」


 その後カズマは私とアクアを捕食していたカエルを倒し、昨日一匹倒しておいたようなので『3日以内にジャイアントトード5匹の討伐』のクエストを完了しました。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「うっ……うぐっ……。ぐすっ……。生臭いよう……。生臭いよう……」


「カエルの体内って、臭いけどいい感じに暖かいんですね……。知りたくもない知識が増えました……」


 私はカズマの背中におぶさりながら、知りたくもなかった知識をカズマに教えてあげてました。


「今後、爆裂魔法は緊急の時以外禁止だな。これからは、他の魔法で頑張ってくれよ、めぐみん」


 そんな事を言われてしまいました。


 しかし、私は爆裂魔法しか使えません。

 前回のパーティーでもこの事を伝えたら『出てけ』と追い出されてしまいました。彼も私のことを追い出すのでしょうか?


 ……でも、伝えないわけにはいきません。


「………使えません。」


「………は?何が使えないんだ?」


 やはり、一度は聞き返して来ますね。

 この言葉の本当の意味を知った時、やはり私は追い出されてしまうでしょう。


 嘘をついてこの人のところに居続けましょうか?

 いや、いずれバレてしまうでしょうね。


「………私は、爆裂魔法しか使えないんです。他には一切の魔法が使えません」


「………マジか」


「………マジです」


 とうとう伝えてしまった。

 きっと私はまた追い出されるでしょう。


 でも、もう一人は嫌です。

 もう、日々の食事に困るような生活には戻りたくはありません。


 そんなことを考えていると、


「そうか…………爆裂魔法だけか。でも可愛いんだよなぁ。……………。」


 カズマが何か言っています。

 よく聞き取れませんでしたが、私を追い出す言い分でも考えているのでしょう。


 いざそうなったときはどうしましょう?

 このヌメヌメを利用して「どんなプレイでも我慢しますから!」とでも大声で叫んで周りを味方につけてしまいましょうか?


 と、いろいろと考えているとカズマが、


「なあ、他の魔法を覚える気は……」


「ありません。私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。どんなことがあっても爆裂魔法以外の魔法を覚える気はありません。」


「お、おう。……そっか。……まあいっか!これからよろしくな!めぐみん!」


「いやです!見捨て……え?いいんですか?このままパーティーにいても?」


「ああ、いいよ。最初こそは爆裂魔法しか使えないなんてどうかな、とも思ったけれどさ。

 でも、逆にその歳でそんな荊の道を突き進んでるんだって考えれば、凄えなって思ったんだよ。どうせ他のパーティーでは追い出されてきたんだろ?いいよ。俺がこれから、面倒見てやるよ」


 ……この男は優しいのでしょうか?

 それとも、ただのバカなのでしょうか?

 こんな私をパーティーに入れてくれるなんて。

 紅魔族随一の天才である私でも、理由がわかりません。


 でも、ただ一つだけわかることがあります。

 それは、私がこの優しいのかバカなのかわからない男の言葉を聞いて、すごく嬉しかったことです。

 私のこれまでの人生を肯定してくれたから。

 私のこれまでの努力が意味のある努力であったと認識できたから。


 気付けば私は、カズマの背中で泣いていました。


「お、おい!なんで泣いてるんだ?待ってくれよ!周りからの視線が痛いんだよ!」


「あー!カズマさんたら女の子泣かせたわ!つい最近まで引きニートだったくせに!」


「うっさい!黙れ駄女神!」


 二人の話を聞きながら私は考えていた。


 いつから私はこんなにチョロくなってしまったのだろうか。

 ちょっとだけ優しくされただけなのに。







 私はこの人に恋をしてしまったようです。











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