最終話 帰る場所

美羽も重たい足取りで、彼氏(焚人)のアパートに着くと。。

ドアノブを握る指が震えた

カチカチと爪があたり

その音で中から彼氏が出てくる。。


二人が会うのはおおよそ、二週間ぶり位だった。。

二週間というのは、美羽がホテル通いをする前の日にちも含まれる

それは二人が会話をしていない日数

(久しぶり。。焚人、元気してた?)


作り笑いをする美羽に焚人は難しい顔で


(本気で言ってるの?)


美羽にはその言葉は、これから自分が伝える事への答えにも聞こえ。。

全部を見透かされてるように思えた


話し合いとは裏腹に

美羽が口にした言葉は結論だった。。


(別れたい。。)


焚人は口元も、目元も、動揺を見せずに返事をした

(解った。。美羽さんがそうしたいなら)


その聞きなれた返事に、美羽は驚きを隠せなかった。。そして言い返す。。


(この前と同じだね。。でも、最後だから、お互い言いたい事

言っても良いんじゃないかな?)


(もう、何言っても答えは決まってるんだね。。)


焚人はここまで終始 穏やかな仕草で会話をする

美羽にはそれが最も辛く感じた。。


(ゴメン。。)

そして、焚人の返事は意外な答えだった

美羽は、今度も理由を知れないと思っていたからだ。。

けれど焚人は

(いいよ。最後だからね)


(えっ!。。)

美羽の気持ちは複雑だった。。

自分の事を話してくれない、理由を聞けないから

ここまでこじれ、お互いに浮気までにもなった原因を


教えると、彼は余りにも簡単に言ったからだ。。

美羽は半ばどうでもよくなっていた。。


(別に。。それでも同じだもんね

じゃー私も 、いいよ。。)


そう言いながら美羽は自分の腕を焚人につき出した


(最後だからいいよ?私もそれなりの事はしないと。。)


美羽の言うそれなりとは、自分の浮気。。


焚人は。。暫く目の前に出された腕を見続けて。。

ようやくカプッと噛みついた。。そして一舐めした


久しぶりの味見に、美羽の顔もほんの少しだが、うすーい熱を耳に反応した


(!!!!っ。。)


けれど、焚人は噛んだ瞬間に

尋常ではない恐怖に、顔をビックリさせた。。


(何?どうしたの?)

美羽も流石に、何かの病なのかと思い

無意識に焚人の体に手を当てる

それほどの動揺だった。。


が、焚人は触れた手に反応して

身を引いた。。

そして美羽に告げた


(やっぱり、言えない。。ごめんね、美羽さん幸せにね?)


と、アルカイックな笑顔で話した


美羽も焚人に聞き返す


(その、ごめんは。。他の事も含んだ謝罪なの?)


焚人が答える。。


(うん)


(解った。。さよなら。。)


美羽は扉を閉めた

外の景色はすっかり薄暗くなり始めていた


焚人のアパートから

少し離れた、この前の親子に会った道で

ポロポロと涙を流す美羽


(最後まで、何も解らないままか。。)


そして、会社のある街まで戻ろうと電車に乗り

二度と来ないであろう、この街と焚人と改めて別れを告げた


(さよなら。。)




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