付録

幻獣図鑑

【幻獣図鑑No1.ドラゴン】

 最強無敵。



【幻獣図鑑No2.ロクショウヒキガエル】

 青緑色の錆のような質感と色をしたヒキガエル。

 かつて日本では昭和初期まで銅の錆である緑青には強い毒性があると信じられてきた。同じように、ゴブリンは現在も緑青は毒であると信じている。実際には毒性など無いのだが、頭の悪いゴブリンは緑青に触っただけで肉が腐ると思い込み、触った部分を急いで切り落としたり引きちぎったりする(そしてそのおかげで助かったと思い込む)ため、緑青が無害である事には気付いていないし、これから気付く事もないだろう。

 カエルがゴブリンの主食の一つである事は有名だが、ロクショウヒキガエルはこの天敵からの捕食を逃れるために体内に緑青を蓄積し、体色もそれに合わせて進化した。緑青の原材料である銅が効率よく得られる銅山周辺の水辺に多く生息する。逆説的にロクショウヒキガエルのコロニー近辺には必ず銅鉱脈が眠っていると言える。

 寿命は通常20年前後だが、稀に非常に長命な個体が存在し、100年以上生き体長1mほどにも成長する。その個体は体表に鎧のように銅の装甲を纏い、周辺一帯の蛙の長として君臨する。



【幻獣図鑑No3.クラーケン】

 タコ、あるいはイカに似た巨大軟体幻獣。

 クラーケンは海に生息しているのが定番だが、ヒプノスはドラゴンに力を使いすぎたため、海を創造クリエイトする余力は残っていなかった。そのため、ミシガン湖(琵琶湖の約86倍の面積を持つ)と同規模の塩湖で妥協している。この塩湖に生息する最大の幻獣がクラーケンである。

 大きい=強いを地で行く脳筋生物で、特別な魔法的力は無いものの、強靭な触手は鋼鉄の船を容易くペシャンコに潰し、厚い皮膚な生半可な攻撃を通さない。

 寿命は500年で、最大全長は60m。20mを超えた老成個体は塩湖では敵なしだが、出産直後、体力を消耗し陸地で休んでいる際に陸上型の大型肉食幻獣に襲われ命を落とすケースがある。



【幻獣図鑑No4.コミミカーバンクル】

 額の赤い宝石が特徴の、若草色の毛皮を持つ狐に似た幻獣。耳が小さく、近縁種のオオカーバンクル(大型の幻獣と共生する)と比べ索敵能力は低い。

 小型の群れを作る幻獣、あるいは中型の幻獣と共生する。雑食性。臆病な性格で、争いは極力避ける。

 額の宝石に魔力を貯め、それを開放する事で癒しの力を発揮する。宝石は大きいほど魔力の貯蔵限界量が多く、澄んでいるほど貯蔵ペースが早い。

 雄は物理的負傷、雌は魔法的負傷を癒す事ができるため、共生先の幻獣はカーバンクルの雌雄両方を確保しようとする傾向にあり、結果的にカーバンクルは一つのグループの内部で繁殖する事が多い。共生先の幻獣の子供が巣立つ際、大抵はカーバンクルの子供もそれに同行する。

 なお、カーバンクルの宝石は、生きたまま抉り出す事で(この時カーバンクルは死亡する)非常に美しい輝きを帯びる。しかしそんな野蛮な事をする生物は猿から進化した二足歩行のド畜生哺乳類ぐらいなものである。



【幻獣図鑑No5 ルーン熊】

 原始的な魔術を操る熊。体長は最大2m。自らの血で腹の毛皮に紋様ルーンを描き、その紋様に応じた強化を得る事ができる。紋様は母熊から子熊へ伝承されるため、ルーン熊の紋様には地域毎に特色がある。毒性の強い魔力を持つキノコを食べる事で血中の魔力濃度を高める。ルーン熊の腎臓は大抵の毒を分解できるのである。従って、このキノコが不作の年はルーン熊の強化能力は大幅に低下し、反対に豊作の年は大幅に上昇する。

 何度も強化魔術を行使した老齢のルーン熊の毛皮には紋様が染み付いており、新しく紋様を描く事なく強化能力を発揮できる。また爪も同様で、老齢のルーン熊の爪は赤黒く染まり、魔力を帯びるようになる。

 雑食性。ドングリなどの木の実を好むが、栄養が必要になる子育ての時期は獣も狩る。



【幻獣図鑑No6.ゴブリン】

 ファンタジー定番のクソ雑魚生物。二足歩行の禿げた醜い猿のような容姿をしている。知能は子供並で、棍棒で武装し、糞や石を投擲したり、賢い個体は火矢を使う事もある。未発達の言語は語彙が少なく、「数」を示す語が三語しかない(少し、たくさん、たくさんたくさん)割に、「痛い!」を示す悪態は四十八語ある。一説には、ゴブリン語を習得するより一発殴った方が手っ取り早く意思疎通ができるという。

 繁殖力が高く、雑草か害虫のようにとにかくどこにでも出没する。一匹では取るに足りないが、大群になると脅威である点も雑草や害虫と同じである。駆除する際は火薬樽を巣の前に置いておくだけで充分。ゴブリンは好奇心旺盛の上、後先考えず知能が低いため、とりあえず巣に持ち帰り、バラバラにして、食べてみて、火をつけてみて、爆死するだろう。

 悪質なイタズラ、破壊、略奪を好む。もっともゴブリンにその三つの違いを区別できているのかは疑問である。雑食だが、肉を好む。



【幻獣図鑑No7.ユニコーン】

 森の処女厨の名を欲しいままにする馬のような変態一角獣。基本的に獰猛で、人を見ると襲いかかってくる。しかし清らかな処女を前にすると途端に大人しくなる。心が清らかで見目麗しい乙女でも、処女で無ければユニコーンの守備範囲外。とんだ畜生である。知能は高く、人語を解する。

 角にはフェニックスに次ぐ強力な癒しの力があり、汚水を浄化し、あらゆる毒を中和し、全ての病気を完治させ、失った腕すら復元させる。

 食物や大気、縄張りの巡回経路を介した独自の魔術儀式などによって得られた魔力のほとんど全てを角に集中している。ユニコーンは雌雄でこの角をこすり合わせる事で、溜め込んだ莫大な魔力を使い子供ユニコーンを創るのである。故に角に多くの魔力を溜め込んでいるユニコーンほどユニコーン社会でのヒエラルキーが高く、魅力のある個体と認識される。ユニコーン誕生の際にその空間は歪み、誕生の地は聖別される。

 瑞々しい青草と清い水を好む。



【幻獣図鑑No8.雲雷猿】

 雷雲に棲む猿の幻獣。雨雲を喚び、雷と戯れる。蒼天犬とは犬猿の仲。

 外見はニホンザルに近いが、帯電性の毛皮は毛が常に逆だっていて、ふた回りほどサイズが大きいため判別は容易である。大山脈にかかる雲海に棲み、6~10頭ほどの群れを形成している。厳密には空を飛ぶ事はできないが、雲を足場にする事が可能である。

 山脈の魔法鉱物や森林に棲む幻獣の死骸などから地下水脈や川の流れに沿いほんの少しずつ魔力を吸収した水は、蒸発して雲になってもその魔力を帯びたままである。その魔力を帯びた雲を雲雷猿は呼び寄せ集め、彼らにとっての食糧である魔力だけを吸収する。魔力を吸い取られた食べカスである大量の雲は層を成し、積乱雲となり、雷と共に雨を降らせる。

 しかし積乱雲を作るほどの大量の雲(雲雷猿にとっての食糧)が集まるのは年に数回で、雲雷猿にとって積乱雲とそれが生み出す雷は豊穣の印である。雷が轟く時、群れ全体で喜び踊るのは原始的な「祭り」という形での社会的行動であると言えるだろう。



【幻獣図鑑No9.蒼天犬】

 青空を駆ける犬の幻獣。風を喚び、日の下で戯れる。雲雷猿とは犬猿の仲。

 「蒼」天犬という名ではあるが、この蒼は蒼天犬の縄張りである空の蒼さを示しているものであり、蒼天犬自身は真っ白な毛並みの精悍な大型犬である。通常は6~10頭の群れを形成するが、特に強力なリーダーが現れると、それに統率された100頭を超える群れが出来上がる。そのような巨大群れが蒼天を駆ける様は鱗雲が意思を持ち動いているようにも見える。

 彼らは空を飛ぶドラゴン以外のあらゆる生き物を狩る生まれながらのハンターであり、特に雲雷猿を狙う事が多い。

 雲は雲雷猿の食糧であり、住処であり、隠れ家であるため、これを吹き散らすため蒼天犬は風を呼ぶ。そうでなくとも澄み渡った空を駆ける事を好む彼らは、雲とそれを呼び寄せる雲雷猿を本能レベルで嫌っている。蒼天犬と雲雷猿の群れが大きな争いを起こすと、地上には文字通り血の雨が降る。



【幻獣図鑑No10.蜘蛛山椒】

 葉の形状や枝付きは山椒に非常によく似ているが、山椒とは科が違う上、そもそも植物とは言い難い。

 鉱山によく見られ、堅い岩盤の隙間をこじ開けるように深く根を張る。特にミスリル鉱床の付近によく生え、根から土中のミスリルを吸い上げ実として結実させる。このミスリル果はミスリル純度が高く、金属食の幻獣にとってごちそうである。このミスリル果には蜘蛛山椒の種子が混ざっており、排泄されると糞を肥料として幼苗段階まで一気に成長する。幼苗は蜘蛛のような形をしており、蜘蛛のように動き、付近のミスリル鉱脈を探し出すと、そこで改めて根を下ろし成長を再開する。

 稀に蜘蛛山椒の種子を食べた幻獣が便秘などにより排泄が遅れると、体内で発芽成長し、内蔵や皮膚を突き破って外に出る。



【幻獣図鑑No11.ムリアン・アント】

 小指の爪ほどの大きさの蟻に騎乗した妖精の一種。蟻を含めて一個体である。仲間を見つけると合流して一つの群れを作る。この群れは際限なく大きくなるため、1000匹を超える事も珍しくない。

 魔力豊富な土に無邪気さとひと握りの善意が混ざる事によって生まれる。地下に蟻の巣状の王国を作り、そこに食べ物や衣類、古いおもちゃ、傷に効くキノコなど、ちょっとした財産を見つけてきては貯め込む。そして困っている者や悲しんでいる者を見つけるとそれを分け与え、歌い、踊って励ます。

 蟻が死亡するとそれに騎乗していた妖精もろとも土に還る。逆もまた然り。そして生前そのムリアン・アントが受けた「感謝」の大きさに合わせ、土と共に美しい琥珀を遺す。「強欲」「傲慢」などの感情を多く浴びていた場合、この琥珀は濁る。しかし、ムリアン・アントは濁った琥珀をこそ大切にし、地下王国の深くに隠し決して誰にも渡さない。

 なぜ美しく澄んだ琥珀ではなく、濁った琥珀に執着するのか? それはムリアン・アントだけが知っている。



【幻獣図鑑No12.バジリスク】

 猛毒の牙と見た者を石化させる瞳を併せ持つ凶暴な蛇。頭部は鶏に似るが、爬虫類の特徴が濃い。全長は最大7m。

 普段の狩りは、まず川辺や森の腐葉土の下、太い木の枝の上に潜み、通りかかった獣に飛びかかる。その後素早く全身を絡ませ窒息させるか、圧死させる。そして骨を粉々に砕いた後、丸のみにする。

 牙の毒は成体よりもむしろ若い個体の方が強力であり、これはまだ体が小さく対象を圧殺できない時に大型の獲物を毒によって仕留めるためである。幼体の頃は一滴で石をドロドロに溶かすほど強力な毒も、4mほどまで成長すると草をゆっくり枯らす程度にまで弱まる。

 勘違いされがちだが、バジリスクの瞳は通常石化能力を持たない。瞳が目を合わせる事で生物を石化させる邪眼と化すのは繁殖期の雄のみである。繁殖期の雄バジリスクはまず手頃な大きさの生物を石化させる。そして雄と比べ小柄(最大1m)の雌バジリスクが口から体内に潜り込み、胃に産卵する。孵化までには丸一年かかる。

 石化した動物は卵を守る外壁の役割を果たすと共に、卵が孵化した後は幼バジリスクの餌となる。孵化したバジリスクはまずその猛毒でゆりかごとなっていた石化動物を内側からドロドロに溶かし脱出。同時に溶けた石を残さず食べ、栄養を得ると共に孵化の痕跡を抹消する。

 石化時に獲物が口を閉じていたり、開いていても体を潜り込ませるほどの隙間がなかった場合、雌は卵を産み付ける事を諦める。その石化した獲物は放置され、やがて長い年月の間に風化していく。



【幻獣図鑑No13.河童】

 甲羅を背負い鱗に覆われた猿のような幻獣。顔には嘴がついていて、頭頂部には水を貯める皿がある。

 水辺から水辺へ旅をする人畜無害な幻獣。性格は穏やかで思慮深く、哲学的思考を好む。知能は人間並。水辺の幻獣とは大体友人関係にある。頭の皿の水は冷却液の役割を果たしていて、乾くと脳が加熱し働きが鈍り白痴化する。知性を愛する河童はそれを避けるため、瓢箪などに水を入れて持ち運ぶ。昔話にはお辞儀をさせて皿の水をこぼさせる逸話が散見されるが、実際はそんな手に引っかかる馬鹿な河童はいない。逆にどうしてそれで騙せると思ったのか、と真面目に尋ねてくる。

 水を操る魔術の心得があり、主に水でキセルを形作り薬草の抽出物をタバコ代わりに吸う事に利用している。水を細かく操る事で薬草の抽出成分を水蒸気に溶かし吸い込むという繊細で器用な事をしているのだが、その技術を他の事に生かす事はまずない。争いはまず対話で収めようとし、それができなければ逃走を図る。

 基本的に一人旅をする。一所に三日以上留まる事は珍しく、荷物が増えるのを嫌い、得た物は惜しみなく分け与える。愛について悩み始めた河童は異性を求め、見つけると愛とはなんぞや、という問答を始める。納得できる答えが見つかればそのまま交尾をする。愛を見失った場合、別れる。

 我々は思索する事で腹を満たすのだ、と嘯く割に、普通に肉も野菜も食べる。キュウリは河童にとって麻薬に近く、手に入れる機会があっても理性的に拒絶するが、中には好奇心に負けて食べてしまう者もいる。一度でもキュウリを食べてしまった河童の末路は悲惨である。キュウリを食べる事しか頭になくなり、水辺の土地を開墾して種を植え、肥料をやり、水をまき、育て、収穫し、食べる事しかしなくなってしまう。そうして旅を忘れ土地に根付き、哀れな農業従事者と化した河童を正常な河童は軽蔑している。恐ろしいキュウリの浅漬けにまで手を出した冒涜的な河童とは目を合わせる事すら拒否する。



【幻獣図鑑No14.スカイフィッシュ】

 アノマロカリスを潰して平らにしたような姿の幻獣。時速280kmで飛翔し、肉眼ではっきり捉えるのは難しい。

 スカイフィッシュは生物の体温を餌にする。無生物の体温は餌にできない。高速で獲物に接近し、体表ギリギリを通り過ぎる一瞬で体温を奪い取り、離脱する。一度の食事で摂取する体温は1~3℃で、多くは寒気を感じる程度だが、群れが一体の獲物に一斉に食事をすると熱帯で凍死体ができる場合もある。体が脆く攻撃を受けると即死するため、獲物に反撃されないよう速度を増す進化を遂げた。

 しかしスカイフィッシュ自身も速度を制御できていないところがあり、獲物が想定外に急な動きをすると、誤って獲物の体に突き刺さるか切り裂いてしまう場合がある。その場合スカイフィッシュは接触の衝撃でバラバラになり即死。死体は数秒で空気に溶けて消える。これがカマイタチの正体である。



【幻獣図鑑No15.漣貝さざなみがい

 最大で手のひら大まで成長する、凸凹した巻貝。貝殻の色は生息する水域によって変化するが、概ね青系統。

 クラーケンなどが生息する巨大な塩湖には波がある。この波を作り出しているのが塩湖の底に棲む漣貝である。

 通常、水底には生物の死骸という形で栄養と物質が堆積する。陸の栄養が川や食物連鎖などによって移動し、最終的に行き着く先が水底なのだ。この水底に沈殿し死蔵された栄養と物質を水面へ押し上げ食物連鎖の循環の中へ戻すよう、下層から表層へ向かう水の流れ(湧昇流)を漣貝は作り出す。

 漣貝は水底へ沈んだ海蝉の死骸のみを餌にするのだが、海蝉は日光がよく当たる水面付近でしか育たず、また栄養豊富な水を必要とする。そこで漣貝は湧昇流を発生させ水底の養分を水面へ運ぶ事で海蝉の生育と繁殖を助け、結果的にその死骸をもって食料を確保する。一種の養殖的行動であると言える。

 水底から水面まで海底の栄養を巻き上げるほど強い水の流れは、数千匹から成る漣貝の集団でなければ起こせない。この水流は外敵から身を守るための手段でもある。

 漣貝は水圧や塩分の変化、低酸素に強く、徐々に慣らしていけば雨上がりにできた水たまりの中ですら生存できる。首尾よく数匹を浅い水辺に移動させる事ができれば、その名の由来となった漣を起こしているのを観察できるだろう。

 時折、死骸が腐敗する事で発生したガスによって貝が水面まで浮き上がり、貝殻だけが砂浜に打ち上げられている。死んだ漣貝は水の流れを起こす力を失うが、貝殻を耳に当てると波の音が聞こえる。貝殻によって荒波の音であったり、漣の音であったり、千差万別である。



【幻獣図鑑No16.海蝉】

 全長5cmほどの水生昆虫。外見は脚が触手になった蝉。成体になると放電と共に特殊な波長を出し、雌を引き寄せる。

 孵化してからの幼虫時代は植物性プランクトンのように盛んに光合成を行い、成長しながら体内に発電エキスを溜め込む。殻を脱ぎ捨て羽化し成虫になると、光合成能力を失い、代わりに放電能力を得る。大電流ほど雌がよく寄ってくるのだが、他の水生生物にとっては大迷惑である。



【幻獣図鑑No17.シェイプシフター】

 物真似能力を持つ悪魔。雌は実在の生物を転写する事しかできず、雄は実在の無生物に擬態する事しかできない。雌はドッペルゲンガー、雄はミミックと呼ばれ、しばしば別個の種族であると誤認される。知能は賢い人間程度。

 雌は不気味さに由来する恐怖の感情を喰らい、転写元の生物に関係なく全く喋らず、鳴きもしない。雄は驚愕の感情を食らい、何に擬態していても正体を現す際に大きな口を作り、耳障りな甲高い声で大笑いする。雄雌共に煙の目くらましと共に短距離転移を行う事ができ、それをもって逃走を図る。腹の足しにならないため戦闘は好まないが、戦えば貧弱ホモ・サピエンスを一方的に叩きのめす事ができる程度には強い。

 感情を餌とする都合上、豊かな感情を持つ生物の生活圏に引き寄せられる習性がある。ただしシェイプシフターにとって河童の感情はゲロ以下の味らしい。



【幻獣図鑑No18.マンドラゴラ】

 森の中で恨みを持って死んだ動物の死骸を苗床に、草木の魔力が宿って発生する植物。

 地表に出ている葉は極普通のナス科植物のものだが、根っこは苗床となった動物とそっくりの形をしていて、引き抜かれると絶叫する。この恨みを込めた絶叫を聞いた者には呪いが無差別に振りまかれる。呪いは恨みが強いほど強く、めまいや頭痛程度から、気絶、即死まである。苗床の恨みの原因となった生物がマンドラゴラを見ると「引き抜いて声を聞きたい」という抗い難い衝動に駆られる。河童はマンドラゴラを「裁きの草」と呼ぶ。

 根には滋養強壮、若返り、美容の効能がある。



【幻獣図鑑No19.メタルムサウルス】

 ハンマーのような尾をもつ四足歩行の金属装甲幻獣。全長7m。ラグビーボールのような体は金属の厚く大きな鱗で鎧のように覆われ、腹部はもちろん、まぶたまで装甲化されている。鋭利なクチバシと臼歯も金属である。最年長の雌を長とした3~10頭の群れで行動し、寿命は80年程度。気性は温和。

 メタルムサウルスは草と金属の雑食で、栄養を得るために草や木の実を食べ、装甲を造るために金属を食べる。草は第一胃で消化し、金属は第二胃で消化する。第二胃はドラゴン以外のありとあらゆる物質を溶解させる強力な錬金溶液を分泌しており、魔法金属をも容易に溶かす事ができる。胃壁を溶かさないよう、金属と微弱な生体電流により特殊な磁場を発生させ、錬金溶液を浮かせ留める事で隔離している。

 餌の金属に応じて装甲も変化し、金装甲のメタルムサウルスもいれば、ミスリル装甲のメタルムサウルスもいる。クチバシの鋭さは鉱石採掘の際に大変重要で、採掘の前後には河原で砥石を探し、擦り付けて研ぐ習性がある。装甲の重量の影響で動きは鈍重。敵に襲われた場合は頭を内側にして群れで円陣を組み、ハンマーのような尾で撃退する。天敵はサラマンダー。遠距離からの火炎放射で金属装甲を熱せられ、蒸し焼きにされてしまう。

 死亡すると第二胃の磁場が消え、錬金溶液が重力に従い落下。メタルムサウルスの体を一瞬で溶かして貫通し、地面に落ち、更に土を溶かし瞬く間に数百メートルの穴を作る。このため、メタルムサウルスの死体には必ず穴が空いている。電気を浴びた場合は第二胃の磁場が暴走し錬金溶液が全方位にまき散らされ、原型を留めないグズグズの死体になると共に周囲に甚大な被害をもたらす。

 メタルムサウルスは社会性と感情が発達しており、群れは大変強い絆で結ばれている。また、「死」を理解し、年老いると秘密の墓場へ向かい、そこで墓守となり、やがて墓場にその身を横たえる。



【幻獣図鑑No20.ケサランパサラン】

 幸運を呼ぶ白いフワフワした毛玉のような幻獣。大変稀少で、見つける事そのものが幸運である。所持する事で持ち主に幸運を与えるが、極度の恥ずかしがり屋で視線に弱く、見られるとどんどん縮んで最後には消滅してしまう。唯一ムリアン・アントにだけは見られても縮まない。

 白砂糖を食べれば成長し、塩を食べれば増殖し、雪を食べれば石化する。石化したケサランパサランは見られても縮まないが、幸運を呼ぶ力は大きく低下している。



【幻獣図鑑No21.デトリトゥース】

 成長段階によって姿と呼び名が変わる出世幻獣。逆さにしたイソギンチャクのような形の微小な幻獣の集合体である。一匹は砂粒程度の大きさ。

 1~5万匹から成る第一段階「モールド」は一見すると黒いカビのようで、動物が近づくと節足を動かし窪みや隙間、亀裂に隠れる。生物遺体や生物由来の物質の破片、微生物の死骸、あるいはそれらの排泄物を起源とする微細な有機物を食べる(デトリタス食)。死骸のみを食べ、生物を食べる事はない。水陸両方に適応し、動物の食べカスを更に分解する掃除屋としての役割を持つ。モールドは一匹一匹が節足の一部を絡ませ合い栄養を分け合って共有しているが、他にさしたる能力はない。

 5万~1千万匹から成る第二段階「ウーズ」は灰色の軟泥のようで、泥が生きているかのように動く。大きさは人間の親指大~頭部大まで。死骸を食べる事は変わらないが、深い水を苦手とするようになり、カモフラージュにもなる浅瀬や泥炭地でよく見られるようになる。モールドは生きている者は決して襲わないが、ウーズは衰弱している動物を見つけるとゆっくり忍び寄り、一気に全身を包み込むように覆いかぶさり、窒息させて殺し、食べる。全身で包めない大きさの動物は襲わない。一体のウーズの体内では一匹一匹のデトリトゥースがより有機的・立体的に結合し、それぞれ1万匹程度のユニットを作り役割分担を始める。より素早く動き獲物を拘束するための筋繊維ユニット、獲物を素早く消化するための酸分泌器官ユニットなどが見られる。より大型のウーズほど筋繊維・酸は強力なものになる。

 1千万匹以上から成る第三段階「スライム」は弾力性のあるゴムのようで、個体によって色は様々であるが、半透明である事は共通している。大きさは小型犬以上。死骸を食べる元々の性質は残しつつ、より獰猛になり、積極的に動物を襲う。水辺から離れ、乾燥地以外ならばどこにでも出没する。体を構成する一匹一匹のデトリトゥースはもはや個々の意志を無くし、完全に一体のスライムを形作る細胞と化している。体の大部分が半透明の強靭な筋繊維と消化器官、酸分泌器官でできていて、弾力性が高いため打撃に強く、生半可な刃物も通らない。狩りでは体当たりで獲物を弱らせ、動かなくなったところを酸で溶かし捕食する。群体から単一個体へ変じ俊敏性と力を得た代償に弱点も得ており、体のどこかに全身を制御する脳の役割を持つ球体の核があり、それを破壊されるか体から引き抜かれると全身が崩れて死亡する。スライムの核は濃厚ながら後を引かないすっきりした甘み成分がギッシリ詰まっていて、栄養豊富である。




【幻獣図鑑No22.ベヒモス】

 一頭しか存在しない、山より大きな幻獣。姿形はマンモスに似る。森の地下に眠っており、5kmを超える尾と牙の先端だけが地上に突き出ている。尾は土を被り苔むして長い土塁のようになっている。牙は地上のほんの先端だけでも30mはあり、知性ある幻獣達によって表面に様々な飾り付け、顔料を用いたペイント、彫刻が施された文字通りの「象牙の塔」である。象牙の塔の周囲ではドラゴン以外のあらゆる動物がベヒモスに敬意を評し、あるいは本能的に畏敬に打たれ、争いを慎む。ベヒモスが身動きするだけで地震が起き、いびきをかけば竜巻が起きる。

 世界の終末の時、レヴィアタンと共に長い眠りから目覚め、終末を終わらせる。



【幻獣図鑑No23.レヴィアタン】

 一頭しか存在しない、島より大きな幻獣。姿形はクジラに似る。塩湖の最も深い水底に眠っており、冷たく濁った泥水のねばつくような水流に身を横たえている。レヴィアタンの上の水域を通過したものは魔力によって水底に引きずり込まれ、泥水の中に沈みレヴィアタンと悠久の眠りを共にする事になる。レヴィアタンの水域ではドラゴン以外のあらゆる動物がレヴィアタンに敬意を評し、あるいは本能的に畏敬に打たれ、争いを慎む。レヴィアタンが身動きするだけで津波が起き、いびきをかけば渦潮が起きる。

 世界の終末の時、ベヒモスと共に長い眠りから目覚め、終末を終わらせる。



【幻獣図鑑No24.油蔦】

 木々に絡みつくようにして伸びる堅く太いツタ。中身は空洞になっていて、そこに油をたっぷり溜め込む。油の種類は様々で、芳しいサラっとした香油もあれば、濁り固形化した油もある。蓄えている油の種類は蔦の表面の質感や色の濃さ、シワの密度などで見分ける事ができる。

 油蔦は森全体では珍しいが、ある種の条件を揃えた土地には密生する性質がある。時期が来るとその土地の全てのツタに自然に亀裂が入り、一斉に油と種子を垂れ流し周囲を油まみれにする。



【幻獣図鑑No25.森サラマンダー】

 森サラマンダーは、火山などに棲む通常のサラマンダー種とは様々な面で異なる。炎を食べず、尻尾に火も灯さず、体長はたった20cmほど。一方で目が覚めるような生き生きとした色合いの真紅の鱗や、それが持つ炎への耐性は共通している。炎の代わりに油分や脂肪分を多く含む植物の種や動物の死骸などを食べる。基本的に繁殖期以外では縄張りを定めず単独で行動するが、油蔦の群生地では群れをつくり定住する。

 雌が産卵すると、つがいで交代しながら七日七晩炎を吐き続けて温める。この時の炎が高温で途切れないものであるほど、鱗の発色が良く頑丈な幼体が生まれる。

 群れを作る場合、一体のサラマンダーが他のサラマンダーから餌を貢がれ、肥え太って2mほどにまで巨大化し、群れ全体の卵をまとめて温める。この大型個体は特に高温の青い炎を吐く。

 卵は石を円形に並べて作った巣の中に置かれ、孵化作業の間に森に延焼する事例は極めて稀である。



【幻獣図鑑No26.火鼠】

 炎を浴びる事により、自分の負傷や病気を治す事ができる鼠。丸くなるとサラマンダーの卵と見分けがつかない事を利用し、サラマンダーの巣に潜り込み体を癒す。サラマンダーは大抵疑問に思わず火鼠を卵と勘違いして火を吐くのだが、勘の良い個体は擬態を見破り、無防備にぬくぬくとしていた火鼠を腹の中に収める。



【幻獣図鑑No27.悪魔の蔦】

 何の変哲もない蔦に偽装し、普段は静止して木に巻き付き潜む。狡猾で、動物が近くを通ると素早く絡みつき、殺して養分を吸う。養分を吸い尽くし骨と皮になった動物には種子を植えつける。その種子が発芽すれば、死体は芽に操られ移動し、手頃な木に登る。そうしてそこで成長していく。



【幻獣図鑑No28.土枯らし】

 根を広く深く張り巡らし、その土地の養分を根こそぎに吸い上げる百合。一帯の土地を砂漠化させるほど凶悪に吸い上げた養分は全て一輪の花に注ぎ込まれる。土枯らしの花はどんな暗闇でも不思議とよく見え、手折られても決して枯れる事はない。

 花を咲かせた後は申し訳程度に余った養分で小さな球根を作り、虫や小動物に運ばせ、新たな土地に芽吹く。



【幻獣図鑑No29.むくろ山猫】

 闇のように黒い毛皮と濁った白い目を持つ、しなやかな山猫。賢く、呪術に通じるが、交流を好まず森の暗がりにひっそりと生きる。性格は陰気だが、陰険ではない。

 骸山猫が親猫から最初に学ぶのは心臓を預けるまじないである。自身の心臓を抜き出し、他者に埋め込む事で、埋め込まれた者が骸山猫の代わりに歳をとる。大抵は木の幹に埋め込む。心臓の無い骸山猫は体温がなく成長せず、病気にかからず、怪我をしても血を流さない。

 状態の良い死体を見つけるとまじないをかけ、餌探しや巣を守るために使役する。ユニコーンやカーバンクルといった癒しの力を持つ幻獣を毛嫌いしている。



【幻獣図鑑No30.レギオンマウス】

 体長5cm前後の灰色の鼠。雌しかいない。体のどこかに白い模様があり、一つの群れのレギオンマウスは全て同じ姿をしている。体の一部が千切れると、それが膨らんで新しいレギオンマウスになる。従って切る、潰す、などの方法でレギオンマウスを殺す事はできない。焼死や凍死、餓死、共食いなどならば増える事はない。

 レギオンマウスはいわば自分の複製を作り種を維持しているようなものであり、複製を続けていると少しずつ劣化していき、骨が弱くなる、病気にかかりやすくなるなどの弱体化が起こる。しかし1万匹に1匹程度の割合で分裂の際異常が起こり雄が生まれる。この雄と交尾し子孫を残す事で劣化は回復し、群れは保たれる。雑食性。



【幻獣図鑑No31.プレデターパール】

 クラーケンは激痛に耐え兼ねると涙を流す。その涙が塩水に触れる事でプレデターパールへと変じる。大きさは泣いたクラーケンの体長に比例する。

 見た目は傷一つない美しい真珠だが、魚などが近づくと何十倍にも膨らみ鋭い牙が並ぶ口を開き、凄まじい力で喰い千切る。餓死すると見た目通りの普通の真珠になる。

 満腹である間は大人しく、獲物が近づいても素知らぬフリをする。



【幻獣図鑑No32.タカラ茸】

 幻覚作用のあるキノコ。本来は焦げ茶色で親指大の小さなキノコだが、見る者にとって思わず持ち帰りたくなるような貴重な物に見える。精神に働きかける作用もあるため、その貴重な物が不自然な場所にあっても(例えば絵画が地面から生えていたとしても)違和感を抱けない。一度でもはっきりと疑念を抱けば幻覚は解ける。

 騙された採取者によってその巣まで運ばれると、形を崩し、胞子を撒き散らして消える。



【幻獣図鑑No33.ヴァンパイア】

 呪われた鮮血。犠牲者の血管に入り込み、自在に操る。

 ヴァンパイアの身体は血そのものであり、血管に入り込む事で犠牲者を肉体的にも精神的にも支配する。犠牲者は鋭い牙と爪、強靭な身体能力、暗視能力を得る。心臓は止まり、代わりにヴァンパイアが血管を勢いよく巡っているため、目は酷く充血して紅く見える。ヴァンパイアは赤血球を餌にするため、犠牲者はどんどん血色が悪くなっていく。犠牲者から赤血球を絞り尽くすと、牙や爪によってつけられた傷から次の犠牲者へ入り込み、宿主を変える。古い宿主は白く濁った血を持つ不気味な死体として残される。

 ヴァンパイアにとってミスリルは猛毒であり、これに触れると呪いが浄化され、ワインのような芳醇な液体となる。この液体はこの上なく美味である上、抜群の強壮効果を持つ。

 通常、ヴァンパイアだけでなく、ヴァンパイアの犠牲者もヴァンパイアと呼称する。



【幻獣図鑑No34.トウメイペンギン】

 背中側の艶やかな黒い毛皮と、腹側のフワフワした白い毛皮、そして極端な肥満体が特徴のペンギン。あまりに肥えていて亀並の鈍足であり、透明化する事で外敵を避ける。全長は1m前後。

 水辺に生息し、特殊なフェロモンで魚群を引き寄せ、水を一気に吸い込み魚介類を濾しとって食べる。大変な大食漢であり、食べる事と寝る事しかせず、みるみる太っていく。しかしトウメイペンギンにとっては肥満体であればあるほど餌の確保が上手い優秀な個体である事を意味する。求愛の時期になると、トウメイペンギンの雄は腹を翼(フリッパー)で叩いて腹鼓を鳴らし、雌はその音を頼りに雄を探す。よい音を出すほど魅力的とされる。

 子育て中は一切食事を摂らず、両親が交互に雛に自分の脂肪を雫に変えて与える。トウメイペンギンの死因第1位は大量の海蝉を食べた事による感電死である。



【幻獣図鑑No35.アルルーナ】

 アルラウネ科アルラウネ属の最もポピュラーな草本。双子葉類で、卵形の葉をしている。どこにでも生える適応力がある反面、特別繁殖力や競争力に優れている訳ではない。

 緑色の葉は薬効や特性を持つが、その効果は個体毎に千変万化する。緑の微妙な色彩によって葉が持つ力を見分ける事ができる。

 鮮緑せんりょくの葉は潰して匂いを嗅ぐ事で頭を冴え渡らせる。

 深碧しんぺきの葉は強い殺菌作用を持つ。

 織部おりべ色の葉を燃やした煙を吸えば感性が豊かになり、些細な事にも深く感じ入るようになる。

 柚葉ゆずは色の葉の汁は酷い火膨れを起こす。

 松葉まつば色の葉は死に瀕した者を永らえさせる妙薬。

 虫襖むしあおの葉は昆虫を酔わせる香りを出す。

 常磐ときわ色の葉は解いて頑丈な糸として使える。

 木賊とくさ色の葉は刃のように鋭利で硬質。

 葉の色は九十九種類あり、全てを見分け、より分け、使い分ける者は「森の賢者」と称えられる。

 もちろん、愚鈍な人間にこのような繊細な色合いの違いを見分けるのは至難の技である。



【幻獣図鑑No36.旅人の苔】

 ふかふかした濃い緑色の苔。風の無い日陰ならばどこにでも生える。天然のベッドとして最適で、上に寝転ぶと体が心地よく沈み込み、疲労感を思い出し眠気に襲われる。

 根には水をたっぷり蓄え、絞れば水分補給に使える。寝た者の疲労を栄養にして成長する。



【幻獣図鑑No37.木霊木もくれいぼく/木霊こだま

 大ぶりで肉厚の葉と凸凹の幹が特徴の、寂しがりな広葉樹。樹齢9年で自我に目覚め、99年で孤独に負け、999枚の葉を固めて命を吹き込み木霊を創る。木霊は半透明・半物質の存在であり自在に物を通り抜ける事ができるが、熱に弱くぬるま湯でも大やけどを負う。姿形は手のひら大の全身を葉っぱの服で隠した小人。笠を目深に被っているように見えるが、笠そのものが頭部である。

 木霊の数と役割、性格は木霊木の好みによって異なる。友達であったり、専属理容(葉)師であったり、劇団であったりする。ただしどのような木霊であっても喋る事はない。



【幻獣図鑑No38.ジャックフロスト】

 雪、あるいは氷でできた精霊。熱に弱く、気温が氷点下を超えると溶けていく。

 性格と姿形は千差万別である。これはジャックフロストの繁殖方法に由来する。彼らは二体が共同作業で雪を固め、あるいは氷を削る事で新しいジャックフロストを作り出す。自分を模す事もあれば、他の動物を模す事もあり、全くの創作もある。子供の粘土細工のように不格好な事もあれば、芸術品のように優美な事もある。大きさもまた様々である。ジャックフロストにとっての共同氷雪彫刻は繁殖行動に相当するため、他者に見られるのを嫌がり、三体以上での創作活動は「はしたない」事であると見なされ、同族に嫌われる。

 また、求愛行動として独りで氷雪彫刻を行う。自分の彫刻を見せ合い、互いに気に入ると、そのまま共同作業に入る。好みの彫刻(相手)を探すため放浪するジャックフロストも珍しくない。婚活熱心なジャックフロストはねぐらの周囲に目立つように自分の作品を並べてアピールする。

 雪や氷を自在に生み出す事ができる。主に彫刻のための魔術だが、自衛にも用いる。

 極稀に別種族の彫刻に惚れ込み、その相手と共同彫刻を行い、異種間繁殖が起きる事がある。そうしてできた「フロスティ」と呼ばれる雑種は熱に強い耐性を持ち、身を焦がす愛によってのみ溶ける。溶けたフロスティは、決して溶けないの結晶を遺す。



【幻獣図鑑No39.トロール】

 太陽に呪われた幻獣。いつか呪いを克服し、太陽の下で暮らす事を夢みている。

 二足直立歩行で、全身毛むくじゃらであり、その下には筋肉質の肉体と醜い顔が隠されている。身長は2~3m。

 陽の光を浴びると呪いが活性化しものの数秒で衰弱死するため、暗がりを好み、洞窟や日の差さない深い森を好む。性格は凶暴。太陽の下で暮らす全ての者を妬み憎み、出逢えば殺す。仲間には優しいが、それは親愛というよりも、暖かな陽の光を浴びる事のできない惨めな者同士で傷を舐め合っているだけである。ねぐらの中でカビやキノコを栽培し食す。デトリトゥースは好物の一つ。



【幻獣図鑑No40.オオイノシシ】

 巨大な猪。最大全長60m。生まれたばかりの幼獣ですら5mを超える。海のクラーケンに並び立つ陸の巨大生物であり、デカいは強いを地で行く巨大脳筋幻獣。好物は木の実。巨体を維持するために常に食料を探し徘徊し、食べ続ける。



【幻獣図鑑No41.キハナバチ】

 オオイノシシの毛に絡ませるようにして氷柱型の巣を作り、主に樹木の花の蜜を集める蜜蜂。

 オオイノシシは縄張りの一定の順路を巡回して暮らす。キハナバチはその順路上の木々に咲く花の蜜を集める。蜜を集める際に花粉が運ばれ、木々は受粉して豊かに実る。そしてオオイノシシはその実りを食べるのである。60m級のオオイノシシには50個を超える巣がぶら下がっている事もある。

 キハナバチの蜂蜜は美味だが呪毒がある。解毒せずに食べると体のあちこちから木の芽が芽吹き、放置すれば宿主の栄養を吸い取り成長して大輪の花を咲かせる。もちろんこの呪毒はキハナバチには効かない。



【幻獣図鑑No42.ゲレゲレ鳥】

 黒い体に白い嘴、茶色の尾を持つ地味な小鳥。昆虫食。木の上に様々な幻獣の毛や羽、甲羅、骨などを集め見事な巣を作る。巣作り作業は職人芸の域に達し、骨の形を嘴で削って整えるのは当たり前。ある種の樹液を接着剤代わりに使ったり、爪を楔として使う事もある。雄が基礎と外装、雌が内装を担当する。

 ゲレゲレ鳥は幻獣素材の性質や相互作用を生れながらにして直感的に理解しており、建材の素質を十二分に引き出して完成した巣は魔術的要塞と化す。その恩恵は大風で木から全ての葉が落ちても巣は落ちず、山火事で木が焼けても巣には焦げ目一つないほどである。外敵の注意を巣から逸らすまじないも帯びているため、巣の安全性は極めて高い。

 ゲレゲレ鳥の巣作りにかける情熱は熱狂的なもので、無理な素材集めによって命を落とす事が多い。稀にコミミカーバンクルと共生する場合、同居相手をもてなすために、丸まればルーン熊が入れるほど大きな巣を作る。

 立派な大工仕事と比べ鳴き声は大変醜く、名前の由来になっている。



【幻獣図鑑No43.ムソウクワガタ】

 金属の甲殻と大顎を持つクワガタ。幼虫は鉱石を食べて育ち、体内で精錬を行いより質の高い金属を貯める。蛹になると貯蔵した金属で甲殻と大顎を纏い、成虫となる。成虫は樹液を食べる。

 大顎は回転ノコギリのように駆動し、他の雄との雌の奪い合いで威力を発揮する。甲殻に負った傷は歴戦の証。奪い合いの敗者は大顎を折られるか、真っ二つにされる。大顎を折られた雄はプライドも折られ、衰弱死する。雌の大顎は回転しない。

 魔法金属のムソウクワガタは正に無双。



【幻獣図鑑No44.ムテキカブト】

 金属の甲殻とツノを持つカブトムシ。幼虫は鉱石を食べて育ち、幼虫期を通して体内でツノの鍛造を行う。このためムテキカブトの幼虫は炉のように熱く、金属を叩く音を鳴き声のように出し続ける。蛹になると鍛え上げたツノを頭頂部に据え、成虫となる。甲殻も金属だが装甲は薄い。成虫は樹液を食べる。

 美しさと強さを兼ね備えた刀剣のようなツノは岩石を豆腐のように切り裂くほど鋭い。雌をめぐる雄同士での格闘は打ち合いと鍔迫り合いから成り、甲殻が薄いためほとんどの場合一撃が勝敗を決する。奪い合いの敗者はツノを折られるか、真っ二つにされる。ツノを折られた雄はプライドも折られ、衰弱死する。雌のツノは短く刃もついていない。

 魔法金属のムテキカブトは正に無敵。



【幻獣図鑑No45.エダキリイモリ】

 黒い体表に焦げ茶色の斑をつけた8cmほどのイモリ。上顎についた小さく鋭い前歯で池や沼の水面に張り出した木の枝をせっせと切り落とし、その後で卵を産み落とす。孵化した幼体は水中に沈んだ枝葉を隠れ場にし、同じく隠れ場所を求めて集まる小型の水生昆虫や小魚を餌にして育つ。成体になると水中で交尾を済ませ、陸に上がり、木に登って枝を落とす。

 枝の切断面には尾の付け根から分泌される特殊な粘液を塗りたくり、再生を促進する。これによりイモムシ程度の太さの枝ならば三日で元通りに伸長する。何度も切断と再生を繰り返した枝は切断箇所が節のように膨れ固くなるため、それを見ればすぐにエダキリイモリがいると分かる。



【幻獣図鑑No46.サイレントシープ】

 音を食べる羊。体高40cmと羊としては大変小型で、草原の草丈より低い。

 草原のざわめきを主食とし、40~100頭の群れで暮らす。サイレントシープがいる草原はとても静かである。同族が出す音も食べられるが、腹には貯まらない。悲鳴や怨嗟の声を嫌い、美しい音楽や喜びの声を好んで食べる。

 雌は腹に有袋類のような袋があり、そこにチーズを蓄える。風の無い静かな日には雌の袋に子羊達が群がり腹を満たす。このチーズは濃厚な味で、食べると鼓膜が震える妙な感じがする。

 稀に黄金に輝く特異個体が生まれる。この黄金個体は無意識に角の両端から耳障りな音を立てる紫電を放つため、必ず群れから放逐され孤独に放浪する。その黄金の羊毛は魔術や呪いを弱め、皮の強度はミスリルに匹敵し、一跳びで大樹を跨ぎ、雷光を纏う突進は岩を粉砕する。黄金個体は戦いから生まれる音しか食べられないが、戦いの時以外は必ず草原に戻り、袂を分かった群れを遠くからそっと見守っている。



【幻獣図鑑No47.泡珊瑚】

 大小様々な何十何百個の玉が集まり泡のように見える珊瑚。浅瀬に生息する。共生する藻類は盛んに光合成を行い酸素の気泡を出すため、泡珊瑚の珊瑚礁は酸素濃度が高い。成長しきると玉がバラバラにほどけ浮かび上がり、波に揺られて新たな生息地へと旅をする。その光景は水面が泡立っているようにも見える。泡珊瑚の新鮮な欠片を口に咥えると、陸上生物でも水中で息ができるようになる。




【幻獣図鑑No48.ベルラビット】

 危険が近づくと耳が震える白ウサギ。丸い耳は硬い骨と皮でできていて、震えると反響し鈴のような音色が出る。深刻な危険であるほど激しく震え、大きな音を発する。

 例えベルラビット自身が眠っていても耳は震えるため、警報機能としては大変優秀ではあるが、大抵の場合危機とは天獅子やゴブリンといった捕食者の事であり、盛大に自分の居場所を知らせる事になる。反面、罠や待ち伏せを看破できるため絡め手には滅法強い。

 ドラゴンが近づくと耳の輪郭がぼやけて見えるほど激しく震え大音量を響き渡らせ、挙句の果てに自分が出した音でショック死する。



【幻獣図鑑No49.ドラクルベリー】

 ドラゴンの足跡にのみ生えるベリー。足跡に残された強大な魔力の残滓を吸い上げ、炎のように紅い実をたっぷり実らせる。この実は甘酸っぱく、体を温める作用があるが、食べ過ぎると体の内側から燃え上がり、口から文字通り火を吐く事になる。



【幻獣図鑑No50.天獅子】

 主に大山脈に棲む獅子。成体は体中傷跡だらけで、雪より白い毛皮を持つ。

 天獅子は大山脈の山頂、ドラゴンのねぐらの周辺地帯で生まれる。薄い空気に極寒、乏しい食料という厳しい環境で、仔は両親の愛情を一心に受けて育つ。そして走り回り、自分で肉を喰い千切る事ができるようになると、父の前脚の一撃によって崖から弾き飛ばされ、遥か大山脈の麓の森にまで落ちていく。この一撃と落下の衝撃だけで半数が死に至る。

 突然家族からその家族の手で引き裂かれ、孤独に生きる事を強いられた天獅子の仔は、反骨精神を燃え上がらせ、父への復讐のみを考え大山脈の頂を目指す。

 アルルーナから知恵を学び、ベルラビットから警戒を学び、旅人の苔の上で束の間の休息を得て、ルーン熊に打ちのめされ、シェイプシフターに騙され、ムリアン・アントの施しを受け、様々な幻獣との悲喜交々の遭遇により、仔は心身ともに鍛え上げられた若獅子となる。この頃には大山脈の中腹に至っている。

 過酷な幼少期を生き抜いた若獅子は自信を付け、広い縄張りを持ち、付近一帯の王者として君臨する。その強靭な爪牙と卓越した知恵に敵う者はまずいない。数ヶ月から数年の安定期である。そしてある日ドラゴンに遭遇し、自らの弱さを思い知る。無謀にもドラゴンに挑んでしまった若獅子はそこで死ぬ。

 ドラゴンにとっては天獅子さえも気に掛けるまでもない虫けらに過ぎないが、噛まれれば踏み潰す。ドラゴンの傍という安全地帯にして危険地帯で生きて行くには、自らの強さと弱さを身を以って知らなければならないのだ。

 ドラゴンとの遭遇を経験した若獅子は、再び山頂を目指すが、その心に最早復讐心はない。全てを学び、山頂に至った天獅子は父と再会し、静かに頭を下げる。突き落とされた仔の内、父と再会できるのはおおよそ十頭に一頭である。



【幻獣図鑑No51.セフィロト】

 寸胴でツヤツヤした幹を持つ、魔法の木。枝は頂部にのみ放射状に生え、一見してバオバブのようである。

 頂部には皿のような窪みがあり、栄養と魔力が豊富に溶け込む澄んだ冷たい水が溜まっている。この池にはセフィロトが生んだ魚が泳いでいる。幼木の水溜りは小さく、住んでいる魚も小さく貧相である。しかし高さ100mに達する最大級のセフィロトの池の魚はルーン熊も一尾で満足するほど大きく肉付きが良い。高さ5mを超えた頃から、魚に加え枝先から鳥も生み出すようになる。

 セフィロトは花を咲かせず、実も結ばない。その代わりの役割を担っているのが、魚と鳥である。

 鳥は花粉のようにセフィロトから別のセフィロトへと飛んで回り、雌しべに相当する魚を食べる。魚を食べる事で受粉を起こし、体内に硬い卵を作り出す。卵を作った鳥は新天地に飛び立ち、そこでひっそり力尽きるか、肉食幻獣に捕食される。卵は消化されずに排泄され、やがて新しいセフィロトを芽吹かせる。卵が種、鳥自身が果肉の役割を果たしているのである。実際、セフィロトの鳥と魚には骨や臓器がなく、血も流れていない。

 セフィロトの魚と鳥に特定の形はないが、鱗と羽が紅葉でできているため、簡単に判別できる。



【幻獣図鑑No52.ミストフィンチ】

 体長5cm、短い嘴と極彩色の羽を持つ。羽ばたくと霧が舞い起こる。数羽ならば空気が湿気る程度だが、数百羽の群れは1m先も見えないほど濃い霧を作りだす。ミストフィンチ自身はどんなに濃い霧の中でも晴天の下にいるかのようにはっきりと視界を確保できる。囀りは囁くようで、方向感覚を狂わせる。

 果実食。ドラクルベリーの根元でよく丸焼きになっている。



【幻獣図鑑No53.ハリジカ】

 透き通った水晶(玻璃ハリ)の角を持つ中型の鹿。角を何かに打ち付けると空気が軋むような独特の音が広がり、その音に打たれた者を昏倒させる。角は繁殖期を過ぎると自然に抜け落ち、新しく生える。雌は角を持たない。

 繁殖期になると雄の角は婚姻色を示し、薄桃色に変じる。この角は昏倒ではなく求愛の音を出すようになり、雌を誘惑する。雌を前にして興奮した雄は、時に角が砕けるほど強く打ち付け、懸命に求愛する。粉々の水晶片が舞い散る中で響く音色は呼吸を忘れるほど美しく、大抵の雌は堕ちる。時折雄まで堕ちる。



【幻獣図鑑No54.イロクイガ】

 蛾の一種。地味な灰色の幼虫は色を食べ、成虫は蓄えた色を全て使い毒々しいまでにカラフルな体色になる。幼虫の捕食を受けた部分は白化するため、植物は特に深刻な食害を受けやすい。

 天敵はゲレゲレ鳥。巣の着色剤としてイロクイガの幼虫を多用する。



【幻獣図鑑No55.パントマイマイ】

 雨の日に現れるカタツムリの一種。空中を這い回り、雨粒を吸って膨らんでいく。最初砂粒ほどしかなかったパントマイマイは数時間のうちに5cmほどまでに成長する。

 パントマイマイは本能的に雨雲を目指し空を這い昇る。しかし辿りつく前に雨は止み、同時にパントマイマイの肉は霧になり空気に溶けて消える。大規模な群れがいた場所には雨上がりに虹がかかりやすい。

 残った殻は風の影響を受けず、水の中を落ちるようにゆっくりと垂直落下していき、鳥類の恰好の餌になる。

 殻の中には砂粒大の卵が詰まっていて、次に降った雨水に反応して孵化する。



【幻獣図鑑No56.チョウチンモグラ】

 体長20cmほどのモグラ。頭部から発光器官が伸び、地中の巣穴を常に明るく照らしている。チョウチンモグラは例外なく暗所恐怖症であり、目を覆われたり、発光器官に損傷があり充分な光量を確保出来なかったりすると、ストレスにより数分で死んでしまう。睡眠時も発光器官を橙色の弱い光に切り替えるだけで決して消灯はしない。

 太陽の光を浴びると多幸感により動かなくなる。夜間に地表付近にいた場合、地上からは土がぼんやり光っているように見える。



【幻獣図鑑N57.イワトビガメ】

 浮かぶ土地を作り、空を泳ぐ中型の亀。漆黒の甲羅で効率よく太陽光を吸収し光合成する。

 イワトビガメは土と岩を特殊な唾液で固め、小さな池程度の広さの浮かぶ土地を作り巣にする。普段は遥か雲の上を漂う巣の周辺を回遊し日光浴をしているが、天敵である蒼天犬の接近に気付くと巣に空いた狭い横穴に潜り込み身を隠す。この浮遊島は小まめに唾液で補修し浮力を保つ。イワトビガメが捕食されたり寿命で死んだりして補修されなくなると、浮遊島はやがて浮力を失い隕石のように地上に落下する。

 寿命は二百年。古い浮遊島には植物が生い茂り、皮肉にも蒼天犬の格好の休憩所になる。



【幻獣図鑑No58.カゼツバメ】

 一生を飛び続けるツバメ。成長と共に加速し体の輪郭がぼやけていき、最後は文字通り風になる。交尾と産卵も空中で行い、シャボン玉のようなふわふわ浮かぶ卵を産む。雛は孵化直後に落下しながら羽ばたき方を覚え、すぐに飛び始める。

 失速すると衰弱し、停止しようものならストレスで死ぬ。



【幻獣図鑑No59.アルキコウベ】

 生き物の頭蓋骨を被る、小型二足歩行幻獣。頭蓋骨から短くずんぐりした毛むくじゃらの手足が突き出たような姿をしている。幻獣学的にはトロールの近縁種に分類される。頭蓋骨を日傘代わりに使う事で太陽下での活動を可能にした反面、小型化し筋力と凶暴性が失われている。敵を発見したり大きな物音がしたりすると、頭蓋骨の中に手足を引っ込めじっと危険が去るのを待つ。

 被っている頭蓋骨が生前食べていたものと同じものを食べ成長し、頭蓋骨のサイズが合わなくなると別の頭蓋骨を探し被りなおす。頭蓋骨を探し出す大変優れた魔法的嗅覚を持ち、メタルムサウルスの墓場に忍び込んだり、骸山猫が操る死体から頭部だけを盗み取ったりする。



【幻獣図鑑No60.冥瞳梟】

 つがいで協力して狩りを行うフクロウ。雌雄で体格・体色の差が大きい。

 雌は白い羽毛を持ち、小型。雄がはやにえした獲物の首から滴る血で木の幹や岩肌に目玉のような模様を描き、その模様を通して遠く離れた場所の景色を見る事ができる。夜はこの千里眼で雄の狩りを助ける。昼も完全には眠らず、巣の周囲に近付く者を見張る。

 雄は黒い羽毛を持ち、大型。鋭利な爪と強靭な筋肉を持ち、夜陰に乗じて獲物を強襲し首を撥ね飛ばす。天獅子すら目玉模様に囲まれた冥瞳梟の支配域には迂闊に近づかない。

 カーバンクルやユニコーンは襲わない。



【幻獣図鑑No61.トレント】

 森を守る木の精霊。外見は樫の木に似るが、自らの意志で幹を揺らし、枝を動かす。葉で声を聞き、木の芽でものを見て、木の洞を震わせ喋る事ができる。

 森の平和を保つ事を使命としており、傷ついた小鳥を枝葉の籠で匿ったり、森に放火したサラマンダーを叩き潰したり、病に侵された木を癒したりする。トレントは例外なく賢く、数万年の寿命を持つ。毎年大輪の花を咲かせるが、実をつけるのは千年に一度である。

 全てのトレントは地下深くに張り巡らせた根で繋がっていて、この根を介し素早く意志を伝達し会話する。トレントは大変なお喋りで噂好きであるが、木の洞で喋る事は不得手で滅多にないため一見して無口に見える。地面を掘り露出した根に触れればこのトレントの伝達網に加わる事ができる。トレントは誰にでもその叡智を惜しみなく分け与えてくれるが、根に触れていると段々体が木化していく。キハナバチの呪毒はトレント由来である。

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