第23話成長の回想

 ディープは修道女達から可愛がられて順調に育った。

 最初こそ恐れられたが、幹部の院長が右目に、封印式が刻まれた眼帯を着け事なきを得る。更に眼帯を外せるように、ペンダントも造られた。

 ハイハイできるようになると、修道女の後ろを着いて来たり、子供達の部屋等に迷い込んだりする。決まってちょっとした捜索劇になるが、慣れてくると発見も早くなった。


 月日は流れる。


 五歳になったディープは、青い髪をポニーテールに纏め、薄い緑のワンピースを着て、森の開けた場所へいた。

 首には銀縁のペンダントを常に身につけている。昔は皆が恐れた右目も、今では左目同様普通の魔力を発していた。

 見つめる虚空には、小さな羽を羽ばたかせて飛び回り、小さい人が笑顔で手を振っている。

 エルフには稀に持つ者がいるという、精霊眼を有していた。そう、ディープはエルフ族の生まれだ。

 しかし、右目の事は分からない。封印しても尚、両目で見えるらしく、いったいあの魔力の集まり具合は何だったのだろうか。

 周りには妖精以外誰もいない。

 今頃皆は武術の訓練をしているだろう。ディープは妖精と一頻り遊ぶと、目を瞑る。

 今日も自己鍛練の始まりだ。

 ディープは己の中に流れる魔力を感じるように、集中して目を瞑った。妖精は邪魔をしないように辺りから消える。

 魔力の流れを最初に感じたのは、三歳頃のこと。

 偶然にもペンダントの細い鎖が千切れてしまったのだ。当然、周りの子供達は目に見える魔力のオーラにたじろぐ。

 普通は良く訓練しても中々身につかないオーラを、たった三歳児が右目から出す方がおかしい。

 騒ぎを聞いて駆けつけた護衛も修道女も、気味悪がって近づかず、子供を遠ざけるだけ。院長がようやくやって来て鎖を付け替える。

 どうしてか院長だけはディープの右目を恐れず接した。

 修道院の責任者としての意地とも思えるが、真偽は分からない。もしかしたら、胸や手足、背中にある錠前が関係しているのだろうか。

 服の上から見えるという事は、特別な何かと考える。

 しかし、自分には知識が足りなすぎるので、深く考えないようにした。


 集中を続けると魔力の流れを掴んだ。腹部と心臓が無い右胸に、よく集まっては全身へ流れている。

 目を開けるとうっすらとだが自分の魔力が見えた。体内を流れる様は、まるで血液と同じ。この魔力を意識しなくても感じて見えるようにする。

 昼食の時間となると、修道院では鐘を打ち鳴らす。この森は修道院のすぐ隣にある為、深く入らなければ聞き逃す事はない。

 修道院の庭で修道女が炊き出しを行い、十歳から上は配膳するのが決まりだ。

 護衛兼教師の人も一緒に食べるので手伝う。十歳から下はそれを見て、配膳の仕方を覚えていく。テーブルマナーや宗教の祈りも、この時に子供達へ叩き込む。

 洗濯と料理は女子、物の修理や整備と畑仕事は男子が、修道女と護衛に習う。

 午前中は武術の訓練、午後からは魔法の鍛練を行っていく。

 ディープは午前中ずっとサボっていたが、子供達の中には独自に鍛練する子供もいる為、あまり咎められない。

 ただ寝てるだけなら懲罰ものだが、ディープが森で鍛練しているのを院長が偶々見ていた。


 午後の鍛練にはきちんと参加するので、軽く小言を言われる程度ですむ。訓練や鍛練は遊び感覚で最初は教え、次第に本格的な指導に入っていく。週末には試合を行い、上位の子供は護衛が捕獲してきた、弱らせてある魔物と戦う事もある。

 鍛練は魔法の初級を教えて貰う。簡単な火を灯すモノから、水で布を湿らせるモノ、土を掘る魔法にそよ風を吹かせる魔法と実に様々。

 しかし、ディープにはどうしてもこれが出来なかった。

 簡単な魔法でも単語を発する必要がある為、喉が巧く機能しないディープには難しい。

 日常会話は問題無いが、魔法の詠唱には特別な発音を用いる。それが生まれつき出来ない喉となっていた。

 詠唱魔法を覚えないと、魔法戦では不利になる。

 言葉そのものに魔力は宿る為、自分と相手にちょっとした暗示を掛けるが故に、詠唱魔法は強い。

 例えば火の玉を放つ際、ファイヤーボールと唱える。

 すると相手はファイヤーボールがどんなものか知っているので、障壁に魔力を割くより、喰らっても魔法に対する耐性防御で凌ごうとする。

 無詠唱魔法は隙を突けるが、言葉で強化されてない分飛距離が延びると、段々と威力が落ちていき、最後には敵へ当たらずに消えてしまう。


 今日も頑張って唱えるが、火花すら出ない。周りからは笑われる始末。

 教師は仕方ないとばかりにため息をつく。

 鍛練から一時間経っても相変わらずだ。

 もう他の子供は次々と初級の魔法を扱えるようになっていた。

 ディープは泣きわめくでも憤る事も無く、諦めたのか森へ静かに歩いていく。教師は止める為の言葉を持ち合わせていないので、ただ見送るだけ。


 陽が少し傾いた森には妖精しかいない。

 たまに強そうな魔物を見かけるが、妖精が追い払ってしまう。

 妖精は喋らないが、無詠唱魔法はその辺の魔法よりも威力がある。妖精は魔力こそ精霊には敵わないが、魔法技術はとても高いので、魔物程度は蹴散らせるそうだ。

 流石にドラゴンなんかは無理みたいだが。

 喋らないがこちらの声は聞こえるようで、魔力を漂わせて文字化させる事で応答はある。ディープは体内に流れる魔力を感じる鍛練を、午前に引き続き行う。

 これは妖精に教わったモノではない。彼等は遊ぶのは好きだが、指導や戦闘は苦手なのだ。魔物を追い払う時も数人係りで魔法を放つ。だから戦い好きな妖精は稀らしい。

 そのため、妖精と同じように、魔力を文字化させる方法を自分なりに模索した結果、まずは己の魔力を感じるところから始めた。


 夕方、日時計が鐘を鳴らす時刻へ影を進めると鐘が鳴り響く。

 鍛練中無防備なところを、警護して貰ったお礼として、昼食に出た菓子をあげる。

 妖精は仲良く分け合いながら飛び去っていく。いつの間にか奇妙な関係になってしまった。

 これが一種の契約とも知らずに、ディープは今日も妖精と仲良くなった。

 夕方は屋内に設けた浴場で、見張りと交代しながら入浴する。

 男子は近付くだけで見敵必殺。

 一度護衛の男が催促に来ただけで、見せしめに貯水槽に磔した実績と信頼があった。

 女性である院長も吃驚な所業。勿論、慰謝料はきちんと払った。

 夕食は大広間にて摂るが、護衛達から先に食べる。後は昼食と同じ。

 子供の数が膨大なので、一部屋六畳間に五人で寝るか、大広間にそのままぎゅうぎゅう詰めの状態で寝るかを、余儀なくされる。

 これは修道女も同じで、例外は院長と護衛、来客のみ。

 護衛は別の護衛達と交代して帰宅。別の護衛は外の道具部屋で寝泊まりしている。

 院長と来客だけが普通に就寝できた。


 しかし、ディープが来てからというもの、未だに夜は皆が恐れるので、唯一恐れない院長の元へディープがやって来るようになった。

 院長は何故かディープを特に可愛がり、ディープの話しに耳を傾ける。

 しばらくするとディープは満足したのか、幸せそうに寝てしまう。

 院長は自分のベッドへディープを寝かせ、ランプを消す。


 朝方、朝食を食べるとディープは森の方へ歩く。誰も気がつかない程に、自然と気配を消していた。

 だから皆が驚く。護衛も虚を突かれれば意味を成さないので、気を引き締めて金額分は仕事をこなす。

 ディープは朝食に出たパン屑を持参すると、妖精に与えながら散歩する。妖精は人間の食べ物が好物なのか、パン屑でも喜んでくれた。

 鐘の音が聞こえる開けた場所で、今日も鍛練に励む。

 魔力を感じたので目を開くが、まだまだ目を開けたままでは感じた魔力は曖昧だ。それでも繰り返し鍛練を続ける。

 この修行は雨の中でも行われ、仲良くなった森の妖精が修道院に住み着き始めた。


 一ヶ月も経つと、ディープは己の魔力を常時感じられるようになる。これで魔力についている色と属性、波長も判った。

 次に魔力の量と質をあげるようにする。

 妖精の魔力はディープと比べとても多く、尚且つ綺麗な波長と色をしており、宝石のようだった。

 護衛の一人が量を、修道女の一人が、質をあげる方法を知っていたので早速試す。魔力の流れる線は、色と属性でそれぞれ違い、放出する際に一纏めで減少するようだ。

 妖精に頼み込み無詠唱魔法を一つ教わったので、それを魔力が尽きるまで連射し、ようやく分かった。

 ディープが教えて貰ったのは暗闇に明かりを灯す魔法。

 手に魔力を集め、光の玉を生み出す初級。

 魔力を凝縮した核を作り、光属性の被膜で包むとできた。

 これは魔力を抑え込めば、火の玉に見せ掛け、ハッタリとして使える。

 事実、妖精は慌てて回避していたので、したり顔で笑うと、服の中に入ってイタズラされた。


 実際には魔力の核や被膜は作らない。

 だからこその初級であるが、ディープは全く新しい魔術形態を、一から作り上げた事に気づかない。

 魔力の伝達速度、魔力の凝縮による圧縮と、属性をそのままに魔力の被膜を作る技法。攻撃、防御、速度と戦いに向いた鍛練を並行して、魔力の量と質をあげていく。

 魔力は使い切れば、魔力を生む第二の心臓と呼ばれる、心臓がないほうの胸が活性化すると言われているらしい。活性化すれば、以前より回復量が増え質が良くなり、魔力を蓄える腹部の器が拡張しやすくなるとも言われている。

 血液も同じで、献血すれば骨髄から新しい血が作られ、白血病になりにくくなるそうだ。

 魔力の量と質の変化は微々たるモノなので、とにかく根性が無いと簡単には変わらない。ディープは魔力を集め、光の玉をまた作る。

 しかし、妖精も光を生み出すと、ディープと同時に放つ。

 光と光がぶつかり、お互いの目が眩む。

 魔力を全身にまんべんなく流し、循環させ回復が早まるか試してみると少しだけ早く立ち治せた。

 魔力の循環は身体強化に繋がり、状態異常から早めに復帰させる事もできる。近距離では特に重宝し、剣士とも互角に戦い競り勝つ事も可能だ。状態異常に素早く対処すれば、それほど深刻なダメージを負う事もなくなり、長期戦で有利になる。


 一週間後、ディープの魔力を伝達させる速度は上がり、魔力の核を中心として、各属性の被膜を作り、無詠唱魔法のバリエーションが広がった。

 ディープには苦手な属性が無いのか、全属性を使い分けられる模様。属性に応じて魔力を流す線を切り替え、抵抗を抑えているからこその芸当だ。

 魔力を感じるようになってから、身体には幾つもの線が走っている事に気づいた、更に線に当てはまる属性を流さないと、魔力が伝わり難い事を発見する。

 同時に第二の心臓の中で、切り替えるスイッチも見つけた。この切り替えを無意識で出来るようにも鍛練する。


 更に一週間過ぎると、切り替えは属性の魔力を流すだけで可能となった。魔力に色もつけられるようになるが、まだ一色しか発せられない。

 妖精は誉めてくれるも、彼らは彩り鮮やかで、魔力を滞空させる技量を持っている。まだまだ修練が足りない。


 また一週間経つ。

 色もようやく色彩豊かになってきた。色と属性は関連性が高いようで、組み合わせによっては魔力の抵抗と消費量も違う。

 モノは試しに、火は普通赤か黄色をしているので、緑色をした火の玉を放ってみた。魔力の消費量が違うので、色によっては魔力を馬鹿食いするのだろう。

 しかし、妖精は彩りも豊かなのに、どんな色でも消費量は変わらない。

 これは種族としての差と見れない事もないが、納得出来かねる。

 色と属性の組み合わせを増やし、何度も何度も繰り返し玉を放つ。色として流れる魔力の線は、使えば使う程抵抗が減ると思ったからだ。


 一週間みっちり鍛練すると、この予想は当たりで妖精はまた誉めてくれる。

 色を変える技法も利便性は高い。普段は青い水の玉を茶色にすれば、保護色になり奇襲させる事もできる。

 光の玉を火の玉に見せ掛けハッタリを噛まし、色による騙し討ち。まるで卑怯な攻撃手段だが、生き残る戦いにルールは無い。


 二ヶ月後、初級と下級を扱えるように、ディープは飛躍的成長を遂げた。 

 魔力の量と質も一ヶ月前と比べ格段に上がったし、全属性を無意識に切り替え、色も好きなように変えられる。

 しかし、それでも詠唱魔法には打ち負けてしまう。

 理由は単純で、ディープが変則的に成長していると同様に、周りは武術を習いながら普通に魔法を覚えていくからだ。

 ただ、避けられている為、周りの子供達と競い合う必要性は無い。なので無詠唱魔法が使える事を秘密にしている。

 だが、無詠唱魔法を覚えたディープには、心強い教師がつく。それは院長で、無詠唱魔法を覚えた事を教えたときは、誰よりも喜んでくれた。

 流石にハッタリは見破られるが、騙し討ちは効いたものの、涼しい顔をされる。魔法使いとして熟練者なだけあって、短髪ショートをすぐに乾かす。

 そして仕返しをされた際にディープは変な声をあげてしまう。

 それを聞いた院長と妖精が笑っていた。

 タオルで顔を拭き、妖精を交えて鍛練について話す。


 それからは夜になると、特別指導が始まった。

 武術の基礎を疲れるまで行い、体力と魔力ともに枯渇して眠る。

 夜だけだが、一ヶ月後には身体強化を覚え、異常耐性が強い肉体になっていた。毒や麻痺に掛かっても、循環効率を上げ、新陳代謝を促進させれば復帰は早くなる。


 夏も終わり、秋が深まる肌寒いある夜のこと。

 護衛に差し入れを出し、森の奥へ進む院長とディープ。

 この森は夜になるとよく意地悪な妖精が現れるが、ディープは昼間に現れた、稀な意地悪な妖精とも仲良くなったので、二人は狙われない。

 昼間いる森の優しき妖精は住み処で寝ている。

 だから二人で奥の泉へやって来た。ここなら院長の魔法が見れるという。

 院長は石で組まれた泉に手をつけ、住まう精霊を起こすと、無詠唱魔法の上級を作った。

 精霊は水色から白い肌色の人へ変身すると、院長の魔法を受け取る。女の姿をした全裸の精霊へ、院長は服を贈ったのだ。魔法の服は主導権を院長から精霊に移ったので、精霊が魔力供給を止めない限り消えない。

 地味だが精霊と契約し、魔法で服を作り、物質化させた。ドワーフの院長は魔法技術が高い事が伺える。

 精霊は院長にお礼を言うと、ディープを見てお辞儀した。

 何の用か訪ねる精霊に、院長はディープの肩を叩き、契約を持ちかける。精霊は訝しそうに下から上を舐めるように見て、右目とペンダントを目敏く注視した。

 待つこと数秒、おもむろに頷くと精霊は握手を求めてくる。ディープは精霊と握手する事で、契約を済ませた。


 次の日は生憎の雨模様。

 だが、身体強化を施したディープは風邪をひきにくい。ひんやりとした空気が漂う中、森で散歩する道を駆けていく。

 雨の日は屋内で読み書きを行い、計算の練習を子供達はつまらなそうに受けている。

 しかし、ディープは才ある子なので、五歳児の読み書きや計算はするだけ無駄。

 そうでなければ自己鍛練なんかしていないというモノ。今日は身体強化と循環効率を高めるのが目的だ。

 昨夜から続けているが、悪天候の日は一番状態が分かりやすい。

 循環効率は魔力の巡り具合もあるが、伝達速度にも起因していた。身体強化は筋肉への負担軽減と、拳や蹴りの威力増加、防御の際にダメージ減少の効果がある。

 それに足場が腐葉土や木の根である為、足元を取られやすい。咄嗟の判断力を養うには中々悪くない地形である。本人には自覚無いようだが、妖精も吃驚の鍛練だった。

 泉に着くと、精霊が水の魔法で攻撃してくる。

 玉や鞭を強化した拳と蹴りで粉砕してゆく。攻撃で相殺できない場合は、当たる箇所を大雑把で特定し、正確に防御する。妖精に頼めない事も、精霊は聞いてくれたので助かった。

 ディープはもう少し、防御の精度を上げたいと思 う。


 昼食を済ませたら、また森へ向かう。

 雨の日の午後は自由にしていいので、屋内で遊ぶ者、教師と特訓する者、修道女を手伝う者と様々。

 午後は魔力が切れるまで玉を射つ。

 命中精度は逃げる妖精へ、当てられるまでに上達した。当たると妖精にイタズラされるが、スキンシップなので付き合う。

 鍛練も兼ねて遊んだ後。

 魔力の核を大きくできるか挑戦してみた。内側に流れる魔力と発散されるオーラを集め、凝縮と圧縮を繰り返す。

 核だけで一回り程大きくなったが、普段の大きさに慣れていたので投げれない。仕方ないので蹴ったがあまり跳ばず、虚しく地面へ落ちる。球体はすぐに霧散した。

 魔力が雨水や大気に溶け込む様は、かなり幻想的に見えたのか、妖精は拍手する。

 自分達が普段やっている事なのに。とディープは思うが、別の種族がしてみせると、違った趣でもあるのだろう。

 何度も練習して分かった事がある。核となる魔力には、まだ属性を持たせられないが、大きくしたり小さくしたりはできた。


 夜の特訓では身体強化なしで院長と武術に打ち込む。

 院長は魔法使いらしいのだが、剣や槍だけでなく、およそ修道院にある武器は、全て使いこなせるのだろう。

 小雨降る庭先で護衛も感心している。各武器の手本を見せた後で試合う。

 院長は手加減に手加減を重ねて、ディープと対峙しているが未だに動いていない。

 突きは受け流し、袈裟斬りは弾く。それが剣対杖、槍対杖となってもだ。ムキになったディープが鍔迫り合いの時、素早く懐に潜り拳や蹴りを放つも、杖で防がれた。

 物凄く大人げない院長だが、ディープの武術に対する腕前はかなりいい方だ。

 五歳児でありながら聡明な麒麟児。努力を怠らない、妖精にも好かれる。後は詠唱魔法に勝つだけ。

 ディープは玉を操作する技術を水の精霊から教えて貰った。

 まず、魔力のオーラで落ち葉や枝を浮かせる事から始める。

 次に、オーラを糸状にし網を作り、石や腰かけられる大きさの岩を、見えなくなるまで飛ばし、操れる範囲を確かめた。

 オーラを器状にし、水も浮かせる事に成功。無意識でもオーラの形状を変えられるようにする。

 そうすれば、常にオーラだけで無詠唱魔法を動かせるうえ、空いた手で更に武器を持つ事が可能だ。

 魔力の文字を書くにも必要になる。文字だけでなく魔力の絵画だって描けるはずだ。

 一瞬で消えるだろうが、とても綺麗で忘れられない記憶になるだろう。


 二ヶ月経ち、冬の季節となった。

 ディープは厚手の手袋や防寒具を着て、雪が降り積もる中を歩く。

 付き添う妖精も暖かい格好をしているが、基本的には暑さ寒さを感じない。思い思いにファッションをしているだけ。妖精や精霊の羨ましいところだ。

 今回はディープが見ただけで寒いと呟き、修道女や女子に相談したところ、喜んで仕立ててもらえた。

 裁縫の練習も兼ねている為、寸法が少しズレているのはご愛嬌。勿論ディープも縫い、お気に入りである、修道院に住む妖精へ贈った。

 冬になると、五歳以上の子供達は街や村に、雪かき要員やら小間使いとして出稼ぎに行く。

 護衛も一気にいなくなり、修道院に残るのは修道女と院長、まだ働けない子供と赤ちゃんくらいだ。

 しかし、大掃除をするので閑散とした方が助かるらしい。

 片手片足でも働けるのなら出稼ぎに出す。この修道院はまさに鬼畜と、巷では噂されている。

 だが出稼ぎの子供達は健常者以上に働くので、誰も文句を言わない。それどころか、修道院の名前を出すだけで雇ってもらえる程だ。卒業していった先輩達の努力を、水泡に帰す事が無いように、子供達は更に頑張る。

 ディープはやっと目的地へ着いた。

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