第22話師匠と呼ばれる少女

 魔法使い。

 一口にそう言っても、様々な種類と分野がある。

 詠唱魔法や魔法陣を使う後衛。

 無詠唱魔法や魔力による身体強化、もしくは魔法を纏わせた魔法剣を扱う前衛。

 魔法を封じ込めた銃弾や重火器を用い、防具で身を固め間接的戦闘を行う中衛。

 数ある中でも大雑把に分類すると、この三つが基本のスタイル。

 魔法のランク分けの呼び方も世界によって異なり、下から初級、低級か下級、中級、高級か上級、、最高級か最上級、禁忌、奇跡、となっていく。

 呪文だけでなく呪印を詠唱中に必要とする魔法もあれば、言葉のみで発動する魔法だってある。

 魔力にも量と質、色や属性があり、当然ながら属性魔法と呼ばれる魔術が存在する。

 火、水、土、雷、風、光、闇等が最もポピュラーなモノだ。白魔術とも呼ばれる回復や防御に優れた魔法もある。

 ややこしいのは属性魔法と黒魔術の違い。

 属性魔法は精霊のチカラを借りて放つが、黒魔術は自身の魔力と対象の一部を用いる事で、呪術に似た効果を発揮する点、相手が効果次第では死んでしまう。

 呪術は怨み妬み侮りを、対象の見立てた物へぶつけ、間接的に対象を苦しめる技法。

 この事から呪術も黒魔術も属性魔法も一緒にされて魔法と言われる。だが、その定義も世界によって違うから絶対とは言えない。

 魔力の総量が多ければ、使える魔法の数が多ければ、皆が勝手に化物と畏怖し、何もなければ落ちこぼれと蔑む。

 勇者、賢者、魔王、天使、悪魔等は、綺麗な質の良い魔力を持ち、多くの魔法や武器を使えるから、常に化物扱いされる。


 しかし、魔法が扱える才能は先天性の異能では無い。

 努力によって使い道が広がっているのに、そのことを忘れて、自分は特別と悦に浸っているに過ぎない。だからこそ、魔法を使えない者を虐げる。

 先天性の異能ならばランク分けは要らない。

 変わりに順位がある。超能力に必要なモノは精神力と応用力。

 超能力以外の異能には、科学的裏付けである実験や理論、法則。

 そして、異能の順位を決める戦闘に欠かせない、経験値。

 普段何気無く生活していると、デジャヴを起こす事が稀にある。

 あれは経験測と言う、誰しもが扱える異能が関わっている。予知もそう、人間は考えるよりも早く、脳がどうするべきか選択し決断をしている。

 代表的なモノが条件反射だ。

 だが、異能も世界によっては扱う事すら出来ない。

 種族次第では異能よりも魔法、魔法よりも道具、道具よりも努力だから。

 種族も多岐に渡り、世界も多岐に存在する以上仕方ない事ではある。


 では、魔力があっても魔法は使えない者は、果たして一般人か否か。この問いを現実に当て嵌めるとこうなる。

 健常者は一人で自立していける。障害者は今でこそ庇護されるが、昔は奴隷以下の存在だった。

 その中間にあたる者は、見かけは健常者だが、目が片方無い、指が一本多いとハンデを持つ。

 さて、よく苛められるのは誰か。

 答えは中間にあたる者であり、異能の才能が中途半端な奴である。

 魔力があるのに魔法が使えない理由は幾つもあるが、代表的なのは声が出せない、耳が聞こえない障害を持つ者。

 他は五体満足だから、訓練すれば障害者とは思えなくなる。

 しかし、人間は努力した人を陰で笑い、動物の中では一番、同族と長年殺し合う事に長けている。だから、意味も無く苛めては楽しむ。

 いざ相手が死ねば知らないふりをして、罪を忘れて過ごす。地球にとって人間はガン細胞と言われる由縁でもある。

 そんな屑でも、普段は天才達を支える歯車の一つ、底辺の歯車とて全て排除すれば、動きの鈍いしわ寄せは天才達に降り掛かる。だからつけあがると止められない。


 その構図を書き換えるべく立ち上がったある組織がいた。

 その組織の末端である、構成員の夫婦は異種族の偏見を恐怖で植えつけられた、捨て子や戦災孤児を拾う任務をしている。

 種族間での戦争は金も人も動く。

 しかし、終結してしまえば問題は山積みだ。

 難民に賠償金と、また金と人が動くも、残ってしまうのが死体と孤児。死体は焼けばいいが、大量の孤児は殺すと、保護する訳もないのに周りから人権がどうのと煩い。

 だが、放置していると飢え死にするからまた叩かれ、生き延びると野盗化して更に質が悪くなり、治安にも影響するから厄介だ。酷い時には孤児院丸ごとがグルで動く。

 夫婦は男性がエルフ族、女性が人間という異種族結婚をしていた。

 別に子供が出来ない訳ではないが、孤児を進んで拾ってくれるので、誰も何も言わない。

 孤児は組織が運営する修道院へ連れていく。預けてはまた孤児を連れてくる。

 露銀はその時に貰うか、遠出の場合は日雇いで稼ぐ。

 孤児は戦争時の略奪の際に遊び半分で片足、片腕を切り落とされた子供が多い。また、両足や両腕が無い子供もいるが、面倒が見きれないので少ない。

 ただし、重症の子供やただ痩せている子供は拾わない。

 拾う子供の種族も人間を初め、ドワーフやエルフ等がいる。

 しかし月日が流れると、状況も変わってしまう。

 この世界では人間が少なくなり、エルフやドワーフが多くなった。領土を巡り侵略戦争を何度も行った結果、人間はその数を減らしていった為だ。

 魔族と呼称される、魔王に仕える部族は、人間が作る歌や本が好きなので、縮小した人間の領土を保護していた。

 人間は自分達が弱い事を認めないので、反発しては小競り合いが起きる。

 その渦中を夫婦は高台から見て、小競り合いが収まるのを待つ。

 終わる頃に訪れると、街はケガ人で溢れていた。損耗率を度外視した、狂気染みた人間の本性を垣間見る。

 腕や脚を無くした大人が、折れた剣で自決したり、一人で死ぬのが怖いから自分の子供を巻き込んで死んだり、ちらほらとそんな光景を見かける。小競り合いによる死者はいないが、実力が違いすぎる為、大怪我は免れない。

 その最中を火事場泥棒のように孤児を探す。

 魔族上層部は本末転倒なこの事態を危険視して、近隣の保護区を拡大するとともに防衛の魔族を下がらせた。

 人間の土地には作物がよく実る、鉱物も良質な物が多い。

 その為、魔族以外の亜人が良く攻めて来る。だから魔族は人間を護るようにしていた。

 妻は組織の魔女に寿命の延長をお願いして、夫と同じくらい生きられる。騒動も次第に落ち着くと、孤児達に食べ物を与えつつ街を去っていく。

 孤児を修道院へ送るまでが苦労する。

 夫はエルフなので特にまとわりつかれたり、人間の孤児からは怖がられた。妻は逆に舐められ、よくイタズラされる。

 しかし、食事を用意できるのは妻だけなので、仕方なく言うことを聞く。

 道すがら山賊に襲われる事もあるが、夫が撃退してしまう。孤児が多い時は守りきれずにケガを負う事も多々ある。治療の甲斐も虚しく、命を落とす孤児もいるし、人質となる孤児だっていた。

 そんな時は迷わず見捨てる。

 何故なら戦や争いが無くならない限り、孤児はいるからだ。

 それを見て逃げ出す孤児もいるが、気絶させて拘束し引き摺ってでも修道院へ連れていく。これらを見て大人しくなる孤児もいる。

 トラウマになったりするだろうが、人拐いで食う金を稼ぐ夫婦には関係ない。

 夫婦はエルフの住む国にも赴く。戦争はほとんど無いが、災害や魔物の氾濫で孤児は出る。

 今回はある村で魔物が暴れたので、村人総出で退治した。勿論犠牲者が出たので、引き取り手が現れる前にかっさらう。

 喪中で暗い雰囲気にも怯まず、孤児を引き取る。両親が死んだショックから立ち直れていないのか、目が虚ろだった。

 その道中に森を抜ける際、沼地の隅で赤子が木箱に入れられ捨てられている。

 見ると、右目から異様な魔力が発せられていた。生まれて間もない所を見るに、右目を気味悪がった為捨てたようだ。

 夫婦も気味悪く感じるが、金勘定を計算すると、孤児二人分の方がいい。世の中は金が回るからこそ、幸福も不幸も生まれる。

 修道院は孤児の年齢と状態を見て、連れて来る者達へ金を見合う分支払う。

 無論、修道院に金庫があるとは思わないだろうが、近隣の街や村から護衛を雇っている。

 護衛は子供に武術や魔法を教えたり、遊び相手になったりと教師の役目も行い、依頼に沿って全うしていた。ここでは皆五歳から魔法も武術も初級を始める。

 片手だろうと、片足だろうと、人間もエルフも区別無く鍛え上げ、常人を超える事を目的としていた。

 乳幼児は修道女が面倒を見て、必要な道具や資材は専用の調達員が運んでくる。組織の幹部がいる為、資金は潤沢だから可能な教育環境だった。

 赤子の名前はディープと名付けられた。

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