第5話採取
自衛の為にも、虫や鳥を味方にする必要がある。テリトリーを守って貰う対価として、蜜や実を提供する事で、一種の共生関係を築くのだ。
これは普通にしていても出来る選択肢。
オーソドックスでローリスクだが、突発的な環境の変化に弱い。
例えば、崖先ごと崩れたら、最悪は死ぬかも。
波乱万丈な人生、もとい植物生を送るなら、銀色の魔力を放つ草や、赤い魔力を放つ花を採取しにやってくる人に、一緒になって採取されること。
薬や染料の一部として、道具屋の店頭にでも並ぶかもしれない。
使われた薬品の一部として、使用者を乗っ取るなんて事も、もしかしたら出来るかもしれないし?
服として意識が漂い、着られるだけかもしれないし?
もしくは俺という雑草が、実はレアな植物なので、オークションで競りに掛けられるとか。
観賞用か、素材調達用として、植木鉢にて生かされる?
そういうのに詳しい植物学者が、フィールドワークに出向くか、冒険者がギルドで受注するクエストに含まれるか。または、山賊や密猟者が、めぼしいモノが無いか探索に来るとか?
何も貴金属だけが貴重な品物という訳ではない。骨董品の壺や絶滅危惧種の動植物は、裏ルートで高値で取引されているらしい。
大昔ではコーヒー豆や香辛料等は、同じ重さの金塊よりも価値があったのだから。
ところで、異世界には山賊のように、一定の場所をテリトリーにして、よそ者が来るのを嫌う種族がいる。
代表的なのがエルフやドワーフだ。
森に住むか、地下に住むか以外にも、細かい違いは多くあるが、人間よりも器用だったり、長命だったりしている。
風の妖精から分化したのがエルフで、土の妖精から分化したのがドワーフ、という説もあるが、小説ごとに設定や背景が違うので、一概には言えない。
ちなみに、エルフとドワーフは仲が悪い。という設定は、指輪を捨てにいく物語からの影響で、他の作家が真似し始めたから、半ば定説となっているらしい。
さて、どうしてエルフを、山賊と同等に紹介しているのかというと、連中はだいたいが森に住んでいる。誰が言ったか知らないが、定められた役割として、森を守護している事が多い。森に害を成す者を排除するし、共生関係の対価で山や森の恵みを糧としている。
この恵み、野菜や山菜、果物、花等と幅広い。それらを物々交換で塩や胡椒といった、調味料にする場合もあるだろう。
森に流れる川があれば、その川の幸も恵みの一つとなる。
森を管理する以上、森に詳しく、希少な植物の保護も行っている。草花や樹木の手入れもする。
要するにエルフは、森や山に近づきやすい存在だと言えよう。
魔法や弓が得意で、若い頃の姿を保ったまま長寿を過ごす。容姿端麗なので、拐われた先は人身売買のオークション会場。
薄い本ではヨゴレ担当だったりもする。
実物が居たとしても見えないから、判別が着かないのが悔やまれる。
ドワーフかもしれないし、ダークエルフかもしれない。草の身で分かる生体反応なんて、ただの人間と変わらないだろう。
魔力感知で種族まで分かるかもしれないが、この世界の人間とすら会っていない。比較対象は生前の自分くらいか。
エルフ等の亜人種は幅広い。デュラハンや雪女、ハーピー、ケンタウロスという見た目がモンスターと大差ない連中も、総称で
下手すると、リビング・アーマーやゴーレムも亜人として扱われているかも。
いや、もっと斜めに考えると、亜人しかいなくて、人間が存在していないとかも、十分あり得る。
各亜人種でコミュニティを作り、種族の特色を色濃く反映した街や国があるかも?
となると、植物のコミュニティだって、存在する可能性も出てくる。マンドラゴラやトレント等の全身がなんとなく人型か、アルウラネのような上半身が人型の亜人なら、部族単位でいるはず。
森や山は動かないから、過疎化する事は無い。
だが、冒険者や野生動物によって、間引きの如く減る事はあるだろう。
全ては可能性ありきの楽観的希望論だ。
無いなら、作ってみせるだけ。
変身する魔法少女だって、最初から居た訳ではなく、その方が面白いと言う理由で作られたから、存在する。
光の戦士や戦隊モノもそう。擬人化も九十九神があるから、戦艦や戦車の擬人化したゲームがあった。
勿論、植物の擬人化もある、キノコの擬人化なんか、長く続いていたし。
町起こしのマスコットとして、ゆるキャラもあったな。
赤い魔力を放つ花をなんとか眷族にすると、熱を帯びた魔力が流れてくる。
銀色の魔力を放つ草の場合は、特に何も感じなかったので、少し驚いた。
うーん、魔力の色的に火属性だと思ってはいたが、魔力そのものにも熱があるのか。
これは、特性というモノかな?
火属性なら焔、熱、暑さといった、攻撃的な魔法が多い。
水属性なら、回復や防御、冷たさ、水量、癒しといった、防御的な魔法が中心となりやすい。
何故そうなるのかというと、連想ゲームのように次々と属性に関する発想があったからだ。
雷に風を含むのは、嵐が連想出来る。逆だと台風もあるだろう。
別に火属性だから回復魔法が使えない訳ではないのだが、固定観念故に使えないとする小説が多い。
こすった摩擦熱によって、静電気が生まれるのなら、電気系統の魔法も使える。傷を焼いて治療とする場合もあるし、低温火傷があるのだから、氷属性は火属性をも内包している事になる。
微弱な電気を流せば、脊髄反射のように死体の手足は動く。蓄電池背負って、針を埋めて流していけば、死霊魔法っぽくも見せれる。
火を着けて燃焼させた枝は、炭と灰になる。火を着けたままにすると、微弱な上昇気流が発生する。上昇気流はやがて雨風を降らせる。
また、業火を一定の位置に灯せば、火砕流となり、全てを焼き尽くす。風を含む事にもなるし、焼け跡は土にもなる。土を焼くと煉瓦状に、岩はガラス状に熔ける。核爆発の跡地では、岩が熔けてガラスのようになったモノが、見つかったとも言われているし、溶岩は冷えて固まるとガラスに近いモノになる。
つまり、火属性を言い替えるなら、熱量や熱源だ。
木、火、土、金、水、で五行。風、雷、氷、毒、霊、これから一つ足せば、六芒星にもなる。
ただし、金は雷や土、水は風や氷を含む場合もある。霊は闇だったりもするし、闇と光は別だという説明もある。
毒なんてないとかもあるので、基本は火、水、風、土の四大元素が魔術。
魔術という枠組みの内側に魔法があり、魔法で満たせば、それは魔術とも呼べる大魔法。
陰陽道の内側に忍術があり、忍術と魔法は似て非なる別物なので、陰陽師と魔導師、魔法使いと忍者、西洋と東洋に分けてある。
なので、悪魔を夜叉や鬼と言う場合もある。
エルフは妖精から分化し、人間と同じ内臓や骨で構成されているという。また、受肉した妖精と人間の合の子とかも言われる。
で、自然には妖精が関わっているため、花や木には妖精が宿る事が多い。
マンドレイクやトレント、アルウラネは花や木を触媒に、受肉した妖精とも言えるだろう。
と、いうことは、俺の体である草にも妖精が宿るか、俺自身が妖精として顕現する場合もあり得るはず。
長い期間生きれば、その可能性は自然と上がってくる。長く使われて着た物に宿る、憑く喪神がそうであるように。
等と徒然と考えて、また一週間くらいが経過。
今日も思考にふけっていると、地表付近へ伸ばした根っこに、動物らしき重心移動の感知あり。
四足歩行か、二人組なのかまでは分からない。
赤も銀も、根っこが複雑に絡み合い、今では俺とほぼ同化している状態だが、元々の体ではないためか、反応や伝達にタイム・ラグがある。
魔法陣を描いた根っこは、自分達の近くのみ。
なんとか発動はしたが、効果は完全にランダムで、失敗する確率の方が高い。
動物との距離はおよそ一メートル。
魔法陣の効果範囲は分からないが、土系統なら棘や壁が三センチほど出る。火は、瞬間的な熱源程度。水はすぐに吸ってしまった。風は微風で、ほとんど無意味。
壁や棘の名残は、他の雑草を生えさせてカモフラージュしてある。
木属性の魔法は、雑草を一つ生えさせる程度だ。しかも、自分自身ではなく、付近の雑草の中から、根っこを分けたモノが、勝手に生えるのを待つ。遅延でランダムかつ、風と同じくらいムダな効果。
散々な結果として残ったが、このどうしようもなく不安定な魔法陣が、抵抗への頼みの綱だ。
何もなければそれに越した事はないが、相手が採取という行動に出てきたら、俺は魔力が持つ限り、断固として抵抗する。
だって、千切られると痛いんだし、下手すると根っこごと引き抜かれ、リ・スポーンすら不可能となる。
それは死を意味する。二度目の死となり、三度目の生は保証されていない以上、前世の記憶が上書きされたり、抹消されて完全な最初から状態となるだろう。
せっかく前世の記憶があるのだから、チートして生きてみたい。飽きたら自殺するだけだし。
対象は二人組だった。一人が屈んだようで、もう一人は少し離れた場所へと歩いていく。
屈んだような感じがするのは、足先への圧力が上がり、地面が僅かに凹んだから。
見えないというのは、本当に面倒だ。
ほぼ盲目の状態で戦闘するとか、ゲームでの植物系モンスターは凄いなぁ。
「--♪ --! --♪ --……--?」
おそらく、一人言だろう。声のトーンから察するに、女の子か?
もう一人は保護者か何か、それが妥当だな。
異世界の言語は分からない。英語でも日本語でもないのは確かだ。
動物の鳴き声でもない、だが、ニュアンスで何か目当てのモノを、探しているのが分かる。
ただ、唄っているようにも聞こえるが、歌詞も分からなければ、音程のニュアンスから文章を察する事も出来ない。
当然ながら、植物である俺は喋れない。
マンドレイクの類いなら奇声を発する事も出来るだろうが、そもそも発声器官がないので、見た目からの幻覚や幻聴で、奇声が聞こえているのだろう。
正気度チェックに失敗した奴が、勝手に気絶しているだけともとれる。
女の子の指先が、銀色の魔力を放つ草に触れた。
が、しばらくすると、次に赤い魔力を放つ花へと、手を延ばす。
俺はやはり雑草のようだ、見向きも触られもしない。
だが、付近の草花は違う。雑草よりも価値があるので、葉の裏や茎を見ているのだろう。
触るだけで何もしないのは、よく似た植物が多いからか、必要最低限の採取しかしないのか。
いや、それだと、剪定ハサミで切り取られる事もあ--いったぁ!?
い、いきなりカットされた!
痛みが鈍く響いている。切断も千切るも、欠損として違いはないのだろうが、人間と違って鈍く響くようだ。
花が中程の茎より、スパッとやられた!
しかし、植物はその生命力で、どちらも生きている。切断された片方は長くないが、根っこがある片方は、まだ大丈夫のようだ。
うぅ、痛い。こんな事なら、リンクを最小限にしておくべきだった。
同調率が高いと、何かと早いから、そのままにしていたのが裏目に出たか。
魔法陣に銀色の魔力を流したり、赤い魔力を流したりして、魔法はランダムで効果を発揮する。
自身の魔力を流せるなら、根っこによるリンクなんてしなくてすむも、未だに魔力が分からないので、その代用として用いる必要があったのだ。
まだ赤い魔力は残っているが、その質は急速に劣化している。花の部分に、魔力が集中していたからだろう。
ある程度まで、というか、落ちる所まで落ちて、質は再び一定を保つだろうが、向上するには新しい花を、咲かせる必要があると思われる。
草は葉の部分に魔力が多いのだが、俺自身の魔力は、根っこにあるような気がする。
いずれにしても赤い方を使ったら、魔法陣は不発するだろう。
失敗しても、成功しても、たいした事にはならないが、子供に警戒心を持たれる。
不審がられるだけならいいが、大人に告げられると厄介な事になりかねない。
ならばどうするか、泣き寝入りはしない以上、気付かれる前に倍返しするのだ。
魔法陣の効果は不安定だが、残る魔法的効果はある。例えば段差程度の壁や三センチほどの棘。
残っている雪が、水溜まりとなるよう熱で溶かし、土に含む含水量を飽和状態にして、
この泥濘は、俺の周りに点在しているが、あまり深くもないし、幅も狭い。作り過ぎると根腐れしそうだから、多用も出来なかったりする。
何より、長時間の維持管理が難しい。魔法陣の効果がランダムなので、ほぼ偶然の産物だ。
その偶然の産物はもう一つある。
壁や棘を作る過程で、地中の土が移動したらしく、空洞化している部分があるのだ。
空洞は地表より一メートルくらいの深い部分にあるが、空洞そのものが大きく、地面が割れたりして崩落したら、人一人くらいを生き埋めに出来るほど。
落とし穴と言えなくもないが、その大部分が自然のもののようなので、注意しないと土砂崩れを起こしかねない。
坑道の上に家を建てると、地震や地下水による液状化で地盤沈下しやすくなる。という事例があるので、俺も同じように土砂崩れしやすい場所に生えている事となるだろう。
周りには木が無い。魔法陣で木属性の魔法効果により、草や花を生い茂らせただけだ。
その草花の根っこは、地表付近が多く、地下深くまでは伸びていない。
だから、あまりにも強い衝撃を加えたり、土系統の魔法を連発すると、土砂崩れとともに共倒れする可能性がある。
土属性の魔法は地面から壁や棘を生やす事が多い。これはこの世界だけでなく、大抵の小説でも同じような描写があるので、わりと信用出来る情報である。実体験も加味すると、ソース元が何であれ、関係無く信頼が持てる。
だって、ゴーレムを崖から生み出したり、大砲を作り出して砲撃したり、無数の巨大な棘を生やす。
そんな事をして、地形が変化したりしないはずが無い。質量保存の法則を無視したら、ファンタジー世界の物理法則が、とんでもなくヤバいのだから。
艦が擬人化したキャラクターが居る世界線を例にすると、連中は耐熱性能が万や億単位になるらしい。太陽にアィムビーバックしても熔けないのだ。簡単には解体出来ない。バーナーの温度が五千近くあるので、生まれながらに溶岩の海すら渡れる。敵の砲弾を素手で捌く事なんぞ造作もない。
まぁ、とにかく、土属性の魔法は地形環境への影響が大きいので、乱用は控えた方が良い。
地震を連発すると、火山が噴火するという可能性もある為、自滅しやすい魔法でもある。
同じように火属性の魔法も、溶岩を操れるだろうが、制御に失敗すると町や村が焼失する。
戦争で使ったら、領土ごと消し炭になるので、復興費用が嵩むだろう。
勝っても負けても洒落にならないのだ。
そういう観点から、大規模な魔法というのは使用が制限されている。
悪党に人権無しで、ぶっぱなしていい魔法とか、作中で使える人間が少ないのは、使ったらヤバいから厳選されているのだ。……天災魔導師は例外だろうけども。
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