第6話人を呪わば穴二つ

 さて、土砂崩れしやすい場所なので、さっさとお帰り願いたいのだが、子供は一向に離れない。

 それどころか、大人を呼んだのか、大人まで赤い魔力を放つ花を、採取しに来てしまった。


 非常に危険な状況だ。


 木属性の魔法で増やした分、全てを摘む気でいる、としか考えられない。

 それは、生態系の部分破壊に、繋がりかねない行為。

 食物連鎖の討伐に成功したら、人間を含めた生物全ての、生活までもが狂ってしまうというのに。

 例えば、蜜蜂が居なくなったら、それだけで果樹の生産高はがた落ちする。果樹だけでなく、綿花や野菜等、花粉の受粉で増えたり、育つもの全般が減少する。


 この世界も、同じようなやり方をしているかは分からないが、あればあるだけ取るのが当たり前なら、街の治安が悪いのは仕方がない事となる。

 衣食住が揃っていて、節度が無いのが国民性なら、それは国家そのものが腐っているのだ。

 民意が悪いと、その国の本質も大したことが無いモノとなる。民意が良ければ、ビッグシステムも正常で、国民の暮らしは豊かなモノとなっている。

 豊かさを更に豊かにしようと、技術力を磨くならいいが、戦争をしようと動くのは間違いだ。

 それはただ資源ありきの現状維持。

 領土を増やしても、その土地から産出する資源を、浪費するだけなら、それは有効活用しているとは言い難い。


 国民が多いから、全国民を豊かにする事は出来ない。だからといって、国政で人口増加を抑制すると、男性ばかりに偏る。どこも家の跡継ぎ重視となるのは、想像に難くなかったはずだ。

 で、今度は食い扶持の為に軍人となったは良いが、優秀な歩兵が平和的な引退を余儀なくされて久しい。

 国家の存亡に携わるのは軍部だ。戦争するのは国と軍部だから当然であろう。だが、精強であっても老いには勝てない。

 手っ取り早く失なった軍事力を取り戻すには、領土を作ってでも増やすしかない。その作った領土内の資源はその国のモノとなる。ジャイアニズム万歳。

 文句があるなら小競り合いをしよう。使えない連中を切り捨てると同時に、縮小した国民と軍人の結束力を堅めよう。事故や戦争で死ぬのは仕方ないよね。

 で、不満は自分達よりも豊かな生活を送る国へ、歴史を引き合いに出そう。でもモノは売って欲しい。

 友好国が暴走気味でも知らないフリ。所詮、奴は四天王でもプライドだけ。ハッタリばかりで実力は隣国と同程度。四天王の面汚しめ。

 誰だよ、あんな奴を四天王にしたの。とはならない。


 災害大国よろしく、天候には勝てないのか。

 俺も巻き込まれて、崩れてしまうしかないのか。

 一部とはいえ、植物による自然バランスは崩れた。

 熱量の低下が起き始めている。

 地中に溶けていた水が、夜には凍る事だろう。

 水と違って氷は体積が増える。地下水は流れているのではなく、溜まった状態なので、地中内部から盛り上がってくると予想する。

 あ、空洞が良い感じに仕事してる。

 空洞に溜まった水が凍りつく事で、俺を含めた草花は、崖から落とされるような末路を辿るのだ。


 対策は主に二つ。

 水が凍りつかないように、一晩中熱するか。

 地下水を別の空洞に流してしまうか。

 消費はムリ。根腐れを覚悟してもムリ。

 魔法陣は当てにならない。氷が出来たら、熱する難易度も上がるし。空洞を広くしたら、土砂崩れの範囲も広がる。

 何よりも、この二人組が居なくならないと、作業しようにも出来ない。

 今はお昼時くらいか、そろそろ帰ってくれないかなぁ?

 もう花は無いから、帰って欲しいんだが?

 え、今度は草もだと!? 欲張りさんだな!


 イテテッ、根っこが絡まっているから、こっちにもダメージがあるし。

 俺の近くも含めた周りの草花が、取り尽くされるのも時間の問題か。

 こうなったら致し方ない。

 魔法陣を連続で起動・稼働させよう。

 死なばもろともよ、遅かれ早かれ死ぬなら、試せる時に使うまで!

 レッツ・人体実験♪


 最初は失敗。次は木属性で、俺の同類が遠くに生えた。

 五回目に土属性の魔法が発動。突然盛り上がった足元が、泥濘だった事もあってか、子供が尻餅を着いたような衝撃と、驚いた声が聞こえる。

 大人がびっくりして近寄るのを尻目に、トライアルアンドエラーを続けよう。

 少し不審がっているのか、子供がぬかるんだ地面を枝か何かでほじくる。柔らかい地面なので、根っこ付近まで棒状の何かが迫って来た。

 大人の近くで、水が地面より噴出。殺傷力なんて無いので、わき水っぽい感じにしかならない。

 そのためか、大人は気付いていないようだ。

 立て続けに三回も失敗したりしたが、まだ抵抗出来るだけの魔力はある。

 風属性なのか、ただの自然現象なのか、突風が吹いた。まぁいいか。

 土属性の棘が、二人組から遠い場所に生える。勝負に勝って、試合に負けた気分。格闘技の団体戦とかだと、よくあるよね。

 火属性の熱により、わき水っぽいのがぬるくなった。

 おっと、毒属性の魔法が二回出た。植物由来の毒と、鉱物由来の毒だ。それぞれで効果も違うし、持続性や遅効性なのかも違う。

 まぁ、とても弱いモノなので、子供にも効かないだろう。昆虫由来の、サソリ系の毒なら、即効性もあっただろうけど。神経毒だからね。

 蛇や蜂系の毒は、二回目が危ない。刺激の強い毒全般にも言えるだろうけど。

 抗体の反応が過剰となってショック死するんだったっけ? ま、そんな感じだったはずだ。

 お次は、出ました! 水の魔法で地表の水溜まりを、酸性水に変えたっぽい。

 酸性とアルカリ性では、アルカリ性の方が危険。舌に触れると味覚が無くなるし、胃潰瘍の原因の一つでもあるピロリ菌は、胃酸をアルカリで中和するし。胃液で自分の内臓がただれるから、地味にクソ痛い。

 魔法によって出た酸性は強かったみたいで、どうやら靴と手の皮膚を融かしている。

 不意に水質が変化した事もあってか、二人組は揃ってのたうちまわり、やがて自分達の魔法なのか、水筒の水なのかは分からないが、離れた場所で洗い流しているようだ。

 次、行ってみよう! 金属魔法が炸裂した。

 そう、ほぼ文字通りの意味だ。

 地表からせり出た瞬間、酸性水に反応してか、魔法の金属片が水中、地中を問わず弾けたのだ。

 今までで一番威力が高く、二人組のみならず俺にも破片が掠めた。

 手榴弾や散弾を彷彿とさせるが、如何せん破片が小さい上に、飛び散る範囲も狭かった。

 二人組はこと此処に至って、いよいよ不気味がっているようだ。


 カエレ……!


 そう念じるも、多分聞こえてないだろう。

 少しすると、子供が火の玉を打ち込んで来やがった。

 アッチィ!? 水! あ、酸せ……染みるぅ!!

 偶然の風魔法で、掬い上げられた泥水を被るも、それは酸性水。

 熱よりもこっちの方が痛いって、火の玉は大したこと無かったのか!?


 今度は大人が魔法を放つ。どうやら範囲攻撃の土属性魔法みたいで、詠唱に時間が掛かっていたようだ。


 あっ……オワタ。


 広範囲かつ、大小様々な無数の棘が生えたと思ったら、いきなり弾けやがった。

 それとほぼ同時に、崖が崩れ落ちていく。

 それは大人と子供の足元にもひび割れが届き、二人組は慌てて走っている。

 が、俺は知っていた。

 大人は空洞の途切れにたどり着くので、自力で這い上がれる。

 しかし、子供は大人が居る場所よりも空洞となっている部分が広い。なので、大人が手を伸ばしても届かないし、そんな余裕も大人にはなかったりする。

 子供が自力で助かるには、それこそ魔法で空を飛ぶか、宙に浮くかをしなければならない。

 が、そんな魔法を咄嗟に使えるとは思えないし、そんな魔力があるとも思っていない。

 風属性の魔法単体で、人が飛ぶとも思えない。

 少なくとも三つくらいの属性を合わせるか、空間属性でも使うか。いや、時間属性で時を戻す方法もあるか。

 どれも子供には出来ないだろうけどな。

 異世界転生者のチートなら、この状況を乗りきれるこもしれないが、そんな感じもしなかった。

 そう言う訳で、一緒に死のうゼ。

 大丈夫、寂しくないよ。ひとりぼっちは可哀想だから、付き合ってヤンヨ。

 幼女かショタかは問題ではない。

 人間か亜人かも関係無い。

 安全対策を怠った大人の怠慢が招いた、不慮の事故だ。

 恨むなら、連れてきた大人を恨んでくれ。俺のは正当防衛だから。

 とか、言い訳に言い訳を重ねておこう。

 本心は黙して語らず。真意を心に、口を閉ざそう。

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